後藤弘茂のWeekly海外ニュース

コンピューティング市場の規模は5年で6億台とIntelが予測



●2014年にはコンピューティングデバイス市場は2倍の規模に?

 Intelは5月11日に米サンタクララで投資家向けカンファレンス「2010 Investor Meeting」を開催(同時にWebキャスト配信も行なった)。市場の見通しやプロセス技術の進展、製品計画のアップデートを行なった。今回のInvestor Meetingの大枠を意訳すると、次のようになりそうだ。

 「今回の不況はうまく乗り切った。Intelは再び堅調に戻り、コンピューティングデバイスの市場も今後は2桁の成長が続く。成功のカギは、プロセス技術の強味を維持できていること、新需要の掘り起こしに成功しつつあることだ。今後は、Atomで組み込み系の市場をさらに掘り起こす」。

 えっ、と思うような強気の内容だが、おおよそこのような内容だった。例えば、Paul Otellini(ポール・オッテリーニ)氏(President and CEO)のスピーチでは、2010~2014年の5年間の市場の予測が披露された。

 それによると、デスクトップPCは年に2.4%程度のCAGR(Compound Annual Growth Rate:年平均成長率)に止まるが、ノートPCは急増するという。成熟市場では、PC需要がノートPCへと移行するためで、年22%ずつ成長すると言う。加えて同じ期間にネットブックも15%の率で伸びる。さらに、新カテゴリとしてタブレットコンピュータが年に73~88%の高水準で伸びると言う。GartnerやIn-Statといった調査会社の数字を引っ張ってきている。

Intelが示した今後の市場予測

 このIntelのチャートはわかりにくいが、台数の積み重ねチャートとなっている。デスクトップPCの台数にノートPCの台数が積み上げられ、その上にネットブックとタブレットの台数が積み上げられている。一番上のタブレットのラインが、コンピューティングデバイスの合計の台数の推移の予測だ。

 下のチャートを見ればわかる通り、この予測では、2010~2014年の間に、コンピューティングデバイス全体の需要は、15~16%の率で伸びて行くことになる。2010年はコンピューティングデバイス合計で年間の出荷が360M(3億6,000万)台の予想だが、それが2014年には600M(6億)台出荷を超えると予想する。つまり、300M(3億台)前後だった2009年の2倍の市場に拡大することになる。

セグメント別の出荷台数増PC市場は2倍に拡大するという予測


●デバイス間のカニバライゼーションを否定するIntel

 もちろん、この見方には異論も多いだろう。強気の読み自体もそうだが、各デバイス市場間のカニバライゼーション(共食い)現象を見込んでいないように見えるからだ。ネットブックやタブレット、ノートPCは互いの市場を食い合い伸び悩む可能性がある。

各デバイスごとのカニバライゼーションは発生しない

 しかし、Intelはカニバライゼーションは最小限だと反論する。Thomas Kilroy(トーマス・キルロイ)氏(SVP, GM, Sales & Marketing Group, Intel)はネットブックの購入者のうち88%が追加のPCとして購入しており、5%がファーストPCの購入者。PCの置き換えとしてネットブックを購入しているのは7%に過ぎないと説明した。コンピュータをもう1台加える形でネットブックが購入されているから、市場が拡大していると見ている。実際にノートPCの出荷も好調であるため、Intelは自信を深めたようだ。ちなみに、Kilroy氏の名前はジョークではなく本名だ(米国の観光地では「Kilroy was here(キルロイ参上)」という落書きがされていることが多い)。

 タブレットコンピュータについても同様で、Otellini氏は、タブレットがネットブックと同様に、新しいユーセージモデルを開くと語った。タブレットコンピュータの台頭は、Intelにとっては好材料で、他のデバイスを食うとは見ていないという。Intelはコンピューティングデバイスが1家に1台ではなく1人1台へとパーソナル化することで、まだまだ市場が拡大すると考えている。

●プロセスノードの数字から離れるIntel

粗利益の向上

 Intelのバラ色の強気の市場予測を支えているのは、堅調なIntelのビジネスだ。Otellini氏は、Intel製品のグロスマージン(粗利益)が向上していると説明した。Intelは以前、グロスマージンのマジックナンバーは60%で、不況で割り込むことがあっても、必ず60%に戻してきたと説明していた。今回もIntelはマジックナンバーに戻しつつあるようだ。


コストの低下

 IntelはAtomの投入以来、製品の平均販売価格(ASP)を徐々に下げている。それなのにマージンが上がっているのは、製造コストを引き下げているからだ。特に、低価格帯のAtomのところでコストを下げている。CPUダイが小さくなり、パッケージも簡素になっているからコストが下げられる。

 Intelの強気の背景には、プロセス技術の優位性もある。Intelは、現在、High-k/Metal Gateトランジスタのチップを商用に大量生産している唯一の半導体メーカーだと説明。Otellini氏は40~45nmプロセス世代でのIntelと他社のトランジスタパフォーマンスを、ドライブ電流量で比較したチャートを示した。いずれも学会で論文発表された数値で比較したものだ。

トランジスタ性能の比較

 Intelは、45nmや40nmといった、プロセスノードの数字自体には意味がなく、実際のパフォーマンスやリーク電流、デバイスピッチで比較しなければ優位がわからないと言う。これまでノードの数字にこだわっていたIntelとは思えない説明だ。もちろんそれはノードの数字を半世代小さくしているTSMC(40nmの次は28nmをメジャーノードとしている)を牽制するためだ。

 現状では、ロジックプロセスでは各社の「○○nm」プロセスというノードの数字は、実際のプロセスの各パーツの寸法を表していない。そのため、Intelの説明にも一理ある。

プロセスが成熟するスピードも改善

 また、プロセス技術世代が進むにつれて、Intelのプロセスが成熟するスピードが改善されていることも示された。Otellini氏が示した右のチャートは、一定の数のダイを出荷するまでにかかった週の数を、各プロセスノード世代で比較したものだ。32nm世代では、90nm世代と比べて同じ数のダイを出荷するまでの時間が半分に減っている。

 もっとも、90nmの時のIntelのメインのダイは112平方mmのPrescott。それに対して32nmは79平方mmのWestmere 2Cなので、単純な比較はできない。しかし、そうした要素を差し引いても、Intelのプロセス立ち上げがスムーズになっているのは確かだ。


●Sandy Bridgeのグラフィックスコアをデモ

 昨年(2009年)5月の「2009 Investor Meeting」では、IntelはAtomベースの新プラットフォーム「Moorestown(ムーアズタウン)」の消費電力などの詳細を初めて明かし、具体的なデモもInvestor Meetingで最初に披露した。また、AtomのためのSoC(System on a Chip)プロセス技術や、Atomのコストモデルについても明かした。

 技術面での新情報が満載だった前回のInvestor Meetingに対して、今回は打って変わって新情報が薄いカンファレンスだった。全体にマーケティング寄りで、製造やプロセス技術などを除けば、威勢のいいトークが目立つ。言ってみれば、普通の投資家向けカンファレンスに戻った印象だ。ロードマップでは、これまで公式になっていなかったMoorestown系の設計をネットブックに流用する「Oak Trail」が示された程度だ。

低消費電力向け製品のロードマップ今後の方向性

 しかし、CPU開発を担当するDavid Perlmutter(デビッド・パルムッター)氏(EVP & GM, Intel Architecture Group)のセッションでは、新しい技術デモも行なわれた。Intelの次期CPUマイクロアーキテクチャ「Sandy Bridge(サンディブリッジ)」の内蔵GPUコアの性能を示すデモだ。

グラフィックス性能が大幅に向上するというSandy Bridge

 Sandy BridgeではCPUダイにGPUコアが統合される。GPUコアも必然的にCPUコアと同じ32nmプロセスに移行(現在は65nm)する。スピーチの中では65nmグラフィックスとSandy Bridgeをゲーム画面で比較するデモが行なわれ、グラフィックス性能が大幅に向上すると説明された。

●姿が見えなかったLarrabeeとHaswell

 今回のInvestor Meetingで目立ったのは、IntelのハイスループットメニイコアCPU「Larrabee(ララビ)」のLの字もないこと。汎用CPUコアのマルチコア化と、グラフィックスに特化したGPUコアの統合で充分に対応できる、と言わんばかりのプレゼンテーションだった。北京で4月に開催した技術カンファレンス「Intel Developer Forum(IDF) 2010 Beijing」でも、Larrabeeは不在だった。

 誰もが同じ疑問を抱くと見えて、QA時間に入っての会場からの最初の質問はLarrabeeについてだった。Otellini氏は「Larrabeeはストップしていない」と、Intelがハイスループットコンピューティング製品を諦めたわけではないことを説明。しかし、明瞭な投入時期などは語らなかった。

 こうした状況からは、IntelがLarrabee3世代(オリジナルの計画では2011年に投入予定)まで製品化を延期しただけでなく、もっと根本的な戦略変更を行なった可能性が濃くなって来た。おそらく、Intelは、当面のHPC用途は、256-bit幅(32-bit時に8-way SIMD)のAVX命令で汎用コアを拡張すれば充分と考えてみていると見られる。その一方でメインストリームグラフィックスは、内蔵GPUコアの拡張で対応できると見ていると推定される。

 Intelは今回のInvestor Meetingで、2013年の「Haswell(ハスウェル)」についても、何も言及しなかった。Haswellは、Nehalemを担当した米オレゴン州の開発センターで開発しているCPUだ。2013年に登場する予定で、すでに一部顧客に対しては説明も開始している。

 2013年の次々期マイクロアーキテクチャCPUをIntelオレゴンが開発していることは、すでに明かされている。今年(2010年)2月に米スタンフォード大学の公開講義EE380で、IntelのアーキテクトGlenn J. Hinton氏(Intel Fellow, Intel Architecture Group, Director, IA-32 Microarchitecture Development, Intel)が行なった講演「Key Nehalem Choices」で、オレゴンが2013年のCPUを開発していることが示唆された。Hinton氏はオレゴン設計センターのアーキテクトのリーダーで、Haswellも担当していると見られる。Haswellについては、Sandy Bridgeも出る前とあって、時期が早すぎ封印されていると推定される。