IBM東京基礎研究所、報道向けに研究成果を披露
~自然言語解析など様々な技術をデモ

展示されたWatchPad

8月2日 公開



 日本アイ・ビー・エム(IBM)株式会社は2日、東京基礎研究所(TRL)における取り組みや研究成果を披露する報道向けセミナーを開催した。

 東京基礎研究所は、'70年に前身である東京サイエンティフィックセンターが設立。以来、半導体やエンジニアリングなどいろいろな専門分野における基礎研究を行なってきた。

TRL所長の鷹尾洋一氏

 所長の鷹尾洋一氏はセミナーで、TRLのこれまでの取り組みや、戦略の変遷などを解説した。

 TRLは、設立当初の'70年代は、製品の開発とは独立して独自に研究を行なってきた。しかし、その後約10年おきにその姿勢や取り組み方は変化してきたという。

 特に'90年代に入ってインターネットが普及するにつれ、市場の変化のペースが急激に早くなり、そのペースに追いつくためユーザーや顧客の意見を取り入れた研究を行なうスタイルに変化した。

 鷹尾氏は今後の課題として、「現状のTRLの成長振りには満足でない点がある。この点を補うため、自前主義を捨て、他の企業や研究機関などとの共同研究も積極的に行なっていく」と話した。

 続いて、現在の取り組み内容の例として、「オートノミック コンピューティング」、「Webサービス」、「Accessibility」についての解説が行なわれた。

オートノミック コンピューティングについて解説する日高一義氏

 オートノミック コンピューティングとは自律型コンピュータを意味する。解説にあたった日高一義氏は、ムーアの法則にしたがって成長してきた現在のコンピューティングには、その進歩の延長線上では解決できない問題があると説明。それは、コンピュータの性能が向上する一方で、複雑さが増してきているからだという。

 OS、セキュリティ、アプリケーション、データ、ストレージ、サーバーなど現在のプラットフォームは莫大な種類を数える。それらを組み合わせて利用されるシステムの複雑さは、コンピュータの成長によるメリットを打ち消してなお余りあるコスト増を生んでいるのだという。

 この問題を解決するためにTRLでは、コンピュータ自身が自律的に自己の防衛、最適化、構成、修復を行なうオートノミック コンピュータの研究を行なっている。

 TRLでのオートノミック コンピューティングへの取り組みは、まだ日も浅く、実用的な成果を出すまでには至っていないが、新しい時代のコンピュータとして注目される。

現在のコンピュータは高い処理能力を手に入れた一方で複雑さも格段に増した その問題解決としてTRLが取り組んでいるのがオートノミック コンピューティング

 セミナーの後には、より具体的な研究成果の展示/披露が行なわれた。展示会では、まずホンダ製2足歩行ロボット「ASIMO」が記者らを出迎えた。IBMはASIMOに会話の聞き取り/人工音声機能を埋め込んでおり、オペレーターの会話を聞き取って返事をしたり、手を振ったりするデモが行なわれた。

 同社がシチズンと共同で開発した腕時計型コンピュータ「WatchPad」も展示/デモされていた。WatchPadは腕時計の中にLinuxを組み込んだウェアラブルコンピュータ。

 まだプロトタイプではあるが、320×240ドット液晶モニタのほかに、指紋読み取りやBluetoothによるネットワーク機能、傾き検知機能なども搭載。PIM的な用途のみならず、個人認証機能、無線ネットワーク機能などを組み合わせて、移動ネットワークサービスや医療サービスなど様々な展開に向けた開発を行なっているという。そのほかの展示では自然言語処理に基づいたデモが多く見受けられた。

IBMがカスタマイズしたASIMO。オペレーターの質問を解釈して会話をしたり、手を上げてみせたりした。2つ搭載したマイクにより、発話者の位置を特定できるが、デモではあさっての方向に向くハプニングも。音声認識は特定の個人の音声には限定されず、会場の記者の命令にもきちんと反応した。
腕時計型ウェアラブルコンピュータWatchPad 指紋読み取り機能を内蔵し、個人認証デバイスとしても利用可能 傾き検知機能も内蔵。写真は検知した傾きをPC上でグラフィカルに表示したもの
TRLが開発したテキストマイニング技術は同社のヘルプデスクでもすでに実用化されているもの。単なる単語認識ではなく、類義語や動詞の活用形の判断などから意味解析を行ない、膨大なテキストデータから、トピック、パターン、原因/結果の抽出や、統計的な特徴/傾向の分析が高い精度で行なえるという。デモでは、実際の同社ヘルプデスクのデータに基づく解析が行なわれた。特定の期間のトピック抽出からある時期に「Windows 98」が多いことに着目し(写真左)、Windows 98というキーワードを元に検索を行なう。その中のさらに質問に類するものを抽出すると、Windows 98の導入に関するものが多数を占めるデータが表示される(写真中)。この事実からヘルプデスクのトップページにFAQとして同OSの導入に関するものを掲載し、その後の同じ質問内容の頻度を時系列で表示されると、掲載以降はその質問件数が減っていることが示され(写真右)、テキストマイニングの効果が現れたことを視覚的に確認できた。
電話を利用した音声認識による電車案内システムのデモ。画面に表示されているのは、聞き取った音声と人工音声がしゃべった内容 同システムは統計的構文解析により、自由発話における自然な言語の処理を可能としている
オンデマンドでビデオのダイジェストをリアルタイム作成/ストリーミング配信するシステム。例えば、「ゴール」というキーワードを選択すると、サッカーのゴールシーンのダイジェストが即座に作成される。映像に対するタグ付けの手法やアルゴリズムに独自の技術を用いている。なお、一般公開はされてない FOMAにも対応しているが、FOMAではストリーミングではなく、ダウンロード再生となる

□IBM東京基礎研究所のホームページ
http://www.trl.ibm.com/
□日本IBMのホームページ
http://www.ibm.com/jp/

(2002年8月2日)

[Reported by wakasugi@impress.co.jp]

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