山田祥平のRe:config.sys

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 ロゴヴィスタの「コリャ英和! 一発翻訳2010 マルチリンガル」を使ってみた。英語、日本語、そして、ヨーロッパ主要5言語(フランス語、ドイツ語、イタリア語、ポルトガル語、スペイン語)、および中国語(簡体字、繁体字)、韓国語、ロシア語と、実に、10言語間の翻訳に対応した多言語翻訳ソフトだ。今回は、その使い勝手を見ながら、翻訳ソフトに望みたい方向性について考えてみる。

●ネットブックユーザーにも安心

 ネットブックの普及によって、少しずつではあるが、ノートPCを外に持ち出すユーザーが増えてきたように思う。ただ、常に、インターネットに接続できることが保証されているとは限らない以上、地図や辞書などのリファレンス類が、ローカルできちんと参照できることはとても重要なポイントだ。

 「コリャ英和! 一発翻訳2010 マルチリンガル」は、当初、ネットブック等、光学ドライブを持たないPCを考慮し、2GBのUSBメモリでリリースされたが、追って、CD-ROM版の発売が決まった。価格は19,800円と、ちょっと高価なので、10カ国語もいらないからもう少し安くというユーザーには、各言語語版をバラで購入することもできる。こちらのメディアはCD-ROM版だが、光学ドライブを持たないユーザーのために、インターネット経由でダウンロードして製品をインストールする仕組みが提供される。ただし、価格は8,800円なので、3カ国語以上が必要ならマルチリンガル版を選んでおくのが賢明だ。

 このパッケージは、その中心的存在である「翻訳エディタ」を使った各国言語相互の翻訳に加え、Internet Explorerに組み込まれた状態で作動するページ翻訳、また、Microsoft Officeの各アプリケーションや、Adobe Readerと連携できる各種のアドイン、そして、翻訳を必要とする場面で役に立つガジェット類で構成されている。

 もし、使っているPCがインターネットに接続されているのであれば、各種の翻訳サービスが利用できるし、ページ丸ごと翻訳といったサービスも各サイトで用意されている。たとえば、Google翻訳では翻訳可能な言語として42言語と、このソフトよりずっと多くの言語をサポートしている。

 翻訳の質に言及し出すとキリがないし、その質に対して、とやかくいえるほどの知識ももちあわせていないので、ここでは、その使い勝手と可能性について考えていく。

●翻訳ソフトを通訳に使う

 インターネットに接続することができない環境の代表例は、飛行中の旅客機の中だ。たとえば、そこで、妙齢の女性と隣合わせたとしよう。手にしている雑誌から見ると、どうやら中国人のようだ。ちょっとカタコトの英語で話しかけてみると、それなりに理解するようだが、ややこしい話は無理のようだ。

 そこで、カバンからPCを出し、このソフトに助けてもらう。

 おもむろに、Microsoft Wordを起動し、下書きモードに切り替える。隣からものぞき込みやすいように、表示される文字を大きくするために、ズーム倍率を300%程度に設定する。そして、コリャ英和! の翻訳支援ツールである「タイピング翻訳」を起動する。

 「タイピング翻訳」は、入力用テキストボックスを持つ小さなユーティリティで、そこに文章を入力し、エンターキーの打鍵で、その文章が翻訳され、もう1度エンターキーを打鍵すると、直前にアクティブだったアプリケーションに翻訳結果がペーストされるというものだ。

 つまり、日本語を入力して、エンターキーを2度叩くだけで、翻訳結果が、先のWordに貼り付けられていく。ちなみに、この操作は、Wordではできたが、秀丸エディタでは、貼り付け操作ができなかった。プログラムの実行権限の違いが原因のようだ。

 これで、少なくとも、相手に自分の言いたいことを伝えることはできる。ちなみに、各言語でフォントを自由に指定できる。たとえば、中国語であれば、日本語フォントにおけるメイリオに相当するMicrosoft Yaheiがおすすめだ。ClearTypeに対応し、肉太なので、遠くからのぞき込むディスプレイでの視認性も高い。同様に、欧文ならSegoe UI、ハングルならMalgun Gothicが、メイリオ風のフォントで視認性が高そうだ。

 さて、相手がPCのキーボードに抵抗がないようなら、相手にも、このソフトを使ってもらおう。タイピング翻訳ユーティリティは、Ctrl+Eと上下方向キーで簡単に翻訳の方向を変えることができる。また、コリャ英和!には中国語、韓国語のIMEが付属し、インストール時に一緒に入れることもできるが、特にそれを使わなくても、Windows標準の各国語IMEを、その場でコントロールパネルからインストールすればいいだろう。

 英会話なら、Alt+Shiftで入力言語をトグルで切り替えることができる。自分の言葉を入れて翻訳したら、IMEと翻訳方向を切り替えて、相手に入力してもらえばいい。

 理想的には、そのときのIMEの種類を判別して翻訳方向が自動的に切り替われば便利だと思う。さらに、言語の組み合わせはそのままで、翻訳方向を逆方向にするショートカットキーがあればもっと便利かもしれない。

 こうしたことが難しいのであれば、タイピング翻訳ユーティリティのインスタンスをもう1つ起動し、それぞれに異なる方向の翻訳を設定するというのもありではないか。そうすれば、IMEや翻訳方向の切り替えに要する煩雑な操作が不要になる。

 英語と日本語という条件つきとなるが、「通訳くん」というユーティリティもおもしろい。これは、1つのテキストボックスに英語または日本語で文章を入力すると、その翻訳結果が逐次表示され、さらに、その履歴も見ることができるというものだ。まさに、その場で筆談するようなイメージで会話を進めることができる。読み上げにも対応し、設定した任意の声質、速度で読み上げさせられる。英語と日本語なので、基本的にIMEをオン/オフするだけでよく、テンポのいい会話ができそうだ。できれば対応しているすべての言語について「通訳くん」を用意してほしかったところだ。

 なお、Word用のアドインを使えば、Word上に書き込んだ言語を別の言語に翻訳することもできるが、その場での会話という点では、「タイピング翻訳」ユーティリティの使い勝手がいい。

●翻訳のコツを手に入れる

 外国語で文章を書かなければならない機会というのは、それほど多くはないが、いつも英語や日本語でメッセージのやりとりをしている外国人へのメッセージに、先方の母国語を添えたいと思うことがある。

 ちょっとした文章をこしらえて、翻訳エディタを呼び出して翻訳させれば、簡単に翻訳結果が得られる。だが、翻訳結果の言語に深い知識がない場合、その結果が、本当に意図したものなのかどうかを判断するのが難しい。

 翻訳エディタでは、日本語を解析する際に、主語や助詞、述語が省略されていたり、冗長な表現、あいまいな表現を指摘するなど、より精度の高い結果を得られるようにアドバイスされる。それに従って、元の日本語を書き直せば、よりよい結果が得られるようになっている。

 また、翻訳エディタは、中間言語表示(韓・中と英日・日英を除く)ができるようになっている。これは、間に中間言語として英語や日本語を表示し、その訳が的確かどうかを確かめるための機能だ。

 翻訳結果が正しいかどうかは、その結果を自分の知っている言語に翻訳させ、翻訳エンジンが自分の日本語をしっかりと理解しているのかどうかを確かめたり、翻訳結果を逆に日本語に翻訳させて元通りの意味を持つ日本語に戻るかどうかを確認してみる方法がある。

 たとえば、日本語を中国語に翻訳する場合は、いったん英語に翻訳し、その英語に手を入れて望み通りの内容に仕立てた上で、中国語に翻訳させた方が、よい結果が得られそうだ。というのも、英語と中国語の文法は似ているため、誤訳が発生しにくいからだ。

 一方、日本語から韓国語への翻訳では、文法が似ているので、英語を介させると、かえってわかりにくくなってしまう可能性がある。

 こうした機械翻訳の上でのコツのようなものを、うまくユーティリティに取り入れ、少しでもいい結果が得られるようになっているのは評価できる。だからこそ、使う機会が多い中国語や韓国語でも、中間言語の表示をサポートしてほしかった。アルゴリズム的に無理でも、2段階翻訳のような手法をとれば、見かけの上ではそれができるはずだ。

●ソフトが活かすハードウェア

 タイピング翻訳の使い勝手でも触れたが、このソフトの一連のユーティリティでは、翻訳元となる言語を自分で指定しなければならない。つまり、翻訳元の文章が、何語で書かれているのかをユーザーが知っていなければならないのだ。Webページの翻訳時などにも同様の操作が求められる。

 だが、その文章が何語であるかを知っているとは限らない。中国語らしき言語のメールが届いたものの、それが簡体字か繁体字なのか、すぐに判断できるだろうか。もちろん、ドイツ語とフランス語の区別がつかないユーザーだっているはずだ。

 やはり、ここは、自動判別の機能が入っていると便利だ。自動判別ができれば、複数言語が混在する文章でも、一気に翻訳ができるし、それでこそ、マルチリンガルを名乗るにふさわしいソフトになるだろう。

 ソフトウェアスイートとして、必要なものは、一通り揃っている、いい製品ではあるが、少し厳しい言い方をすると、ユーザーインターフェイスの点で、すごく損をしているようにも感じる。また、せっかくの優れた翻訳エンジンを活かすための工夫の点でも、もう少しがんばれたのではないかと思う。

 たとえば、まるでかな漢字変換のように変換結果が得られるようにIME形式でこの翻訳エンジンを使えるようになっていれば、タイピング翻訳ユーティリティを使わなくても、インスタントメッセージングや、筆談ができそうだし、また、ごみ箱ならぬ「翻訳箱」のようなアイコンを用意しておき、そこにテキストデータをドロップすれば、翻訳結果がクリップボードに入るとか、ドロップ元のテキストが結果に置き換わるといった、見ていて楽しい演出があってもよかったかもしれない。

 機能が豊富で、とても短期間の試用では、その全貌をつかむのが難しいし、今回は、翻訳ソフトを通訳ソフトのように使ってみるなど、ちょっと無理もあったかもしれない。でも、こうしたジャンルのソフトには、ぜひ、がんばってもらいたい。きっと、モバイルPCをスタンドアロンで使うユーセージモデルにおける重要な役割を担うだろう。

 これらは、処理性能の高いPCというプラットフォームでこそ生きるアプリケーションであり、一般的なユーザーが知らないところに備わっている、Windowsの多国語IMEや多言語表示能力の一環を実感させてくれるだろう。自分のPCで当たり前のように中国語やハングルを入力できることを知っているユーザーは、そんなに多くはないはずだ。

 PCやWindowsには、ユーザーの知らない機能が、たくさん眠っていて、使われる機会を待っている。そして、それに気づいたユーザーだけが、自分がPCのために費やしたコスト以上の恩恵を手に入れる。

 PCにできることは、まだまだたくさんある。その潜在的な能力を引き出すためにも、アプリケーションのベンダーには、もっとがんばってほしい。ネットブックのようなPCを外に持ち出す動機とモチベーションをユーザーに与えるのはこうしたソフトウェアのソリューションだ。Windows 7の新たなAPIを生かせば、PCの可能性はもっともっと広がるはずだ。

 PCの進化を止めてはならない。ハードウェアとソフトウェア、そしてOSが緻密に連携し、新たなステージを創出してほしいものだ。