後藤弘茂のWeekly海外ニュース
PlayStation 4の大きなアドバンテージは8GBの大容量メモリ
(2013/3/12 12:21)
異例の大盤振る舞いのPS4のメモリ容量
PlayStation 4(PS4)のシステム構成で目立つのは8GBのメモリ容量。GPUと共有とは言え8GBは、PS4プログラマーが喜ぶ様子が眼に浮かぶようなメモリ量だ。というのは、これまで、ゲーム機は、同世代の汎用コンピュータと比べて、悲しいほど少ないメモリ量であることが多かったからだ。例えば、PlayStation 2(PS2)はメインメモリがたった32MBだった。PS4の8GBというメモリ容量は、これまでと比べると、格段に充実している。メモリ量の制約がなくプログラムできることは、プログラマーの生産性を上げるだけでなく、これまでできなかったことも可能にする。
ゲーム機でプログラムすることが難しいのは、こうした物理メモリ容量の制約がある上に、多くのゲーム機OSが仮想メモリをサポートしないためもある。もちろん、ゲームプログラムでは、仮想メモリでディスクドライブにメモリ領域をマップされても困るだけだが、汎用アプリケーションでは仮想メモリで制約が解除される。内蔵ディスクが高速な半導体不揮発性メモリなら、パフォーマンス面でも有効だ。しかし、SCEは伝統的にゲームOSで仮想メモリを許容しないため、今回もサポートしない可能性が高い。
そうした環境では、物理的に積むメモリの量がカギになる。PS4は当初は4GBのメインメモリと言われていた。それが8GBに倍増したのは、おそらくソフトウェア開発側からの強力な要請があったためと推測される。なぜなら、ハードウェア開発側、特に資材担当にしてみれば、8GB分ものGDDR5は許容するのが難しいコストだったはずだからだ。ソフトウェア開発者からすれば、PCで当たり前の8GBがどうして難しいのか疑問だろうが、ハードのコストを考えると、かなりクリティカルだ。
SCEが、そこを折れて、PS4のメモリを8GBに増量したことは、長期的に見るとソフトウェア開発の面で非常にプラスになる。これまで、少ないメモリの中でチマチマとやりくりしていたゲーム開発が格段に容易になるのは言うまでもない。さらに、現在のゲーム機で必須のゲーム以外のアプリケーションの開発が容易になる。メモリ容量に余裕があれば、ミドルウェアも充実させやすい。ソフトウェアの開発が容易になれば、さまざまな非ゲームアプリの提供もやりやすくなる。
ゲーム機のライフサイクルの後半にひびくDRAMのコスト
ゲーム機のメモリ量が少なかったのは、後になるほどマシンコストに響いてくるDRAMのチップ個数を減らすためだ。PS2では、メインメモリはDRDRAMがたった2個の構成だった。PSPは当初はeDRAMだけで、別ダイのDRAMチップを載せない計画だった。eDRAMベースのPSPの当初計画は、ロジックチップが微細化した後も、DRAMチップがコスト要因として残ることを防ぐ意図があった。
それが、PlayStation 3(PS3)のケースで言えば、メインメモリにXDR DRAMを4チップ、ビデオメモリにGDDR3を4チップ載せた。Xbox 360も8チップの構成で、この世代は8個となって飛躍した。その反面、DRAMコストは重荷となった。それが、今回のPS4では16個だ。上の図を見ると、PS2からPS4までで、どのように変わったかがよく分かる。
DRAMのコストが、ゲーム機のライフサイクルの後期になるほど響くのは、DRAMチップの個数を減らすことが難しいからだ。ロジックチップは微細化でチップ自体が小さくなりコストが下がるが、DRAMチップはチップ数が減らないとコストがそれほど下がらず、実装面積も食う。そして、DRAMは同じアーキテクチャで、転送レートを同等に保とうとすると、DRAMチップ個数をなかなか減らすことができない。DRAMチップのコストと価格は、微細化しても一定で下げ止まるため、DRAMコストの比率が段々と増えて行く。
もっとも、今回のPS4の場合は、DRAMチップの個数を半分の8個に減らすことができる。GDDR5はx16とx32の両対応なので、同じインターフェイス幅でチップ容量を増やしてDRAM個数を減らすことができる。現在の構成はAPUの256-bitのインターフェイスに、x16で16個の4G-bit品のGDDR5を接続していると見られる。16個で合計8GBの構成だ。これが、GDDR5の8G-bit品が出るとx32で8個の構成へと切り替えることができる。ちなみに、PS3もXDR DRAMが成功していれば、メインメモリを倍速のXDR2に切り替えてDRAMチップ個数を2個に減らすことができた。
ただし、上の予想はPS4が、従来のゲーム機のようにスペック据え置きの戦略を取る場合の話だ。例えば、2年毎にスペックを引き上げるような戦略を取る場合は、話が違ってくる。その場合は、次のPS4バージョン2では16GBになるかも知れない。
コモディティDRAMと比べると遅かったGDDRの容量増加の時期
将来DRAMチップ個数を減らすことができるとしても、現在の段階で16個のDRAMは、かなりコスト的には重荷のはずだ。また、この構成は4G-bitのGDDR5を必要とするが、GDDR5は4G-bit品への移行がまだ始まった段階で、2G-bit品とのビットクロスの前の段階だ。GDDR5の容量が問題になるのは、通常、GDDR系はチップ当たりの容量の増加のタイミングが、他のDRAM技術より遅いからだ。実際には、これは“遅かった”と過去形になりつつあるのだが。
GDDRの大容量化が遅かった理由は複数ある。まず、x32構成の高速インターフェイスやメモリバンク数も多いメモリセルアレイが、ダイ上で相対的に大きな面積を取るため、DRAMのダイサイズが大きくなりがちであること。例えば、Samsungの40nmのGDDR5は、2G-bit品で80平方mmのサイズで、これは同時期の同容量のDDR3と比べて大きい。
次に、グラフィックス用途ではメモリ容量はそれほど必要としないため、メインメモリやモバイルメモリと比べると顧客側からの大容量化の圧力が弱い。さらに、従来は、各社とも、GDDR系はコモディティDRAMで減価償却した枯れたプロセス技術で作る傾向が強く、メインメモリDRAMやモバイルDRAMと比べるとプロセス技術は1世代後れていた。そのため、先端プロセスのDRAMと比べると、相対的にメモリセルが大きくなりがちで、その要素でもメモリセルアレイの面積が大きかった。
これまでは、こうした理由から、GDDR系DRAMは、大容量ダイへの移行のタイミングが遅かった。下の図は、Samsungが2009年のNVIDIAのGPU Technology Conferenceで示したGDDRの容量世代の移行のチャートだ。約2.5年のサイクルで倍容量へと増える予測となっており、今年(2013年)は4G-bit品が立ち上がる年となっている。
もっとも、最近は様子が若干変わりつつある。まず、GPUがHPC(High Performance Computing)に浸透したことで、メモリ容量が重要なHPCでもGDDR5メモリが使われるようになったこと。そのために、GDDR5に対して、大容量化の圧力が強まってきた。また、GDDR系メモリでも電力が問題になって来たため、低消費電力化のためにより進んだプロセス技術で作る傾向が出始めた。そのため、メモリセルアレイが小さくなるペースが速まった。
こうした事情から、GDDRの状況だけを見ると、大容量品への移行のペースが、以前より相対的には速まって行く傾向にあると見られる。しかし、後述するDRAMの微細化の限界に近づいていることが、GDDRだけでなくDRAM全体の大容量化にストップをかけるので判断が難しい。ちなみに、汎用のDRAMは、過激な低価格化に対応するための低コスト化と、低い大容量化圧力のために、以前と比べると大容量化のペースが鈍化しており、GDDR5との差が縮まっている。
とはいえ、現状では、4G-bit品のGDDR5を16個という構成は、難しい選択だったはずだ。SCEの当初の選択は、2G-bit品を16個か、4G-bit品を8個だったはずで、4G-bit品を16個の構成になったのは、指摘したようにソフトウェア開発側からの要請だったと見られる。
コモディティDRAMと比べると高価格のGDDR5
現在、PCでは8GB以上の大容量メモリを載せることも珍しくないが、それは、汎用のDDR3の価格が依然として地を這っているからだ。現時点では、DRAM調査会社DRAMeXchangeのDRAMスポット価格を見るとDDR3の2G-bit品は1.7ドル以下、4G-bit品が3ドル程度。これなら、4G-bitを16個載せても、スポット価格ですら48ドルに収まる。安い時は1チップが1ドルを切るのが現在のコモディティDRAMの価格だ。
ところが、GDDR5の価格は通常、コモディティのDDR3メモリと比べると高いため、メモリの増量がコストに与えるインパクトが大きい。SCEのGDDR5のコントラクト価格はわからないが、高速版のGDDR5は1個当たり5~6ドル以上の価格も珍しくない。
GDDR5が高価格なのは、GDDR系の生産量が少ないためだ。DRAMeXchangeが昨年(2012年)開催したカンファレンス「COMPUTEX TAIPEI DRAMeXchange FORUM 2012」での発表を見るとよく分かる。GDDR系メモリは、各社のDRAM生産量のうち、Samsungで5%、SK hynixで9%程度しか占めていない。SK hynixはLPDDR系が弱いので、相対的にGDDR系が多いが、モバイルが強いエルピーダはもっとGDDRが少なく3%程度だ。少量生産では相対的に高価格になる上に、スピードイールドで高速品は歩留まりが低いので、より高価格になる。
もっとも、GDDR系メモリの需要は緩やかに増加しており、PCメインメモリよりも伸びるペースが速い。DRAMeXchange FORUM 2012の発表では、2011年から2012年でGDDRのビット成長率は27.9%で、メインメモリの20%より高い。急成長するモバイルDRAMの67.5%と比べると極めて低いものの、確実に出荷量は伸びている。
そのため、過去数年でGDDR5の価格は同じスピードクラスでも下がって来ており、GPUベンダーのボードコンフィギュレーションでも、下位のビデオカードまでGDDR5を使うようになってきている。これは、GDDR5をメインメモリとして使うSCEにとって好材料だ。しかし、中期的に見ると、GDDR5の時代が終わりつつある点がネガティブな材料だ。
DRAMベンダーは、「HBM(High Bandwidth Memory)」を次世代のグラフィックス&HPC向けメモリとして導入しようとしている。HBMは、現在、JEDEC(半導体の標準化団体)で規格の策定中で、GDDR系はGDDR5の後がない状態だ。そのため、HBMが登場して普及し始めると、GDDR5は取り残されて行くことになる。
加えて、DRAMのメモリセルが微細化の限界に近づきつつあることも問題だ。DRAMは20nm以下のプロセスになると極端に製造が難しくなり、10nm台で限界に達すると言われている。そのため、GDDR5も微細化による大容量化が一定の時期に頭打ちになる。もっとも、PS4の場合は8G-bitにまで容量が増えればOKなので、頭打ちになる前に容量を切り替えできるだろう。