スマートフォン、タブレット時代にBluetoothヘッドセットが活きる理由



 日本の中だけで生活をしていると、あまり話題にも上らない携帯電話用ヘッドセット。しかし海外に出てみると、車に乗っている時はもちろん、電車の中でも街中でも、突然、耳元に手を当てて話し始め、ブツブツと独り言を言いながら歩いている人がたくさんいることに気付く。

 私の行動した範囲内での事だが、特にニューヨークやサンフランシスコの街中では顕著で、所違えばずいぶん違うものだなと感じたものだった。Bluetooth対応のワイヤレスヘッドセットが今は主流だが、昔は扱いが面倒なコードタイプのヘッドセットを使っていた人も多かった。

 一方、日本ではあまり見かけない。日本ではついぞ、ヘッドセットが流行る事はないと思っていたのだが、スマートフォン、タブレット端末が流行し始めた昨今、Bluetoothヘッドセットは、ようやくその有用性が高まってきている。

 Bluetoothヘッドセット側も改良され、複数台の端末と接続登録可能な機種が増えたことで、モバイルPCユーザーにとっての有用性も高まっている。PCとスマートフォンの両方を登録しておけば、普段はスマートフォンのヘッドセットとして使い、Skypeなどを使うときはPCのBluetooth電源をオンに切り換えればいい。

 ただiPhoneが流行し始めた数年前からそう思ってはいたのだが、なかなか使いやすい製品に出会うことが出来ずにいた。しかし、やっとコレなら使いたいと思える製品が登場したので、スマートフォン、PCを絡めた筆者の使い方を紹介したい。

●スマートフォンで活きるヘッドセット「Jawbone ICON」

 新たに発売されたのはJawboneというメーカーが出しているICONという製品だ。このメーカーは以前から米国では名が知られており、高機能・高付加価値のヘッドセットとしてはトップセラーになってきた。残念ながら日本での認証を受けたものは発売されてこなかったが、やっと日本での販売が開始された。

 Jawboneも世代によって機能が異なるが、この製品が特にユニークな点は骨伝導を使ったノイズキャンセリングの機能が優れていることだ。JawのBone、すなわちアゴの骨にセンサーを当て、その振動とマイクで拾った音を組み合わせる事で話者の音声成分を抽出する。

 これがJawboneがNoise Assassin(ノイズの暗殺者)と呼んでいる機能。本当に詳細な部分に関しては明らかではないが、経験上、いくつかの方法を組み合わせてノイズを消しているようだ。まず話者が話をしていない時は、完全にマイクをミュートしてしまうため、電話相手にはまったくこちらの音が聞こえなくなる。

 話を始めると、その振動を読み取って音を送り始める。この時、骨伝導センサーだけで声を読み取っているわけではないようで、声の質は非常に自然だ。周囲の音は若干、先方に伝わるものの、骨伝導の波形とマイク音声の波形をマッチングさせながら処理しているようで、囁くように話をしても相手に声がハッキリ伝わる。

 このように基本機能がしっかりしているのだが、ICONの良さはスマートフォンと組み合わせた時の使い勝手にもある。日本でのPRを担当する代理店ではデザインの良さを前面に押し出している。実際に写真を見ればわかるとおり、見た目のデザインも優れているのだが、デザインの良さも製品として良いものでなければ活きない。

 ICONには以下のような特徴がある。

・A2DPに対応しているので通話以外の音声も聴ける
・ヘッドセットのバッテリは4時間以上会話可能
・iPhone、Blackberryの場合、電話の画面上でヘッドセットのバッテリ残量を確認できる
・Micro USB充電+PCを使ったカスタマイズ機能
・状態や動作を音声で伝達
・2台までの機器を登録可能で優先順位をPCで管理可能

 タブレット型端末、たとえばGALAXY Tabでは通話時にヘッドセットが使いやすいのは当然だ。しかし、スマートフォンユーザーにもそれは同じだ。会話の中でスケジュールや誰かの連絡先を確認するなど、スマートフォン内にある情報を参照する機会が多い。ビジネスツールとしてのスマートフォンと、通話端末としてのスマートフォンが一体化しているためだ。

 しかし、この悩みはヘッドセットを使う事で解決できる。もちろん、それは以前からわかっていた事だが、トータルの使いやすさを考えるとイマイチ気が乗らないという方も多かったのではないだろうか。

接続と充電はmicro USB。ボタンは1つのみで、シングルクリックでオンフック/オフフック、ダブルクリックでリダイヤル、1秒以上の長押しでアプリケーション呼び出し(デフォルトはヴォイスコントロール)。ボリュームは通話端末のボリュームボタンに連動する技術適合マークはイヤーパッドを外した奥に印刷されていた付属USBケーブルは最低限の長さで固さがあるので絡みにくく、スタンドのようにして使える
付属のフィッティングキット。小さなリング状のスタビライザが付いたイヤーパッドだけでも充分なホールド感があるが、心配なようならば耳たぶへのフックで確実に装着することもできるフックを装着したところiPhoneとBlackberryでは、端末上でヘッドセットのバッテリ残量を表示できる

●モバイルPCとの併用にピッタリ

 Jawbone ICONはmicroUSBでPCと接続し、USB経由で充電しながら、カスタマイズも行なう事が可能だ。カスタマイズはWebブラウザ上で動作するアプリケーションで行ない、パラメータに合わせてファームウェアがサーバー上で生成され、製品にダウロードされる仕組みだ。ICONとの接続には専用のプラグインが用意されており、WindowsとMac、両方のプラットフォームで利用できる。

 このためカスタマイズした結果を送る度に5分ほど時間が必要(と表示されるが、実際にはそこまでの時間は必要ない)になるのだが、設定の柔軟性や過去の機能アップデートの実績を考えれば、この小さな単機能製品向けのサービスとしては、格段に充実している。

Jawboneをカスタマイズすると「SYNC」の表示が現れる。同期すると設定に合わせたファームウェアが生成され、自動的にインストール。5分かかると表示されるが、実際には2~3分あれば終わる

 カスタマイズ機能では音声ガイダンスを6種類のキャラクター+α(Jawboneの最初の製品で使われたオリジナル音声や各国語版音声。日本語にも対応)から選択できたり、ダイヤル機能のカスタマイズや付加機能の選択を行なう事ができる。Bluetooth上での名前や各種機能のカスタマイズや、接続機器の優先順位をブラウザ上で設定できるのは、ディスプレイのない小さな機器だけにとても便利だ。

 また、ファームウェアによる機能拡張にも積極的で、いくつかの機能がこれまでに追加されてきた。1年前に同社製品に追加されたA2DP対応は、モバイルPCやスマートフォンで利用する際にとても便利。もちろん、ヘッドセットだけにステレオ音声を再生できるわけではないし、音質が良いわけでもない。

 しかし、ヘッドセット使用中にPCやスマートフォンのアプリケーションからの音が聞こえてくるのは存外に便利だ。動画音声、Web上のさまざまなアプリケーション、ちょっとした音声の確認、それに移動時にスマートフォンでゲームをする場合など、多くの場面でヘッドセットから音が聞こえる利便性は高い。もちろん、A2DP機能をオフにすることもできる。

 前述したように2つの機器を登録し、優先順位を自由に編集できるので、PCを第1優先順位にしておき、PC側でBluetoothをオン/オフしてやれば、PCを使っているときと、PCを使っていない時で接続先が切り替わってくれる。

 このほか、本体ボタンの長押しに割り当てるアプリケーションを音声認識ダイヤルの呼び出し(端末の音声認識機能を呼び出す。残念ながらiPhoneの音声ダイヤルは使い物にならない)にするか、登録しているお気に入りの呼び出し先(1カ所のみ)にダイヤルするかを選択できるなど機能は本当に多彩だ。

 今後も追加機能を検討中で、例えば電話がかかってきた際に、相手の名前を読み上げる機能の追加を考えているという。Bluetoothヘッドセットには相手の電話番号しか伝わってこないが、あらかじめ数人の電話番号に名前の音声データを紐付けておいてマッチングをかける。なお、現状でも相手の番号は読み上げてくれる。


MyTalkの画面。WindowsとMac、それぞれに対応するプラグインをインストールする必要がある追加機能が今後も用意される予定。ここではiOS用アプリと組み合わせ、喋った内容を添付し、メールで送信するアプリケーションやBlackberry用のバッテリ表示アプリケーションが公開されているヘッドセットの細かな設定をブラウザ上で行なえる。なお、設定画面は現状、日本語に対応していないが、近くリニューアルする際に日本語版のページが公開される予定。具体的な日付はわからないが「もうすぐ」とのこと

●実際に使ってみると……

 さて、Jawboneの噂は以前から聞いていたのだが、実際に使うのは今回が初めて。日本で発売されておらず、技術適合が通されていなかったからである(一部で並行輸入で入手していた方もいたようだが厳密には違法無線局となる)。

 ノイズキャンセリング機能は絶大で、直接話をするのも困難なほどウルサイ環境からかかってきた電話でも、明瞭に声を聞き取れた。詳細は冒頭で述べたとおりで、喋っていない間、先方にこちらの音はまったく伝わらない。

 当初はやや不安だった耳へのフィッティングも、耳たぶへのフックを付けないタイプでも落下せずに装着できた(もちろん、個人差はあるだろう)。A2DP対応でiPhoneのアプリケーションが出す音が聞けるのもいい。またPC使用時のSkypeなど通話アプリケーションも、わざわざPCのためだけとなると持ち歩くのが億劫だが、スマートフォン共用で使うと思えばモチベーションも沸いてくる。

 細かなところだが車のシガーライターソケットに対応したUSB電源アダプタが付属したり、固定できるワイヤが仕込まれた短いUSBケーブルなど、細かなところで使いやすい。もちろん、ヘッドセットのバッテリ残量が確認できるのも便利(残量はヘッドセットのボタンクリックで音声案内もされるが、案内は1時間単位の大まかなもの)で、充電のタイミングをはかりやすい。

 ライバル製品に比べると価格が高め(販売価格例11,800円)なのが難点だが、付属アクセサリの充実度や機能性、それにノイズキャンセリングの有用性などを考えれば特別に高いとは思わない。

 ところで筆者はパイオニアのBluetooth対応カーナビを愛車で使っているが、iPhoneをカーナビとICONの両方に接続しておき、音声をヘッドセット側にしておくと、ICONで通話をしつつ、カーナビ側のオーディオ音声がミュートされた。ICONの機能というわけではないが、改めてヘッドセットの有用性を感じた次第だ。

 PCでの利用も、高音質のイヤホンを使うまでもなく、特にSkypeで通話する必要がないといった場面であっても、内蔵スピーカーを使わずにちょっとだけ音声を聴きたい場面は少なくない。

 今後、スマートフォンが普及すれば、ICONに限らず、さまざまな高機能ヘッドセットが登場してくるだろう。ユーザーが増えればアプリケーションも増える。スマートフォンやタブレット型端末だけでなく、PCでの利用も含めて使い方の幅は拡がるに違いない。

 今までBluetoothヘッドセットに興味を持てなかった人も再評価してみる価値はあるだろう。

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(2010年 12月 21日)

[Text by本田 雅一]