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世界最軽量634gノートの量産を担う島根富士通「ムサシの故郷」。復活を遂げたLIFEBOOK UHシリーズ【後編】

 出雲では旧暦10月を指す「神無月」が「神在月」となる。全国の村々里々にお鎮りの神々が年次会議のために出雲大社に集うからだ。その出雲の地であの「ムサシ」の量産が始まった。出雲大社のある島根県出雲市の神名火山といわれる仏経山のふもとの丘陵地帯にある島根富士通の工場ラインである。

 今回は、そのラインで生まれる世界最軽量634gのムサシ復活を目撃してきた。

世界最軽量ムサシを量産する島根富士通工場とは

 島根富士通は1989年暮れに設立された。翌年の1990年から富士通初のPCの専門工場として創業を開始、出雲は仏経山のふもと、いわゆるひかわ神守の里がある地域においてPCの製造を担い、現在はFCCLの完全子会社としてFMVシリーズの製造を担う。

 2023年度末で、創業以来4,920万台の製造を突破、そして、この第3四半期にもPCの累計出荷台数が5,000万台に達する予定だ。

 1日に約1万台を生産可能な規模で、品質は行程で作り込むことをモットーに、人と機械の協調生産に取り組む。2階建ての建屋が2棟あり、21のラインでプリント基板から一貫して製造を担うことができる。

 島根富士通代表取締役社長の神門明氏によれば、この工場はデジタルなものづくりだけではなく、TPS(トヨタ生産方式)をベースとした現場改善をもくろんでいるという。人材育成については就業時間の5%を教育にあて、技術、品質改善、語学がそこにあてられる。

島根富士通代表取締役社長の神門明氏

 2005年当時40人だった1ラインは今16人で構成されている。最終的には完全自動化を視野に入れている。2000年が最盛期で、年間約240万台を作っていた大規模工場だ。

 1990年の操業開始から30周年目の節目となった2020年にNEXT30として、現場力、技術力、想像力、そしてこれに変動力、逆境力を追求する取り組みをスタートした。それを機に新たな領域にも挑戦したいとする。

 スマートファクトリーの構想で、データベースを活用した新たなAGV(Automated Guided Vehicle)やロボティックスに加え、プリント版の完全自動化などを目指している。現在、SMT(Surface Mount Technology、表面実装技術)各ラインに5台の検査機を設置し、後ろの工程に不良品を流さない取り組みを目指す。

 工場内のいたるところをAGVが走行する。床面に貼られた磁気テープに指示が記録されている。その指示を認識して走行する無人搬送車だ。現在、6タイプのAGV32台が構内を走っている。

 同社は自治体、地域との共生も目指し、ふるさと納税用の返礼品を12モデル提供している。ちなみに同社がある出雲市のふるさと納税の約半分が島根富士通経由となっているそうだ。また、エキスパートサービスとして、しまね産業振興財団と連携し、県内企業の改善サポートにも取り組んでいる。

 2030年に向けたものづくり構想もなんとかかたちになってきたと神門氏。だからこそ2020年にスタートしたNEXT30のコンセプトをいちはやく具現化したいという。そのためにも、現場力や技術力を底上げしていきたいそうだ。それが強みとなり、新しい時代の工場の進化につながる。

 自動化の流れの中で、人の作業をどうするかは、R&Dと一緒に考えていく必要がある。もちろん市場の変化も考慮しなければならない。国内の事業においても変種変量が当たり前になり、第1四半期では想定されていなかったものが第2四半期には出てくるといった変化にどう対応していくかも重要だ。KPIとしては、2020年を起点にした10年間で品質を1/4、コスト1/2、物流を1/6にすることを目指す。

島根富士通が今後の10年間で目指すKPI

 同社が考えているのは、どこまでをロボットに学習してもらうかだ。最終的に無人工場になるとしても、完全にピッキングを自動化するのか、そうでないのか。点で設備を入れても線でつなぐことができるかどうかなど、現時点では迷いもたくさんある。

 改善が進んでいないところで自動化するのは避けたいとも考える。機械は入れたあとのおもりに手間がかかるからだ。そんな先進性を持つ工場のラインで製造されているのが世界最軽量のムサシとして復活した634gの14型モバイルノートPC「LIFEBOOK WU5/J3」だ。

 さっそくそのラインをのぞいてみよう。島根富士通の植木正浩氏(生産技術統括部 統括部長代理)に解説してもらった。

1つのラインは約16人で構成される。この日は研修人材も割り当てられ少し人数が多い
CADデータをもとに組立手順がアニメーションで確認できる。担当者はほぼ半日で自分の担当エリアでの手順を身につけるという
ラインの中でトラブルが起きた場合には手元のボタンを押す。液晶画面で16番の箇所にトラブル発生が示される。巡回中のリーダーがそれを見つけて現場に駆けつけヘルプする
UHシリーズのキーボード面が裏返っている。マザーボードとなるプリント基板も見える
いったんはマグネシウム合金になったキーボード面はマグネシウムリチウム合金に戻った
スライドパッド部品の貼り付けもこの段階で
メイン基板を取り付け、ヒートパイプや保護シートのサイズが見直されている
薄くなったIGZO液晶の取り扱いには細心の注意が必要。専用の治具が用意されて慎重に扱われる
IGZO液晶ユニット
2230サイズの1TB SSDの搭載モデルだけがムサシとなる。取り付けのためのアタッチメント部品を入れて3.67gで4.36gの減量に貢献
バッテリも取り付けた
底面も取り付ける
すでにバッテリ駆動でPCとして機能するのでLAN経由で評価用ソフトウェアをダウンロードしてセルフテスト
用意された各社のステッカーテープ
ロボットが自動的にシールを定位置に貼り付ける
これで完璧
できあがったら2時間程度かけてエージング
最後に箱詰め
任意の1台を抜き取り試しに計量してみたところ、なんと624.4gだった。634よりも10g弱軽い。多少のばらつきはあるにせよ、この重量は過去のムサシを含めてトップクラスで軽量だという。ほしい……

 ラインを解説してくれた島根富士通の植木正浩氏(生産技術統括部統括部長)は、新ムサシの量産ラインは、作業時間70秒に設定されたポイントが16個あると説明する。各ポイントを基本的には1人が担当する。したがって先頭から末尾までは70秒×16で1,120秒(18分40秒)になる。

 ただ、ライン上の各ポイントでは1人が3台分を併行作業で仕上げて次のポイントに渡すので、実際には70秒×3台×16ポイントとなる。合計3,360秒(56分)だ。匠の技そのものだ。さらに、電源を入れて稼働させてのテストがライン内に2時間分ある。

 そのスピードで新ムサシは量産されていく。