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磁気スイッチ、どのキーに挿す?配置を自分で決める「G512 X 75」が楽しい

磁気スイッチに置き換えたキーだけが違う色で光る。この配置を決めるところから始まるキーボードだ

 ロジクールの「G512 X 75」で最初に手が伸びるのは、キーでもケーブルでもなく本体背面の半透明カバーだ。開けると磁気式のアナログスイッチが9個ホルダーに収まっていて、これをどのキーに挿すかと考え始めた時点で、もうこのキーボードは始まっている。

 日本語配列75%サイズの有線ゲーミングキーボードで、最大の特徴はメカニカルスイッチと磁気式アナログスイッチを1台に混在させられる「デュアルスワップ」だ。どこを磁気式にするかは使う側に任されている。スイッチを交換できるキーボード自体はめずらしくないものの、性格の違う2種類を混ぜられる製品はほとんどない。

 配置を決めてスイッチを挿し、ケーブルをつなぐと、キーボードが41個のスロットを自分でスキャンし始めて、磁気式にしたキーだけがほかと違う色で光り出す。自分で決めた配置が光の並びになって机の上に現れる瞬間は、ちょっとした儀式めいていて良い。

9個の磁気スイッチをどこに挿すか。そこから始まる

 アナログスイッチが機能するのはキーボード左側と矢印キーの計41スロットだけで、キープレートに色分けのマーキングが入っているため、対応する場所は天面を見れば分かるようになっている。ここに付属の磁気式スイッチ「Gateron KS-20」を挿していく。

 主にVALORANTを遊ぶ中で、筆者が1週間かけて落ち着いた配置がこれだ。

【表】筆者の磁気式スイッチ配置
キーアクチュエーションポイント割り当て
W/A/S/Dキー0.2mm移動
Shiftキー0.5mm歩き
Ctrlキー1.0mmしゃがみ
Xキー2.0mmアルティメットスキル
スペースキー2.0mmジャンプ

 移動のW/A/S/Dキーは0.2mmまで浅くして、触れた瞬間に入るようにした。ここまでは想像通りだろう。逆にXキーとスペースキーはあえて2.0mmまで深くした。アルティメットとジャンプは速く出したいアクションではなく、絶対に暴発させたくないアクションだからだ。可変アクチュエーションは「浅くして速くする」機能だと思われがちだが、暴発を封じるために深く沈めるという使い方もある。

アクチュエーションポイントはキーごとに0.1mm刻みで指定できる。速くしたいキーと暴発させたくないキーを分けていく

 この配置は一発で決めたわけではない。交換はキーキャップを外してスイッチを抜き、新しいスイッチを挿してキーキャップを戻すだけで、1キーあたり30秒もかからない。9個を入れ替えても数分で済むから、思いついた配置は片っ端から試せる。1週間悩み続けられたのは、やり直しのコストがほぼないおかげだ。

 ラピッドトリガーにはやや癖があって、キー単位でオン/オフできずキーボード全体で一括の設定になる。それでも感度だけはキーごとに変えられるので、W/A/S/Dキーを0.2mmにして、残りは既定の0.5mmのままにした。深く設定したXキーやスペースキーにもラピッドトリガー自体はかかっているが、実用上気になる場面はなかった。

G HUBでは「高速トリガー」と表示される。オン/オフはキーボード全体で一括で、キーごとに変えられるのは感度だけだ

 磁気スイッチが9個しか付属しない点は、発表直後から「それで足りるのか」と言われてきた。実際に使ってみると、答えは上述の配置表の通りに出る。移動のW/A/S/Dキーで4個、そこに歩きのShiftキー、しゃがみのCtrlキー、ジャンプのスペースキー、アルティメットのXキーを加えてちょうど8個で、残りは1個だ。

 次に磁気式にしたいのはアビリティに使うQキー、Eキー、Cキーだが、ここへ手を伸ばすには3個必要になる。1個ではどこに挿しても中途半端になってしまうため、9個目は最後まで挿さないまま1週間を過ごした。個人的には9個ではやや物足りないと感じた。

 もう1つ諦めたことがある。それはWindowsキーを4.0mmに設定し、ゲーム中の暴発を物理的に潰す計画だった。ところが、Windowsキーは41スロットの外にある。41スロット以外のスイッチをアナログスイッチに交換するとそのキーは機能しなくなる。これはセットアップガイドにも明記されていた。

 一方で、スイッチ自体を9個から増やす手段はある。同じくセットアップガイドには、付属のGateron KS-20と同じ磁石配置のアナログスイッチなら使えるとある。試しに手持ちの別のGateron製アナログスイッチを挿してスキャンさせたらあっさり認識した。ロジクールが単体販売しているわけではないが、自分で調達すれば41スロットまでアナログ化を進められる。今回は箱の中身だけでどこまで組めるかを見たかったので、Q/E/Cキーには手を出さず9個の枠に留めたが、付属の9個はスタート地点にすぎない。

予備のスイッチとSAPPリングは本体の中に収まる。付属品を別管理しなくていい

ストッピングが決まる。そしてゲームから離れても使える

 検証はVALORANTで、1回2~3時間のプレイを5~6回重ねた。可変アクチュエーションもラピッドトリガーも設定の狙い通りに機能してくれて、特に手応えがあったのはストッピングと切り返し撃ちだ。左右の入れ替えで移動が止まるまでが速いので、撃ち出しのタイミングが噛み合うし、入力の遅れを感じる場面もなかった。

 筆者が普段使っているのは全キー磁気式の「Wooting 60HE v2」だ。この分野の基準といっていい製品だが、それと比べても、VALORANTの移動まわりで差は感じなかった。自分の使うキーが41スロットに収まっているなら、全キー磁気式の製品と同じ土俵に立てると言い切っていい。

 ポーリングレートはロジクールGのキーボードとして初の8,000Hz対応。ただし出荷時は1,000Hzのままで、切り替えるにはユーティリティ「G HUB」のパフォーマンス設定を開く必要がある。1,000Hzと8,000Hzの差は筆者の体感では感じ取れなかったが、それでも入力の報告間隔は1msから0.125msに縮むので、設定しておく価値はある。

 打鍵感も良い。シリコンガスケットマウント構造のおかげで底打ちの硬さが直接返ってこず、音も落ち着いている。試用したのはリニアスイッチのモデルだが、底に着いたときの音まで含めて、打っていて気持ちのいいキーボードだった。カスタマイズ性ばかりが話題になりやすい製品ながら、素の完成度がまず高い。

 マルチポイントアクションも試した。1つのキーに深さ違いで2つの操作を割り当てる機能だ。付属のSAPPリングをキーキャップのステムに付けると、2つ目のトリガー位置が指にはっきり返ってくる。

 今回狙ったのは浅く押して歩き、深く押して走るという設定だったが、これだとなぜか歩いたままになってしまった。逆に浅い側へ走りを置くと素直に切り替わった。ただしラピッドトリガーとは同時に使えない機能のため、VALORANTではマルチポイントアクションをオフにしている。押し分けが生きるのは、MMORPGやアクションのようなジャンルだろう。

 そして75%というレイアウトはゲーム外でも使いやすい。テンキーは省かれているが矢印キーやDeleteキーとその列のキーは残っている。ゲームだけなら60%でも困らないが、そのまま書類を書いたりファイルを整理したりといった作業になると、これらのキーの有無で効率が大きく変わってくる。それでいてコンパクトさも両立しているのはありがたい。

 天面右上には2つのダイヤルがあり、初期状態ではライティングと音量の制御に割り当てられている。G HUBからアプリごとのアクションに変更できるので、筆者は左を音量、右をDiscordのマイクミュートにした。通話しながらゲームをしていてちょっと席を立つときに、ダイヤルを押し込むだけでミュートが切り替わるのは地味にうれしい。

ダイヤルはアプリごとのアクションに割り当てられる。押し込みでマイクミュートを切り替えている

 付属のキーキャッププラーとスイッチプラーは、本体底面に装着することでチルトスタンドになる。傾斜はスタンドなしで4度、立てて8度の2段階から選べる。スイッチを抜き差しする前提の製品だけに、工具を別に管理させないこの作りは気が利いていると感じた。

付属のプラーがそのままチルトスタンドになる。工具を別に持たなくていい

磁気式にできるのが41キーだけなのは正直もったいない

 一番引っかかったのは磁気式にできるキーの数だ。アナログスイッチが動くのは左側と矢印の41スロットまでで、それ以外のキーはメカニカルのままになるため、使い込むほどに「このキーもアクチュエーションポイントを変えたい」と欲が出てくる。

 付属の9個で足りないのは、買い足せば済む話ではある。しかしスロットそのものの上限が41個で止まっているのは、ユーザー側ではどうにもならない。FPSなら左手側だけで困らないし、そこに絞った設計だと分かってはいる。それでも全キー対応ではダメだったのかという思いは1週間経っても消えなかった。右手側でも可変アクチュエーションを使いたいジャンルなら、この製品を選ぶ理由は薄くなる。

スイッチはあとから買い足せるが、スロットはそうはいかない

 磁気スイッチとメカニカルスイッチでは打鍵感も変わる。押下圧はアナログが30±10g、リニアが40±8gで、指を移すとこの10gの差が段差のようになって返ってくる。2種類のスイッチを共存させる設計の裏返しなので、ここは消しようがない。左手側だけを磁気式にするぶんには実害が薄いが、文章入力まで含めて打ち心地をそろえたい人は知っておきたいところだ。

 質感の面で気になったのはトッププレートだ。素材が樹脂で、打鍵感の良さに手触りが追いついていない。ただしこれはボディを撫でたときの話で、ガスケットマウントの打ち心地まで安っぽくなるわけではないから、実用の不満というより所有感の問題に近い部分ではある。また、本体の高さは手前側でも20mm以上あるため、長時間打つならパームレストが欲しくなる。純正の「G512 X Palm Rest 75」は別売であり、この構造なら標準で同梱してほしかった。

 もう1つは配列だ。国内で選べるのは日本語配列のみで、筆者としては英語配列も選べたら良かったと感じた。日本語配列で通している人には関係のない話だが、デスクを英語配列でそろえているならここで候補から外れてしまう。

ゲーム用と仕事用で2台置いている人にこそ

 実売価格は2万9,000円前後。これを見て最初に浮かんだのは、「全部が磁気式のキーボードでいいのでは」という疑問だった。ロジクール自身の「G515 RAPID TKL」は2万3,500円前後と5,000円以上安いうえに全キーが磁気式で、日本語配列のテンキーレスという点も重なる。

 ただ、G515 RAPID TKLはロープロファイルでキーストロークが2.5mmしかなく、4mmのフルストロークとガスケットマウントによる打鍵感は得られない。8,000Hzポーリングにも対応せず、スイッチの交換もできない。深いストロークで気持ちよく打てて、磁気スイッチの配置も自分で設計できるから、ゲームから離れて文章を書く時間まで含めるとG512 X 75の優位性が見えてくる。

 ゲーム専用の1台を探しているだけなら、全キーが磁気式で価格も安いG515 RAPID TKLで足りてしまう。G512 X 75の価値はスイッチの数ではなく、打鍵感と、自分で配置を決められる余地のほうにあるからだ。

 ゲーム用と仕事用でキーボードを2台置いている人に本機はうってつけだ。ゲーム側の速さと仕事用の書類を作るときの打ち心地を1台で満たせるので、机から1台どけられる。VALORANTのように使うキーが左手側に集まるゲームなら、41スロットの範囲で不足はない。

 また、キーボードのカスタマイズを気軽に試してみたい人にも向いている。スイッチを挿し替えて打ち心地を変える遊びは、これまで自作キーボードの世界に寄っていて、入り口がやや遠かった。その点、本機は国内で普通に買えるし、保証もサポートも日本語で受けられる。1キーあたり30秒で挿し替えられる手軽さもあわせて、カスタマイズの1台目として心強い選択肢になるのではないだろうか。

【表】ロジクール G512 X 75の主な仕様
製品名ロジクール G512 X 75
配列/キー数日本語配列 75%/85キー
スイッチスロットデュアルスワップ アナログ/メカニカル
41スロットがTMRアナログ対応、磁気式アナログスイッチ(Gateron KS-20)を9個同梱
スイッチ仕様アナログ: 4±0.2mm/30±10g
リニア: 4±0.4mm/40±8g
タクタイル: 4±0.4mm/38±10g
アクチュエーション0.1~4.0mm(アナログスイッチ使用時)
ポーリングレート1,000Hz/8,000Hz(出荷時は1,000Hz)
サイズ330.2×155.2×46.6mm
重量850g
カラーブラック、ホワイト
ライター: でこい
1990年生まれ、青森県出身。高専卒業後、放射線業務従事者やスマホ系メディアの編集を経て、現在はエンジニアのかたわらライターとしても活動している。2012年から運営しているブログでは自作PCやスマホ周辺機器といったガジェットのレビューを発信中で、製品写真の撮影にも力を入れている。ここ数年は毎年欠かさず自作PCを組み替えており、小型ケースへの偏愛は年々深まるばかり。