アーム、組込プロセッサに関するテクニカルセミナー開催
|
アーム株式会社の石川滝雄 代表取締役社長 |
3月8日
英ARMの日本法人であるアーム株式会社は8日、報道関係者向けにテクニカル・ブリーフィングを開催した。ブリーフィングでは同社のビジネスモデルや、組み込みプロセッサ「ARM」シリーズについての説明が行なわれた。
またブリーフィング後には、ARMの前身であるAcorn Computerの、StrongARMをCPUとするマルチメディアPCのデモを公開した。ARMは、PocketPCなどのPDAや、ブロードバンドルータのCPUとして知られる「ARM」シリーズのアーキテクチャやコア、ソフトウェアを提供するファブレス企業。プロセッサを企画・設計し、それにもとづいたプロセッサを製造・販売する権利を、ほかの企業にライセンスする。収入はライセンス料と、販売量に応じたロイヤリティとなる。
例えば先日発表されたIntelの「XScale」は、IntelがARMからライセンスを受けて共同開発し、リリースしたもの。こうしたビジネスモデルは、同じく組み込みプロセッサでおなじみの「MIPS Technologies」もとっており、一般に「IP(Intellectual Property=知的財産)企業」と呼ばれる。
●低コスト、低消費電力と性能のトレードオフ
テクニカル・ブリーフィングではアーム株式会社の渡辺信久 シニア・エンジニアリング・マネージャがARMプロセッサの技術的な側面について解説した。
まず、ARMプロセッサが属する「組み込みプロセッサ」の特性が、PC用プロセッサと比較された。ここでは、組み込みプロセッサではPC用CPUのような高性能があまり必要とされない(単機能の携帯電話で20MHz程度)が、コストと省電力への要求が厳しいとした。
そのため、すでに64bit演算器や2命令同時に実行可能なスーパースケーラの実装は可能になっているが、省電力やコストとの兼ね合いから投入されていないという。また、ARMで採用しているバス規格「AMBA(Advanced Micro Computer Architecture)」は、消費電力低減のためにCPU側でクロック同期、ペリフェラル側でクロック非同期となっている。
だが、第3世代携帯電話やPDAでの利用では、組み込みプロセッサにも次第に高性能が要求されるようになっており、コストや省電力性能と相反する問題となっている。ARMではこれを、システムなどをシンプルにすることで両立を図るとした。
渡辺信久 シニア・エンジニアリング・マネージャ | Pentium 4と携帯電話などで使われるCPU「ARM7TDMI」を比較。クロックやトランジスタ数はPentium 4が勝るが、チップのサイズや消費電力はARMのほうが圧倒的に小さい |
●Java処理機能内蔵アーキテクチャも
現在のARMのラインナップは、次のようになる。
アーキテクチャ | 演算器 | その他の特徴 | 製品名 |
---|---|---|---|
V4 | 32bit | ARM7、StrongARM | |
V4T | 32/16bit | ARM7TDMI、ARM920T、SecureCore | |
V5TE | 32/16bit | 信号処理命令を追加 | ARM9E、ARM10XX、XScale |
V5TEJ | 32/16bit | Java処理機能 | ARM926EJ-S |
アーキテクチャとコア(製品)のラインナップ。製品名の横の数字は、その製品のライセンシーの数 |
製品ごとにも違いがあり、ARM7では命令キャッシュがデータキャッシュを兼ねていたが、ARM9以降はそれぞれ別なメモリに分かれている。さらにパイプラインがARM7では3段、ARM9では5段、ARM10では6段と増えている。
このうち、「V5TEJ」に組み込まれるJava処理機能は「Jazelle(ジャゼール)」と呼ばれ、Javaのバイトコードのうち80%以上をハードウェアで処理するもの。ソフトウェアのJavaVM無しでも高速にJavaアプリを実行できる。このアーキテクチャは日本のいくつかの企業にもライセンスされており、今年後半から来年にかけてはJazelleを採用したJava対応携帯電話が登場する予定という。
新たなアーキテクチャ「V6」も用意されており、演算器は32bitのままながら、データバスを64bitに拡張し、SIMD命令を追加、さらにマルチプロセッサをサポートするという。V6を採用した製品は、今年の前半にはリリースされる予定。
●教育用コンピュータから生まれたRISCプロセッサ
ブリーフィング冒頭には、アーム株式会社の石川滝雄 代表取締役社長がARMの沿革を説明した。
ARMの歴史は、英BBC教育チャンネルによる教育用コンピュータプロジェクトに端を発する。このプロジェクトは'83年にコンピュータメーカー「Acorn Computer(エイコーン・コンピュータ)」に発展、製品として教育用マルチメディアPC「BBC Micro」を出荷した。このBBC Microの性能を向上させるべく、高性能、低消費電力かつ低価格なRISCプロセッサを計画、誕生したのがARM(Acorn RISC Machine)プロセッサで、現在のARMプロセッサのコンセプトはこの頃に確立したという。
ARMプロセッサは、PDA「Newton」を計画していた米Appleの目にとまり、同機のCPUとして採用されることになった。このため、Acorn Computer、Apple、VLSI Technologyの出資により'90年にはプロセッサ専業のメーカー「ARM」が誕生した。なお、このARMはAdvanced RISC Machineの略とされている。
ARMは当初から自社でプロセッサを製造せず、アーキテクチャやコア、命令セットのライセンスだけを行なってきた。現在ではライセンシーやファウンドリ企業を含めたパートナーが77社に上る。
現在のARMは従業員数約750名で、うち60%を研究開発が占めるという。世界17個所に拠点を持ち、2000年のプロセッサ出荷量は4億2,000万個。また、2000年の売上げは約1億ポンド(約182億4千万円)、2001年の売上げは約1億4千万ポンド(約266億8千万円)としている。また、2000年における市場占有率は74.3%に及ぶ。
●ARMプロセッサの特性が生きたPC「Acorn RiscPC」
ブリーフィング後、アーム社内でARMの元となったAcorn ComputerのマルチメディアPC「Acorn RiscPC」も公開された。
Acorn RiscPCはメモリ8MBながら、3Dグラフィックスなどのマルチメディア処理を高速に行なえるマルチメディアPC。展示されていたのは'98年頃のモデルで、CPUにはStrongARMを搭載していた。
OSは「Acorn RISC OS 3」。OSはROMに収納されているため高速に起動し、シャットダウンなどの処理をせずに電源を落とせる。データやアプリケーションはHDDに保存されるが、「データ作成中にいきなり電源を落としてもデータが壊れない」(石川社長)という。
2D、3D描画やソフトウェアシンセサイザーのデモを見ていると、これを動かしているのがメモリ8MBで、ハードウェアの3Dアクセラレータなど搭載していないマシンだとは信じられなくなる。また、高い負荷がかかった状態でもCPUは熱くならず、表面を素手で触れるほどだった。低消費電力でマルチメディア処理に強いARMプロセッサの特性を体験できるPCだった。
3Dグラフィックスのデモ。マウス操作で回転させることができる。すべてリアルタイムで表示される。「ARMプロセッサなら携帯電話でこんな画像を表示できます」(石川社長) |
□アームのホームページ
http://www.arm.com/jp/
□関連記事
【2月12日】インテル、モバイル向けプロセッサ「XScale」を日本で先行発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0212/intel.htm
(2002年3月8日)
[Reported by tanak-sh@impress.co.jp]
|