TECHXNY/PC EXPOレポート

Intelが低消費電力CPUで反撃開始!
~Compaqが超低電圧版モバイルPentium III-M搭載ノートPCの今秋リリースを発表

Compaqが発表したEvo Notebook N200(詳細レポートは後ほど)。1.35kg級のサブノートで、10.4インチの液晶ディスプレイ、超低電圧版モバイルPentium III-Mを採用

会期:6月25~28日

会場:Jacob Javits Center



 昨年のPC EXPOでもっとも話題を呼んだ展示と言えば、なんといってもTransmetaのCrusoeだろう。昨年、Transmetaは自社のブースでCrusoeを搭載したNEC、日立製作所、IBMのノートパソコンを展示し、大きな話題を集めた。その後、ソニー、富士通、NEC、日立製作所、東芝などから相次いでCrusoeを搭載したノートパソコンが発売され、日本のサブノート・ミニノート市場で確固たる地位を確立した。それに対して、Intelも平均消費電力が1W以下を実現する超低電圧版モバイルPentium IIIを投入して、IBM、松下電器、シャープなどから搭載サブノートが発売されるなど、低消費電力CPUを巡る戦いはヒートアップする一方と言える。

 そうした中で今年のPC EXPOの初日にはTransmetaが0.13μmプロセスのTM5800/5500をアナウンスしていたため、今年も低消費電力CPUではTransmetaが話題独占か、と思われていた。しかし、6月27日の午後、IntelとCompaqが記者会見を開催し、低電圧版モバイルPentium IIIプロセッサ-Mを搭載したノートパソコンを今秋にも出荷することを明らかにした。


●Compaqが今秋に超低電圧版モバイルPentium III-Mを搭載したサブノートパソコンを投入へ

 今回明らかにされたのは、Compaqが今年の秋に「Evo Notebook N200」と呼ばれる超低電圧版モバイルPentium IIIプロセッサ-M(以下超低電圧版モバイルPentium III-M)を搭載したノートパソコンをリリースするというものだ。既にIntelは一昨日に0.13μm製造プロセスのモバイルPentium IIIプロセッサ-Mの投入を明らかにしていた。

 本日行なわれたIntelの上級副社長であるマイク・スプリンター氏の基調講演では、サブノートやミニノート向けである低電圧版(LV)や超低電圧版(ULV)のバージョンについては、A4フルサイズ用に比べて1~2カ月遅れで投入されることもあり、今回は正式にアナウンスされないものだと思われていた。

Intelの副社長兼モバイルプラットフォームグループジェネラルマネージャのフランク・スピンドラー氏

 しかし、今回IntelはCompaqとの共同記者会見という形で、超低電圧版モバイルPentium III-Mの存在を公式に明らかにした。Intelのフランク・スピンドラー副社長(モバイルプラットフォームグループジェネラルマネージャ)は「Intelの低消費電力向けCPUに対する戦略は非常にクリアーだ。それはベストなパフォーマンスと低消費電力の高度なバランスがとれた製品を各セグメントに投入していくというものだ」と述べ、CPUの処理能力をできるだけ損なわないで、低消費電力を実現することこそ重要だと、Intelの低消費電力向けCPUに対する基本姿勢を改めて強調した。

 その上で、「製造プロセスルールを0.13μmに微細化することにより、トランジスタのサイズが小さくなり、消費電力を下げることができ、かつクロックを上げることが可能になる。今年の後半に投入する0.13μmプロセスの低電圧版、超低電圧版モバイルPentium III-Mにより、低消費電力でありながら高い処理能力を提供することができるようになる」と述べた。


●7Wの最大消費電力量は維持する低電圧版モバイルPentium III-M

 それでは、今回技術発表された超低電圧版モバイルPentium III-MとはいったいどのようなCPUなのだろうか? 今回Intel(そしてCompaq)は動作クロックを明らかにはしていない。ただ、実際に筆者が展示されていたマシンで確認したところ700MHzと表示されていた。

 また、電圧・TDPの値などはどうなるのだろうか? 現在の超低電圧版モバイルPentium IIIでは、TDP(最大時の消費電力)が7Wに設定されている。以前、超低電圧版モバイルPentium IIIの計画が明らかになったとき、Intelのドナルド・マクドナルド氏(モバイルプロットフォームグループマーケティングディレクタ)は「7Wはファンレスのミニノートやサブノートを作るには限界の値」としている。気になるのは今回もこれが維持されているかだろう。

 現在の超低電圧版モバイルPentium III 600MHzでも、最大消費電力は6.4Wとなっており、このラインは守られている。この点についてマクドナルド氏は「今回の超低電圧版モバイルPentium III-Mでも、現行の超低電圧版の1.1V~0.975Vで動作というレベルは維持し、最大消費電力は7W以下に抑えられている」と述べ、さらに「今後リリースされる超低電圧版のTualatinでも、7Wのラインは守られる」と述べている。つまり、Intelとしては、OEMメーカーに対して7Wというラインを維持すると約束しており、それは守っていく必要があるというわけだ。

 OEMメーカー筋からの情報でもIntelのこの姿勢は明らかだ。Intelは第3四半期中に超低電圧版モバイルPentium III 700MHzをリリースし、2002年の第1四半期には750MHzをリリースする。さらに、TualatinベースのCeleronも2002年の第1四半期に600MHzを超えるクロックでリリースし、L2キャッシュは現行の倍の256KBに増量される。いずれもTualatinをベースにしたもので、いずれもTDPはぎりぎり7Wになっている。

【超低電圧版モバイルPentium III-Mロードマップ】
 3Q/014Q/011Q/022Q/02
パフォーマンスPentium III 600MHz(ULV)Pentium III-M 700MHz(ULV)Pentium III-M 750MHz(ULV)Pentium III-M 750MHz(ULV)
バリューCeleron 600MHz(ULV)Celeron 600MHz(ULV)Celeron 600MHz以上(Tualatin)Celeron 650MHz以上(Tualatin)

【TDPの値】
 通常クロック(TDP)下限クロック(平均消費電力)
Pentium III-M 700MHz(ULV)700MHz/1.1V(7.0W)300MHz(0.95V/0.5w以下)
Pentium III-M 750MHz(ULV)750MHz/1.1V(7.0W)350MHz(0.95V/0.5W以下)

 通常クロック時にIMVP II(Intel Mobile Voltage Positioning II)と呼ばれる、CPUがアイドル時にある場合に、DeeperSleeperモード(CPUが動作できる限界値よりも電圧を落として省電力にする技術)に瞬時に突入させ、CPUが演算を始めた時には瞬時に通常時に戻すという技術とともに利用すればわずか3W前後にTDPの値が落ちることになるという。モバイルPentium III-Mでは、SpeedStep技術が拡大され、バッテリ動作時であってもCPUのクロック・電圧は上のクロックになることもありうる(「Intelが0.13μmプロセスのモバイルPentium III-Mや搭載ノートパソコンを世界初公開」( http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010626/pcexpo1.htm )参照)ので、これは非常に重要な改良であると言える。

 このように、今回の超低電圧版モバイルPentium III-Mは単なるクロックのアップグレードだけではない。Compaqの資料によれば、今回発表されたEvo Notebook N200に採用されている超低電圧版モバイルPentium III-MのL2キャッシュの容量は512KBとなっている。このため、パフォーマンス面で同クロックの現行モバイルPentium IIIを大きく上回る可能性を秘めていると言えるだろう。さらに、DeeperSleep、新しいSpeedStepテクノロジによる省電力、これまで以上の高クロックなどにより魅力的な製品になりそうだ。

【判明したモバイルPentium III-Mプロセッサの概要】
※IDFの資料、今回発表された内容などから筆者が作成
システムバス100/133MHz
L1キャッシュ容量32KB(命令16KB+データ16KB)
L2キャッシュ容量512KB
パッケージμFCPGA (478ピン)とμFCBGA (479ピン)、35平方mm
CPUソケットμPGA479M
省電力機能IMVP II(DeeperSleepモードの追加)、拡張版SpeedStepテクノロジ


●迎え撃つTransmetaのチャップマン氏は「市場が活性化するのはよいこと」と余裕の構え

Librettoを前にご機嫌のTransmeta セールス・マーケティング担当上級副社長 ジム・チャップマン氏

 さて、Intelが大々的に超低電圧版モバイルPentium III-Mを技術発表したことにより、迎え撃つ側となったTransmetaだが、「市場にさまざまなプレイヤーが参入して市場が活性化するのは大歓迎だ。Intelがどんどん製品を投入することは、我々の方向性が正しかったことの証明である」(Transmeta セールス・マーケティング担当上級副社長 ジム・チャップマン氏)と比較的余裕の構えだ。

 「このマシンが計画されていたという噂は知っていた。おそらく、台湾のQuantaあたりがやっているのだと思う(筆者注:ちなみにQuantaはIBMのThinkPad i Series s30も製造している)」(チャップマン氏)と、特に衝撃はないようだ。「なぜなら、このCPUは別に驚きでもなんでもない。彼らは1.13GHzを既に実現しているが、このCPUはおそらく700MHzにすぎないだろう。つまり、本来の性能を発揮している訳でなく、単に電圧を下げることにより実現しているCPUだからだ。また、Intelはチップセットの面で大きな問題を抱えている。CrusoeがノースブリッジをCPUに統合したり、DDR SDRAMを統合したりとアドバンテージを持っているのに対して、Tualatinはそうではない」と、技術的にTualatinは特に驚くべきものではないと続ける。

 「また、このCPUは大量出荷されているものではないだろう。これに対して、我々のCrusoeは顧客が望んだ分だけ出荷することができるし、値段の観点でも競争力のある価格を提示できていると自信を持っている」と述べ、技術の観点から、そして出荷量・価格などからCrusoeのほうがアドバンテージがあると強調した。

 チャップマン氏の言うことも一理ある。Crusoeを採用している日本メーカーに話を聞くと、「超低電圧版モバイルPentium IIIは何よりも価格が高い」という意見を聞くことがよくある。実際のところ超低電圧版モバイルPentium IIIは、同クロックのレギュラー版モバイルPentium IIIに比べて高価格に設定されており、搭載されているマシンが20万円を超えるシステムにばかりなっていることからもそれを伺うことができるだろう(それに対してCrusoeを搭載したマシンは10万円台の比較的安価なマシンがほとんどだ)。また、チャップマン氏も指摘しているように、本製品は通常であれば、1.13GHzで出荷すべきCPUを700MHzまでクロックを落とすことで出荷しているCPUであり、Intelにしてみれば1.13GHzで売れるものを700MHzで売らなければいけないわけで、おいそれと値段を下げることができないCPUであるのも事実だ。

 なお、「既にIntelはCompaqの実際に動作するデモ機を見せていましたよ」(筆者注:今回TransmetaはTM5800を搭載した動作する実機は展示していなかった、展示されていたのはすべてTM5600/5400ベースのシステムで、基板レベルのみの展示だった)と質問を向けると「確かに今回のショーでは実機は展示していないが、当社のファクトリーでは既にTM5800/5500を搭載したシステムが動作している。既に顧客がデザインに入っている段階で、8月か9月には実際の製品として市場に投入されるだろう」と、0.13μmのCrusoeを搭載した製品のスケジュールがIntelに遅れることはないという強気の見通しを明らかにした。


●秋には超低電圧版モバイルPentium III-MとTM5800が大激突必死

 このように、Intel、Transmetaの両社が低消費電力のCPUの発表を終えたことで、次の焦点は、いつこれらのCPUを搭載した魅力的なノートパソコンをリリースするかに移ったと言える。今回Compaqがアナウンスを行なったが、今後各社から搭載製品がリリースされることが予想され、より強力なモバイルノートをこの秋には手に入れることができるようになりそうだ。期待したい。

□TECHXNYのホームページ(英文)
http://www.techxny.com/
□関連記事
【6月26日】Intelが0.13μmプロセスのモバイルPentium III-Mや搭載ノートパソコンを世界初公開
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010626/pcexpo1.htm

(2001月6月28日)

[Reported by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]

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