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MicrosoftがE3で次世代ゲーム機「Xbox One」の価格やタイトルを発表

499ドルで11月に21地域で発売されるXbox One

 打って変わってゲーム一辺倒で攻めたカンファレンスだった。Microsoftは、米ロサンゼルスで明日(6月11日)から開催されるゲームショウ「E3(Electronic Entertainment Expo)」に合わせたプレスカンファレンス「Xbox E3 2013 Media Briefing」を開催、同社の次世代ゲーム機「Xbox One」のゲームタイトルや価格などを明らかにした。Microsoftは、5月に自社キャンパスで行なったカンファレンスでXbox Oneの概要やゲーム機以外の機能について説明していたが、E3では徹底してゲームに絞り込んだ説明を行なった。

E3会場
MicrosoftのDon Mattrick(ドン・マトリック)氏(President of the Interactive Entertainment Business at Microsoft)

 Microsoftは次期ゲーム機「Xbox One」を499ドルで投入する。ライバルのソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の「PlayStation 4」(PS4)の399ドルより100ドル高いが、こちらはKinectを標準搭載。Kinect自体も「Time of Flight(TOF:飛行時間)」手法を使って深度を測定する、より高度な3Dセンサーへとバージョンアップする。ヨーロッパでの価格は499ユーロと429ポンド。しかし、全世界21市場で11月に発売とアナウンスされたが、日本での価格や発売時期は明かされなかった。

 それなのに、カンファレンスの冒頭は、コナミの「Metal Gear Solid(MGS) 5: The Phantom Pain」で始まり、冒頭にゲストとしてMGSの産みの親の小島秀夫氏が登場。MicrosoftのDon Mattrick(ドン・マトリック)氏(President of the Interactive Entertainment Business at Microsoft)と握手を交わした。

欧米で人気の高い小島秀夫監督が登壇
メタルギアソリッドがフィーチャされたMicrosoftのカンファレンス
Xboxでスネークが活躍するナンバリングタイトル
MGSファンにはお馴染みのオセロットも登場
DARK SOULS II

 しかし、Metal Gear Solid以外のタイトルのほとんどは、欧米のゲームタイトルが主流。日本発のタイトルも、MGSや、フロム・ソフトウエアの「DARK SOULS II」のように欧米受けしそうなタイトルとなっている。

タイトル紹介ラッシュとなったMicrosoftのカンファレンス

 Xbox Oneの紹介となったE3のイベントは、新ハードウェア発売年とは思えないタイトルラッシュとなった。通常、新ハードウェアの登場時には、間に合わせのタイトルも混じり、ゲームタイトルラインナップは弱いことが多い。ところが、今回は大作ローンチタイトルやプロジェクトが並び、まるでプラットフォーム発売から2~3年目の成熟期のようなラインナップとなっている。

 このあたりは、ゲーム機アーキテクチャの汎用化で、タイトル開発が相対的に容易なったことを反映しているようだ。また、今回、Microsoftが欧米でタイトル掘り起こしに尽力したことや、現行のXbox 360世代が欧米で成功したことも背景にある。

 ローマ軍団の戦争ゲーム「RYSE Son of Rome」や、大型ロボットに乗って戦う「Titan Fall」、FPS(First Person Shooting)の「Battlefield 4」、レースゲームの「Forza 5」、時間コントロールのアクションゲーム「Quantum Break」、Kinectでゲームを作ることができる「Project Spark」、ゾンビゲームの「Dead Rising 3」、かつてはXboxの代名詞だったHaloシリーズの新作など。他にも多数のタイトルが紹介された。

RYSE Son of Rome
Titan Fall
Battlefield 4
Forza 5の紹介ではマクラーレンP1の実車がステージに登場
Quantum Break
Project Sparkで音声コマンドによりゲームフィールドを作成しているシーン
Dead Rising 3

 とはいえ、マルチプラットフォームタイトルも多いことは確かだ。Xbox OneとPS4は、現行世代以上にアーキテクチャの親和性が高いため、タイトルのマルチプラットフォーム化は、促進されこそすれ、薄れることはないだろう。少なくとも、CPUとGPUの最適化メソッドの多くは共通するはずだ。

 また、移行期間の間は、Xbox OneとPS4、それにWii U、Xbox 360、PS3、加えてPCの6プラットフォームへのマルチ対応も珍しくなくなると見られる。特に、次世代機の浸透が相対的にスローペースだった場合は、現行世代マシンとの共存期間が長くなり、多数のプラットフォームが併存することになる。こうしたプラットフォームの分断は、ゲームデベロッパには余計な労力を増やすことになりそうだ。

 また、Microsoftのカンファレンスでは、かつてSCEのワールドワイド・スタジオのプレジデントとしてタイトル開発の指揮を執っていたPhil Harrison氏が、Microsoftの副社長として登場。タイトルの紹介を行なった。

 また、MicrosoftはXbox Oneの新しい機能として、自分のゲーム動画をクラウドにアップロードできる「UPLOAD STUDIO」を紹介した。これは、SCEがPS4の新機能として紹介したものと似たような機能だ。さらに、Microsoftはゲーム動画の配信サービスである「Twitch」との連携も紹介した。ゲームプレイを、Kinectを使った音声コマンドひとつで配信できる。また、Xboxとタブレットなどのデバイスを連携させるSmartGlassもXbox Oneで拡張される。

SCEからMicrosoftへと移ったPhil Harrison氏
UPLOAD STUDIOの画面

Xbox Oneでは販売モデルが変化する可能性も

 欧米受けしそうなゲームタイトルの連発に、プレスカンファレンスの会場では歓声が続いた。ただし、MicrosoftがXbox Oneの価格を発表した際には、歓声はなかった。

 一見するとゲーム機としては高価格に感じるXbox Oneの価格だが、Microsoftは従来とは異なる販売戦略を採ってくるかも知れない。想定できるモデルの1つは、AT&Tのような大手のネットワークプロバイダと組んで、サブスクリプションモデルの中に組み込んで来る可能性。例えば、サービスの契約を2年縛りで、Xbox One自体は299ドルといった設定など、さまざまな方法が考えられる。Microsoftは、Xbox 360もそうした方向へと売り込みをして来ており、Xbox Oneはその戦略を加速すると見られる。Xbox Oneの価格は、そうした新しい販売モデルを強化することを前提としたものかも知れない。

 製造コスト的に見ると、従来的なゲーム機と比べて、Xbox Oneの499ドルという価格は余裕があるように見える(初代PS3は除く)。ゲーム機は、立ち上げ時は利益ぎりぎりか、逆ざやの価格設定で発売することも珍しくない。価格を抑えてロケット立ち上げを行い、ゲームパブリッシャ側のタイトルの発売を促し、タイトルが揃うからゲーム機が売れるというポジティブスパイラルに持って行くのがゲーム機の販売戦略の常道だったからだ。

 おそらく、SCEもMicrosoftが399ドル程度のアグレッシブな価格で攻勢に出ることを想定していただろう。しかし、Microsoftは価格に対しては、相対的に大人しい戦略に出た。このあたりには、Microsoft内部でのXboxという製品カテゴリの位置付けの変化があったのかも知れない。

 Microsoftは5月のXbox Oneの初紹介では、Xbox Oneを家庭のエンターテイメントセンタとして、CATVとの連携などの機能を強く押し出した。もし、そうした売り方で、従来のゲームユーザー以外のユーザー層に対して訴求して行くとなると、価格モデルはゲーム機のそれから変えて行かなければならない。ハードウェア単体で、十分な利幅を取ることができる価格モデルでないと事業を続けることが難しくなってしまう。

28nmプロセスで製造されるXbox Oneのチップ

 PS4に対して製造コストはどうなのか。Xbox OneとPS4の半導体チップコストを比べた場合、まず、PS4はDRAMチップに高価なGDDR5を使っている点が不利となる。しかし、Xbox Oneは32MBのSRAMをグラフィックス用メモリとしてAPU(Accelerated Processing Unit)に積んでいる。これはAPUのダイサイズ(半導体本体の面積)を押し上げており、チップコスト的に不利になっている。

 ちなみに、AMDは先週、台北でCOMPUTEXに合わせて開催したプレスカンファレンスで、MicrosoftのXbox OneもAPUであることを明らかにしている。また、同カンファレンスでAMD幹部は、PS4とXbox Oneのどちらも、同じテクノロジ世代で設計されたAPUであると語った。PS4の方はTSMCの28nmプロセスであるため、Xbox Oneも同じプロセス技術だと推定される。

Intel&ファウンダリプロセスロードマップ※PDF版はこちら

 TSMCの28nmプロセスだとすれば、Xbox OneのCPUもPS4と同じく、AMDの低消費電力コア「Jaguar」の8コア構成で、GPUコアも同様にAMDの新しい「GCN(Graphics Core Next)」アーキテクチャと見られる。JaguarはAMDの第2世代の低消費電力CPUコアで、AMDの新しいAPU「Kabini(カビーニ)」「Temash(ティマッシュ)」に搭載されている。28nmプロセス世代のCPUコアだ。

AMD JaguarのCompute Unitダイ写真※PDF版はこちら
Jaguarのブロックダイヤグラム※PDF版はこちら

 GPUは言うまでもなく、現行のRadeonのアーキテクチャだ。28nm世代では、AMDのGPUコアはGCNとなっている。ただし、Xbox Oneは、GCNのプロセッサクラスタ「CU(Compute Unit)」の数が12個と言われている。これは、下のように18CU(物理的には20CUと見られる)を搭載するPS4の2/3となる。

PS4のGPUブロックダイヤグラム(推定)※PDF版はこちら

 コスト的に見れば、32MBのeSRAMの搭載によるメモリ帯域の拡張は、ロジックチップのコストを増大させる。これは、SCEのGDDR5選択によるメモリ帯域の拡張のコストを相殺する。しかし、長期的に見れば、チップ内のSRAMは微細化でスケールダウンするので、個数を一定以下に削ることが難しい外付けDRAMチップを高価格品にするよりいいかも知れない。

 ただし、問題はAPUに内蔵するSRAMの制御方法だ。ハードウェアで制御するメモリなら、ソフトウェアは意識せずにSRAMを使うことができる。例えば、Xbox 360の外付けeDRAMチップは、レンダーするフレームバッファなので、制御は簡単だった。しかし、もし、SRAMが多用途に使えるスクラッチパッドメモリだった場合、ソフトウェアが制御しなければならないため、プログラミング的には複雑になる。

 今回、MicrosoftはXbox Oneのスペックについては、ほとんど語らなかった。ゲーム機をスペックで引っ張る時代の終わりを象徴している。実際、ゲーム機の要素としてソフトウェア層の比率が高くなっており、相対的にはハードウェア層の重要性は落ちている。これは、全体的な傾向で、SCEも同様だ。

(後藤 弘茂 (Hiroshige Goto)E-mail