山田祥平のRe:config.sys
自然なものなど存在しない。ただ慣れ親しんでいるだけ
2022年12月24日 07:17
「自然なものなど存在しない。ただ慣れ親しんでいるだけ」というのは、マウスの発明者として知られる故・ダグラス・エンゲルバート博士(2013年没)の言葉だ。すでに30年以上、毎日のようにマウスを使ってきたが、自分自身、本当に今、マウスに慣れ親しむことができているのだろうか。
消えたマウスポインターにイライラ
自宅の仕事場ではデスクトップPCに4台のモニターをつないで使っている。そのうち1台はフルHDのもので、日常的にはオフにしてあって、猫の手も借りたいときだけオンにする。残りの3台は4Kモニターで、うち1台はオフの時間の方が長く、オンにするのはまれだ。基本的には42.5型を125%拡大、27型を175%拡大のスケーリングで2台のモニターを使って作業している。
モニターの台数が増えるとやっかいなのは、ポインタの位置を見失いやすくなることだ。ここがものすごくストレスのたまるところで、遊びにしても仕事にしても、使っていてイライラする。たまにモバイルモニターを接続するようなカジュアルな使い方では余計にそう感じるのではないだろうか。
Windows 11の最新アップデート22H2では「ディスプレイ間でカーソルを簡単に移動させる」(設定-システム-ディスプレイ-マルチディスプレイ)という機能が追加され、ディスプレイの位置関係で突き当たりになっていたところでも隣のディスプレイにマウスカーソルが突き抜けて移動するようになった。これはとても助かる。
具体的にはこうだ。サイズや解像度の異なるモニターが画面の下揃えで横に2台並んでいたとしよう。以前のWindowsでは、大きい方のモニター上部で横方向にカーソルを移動させようとすると画面端に突き当たって隣のモニターに移動することはなかった。だが、22H2では移動するようになったのだ。だから、なんとなくヤマ勘でマウスを操作しても、思った方向にマウスカーソルが移動し、その結果、多少はカーソルを見つけやすくなった。地味な機能追加ではあるが素晴らしい。もちろんその機能のオン/オフも切り替えられる。
偉大なるPowerToys
Windowsでは、マウスポインタを見失わないようにするための機能として、いくつかの機能が用意されている。すぐに思いつくのは、マウスポインタのスタイルやサイズを変えることだ。巨大なマウスポインタにしたり、色を変えたりといったことで見失いにくくする。ただ、これは常時なのでうっとおしさを感じることもある。
また、クラシックな設定では、ポインタの軌跡を表示したり、Ctrlキーを押したときにポインターの位置を大きな○で強調表示するといった機能も用意されている。
さらに、Microsoft純正ユーティリティ「PowerToys」でも「マウスユーティリティ」が提供されている。このユーティリティで「マウスの検索」をオンにしておくと、左Ctrlキーを2回押すか、マウスをシェイクすると、モニター全面が暗転し、ポインタ位置にスポットライトが当たったような表示になる。スポットライトの色や半径、暗転の透明度など細かくカスタマイズもできる。
個人的には、これらの機能を組み合わせて駆使し、Ctrlキーの1度押しで強調、2度押しでスポットライト表示になるようにしてある。Ctrlキーの打鍵は、いろいろな場面で発生するが、これらの機能は「押して離した」時に作動する。だから押しっぱなしでは作動しないので、各種のショートカットキーを使うときにもわずらわしい現象は起こらない。
このように、いろいろと手厚い探索方法が用意されているのは、たぶん、よほど多くのユーザーが行方不明になったマウスポインターを探すのに苦労しているからなのだろう。
マウスといいキーボードといいPowerToysはWindowsに欠かせない。個人的にはこれがなければ作業効率は3割下がる。
気持ちよくPCを使いたい
マウスポインタの位置を見失うのと同時に、時折、マウスポインタが不審な挙動をすることがある。まるでマウス底面にボールがあった時代に、ホコリがたまってポインタが右往左往していたときのようなイメージ……といっても理解してもらえないか。とにかく、マウスを動かしてもポインタがうまく追随しない現象に遭遇することがある。
古いマウスは、白いテーブルやガラスのテーブルが苦手でこうしたことがよくあった。カフェや出張先のホテルなど、出先での作業では困ることもある。出張用のスーツケースにはマウスパッドが入っているが、さすがに、毎日の外出には持ち出さない。だからいろいろ困ることもある。ただ、自宅ならマウスパッド/デスクパッドなどを工夫し、マウスにも手首にも優しい環境を作れる。このあたりは、きちんと対処しておいたほうが気持ちよくPCを使える。
どっちにしても、部屋の中にはBluetoothや古いWi-Fiなど2.4GHzの周波数帯の電波が飛び交っている。独自の通信方式を使うワイヤレスマウスも、そのほとんどが2.4GHz帯だ。だから干渉も起こりやすい。
特に、マウスはデータをバッファしてごまかすことができない。マウス本体のリアルな動きが遅延なく画面上のカーソルの動きにならないと大きなストレスがたまる。手元の環境では、机の下のデスクトップPCの背面にあるUSBポートに取り付けたレシーバではぎこちなかったマウスカーソルの動きが、PCの上面USBポートにレシーバを差し替えたら動きが安定したといった経験もある。
行くマウス、来るマウス
ロジクールは、ワイヤレステクノロジーをこれまでのUnifyingから、Logi Boltと呼ばれる方式に移行させるプロセスの真っ最中だ。既存製品のワイヤレス方式を順次置き換えていくのと同時に、新製品のマウスはすべてLogi Boltとなる。
直近でも、「M750 SIGNATUREワイヤレスマウス」や「M550 SIGNATUREワイヤレスマウス」、「M650 SIGNATUREワイヤレスマウス」などの製品が発売されているが、これらもすべてがLogi Boltだ。
Logi Boltには、輻輳を抑止する機構が実装されていて、Wi-Fiアクセスポイントや周辺のワイヤレスデバイスで混雑した環境でも高い接続性を保つようになったという。実際に使ってみても、安定性は以前のUnifyingよりも高まっているように感じる。マウスを使ってストレスを感じないという点ではうれしい仕様変更だ。ロジクールのマウス新製品は、ワイヤレスの接続性が高まったことで、使用時のストレスが減少した。
さらには、以前のようにレシーバをマウス内部に格納できるようになったこと、そして、充電式のバッテリではなく単3形乾電池を使うようになっているのが目にとまる。
これによって、携行時にレシーバをなくしにくくなったこと、そして、充電式バッテリの寿命でマウスの寿命が決まらなくなったというメリットが得られる。ただ、乾電池では、電池切れに遭遇した時に、サッと充電して使うといったことができないのが困るという主張もあるかもしれない。だからといって2年に1度のその瞬間のために予備電池を持ち歩くというのもどうか。
マウスごときと思うかもしれないが、ちょっとした工夫で、使いやすさはまだ高まる。自然ではないからと敬遠している方にも、ぜひ慣れ親しんでほしい。年末年始、そういうことをちょっと考える時間をとってみるのも悪くない。
もっとも、敬遠の理由は、あらゆるシーンでマウスが必要になると、外出時の荷物がまた1つ増えることかもしれない。オフィスや自宅ではマウス、外出先ではタッチパッドと、同じ作業に別の操作を強いられることを嫌っての敬遠ばかりはどうしようもない。そこがやっかいなところだ。