レビュー

【本日発売】ついに登場したDDR4対応CPU
「Core i7-5960X Extreme Edition」レビュー

Core i7-5960X Extreme Edition

 米Intelは8月29日(現地時間)、新たなハイエンドデスクトップ向けCPU、Haswell-E(開発コードネーム)と、同CPUをサポートする新CPUソケット「LGA2011-v3」対応プラットフォームを発表した。今回、製品の発表に先立ち、Haswell-Eの最上位モデルとして投入される「Core i7-5960X Extreme Edition」を借用する機会が得られた。新たなハイエンド向けCPU、その最上位CPUの実力をベンチマークテストで確認する。

8コアCPUがラインナップに加わったHaswell-E

 Ivy Bridge-Eの後継CPUとして、ハイエンドデスクトップ向けに投入されるHaswell-Eは、Intelのコンシューマ向けCPUとして初めて8つのCPUコアを備えた「Core i7-5960X Extreme Edition」(以下i7-5960X)を筆頭に、6コアCPUの「Core i7-5930K」と「Core i7-5820K」、計3つの製品が投入される。

 Haswell-Eベースの3製品は、CPUのアーキテクチャにHaswellを採用し、22nmプロセスで製造されている。CPUコアはHyper-Threding Technologyをサポートしており、コア数の2倍のスレッド数で処理を実行できる。内蔵メモリコントローラは新規格のDDR4メモリに対応し、DDR4-2133でのクアッドチャンネル動作をサポートする。対応CPUソケットが新ソケットのLGA2011-v3に変更されており、従来のLGA2011とは互換性が無い。

 各CPUの主なスペックを以下の表にまとめた。前述のようにi7-5960Xのみが8コア16スレッドCPUで、下位の2製品は6コア12スレッドCPUとなっている。また、最下位モデルであるCore i7-5820Kについては、CPUに内蔵されたPCI Express 3.0コントローラが備えるレーン数が28レーンに削減されている。複数のビデオカードを搭載するマルチグラフィックス環境の構築など、複数のPCI Expressスロットを利用する場合、使用できるレーン数に差が生じるため注意を要する。

【表1】CPUの主なスペック

Core i7-5960XCore i7-5930KCore i7-5820K
製造プロセス22nm
開発コードネームHaswell-E
コア数866
スレッド数161212
CPUクロック(定格時)3.0GHz3.5GHz3.3GHz
CPUクロック(Turbo Boost時/最大)3.5GHz3.7GHz3.6GHz
L3キャッシュ20MB15MB15MB
PCI Express レーン数404028
メモリコントローラDDR4-2133/4ch
TDP140W
倍率アンロック
対応ソケットLGA2011-v3
価格/(1,000個ロット時単価)999ドル583ドル389ドル
i7-5960XのCPU-Z実行画面
i7-5960XとCore i7-4930K(右)の比較。ヒートスプレッダの形状が大きく変更されている。
i7-5960XとCore i7-4930K(右)のパッケージ裏面比較

 Haswell-Eに対応するLGA2011-v3では、新チップセットのIntel X99 Express チップセットが採用される。X79 Expressチップセットの後継となるIntel X99 Express チップセットでは、ストレージ接続のSATA 6Gbpsポートが2ポートから10ポートに強化され、新たに6ポートのUSB 3.0ポートをサポートした。

 LGA2011-v3は新型のCPUソケットだが、CPUクーラーの固定方法は従来のLGA2011と変わらない。今回、i7-5960Xのテストを行なうにあたって、CPUクーラーもIntelより借用しているのだが、借用したCPUクーラーが2013年にLGA2011対応製品として発売済みの水冷クーラー「Liquid Cooling TS13X」であったことから、既存のLGA2011対応CPUクーラーの多くがLGA2011-v3で利用可能であることが伺える。

Intel X99 Expressチップセット搭載のASUS製マザーボード「Intel X99-DELUXE」
LGA2011対応CPUクーラー「Liquid Cooling TS13X」
LGA2011-v3ソケット。ソケットの形状が若干変更されているが、クーラーの固定方法は従来のLGA2011と同様

テスト機材

 それでは検証結果の紹介に移りたい。今回のi7-5960Xの比較対象には、Ivy Bridge-Eベースの6コア12スレッドCPU「Core i7-4930K」(以下i7-4930K)と、メインストリーム向けCPUの最上位、Devil's Canyonこと「Core i7-4790K」(以下i7-4790K)を用意した。

 比較対象には本来、Ivy Bridge-Eの最上位モデルであるCore i7-4960X Extreme Editionを用意すべきところだが、機材調達の都合上、1グレード下のi7-4930Kとの比較となっている点はご容赦いただきたい。また、i7-5960Xのテスト機材については、CPU、マザーボード、CPUクーラーの他に、SSDとメモリも借用しており、これらのパーツについては3つのテスト環境で機材を統一できていない。プラットフォームが異なるため、完全な横並びでの比較はそもそも不可能だが、使用する機材に違いがあることをあらかじめお断りしておく。

【表2】テスト機材
CPUCore i7-5960XCore i7-4930KCore i7-4790K
マザーボードASUS X99-DELUXEASUS P9X79 PROASUS MAXIMUS VII GENE
メモリDDR4-2133 4GB×4
(15-15-15-35、1.20V)
DDR3-1866 4GB×4
(10-11-10-30、1.50V)
DDR3-1600 4GB×4
(9-9-9-24、1.50V)
ストレージIntel SSD 730 シリーズ 240GBIntel SSD 510 シリーズ 120GB
ビデオカードRadeon R9 290X
グラフィックスドライバCatalyst 14.4
電源Antec HCP-1200(1,200W 80PLUS GOLD)
CPUクーラーIntel Liquid Cooling TS13XCRYORIG R1 Universal
OSWindows 8.1 Pro Update 64bit

CPU処理中心のベンチマークテスト

 まずは、CPUやメモリ周りのベンチマークテスト結果から紹介する。実施したテストは「Sandra 2014.SP4 20.42」(グラフ1/2/3/7/8/9/10)、「CINEBENCH R15」(グラフ4)、「x264 FHD Benchmark 1.01」(グラフ5)、「Super PI」(グラフ6)、「PCMark8」(グラフ11)、「PCMark7」(グラフ12)だ。

 比較製品中、もっともCPUコアの数が多い8コア16スレッドCPUのi7-5960Xは、そのマルチスレッド能力の高さが際立っている。最新の拡張命令セットも利用するSandraのProcessor Multi-Mediaでは、Haswellアーキテクチャで新たにサポートしたAVX2を活用し、i7-4930Kやi7-4790Kを圧倒している。

 i7-4790Kが4.0GHz(最大4.4GHz)、i7-4930Kも3.4GHz(最大3.9GHz)で動作するため、3.0GHz(最大3.5GHz)動作のi7-5960Xは、比較製品の中で最もCPUクロックの低い製品ではあるが、コア数のアドバンテージが生きてくるマルチスレッド対応アプリケーションでは、動作クロックの差を補ってあまりあるパフォーマンスを発揮できるようだ。

 一方、シングルスレッド性能に関しては、高いクロックで動作するi7-4790Kに差をつけられている。CHINEBENCH R15のシングルコアテストで30%弱、Super PIでは21~25%ほどi7-4790Kの方が優位となっており、使用するCPUコアの数が少ないアプリケーションでは、メインストリーム向けのCPUに遅れを取る場面もでてくるだろう。

【グラフ1】Sandra 2014 20.42(Processor Arithmetic)
【グラフ2】Sandra 2014 20.42(Processor Multi-Media)
【グラフ3】Sandra 2014 20.42(Cryptography)
【グラフ4】CINEBENCH R15
【グラフ5】x264 FHD Benchmark 1.01
【グラフ6】Super PI

 メモリ回りに関しては、もっともメモリクロックの高いDDR4-2133対応メモリのクアッドチャンネル動作に対応しているものの、メモリの転送帯域を測定するSandraのMemory Bandwidthでは、DDR3-1866対応メモリのクアッドチャンネル動作とほぼ同程度の結果に留まっている。DDR4メモリはメモリタイミングがDDR3メモリに比べ大きいため、CPUのコントローラというより、メモリのスペックが影響した結果であるように思われる。

 キャッシュに関しては、L1キャッシュの帯域幅が向上したHaswellアーキテクチャの特性と、物理的なCPUコア数のアドバンテージにより、Sandra Cache Bandwidthにて、i7-5960XのL1キャッシュ領域での転送帯域は、傑出して高い数値となっている。

 PCMarkのスコアについては、PCMark8、PCMark7とも、6コア12スレッドCPUのi7-4930Kには勝利しているものの、i7-4790Kの後塵を拝する結果となっている。i7-5960Xの8コア12スレッドは、マルチスレッド対応アプリケーションで使ってこそ真価を発揮するものであるということが伺える結果だ。

【グラフ7】Sandra 2014 20.42(Memory Bandwidth)
【グラフ8】Sandra 2014 20.42(Cache Bandwidth)
【グラフ9】Sandra 2014 20.42(Cache/Memory Latency-Clock)
【グラフ10】Sandra 2014 20.42(Cache/Memory Latency-nsec)
【グラフ11】PCMark8
【グラフ12】PCMark7

GPU処理中心のベンチマークテスト

 続いて、3Dベンチマークテストの結果を確認する。実施したベンチマークテストは、「3DMark」(グラフ13、14、15、16)、「3DMark11」(グラフ17)、「3DMark Vantage」(グラフ18)、「MHFベンチマーク【大討伐】」(グラフ19)「ファイナルファンタジーXIV」(グラフ20)、「PSO2ベンチマーク ver 2.0」(グラフ21)。

 3D系ベンチマークテストでは、ベンチマークテストのマルチスレッド対応具合次第で、i7-5960Xのスコアはi7-4790Kと優劣の分かれる結果となった。マルチスレッドに対応しているMHFベンチマークでは、i7-4930Kに10%弱、i7-4790Kには17~21%の差をつけている一方、3DMark Ice Storm Extremeでは、比較製品中最下位の結果に終わっている。

 i7-5960Xが比較製品を下回るスコアに終わったテストは、比較的GPU負荷の軽いテストであり、i7-5960Xでも十分にフレームレートを稼げるため、実際にゲームをプレイする上でスコア差ほどパフォーマンスに差は感じられない場合が多いだろう。

【グラフ13】3DMark-Fire Strike[Default]
【グラフ14】3DMark-Sky Diver[Default]
【グラフ15】3DMark-Cloud Gate[Default]
【グラフ16】3DMark-Ice Storm Extreme[Default]
【グラフ17】3DMark11[Default]
【グラフ18】3DMark Vantage[Default]
【グラフ19】MHFベンチマーク【大討伐】[フルスクリーン]
【グラフ20】ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア ベンチマーク キャラクター編[フルスクリーン]
【グラフ21】PSO2ベンチマーク ver 2.0[1,920×1,080ドット、フルスクリーン]

消費電力比較

 最後に各システムの消費電力を測定した結果を紹介する。消費電力は、各ベンチマークテスト実行中の最大消費電力をサンワサプライのワットチェッカー「TAP-TST5」で測定した。

【グラフ22】システム全体の消費電力

 i7-5960Xのアイドル時の消費電力は70Wで、これはi7-4790Kより10W高く、i7-4930Kより10W低い数字だ。消費電力よりもパフォーマンスが優先するハイエンドプラットフォームであっても、アイドル時の消費電力は低いに越したことはない。アイドル時消費電力の低下は、歓迎できる改善だ。

 一方、ベンチマークテスト実行中の消費電力については、CHINEBENCH R15実行時、1コアのみでのテスト実行時は比較製品中もっとも低い96Wを記録し、8コア16スレッドすべてを利用すると比較製品中最も高い184Wを記録するという結果が出ている。最大動作クロックが高めの比較製品にくらべ、i7-5960Xの最大動作クロックが3.5GHzに抑えられていることが、シングルスレッド動作時の消費電力を低く抑えていることに寄与しているのだろう。

強力なマルチスレッドパフォーマンスをもたらすHaswell-E

 以上のとおり、8コアCPUであるi7-5960Xは高いマルチスレッド性能が特徴のCPUだ。コアあたりの性能で言えば、同じHaswellアーキテクチャをベースに高い動作クロックを実現したi7-4790Kには及ばないが、複数のスレッドを利用できるアプリケーションでのパフォーマンスは圧倒的だ。

 LGA2011-v3では、最下位モデルのi7-5820Kまでが6コア12スレッドCPUとなったことで、メインストリーム向けのLGA1150に対し、CPUコア数で確実にアドバンテージのあるプラットフォームとなった。これにより、LGA1150とLGA2011-v3、両プラットフォームの棲み分けがよりはっきりした。

 CPUの価格はもちろん、新チップセットに新規格のメモリと、導入コストの高さがネックとなるLGA2011-v3だが、動画の編集/エンコードやCGレンダリングなど、CPUコア数が処理速度に大きく影響する作業でPCを利用するユーザーにとっては、選択する意義のあるプラットフォームであると言えるだろう。

(三門 修太)