“T-Engine”準拠の組み込み機器開発キットが発売
~スケーラブルで柔軟な統合開発環境の提供

T-Engine/SH7727開発キット

7月30日 発表



 T-Engineフォーラムは30日、T-Engine準拠の開発キット「T-Engine/SH7727開発キット」を8月8日より発売すると発表した。

 T-Engineフォーラムとは、TRONプロジェクトの最終目的であるユビキタスコンピューティング環境を実現するために必要となるハードウェアプラットフォームと、その上で動くリアルタイムOSや周辺のインターフェイス仕様を「T-Engineプラットフォーム」として標準化するプロジェクト。

 T-Engineプラットフォームは、TRONベースの組み込み機器用ソフトウェアの開発効率向上を目的とした規格。従来、PC用にBTRON、組み込み機器用にITRONとされていた区分を止め、1つのOS(T-Kernel)でサポートする。OSだけでなく、ミドルウェアとハードウェアI/0などまでを含む規格となっている。

 同フォーラムは、国内の大手半導体メーカーや組み込み向けソフトウェアメーカーら22社によって6月に発足し、現在では国内外の企業37社が参加している。フォーラムの会長はTRONプロジェクト プロジェクトリーダーで東京大学教授の坂村健氏が務める。

 坂村氏は、「TRONではリアルタイムOSにのみ焦点を当てていたが、ソフトウェアの生産性の向上、ひいてはソフトウェアのコンポーネント化/再利用を実現するには、それらが動作するハードウェアから規定する必要がある」

 「そこで、T-Engineでは、OSである“T-Kernel”のみならず、それが動作するハードウェアのI/Oなどの仕様、そしてドライバやミドルウェアなどのガイドラインまでを規定した」と、提唱の経緯とT-Engineの概要を説明した。

T-Engineフォーラム会長の坂村健氏 T-Engineの掲げる目標

 そのT-Engineに準拠した開発キットの第一弾が今回発表されたT-Engine/SH7727開発キット。BTRON仕様OS「超漢字」を手がけるパーソナルメディアの開発によるもので、価格は145,000円。

 CPUには日立のSH7727 96MHzを採用。フラッシュメモリ8MB、SDRAM 32MB、240×320ドット表示TFT液晶モニタを搭載。インターフェイスはUSB(ホスト)、PCカード、シリアル、eTRONチップ、キースイッチ×3、ヘッドフォン出力、マイク入力、赤外線リモコン、拡張バスを備える。CPUボード、LCDボード、デバッグボードの3つの基板で構成される。

 ミドルウェアとして、ファイル管理機能やコマンドラインインタプリタが付属するほか、シリアル、LCD、タッチパネル、ATAカードなどのデバイスドライバも用意される。開発環境はPC Linux上で動作するGNUベースのものとなる。

 T-Engineではハードウェア、ミドルウェア、OSの仕様が事細かに規定されているが、利用するCPUを限定していない。

 事実、同プラットフォームの参画メンバーである日立、NEC、三菱は、それぞれ独自にSH3、MIPS、M32Rを用いたT-Engineボードを開発、横河ディジタルコンピュータもARMベースのT-Engineボードを開発しており、9月以降順次出荷開始される予定。

 また、T-Engine上で開発されたアプリケーションは、異なるT-Engineハードウェアに対してソースレベルで互換性があるため、再コンパイルすることで再利用が可能。

 当然セキュリティも考慮された設計になっており、“eTRON”と呼ばれるセキュアなネットワークインフラも規定。ネットワーク体系、認証、権利情報管理などがあらかじめ盛り込まれている。

各社のT-Engineボードのスペック一覧 eTRONアーキテクチャ全体構成

 T-Engineはターゲット製品に応じて標準/μ(マイクロ)/n(ナノ)/p(ピコ)の4つの異なる分類を規定している。標準T-Engineは携帯情報機器など高度な製品向けで、今回の新製品はこれを採用している。μT-Engineは家電機器向けとされており、NECが11月にも搭載製品を出す予定。

T-Engineフォーラムではメンバー間でのコンポーネントの共用などを推進。オークションなども実施していくという

 さらにユニークなのは、開発者は開発キットで開発したものを、開発キットごとそのまま製品化して販売することも可能なのだという。

 また、同フォーラムはリスク分散とコスト低減を図るため、参加企業間における部品共用を推進している。すでに実現している具体例としては、NECの液晶パネルを利用して日立が拡張基板としてリリースし、それを両者が自社のT-Engineボードとして利用している。

 坂本氏は「T-Engineの普及により、例えば製品としては売れなかったものが、その中で使っているミドルウェアのみを販売して利益を売ることも可能になり、生産性の向上のみならず、新たなビジネスモデルも生まれてくるだろう」と同プラットフォームの可能性について触れた。

 同フォーラムは年内までにミドルウェアの整備を行ない、来年以降アプリケーションの開発を促していく考え。なおT-Engineについてのガイドラインやホワイトペーパーなどは当初はフォーラム内でのみ公開され、公開6カ月以降を目処に一般にも順次公開していく予定だという。

KDDI研究所はT-Engine/SH7727開発キットを利用して、同社のベクター画像表示ミドルウェアをデモ。実機上で地図表示を行なっていた 日立のT-Engineボード。すでに、完成しており、パーソナルメディアのものとほぼ同等の仕様。独自チャンネルで販売をしていくという
NECのT-Engineボード(写真中央)。CPUはVR5500 400MHzを搭載。リリースは11月の予定。右上は製品化時のイメージボードで、同じCPUを搭載しコンパクトにしたもの 同じくNECの製品で、こちらはμT-Engine仕様のもの。右上がそのCPU+フラッシュチップで、CPUはVR4131 200MHz
eTRONのセキュリティデモ機器。右のカードには非接触型のICチップなどが埋め込まれており、それを読み取り機器(写真左)にかざすと、認証されるというもの。電子チケットなどの用途を見込んでいる

□T-Engineフォーラムのホームページ
(7月31日公開予定)
http://www.t-engine.org/
□パーソナルメディアのホームページ
http://www.personal-media.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.personal-media.co.jp/press/press/020730_teshkit.html
□製品情報(PDF)
http://www-wa0.personal-media.co.jp/pmc/archive/teshkit.pdf

(2002年7月30日)

[Reported by wakasugi@impress.co.jp]

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