AliExpressの迷い方

欠陥だらけの電子負荷が、じつは最強のクーラー評価機だった

Orochiを装着したDL24

 筆者はCPUクーラーが好きだ。とくに自作用のものは機能と意匠が追及されていて美しいと思っている。

 そしてクーラーは奥が深い。気温、放出する熱量、ファンの騒音などと変数が多すぎるため性能の評価がとても難しく、異なるクーラーを同じ土台で評価するにはなるべく多くの要素を一定にする必要がある。

 気温は評価指数を「CPUの温度」ではなく「CPUと気温との差」にすることで、検証中の気温差を抹消できる。ファンは一定の騒音レベルになるように調整、または一定のPWMで固定することでフェアに評価できる。

 しかし問題は放出する熱量(≒消費電力)で、よくある「同じ負荷プログラムを走らせる」という手法では、かなりばらつきが生まれる。ベンチマーク中にHWInfoなどのモニタリングソフトを見たことがあれば気付いているだろうが、自動ブースト(Turbo BoostやPrecision Boostなど)のかかり具合や温度によるスロットリングや、ベンチマークの内容によってベンチマーク中に結構変動する。

 そこで科学的な検証を行なうためには、CPUを疑似熱源に置き換えるのだが、最近偶然その役割に最適な電子負荷装置を見つけたので報告しよう。

DL24という電子負荷装置

 電子負荷装置とは、任意の抵抗を設定して、接続された電源から任意の電流および電力を食らう装置だ。それを電子制御により、人間の手で可変抵抗器を回すだけでは実現できない精度で抵抗を設定できるので、たとえば電池の容量テストを行なうさいに「電池が消費されて電圧が落ち続ける中、つねに一定の電流を引き出してログを取る」といったことが可能だ。

 最近、仕事で電子負荷を使う用事があったので探し回っていたのだが、デジタル制御できてログが取れるものだと3~4万円からと高価。数千円クラスのものはアナログで負荷を設定できるが、制御はできないものばかりだ。

 世の中、数千円でホビーで使えるオシロスコープなど登場しているので、AliExpressを深く探っていたら、「DL24」というおもしろい電子負荷装置を見つけた。ノーマルの「DL24」と「DL24P」は、それぞれ150W/180Wの電子制御とログ取得機能があり、パソコンとの通信機能もある。

 180W版は約5,000円と破格だが、筆者の目に留まったのは2,300円のクーラーなし版だ。クーラーなし版は、ほとんどのLGA115x向けのクーラーが使えるようにマウンティング穴が切られており、巷に溢れている115x用クーラーを現地調達することで、送料を浮かせられるという算段だ。

 筆者は、もちろん115x用クーラーをいくつも持っているので、クーラーなし版を購入したのだが、同時にこれが115x用クーラーに、正確に制御された一定の熱を流す装置であることに気付いてしまったのだった。

 今回は送料無料を選択したので、いつものように3週間程度で到着した。クーラー検証機として使う前に、まずは本来の電子負荷装置として紹介しよう。

DL24クーラーなし版の全貌

DL24の使い方

 DL24は本来電池や電源、モバイルバッテリの負荷テストに使われることを想定した製品だ。左下に各種USB、バレルコネクタ、ターミナルブロックといった入力端子と、温度センサー用のコネクタがある。モバイルバッテリを検証する場合は、直接USBに接続、電源をテストする場合はバレルコネクタか、受けの端子をターミナルブロックに取り付ける、といった使い方だ。

MolexコネクタをつければPC電源の5Vや12Vレールを負荷テストできる

 右下に操作用のボタン、中央にLCDがあり、ボタンでの操作は直観的だ。CC, CV, CP, CR(電流、電圧、電力、抵抗のいずれかをターゲットとし、そうなるように抵抗値を制御する)の4つのモードから選択し、ターゲットとする値をセットして、STARTするだけだ。

 ボタンの上にはパソコンとのシリアル通信を行なうためのMicro USB端子と、Bluetoothモジュールがある。DL24は、専用のアプリを使えばBluetooth通信でスマホで監視、ログ取りができるが、技適マークがないため日本国内でこの機能は使えない。むしろ、電源を入れるとBluetooth電波が発信されてしまうので、筆者は電源を入れる前にBluetoothモジュールへ給電しているPCB線をカッターで切ることにした。

日本国内で使う場合Bluetooth ICを破壊するか、給電しないように線をカットしよう

 Bluetoothモジュールの右上にあるのがキャリブレーション用のバレルコネクタだが、筆者はキャリブレーションを行なうほど正確な測定器がないので、工場設定を信じるとする。基板上部にはファンコネクタと3つ目のバレルコネクタがあり、これがDL24の電源入力になる。ちなみに付属の12V電源アダプタはPSEマークがないので、どこかからサルベージした12V電源アダプタを使う方が安全だ。

 最後に、基板の中心に可変抵抗器の役割を担うMOSFETと、左隣に逆流保護ダイオードがあり、MOSFETを中心にLGA115x用の4つの穴も確認できる。肝心のMOSFETだが、International Rectifier(現Infinion)製の「IRFP260」が採用されていて、最大200V/ 50A/300Wに対応する。DL24は、ファームウェアの設定と付属するクーラーで180Wに制限されているが、電子設計上は300W近くまで放電できそうだ。

 筆者は、動作確認としてとりあえずサイズの「KATANA5」を装着して、単3形の充電電池、エネループの容量テストを行なった。

KATANA5を取り付けたDL24

 電池の類は、一定の電流で放電した場合の容量が仕様として表示されるため、ここはCCモードを使い、400mAの電流を放電する設定でテストを開始し、USBに接続したパソコンでデータを記録した。単3形電池の放電なので、たかが0.5W以下であり、KATANA5は暖かくもならず、ファンも回転しなかった。

欠陥だらけのソフトウェア

 出力されたTXTデータをExcelでグラフにすると、パナソニックのデータシートに似た傾向を確認できるが、すでにおかしいと気付いた読者も多いだろう。

左:パナソニックのデータシートよりエネループの放電カーブ、右:DL24用PCソフトからの出力

 このテストでは一応放電も記録ができたが、DL24の問題点も見えてきた。

 まずはソフトの使い勝手だが、グラフの軸の範囲が変えられないのが最大のネック。このメーカーが作るほかの装置にも共通で使えるソフトだからか、軸の範囲がとにかく大きく、表示されるチャートはつねに底を走る状態だ。電波法の関係でAndroidアプリは試していないが、パソコンで使う場合、データを出力して自分でチャートを作るしかないと思う。

 しかし、取り込めるデータも微妙なバグがあり、本体では電圧を小数点以下3桁まで表示できるのに、ソフトでは1桁のみになっている。電流はきちんと3桁表示できているので、単なるプログラマーのミスだろう。残念なことに、TXTデータ出力をするさいにも、電流だけが小数点以下1桁なので、上のグラフは本来もっとスムーズなのに、階段状になってしまっている。

 さらに、出力されるデータは時間、電圧、電流、電力だけで、肝心な温度データは出力されていない。電力は電圧と電流を掛け算すればいいだけなので、電力ではなく温度データがほしかった。

 最後の問題は、このソフトからは直接設定などを書き込めず、設定を変えたい場合はデバイスの画面を見ながらカーソルを動かして、矢印キーで値を変えなければいけない点。設定変更も実際にデバイスについているボタンを押した方が早いので、このソフトは痒いところには全く手が届かず、TXTデータ出力以外、何も意味のない代物だった。

DL24用PCソフト

謳い文句にある超高負荷は厳禁

 DL24のハードウェアはというと、こちらも問題点が多い。

 まず、さまざまな入力コネクタが有るのは便利なのだが、4線計測ができない。そのため電源/電池から、計測器までの配線によるロスが測れない。これは電流が大きくなるとかなり大きな誤差になる。

 ただ、筆者がこの記事を書きはじめた頃に、DL24の4線計測対応版がAliExpressに出現したので、メーカーも要望に耳を傾けたのだろう。

 次に、DL24の定格レーティングは最大200V/最大20A、組み合わせて最大150/180Wになっているが、ここにも問題がある。DL24の入力にあるバレルコネクタやUSBコネクタなどは、すべて繋がっているのだ。つまり1つのコネクタに電圧を掛けた場合、すべてのコネクタにその電位差が生じてしまう。

 USBコネクタには具体的なレーティングはないが、USB Type-Cのピンピッチは0.5mmなので、IPCのガイドラインでは安全に掛けられる電圧は30Vまでだ。DL24の基板には「36V以上掛ける場合は注意!」なんて書いているが、注意どころか明らかに危険な行為である。間違ってもこの基板には絶対に200Vを掛けてはいけない。

 なお4線版のDL24ではUSBコネクタを取り外せるので、ターミナルに直接取り付ければ100Vまでは耐えられるだろう。

改良版DL24

 ちなみにAliExpressのページでは「CAN DIY 1000W」なんて堂々と書いてあるが、IRFP260は300Wまでなので、1,000Wの負荷をかける場合、MOSFETを交換しなければならない。同パッケージで1,000W放出可能なMOSFETは存在するが、恐ろしい電力密度になるため、絶対にやめておこう。

 通常、ハイパワー基板は電流の多いトレースを太くするだけではなく、半田マスクにわざと空き模様を入れ、トレースに半田を盛ることで厚みを稼ぎ、電流量を増やすのだが、そういう工夫は一切されていない。おそらくMOSFETに1,000Wが届く前に、基板の銅箔が焼けて吹っ飛ぶのではないだろうか。

DL24でクーラー検証

 電子負荷装置としては欠陥があるものの、まあまあ使えるDL24。クーラー検証用の放熱器として使うには、いくつかマイナーな改造が必要だ。

 まずは、熱源となる電源を取り付けなければいけない。余っているパソコン用の電源があれば、MOLEXコネクタから12Vを取れば良いだろう。MOLEXコネクタ1個が11Aの電流に対応しているので、少なくとも100Wの電力を安全に入れられる。

 次はMOSFETのかたちの問題だ。近年のCPU用クーラーはIHSに乗る前提で作られているため、IHSより面積の小さいMOSFETに直接乗せると、本来の性能を発揮できない。たとえばヒートパイプが直接IHSと接触するタイプのクーラーをMOSFETに乗せた場合、大きさの違いで、接触しないヒートパイプが生じる。水冷ブロックもマイクロチャネルの場所がIHSいっぱいカバーできるように調整されているはずだ。

 解決策としては、誰もが持っているであろう「練習用に殻割したCeleron」のIHSをMOSFETに乗せてしまえば良い(編集部注:誰もが持っているわけではないとは思うが……)。元々DL24のMOSFETはCPUソケット+CPUより厚みが低いので、厚み不足による圧力不足も解消できる。

 最後に温度センサーが必要になるが、幸いDL24には自由に配置できるサーミスタが付属するので、それをMOSFETの側面にエポキシでつける。温度はDL24本体上で確認できるようになるが、先述のとおり、DL24のパソコン用ソフトはこの温度をログできないとても残念な仕様なので、ほかの温度センサーおよびロガーをお持ちの方はそれを使うといいかもしれない。

余っているIHSで疑似CPUを作る

実際に検証してみる

 クーラーの検証をするには、クーラーを取り付けて、CPモードで一定の電力をMOSFETに流し(それがすべて熱に変換される)、温度を見るだけだ。DL24を使えば正確に、たとえば「35Wの放熱に対して何度まで冷やせるか」という検証を簡単にできるので、これを機にいくつかのクーラーを評価してみよう。

CP(Constant Power)モードで35Wに設定した状態。Ex. Temp がMOSFETにつけたサーミスタの温度だ

 今回評価する3つは

  • “まともな空冷クーラー”代表「サイズ KATANA 5」
  • “小型簡易水冷”代表「CoolerMaster MasterLiquid 120 Lite」
  • “ファンレスのロマン”代表「サイズOrochi Rev B.」

 検証する放熱量は35W、65W、95Wという普遍的なCPUのTDPで、ファンとポンプは12Vで100%、Orochiはファンレスで行なう。

MasterLiquidを装着したDL24

 なお、クーラーの性能を横並びに比較するために、クーラーを取り替えるたびに室温を測り、室温(約11度)に対する上昇をグラフ化している。

 結果はKATANA 5とMasterLiquid Liteが接戦、ファンレスのOrochi Rev Bが65Wまでなら辛うじて使えるというかたちとなった。結果についてもっと語りたいところだが、記事の趣旨からずれてしまうので今回は我慢しよう。

 DL24は、電子負荷装置としてはおすすめしがたいが、このように簡単に、かつ科学的にCPUクーラーの検証に使える製品だ。メーカーのATORCHには今後、ぜひとも商品の改善を期待したい。