元麻布春男の週刊PCホットライン

AppleがXserve事業を終了へ



Apple Xserve

 Appleは同社のサーバー製品であるXserveの販売を、2011年1月31日で終了することを明らかにした。Xserveの製品情報には「1月31日に販売終了」の文字が表示されている。ここでの「終了」は、現行Xserveの販売終了ではなく、ラックマウント型のサーバー専用機であるXserveシリーズ全体の終焉を意味する。つまり、Appleのサーバー専用機はこれで最後になるということだ。

 2002年5月にPowerPC G4プロセッサのデュアルソケット機としてデビューしたXserveは、AppleがプロセッサをIntelにスイッチした後も継続されてきた。が、以前にも書いたように、Appleの哲学は現在のIT界のトレンドと相容れないため、苦戦を強いられてきた。

 企業のITにとってサーバー(物理ハードウェア)は、ますますコンピューティングリソースという、それ自身が色づけを持たないものになりつつある。サーバーの上でハイパーバイザーを動かし、その上でアプリケーションを組み込んだOSのイメージを実行する。ハードウェアに障害の可能性が高まれば、OSイメージ(論理サーバー)は、動作を中断することなく別のサーバーハードウェア上に移動し、稼働を続ける。仮想化というのは、各レイヤー間の完全な分離であり、ハードウェアとソフトウェアの依存関係は断たれなければならない。それにより、高可用性と高信頼性を実現しようというのが現在におけるITの流れであり、クラウドもその延長線上にある。

●Appleのハードウェアでしか動かないMac OS

 しかしAppleは、こうした潮流を頑なに拒んでいる。AppleのOSはAppleのハードウェアのみで動作する。Appleは他社にOSをライセンスしないし、市販されているOSパッケージはMac OSがプリインストールされたApple製ハードウェアを購入したユーザーに対するアップグレード用であり、新規インストール用のパッケージやライセンスは存在しない。

 このハードとソフトが一体になった構成は、基本的にサーバー(Xserve)でも同様であり、Mac OS X ServerはApple製のハードウェア(XserveおよびMac)でしか動作しない。これでは企業に採用されるのは極めて困難だ。おそらくXserveの顧客の多くは、大学やデザインハウスなど、クライアントとしてMacが大量に導入された事業所だっただろうし、そうした事業所も規模が拡大するにつれて、Macではない、一般的なサーバーへの乗り換えを目指すだろう。結局は、その方がコストや信頼性など、さまざまな点で有利になるからだ。

 その例外となる企業があるとすれば、それはApple自身だろう。筆者はAppleの社内ITシステムを知らないが、それがWindows Serverベースだとは思いにくい。また、iTunes StoreやMobileMeなど、Appleはさまざまなサービスを展開しているが、そのサーバーはおそらくMac OS X Serverベースだろう。社内でMac OS X Serverを利用していなければ、ここまでXserveを含めたサーバー事業を続けてはこなかっただろうと考えるからだ。

 では、これからはどうするのか。社内的には、Mac OSベースのサーバー環境を利用し続けるものと思う。ひょっとすると、ハードウェアはそのうち他社製(HPやDellなど)になるのかもしれないが、OSまで他社製(WindowsやLinuxベース)になることはないのではないか。Apple自身が利用する分において、一般的なx86システムの上で動作するようMac OSに手を入れることは造作もないことだ。ただし、そのOSがパッケージ化されることはないだろう。

●クライアント製品への影響はほとんどない

 社外的には、Appleは次の2つのメッセージを出している。1つは、Xserveの販売は2011年1月末まで続けられるから、必要であればそれまでに購入すること。2番目として、既存のユーザーでハードウェアの移行を希望するユーザーに対しては、Mac ProとMac miniへの移行例を示している。すでに米国のオンラインストアでは、Mac ProのServer仕様版の販売が始まっており、Snow Leopard ServerをプリインストールしたMac miniと合わせ、これらのシステムにおいてはMac OS X Snow Leopard Serverの64bitモードがネイティブで利用できるとしている。ただし、Mac Proが性能的にはXserveと同等か、あるいはそれ以上を期待できるのに対し、Mac miniでは性能面では比べものにならないから、サーバーとしての用途は限られる(Webサーバー等)。

 一番知りたいこと、Xserveがなくなったあと、サーバー向けのOSに関して開発と提供が続けられるかという点については、今のところ何も説明はない。つまりLion Serverはあるのかないのか、ということは明らかにされていない。が、おそらくはXserveの終了とともに、Server OSの提供もなくなる、つまりSnow Leopard Serverが最後になるのではないかと思う。ただ、Macをサーバーとして使いたいユーザー向けに、サーバー向けアプリケーションや管理ツールをセットにしたアドオンパッケージが、Lion以降も提供される可能性はあるかもしれない。

 このXserveの事業終了が、クライアント向けのMacに何か影響を及ぼすか。おそらくほとんど影響はないだろう。現在、Macはほとんどがコンシューマ向けに販売されており、Xserveとセットで企業に導入される例は極めて少ないと考えられるからだ。

 Xserveとセットでなくても、Macの企業導入例は、デザインやファッションなど一部の業界を除いては極めてマレである。が、この点に関しては、今後変化が生じる可能性はある。

●サービス環境とクライアント機器が増加する傾向

 このXserve販売終了のニュースが広まった11月8日、仮想化ソフトウェア大手であるCitrix Systemsが都内でプレス向けのラウンドテーブルを開催した。そこで登壇した同社CMO(最高マーケティング責任者)のウェス・ワッソン副社長は、

1. 2012年までに新入社員の半数以上がデスクトップ環境とアプリケーションをサービスとして提供されるようになるだろう

2. デスクトップ仮想化は、企業クライアントのセキュリティと持続性、コスト削減に関する概念を根底から変えてしまうだろう

という2つの予測に続いて、3番目の予測として、

3. 2011年に最も急成長する企業向け電子機器は、コンシューマ機器になるだろう

という予測を披露した(以後も続くが4番目以降は割愛する)。

 ここで紹介されたコンシューマ機器とは、Apple iPad、MacBook、BlackBerry PlayBook、Dell Streak、Samsung Galaxyといった、現在米国で大ヒット中の製品である。Citrixは、これらの機器向けに「Citrix Receiver」ソフトウェアを提供しており、XenDesktopと接続することで、これらの機器からWindows環境の企業アプリケーションの利用が可能になる。実際、ウェッソン副社長がプレゼンテーションに使っていたハードウェアもMacBook Proであった。

 筆者はCitrixの社内ITシステムを見たことはないが、それがMacであることは絶対にないと確信する。が、そのシステムを利用する端末は、極論すれば何でもいいわけだ。仮想環境を前提にすれば、その下のレイヤー(OSやハードウェア)が何であるかは問わない。それが各レイヤー間の完全分離を実現する仮想化というものの本質であるからだ。

 AppleのXserveは、仮想化やクラウドといったトレンドと対極に位置したがゆえに、市場からの撤退を余儀なくされた。しかし、その同じ仮想化が、ひょっとすると別のApple製品をオフィスに呼び込むきっかけとなるかもしれない。すでにiPadを利用した企業向けソリューションは多数提案されている。少なくともコンシューマ向けのシェアが20%を超えたと言われる米国において、同じことがMacに起こらないとは限らない。