レビュー
6コアになってコスパが向上したCore i7-8700Kをベンチマーク
2017年10月5日 22:01
10月5日より、Coffee Lake-Sのコードネームで知られるIntelのデスクトップ向け第8世代Coreプロセッサのグローバル販売が開始される。このたび、待望される国内での販売開始に先立ち、Core i7-8700KとCore i5-8400をテストする機会を得られたので、ベンチマークテストで第8世代Coreプロセッサの実力をチェックした。
最上位のCore i7-8700KとCore i5-8400をテスト
Coffee Lake-Sことデスクトップ向け第8世代Coreプロセッサは、Kaby Lake-Sの後継にあたるメインストリーム向けのCPUであり、CPUソケットにはLGA1151を採用する。
LGA1151はKaby Lake-SやSkylake-Sでも採用されたCPUソケットだが、Coffee Lake-Sでは電源設計が変更された関係で、既存のLGA1151対応マザーボードでは動作せず、新チップセットである「Intel Z370」を搭載したマザーボードが必要となる。
今回テストするCoffee Lake-Sは、最上位モデルとなる6コア12スレッドCPU「Core i7-8700K」と、中位の6コア6スレッドCPU「Core i5-8400」の2モデル。1,000個ロット時の単価はそれぞれ359ドルと182ドルとなっており、それぞれのスペックは以下の通り。
【表1】テストするCofee Lake-Sの主なスペック | |||
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モデルナンバー | Core i7-8700K | Core i5-8400 | Core i7-7700K |
製造プロセス | 14++ | 14+ | |
マイクロアーキテクチャ | Coffee Lake-S | Kaby Lake-S | |
コア数 | 6 | 6 | 4 |
スレッド数 | 12 | 6 | 8 |
L3キャッシュ | 12MB | 9MB | 8 MB |
ベースクロック | 3.7 GHz | 2.8 GHz | 4.2 GHz |
ブーストクロック | 4.7 GHz | 4.0 GHz | 4.5 GHz |
内蔵GPU | Intel UHD Graphics 630 | Intel HD Graphics 630 | |
対応メモリ | DDR4-2666 (2ch) | DDR4-2400/DDR3L-1600 (2ch) | |
TDP | 95 W | 65 W | 91 W |
対応ソケット | LGA1151 (Z370のみ) | LGA1151 | |
価格(1,000個ロット時) | 359 ドル | 182 ドル | 339 ドル |
テスト機材
Coffee Lake-Sのテストにあたっては、Intel Z370 チップセットを搭載したASUS製マザーボード「ASUS PRIME Z370-A」を借用した。CPUソケットにLGA1151を採用しているが、Intel Z370チップセットを搭載したマザーボードはCoffee Lake-S専用であり、Kaby Lake-SやSkylake-Sなどの従来のLGA1151対応CPUは利用できない。
Coffee Lake-Sの比較対象には、Kaby Lake-Sの最上位モデルである4コア8スレッドCPU「Core i7-7700K」と、Core i7-8700Kと同価格帯の競合製品となるAMDの8コア16スレッドCPU「Ryzen 7 1700」を用意した。
そのほか、使用したパーツは以下の通り。なお、動作中に冷却不足による性能低下を避けるため、CPUクーラーとビデオカードのファン制御はそれぞれ80%に固定している。
【表2】テスト機材一覧 | ||||
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CPU | Core i7-8700K | Core i5-8400 | Core i7-7700K | Ryzen 7 1700 |
マザーボード | ASUS PRIME Z370-A (UEFI: 0408) | ASUS PRIME Z270-A (UEFI: 1009) | ASUS PRIME X370-PRO (UEFI: 0902) | |
メモリ | DDR4-2666 16GB×2 (2ch、19-19-19-43、1.20V) | DDR4-2400 16GB×2 (2ch、17-17-17-39、1.20V) | DDR4-2666 16GB×2 (2ch、19-19-19-43、1.20V) | |
GPU | GeForce GTX 1080 8GB (FOUNDERS EDITION) | |||
システム用ストレージ | Plextor PX-128M8PeG (128GB SSD/M.2-PCIe 3.0 x4) | |||
アプリケーション用ストレージ | OCZ VTR180-25SAT3-480G (480GB SSD/SATA 6Gbps) | |||
電源 | 玄人志向 KRPW-TI700W/94+ (700W 80PLUS Titanium) | |||
CPUクーラー | サイズ 風魔 (SCFM-1000) ※ファン制御80%(約1,200rpm) | |||
グラフィックスドライバ | GeForce Hotfix Driver version 385.69 | |||
OS | Windows 10 Pro 64bit (Ver 1703/Build 15063.632) | |||
電源プロファイル | 高パフォーマンス | AMD Ryzen バランス調整 | ||
室温 | 約27℃ |
ベンチマーク結果
今回実行したベンチマークテストは、「CINEBENCH R15(グラフ1)」、「x264 FHD Benchmark(グラフ2)」、「HandBrake 1.0.7(グラフ3)」、「TMPGEnc Video Mastering Works 6(グラフ4)」、「PCMark 10(グラフ5)」、「SiSoftware Sandra Platinum(グラフ6~12)」、「3DMark(グラフ13~15)」、「VRMark(グラフ16~17)」「ファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター ベンチマーク(グラフ18)」、「Ashes of the Singularity: Escalation(グラフ19)」、「オーバーウォッチ(グラフ20)」、「The Witcher 3(グラフ21)」、「Ghost Recon Wildlands(グラフ22)」、「Watch Dogs 2(グラフ23)」。
CGレンダリング性能を測るCINEBENCH R15では、全コア使用時と1コア使用時の両方でCore i7-8700Kが比較製品中最高のスコアを獲得した。ピークで4.7GHzに達する動作クロックの高さを活かし、Single Coreでは次点のCore i7-7700Kに約7%差をつけ、All Coreではコア数で勝るRyzen 7 1700に追いついた格好だ。
一方、最大クロックが4.0GHz止まりのCore i5-8400は、Single Coreでの性能ではCore i7-7700Kの9割程度のスコアに留まるものの、全コアを使用した際のスコアではCore i7-7700Kを僅かに逆転している。
動画エンコード系のベンチマークテストとアプリケーションでも、Core i7-8700KがRyzen 7 1700を凌ぐ性能を発揮している。特に、エンコーダにx265を用いたH.265形式への動画変換ではRyzen 7 1700より31~49%高速な結果となっている。
Core i5-8400はCore i7-7700Kを2~6%ほど上回った。マルチスレッド性能が物を言う動画エンコードにおいては、Coffee Lake-Sの中位モデルがKaby Lake-Sの最上位モデルを凌ぐという結果だ。
PCの総合的な性能を測定するPCMark 10では、Core i7-8700Kが総合スコアでトップを獲得。以下Core i7-7700K、Core i5-8400、Ryzen 7 1700と続いている。低CPU負荷のワークロードが多いPCMark 10では、Core i5-8400より動作クロックの高いCore i7-7700Kが有利なようだ。
CPUの演算性能を測定するProcessor Arithmeticでも、Core i7-8700Kが比較製品中最高のスコアを記録しているが、整数演算(Dhrystone)でRyzen 7 1700に14%前後上回っているのに対し、浮動小数点演算(Whetstone)では3%前後の差に縮まっている。
Core i5-8400については、整数演算でCore i7-7700Kに10%前後の差をつけて上回る一方、浮動小数点演算では逆に13~21%の差をつけられている。どうやら浮動小数点演算ではスレッド数の差が効いているようだ。
マルチメディア処理性能を測るProcessor Multi-Mediaでは、Core i7-8700KがほかのCPUを大きく引き離している。このテストでは浮動小数点演算でもCore i7-7700KがRyzen 7 1700に37~62%の差をつけている。
暗号処理性能を測るProcessor Cryptographyでは、メインメモリの帯域幅の影響が大きいEncryption/Decryption BandwidthでDDR4-2666をサポートするCoffee Lake-Sの2製品が、DDR4-2400止まりのCore i7-7700Kを9%弱上回っている。Hashing Bandwidthでは、IntelのCPUがコア数と動作クロックに応じて性能を伸ばしている一方で、SHA拡張命令を持つRyzen 7 1700がCore i7-8700Kを約63%上回っている。
メインメモリ帯域を測定するMemory Bandwidthでは、DDR4-2666をサポートするCPUのうちCore i7-8700KとRyzen 7 1700が31GB/sec前後を記録。Core i5-8400は29.0~29.61GB/secとなっており、DDR4-2400を使っているCore i7-7700Kよりは広帯域ながら、ほかのDDR4-2666対応CPUよりは一段遅い結果となっている。
CPUのキャッシュ速度を測定するCache Bandwidthでは、L1~L2キャッシュ領域はコア数の多いCoffee Lake-Sの2製品がCore i7-7700Kより広帯域だが、L3キャッシュ領域ではCore i5-8400の帯域はCore i7-7700Kと同程度まで落ち込んでいる。
3DMarkでは、DirectX 12テストのTime Spyと、DirectX 11テストのFire Strike UltraとFire Strikeを実行した。
Time SpyではCPUのマルチスレッド性能が総合スコアに強く反映されており、Core i7-8700Kが最高スコアを記録、次点はRyzen 7 1700となった。6コア6スレッドCPUのCore i5-8400は、4コア8スレッドCPUのCore i7-7700Kとほぼ同じと言える結果となっている。
一方、Fire Strike UltraとFire Strikeでは、CPUの違いがPhysics Scoreに大きく反映されているものの総合スコアへの影響は小さく、GPU性能がボトルネックとなるFire Strike Ultraでは全製品のスコアが横並びとなっている。
相対的にGPU負荷の軽いFire Strikeでは、Core i7-8700Kが次点のCore i7-7700Kに約9%の差をつけている。GPU負荷が低くフレームレートが高くなる条件では、CPUの1コア当たりの性能が求められるようになる傾向がある。実際、Fire Strikeのスコアは1コア当たりの性能が高い順となっている。
VRMarkでは高フレームレート動作が前提のOrange Roomと、超高負荷テストのBlue Roomを実行した。
低負荷のOrange Roomでは1コアあたりの性能に優れたCPUであるほど高いスコアを記録し、GPU性能がボトルネックとなるBlue RoomではCPUの違いによってスコアに差がつかないという、3DMarkのFire StrikeとFire Strike Ultraの結果と同じような結果となった。
3DMarkやVRMarkでみられた、高フレームレートになる条件では1コアあたりの性能に優れたCPUが高い性能を発揮するという傾向は、ファイナルファンタジーXIVベンチマーク、Ashes of the Singularity: Escalation、オーバーウォッチなどでも同様だ。
一方で、Intel製CPU同士の比較であれば、マルチスレッド性能でフレームレートの優劣が決まってくるWatch Dogs 2や、120fps近い高フレームレートでありながら各CPU間で有意な差のつかないGhost Recon Wildlandsなど、ゲームタイトルや描画設定などによってCPUに求められる要素は違っている。
いずれにせよ、Core i7-8700Kはほとんどのゲームで比較製品の中で最上級の性能を発揮しており、ゲーム用途にも適した6コアCPUであると言える。一方のCore i5-8400はCore i7-7700Kに及ばない結果が目立つが、ワーストケースでもCore i7-7700Kの9割程度の性能を発揮しており、決して悪い結果というわけではない。
ワットチェッカーを用いてシステムの消費電力を測定した結果が以下のグラフだ。
アイドル時の消費電力については、Coffee Lake-SベースのCPUはいずれも36Wで、Core i7-7700Kの38WやRyzen 7 1700の46Wよりも低い数値となっている。ただ、この数字にはマザーボードの違いによる消費電力差も含まれている。
全てのCPUコアに高負荷が掛かるCINEBENCH R15のAll CoreやTMPGEnc Video Mastering Works 6では、139~159Wを記録したCore i7-8700Kが突出して高い消費電力となっている。TDP 65WのCore i5-8400は比較製品中最も低い消費電力となっているが、TDP 91WのCore i7-7700Kとの差は1~6Wと小さい。
CPU負荷が極めて大きいPrime 95 Small FFTsを実行すると、Core i7-8700Kの消費電力は199Wに達し、Core i5-8400も141Wを消費してCore i7-7700Kの消費電力を上回った。
各ベンチマークテスト実行時のCPUコア温度を測定した結果が以下のグラフだ。なお、CPU温度については各CPUに搭載されたセンサーの測定値であるため、同じ条件で測定された結果とは言えない点に注意して欲しい。なお、今回テストしたIntel製CPUの最大コア温度は100℃で、Ryzen 7 1700は95℃である。
消費電力の測定結果ではTDP値から想像される数字より大きな消費電力となっていたCoffee Lake-Sだが、Core i7-8700KがCore i7-7700Kと近い温度を記録し、Core i5-8400がTDP 90W台の2製品より明らかに低い温度となっている。CPUクーラーの冷却性能を統一している今回の検証では、まさにTDPのスペック通りの結果と言える。
かつてはTDPからCPUの消費電力を推測できたこともあったが、現在のCPUにおいてTDPはあくまで熱設計電力であり、そこから消費電力を推測することはできないということがはっきり示された格好だ。
内蔵GPUの性能をチェック
続いて、Coffee Lake-Sが備える内蔵GPUの性能をチェックする。テスト機材などは以下の表の通り。
【表3】内蔵GPUテスト・機材一覧 | |||
---|---|---|---|
CPU | Core i7-8700K | Core i5-8400 | Core i7-7700K |
マザーボード | ASUS PRIME Z370-A (UEFI: 0408) | ASUS PRIME Z270-A (UEFI: 1009) | |
メモリ | DDR4-2666 16GB×2 (2ch、19-19-19-43、1.20V) | DDR4-2400 16GB×2 (2ch、17-17-17-39、1.20V) | |
内蔵GPU | Intel UHD Graphics 630 | Intel HD Graphics 630 | |
システム用ストレージ | Plextor PX-128M8PeG (128GB SSD/M.2-PCIe 3.0 x4) | ||
アプリケーション用ストレージ | OCZ VTR180-25SAT3-480G (480GB SSD/SATA 6Gbps) | ||
電源 | 玄人志向 KRPW-TI700W/94+ (700W 80PLUS Titanium) | ||
CPUクーラー | サイズ 風魔 (SCFM-1000) ※ファン制御80%(約1,200rpm) | ||
グラフィックスドライバ | 22.20.16.4758 | 22.20.16.4771 | |
OS | Windows 10 Pro 64bit (Ver 1703/Build 15063.632) | ||
電源プロファイル | 高パフォーマンス | ||
室温 | 約27℃ |
Coffee Lake-Sが備えるGPUの基本的な設計はKaby Lake-Sを踏襲しており、Core i7-8700KとCore i5-8400が備える「Intel UHD Graphics 630」の規模は、Core i7-7700Kが備える「Intel HD Graphics 630」とほぼ同程度となっている。ただし、Core i5-8400のGPUは実行ユニットの数が23基に減らされている。
【表4】CPUの内蔵GPU仕様 | |||
---|---|---|---|
モデルナンバー | Core i7-8700K | Core i5-8400 | Core i7-7700K |
製造プロセス | 14++ | 14+ | |
マイクロアーキテクチャ | Coffee Lake-S | Kaby Lake-S | |
内蔵GPU | Intel UHD Graphics 630 | Intel HD Graphics 630 | |
GPU実行ユニット | 24 基 | 23 基 | 24 基 |
GPUクロック (最大) | 1.20 GHz | 1.05 GHz | 1.15 GHz |
対応メモリ | DDR4-2666 (2ch) | DDR4-2400/DDR3L-1600 (2ch) |
各CPUの内蔵GPUで3DMarkを実行した結果、最もGPUクロックが高く、VRAMとして利用されるメインメモリの動作クロックも高いCore i7-8700Kが最高スコアを記録している。次点はCore i7-7700Kで、Core i7-8700Kとのスコア差は約4~12%。
最もスコアが低いのはCore i5-8400で、Core i7-8700との差は9~24%、Core i7-7700Kとの差は5~11%となっている。
ファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター ベンチマークでも、Core i7-8700Kが最高スコアを記録。Core i7-7700Kに約6%、Core i5-8400には約11~16%の差をつけた。
以下のグラフは、TMPGEnc Video Mastering Works 6で、内蔵GPUが備えるQuick Sync Video(Intel Media SDK Hardware)を利用し、動画のエンコードを実行した際の処理時間を比較したもの。
Core i7-8700KとCore i5-8400の比較では、H.264形式とH.265形式でそれぞれ1秒ずつCore i7-8700Kの方が早く処理を終えているが、これはほぼ差のない結果とみても良いだろう。
一方、Core i7-7700KはH.264形式への変換ではCore i7-8700Kと同じ処理時間だったが、H.265形式への変換ではCore i7-8700Kより5秒早く処理を終えている。Core i7-7700Kの方が約1割高速という結果だが、GPUのスペックから考えると不可解な結果だ。今後ドライバやソフトウェア側のアップデートによって、Coffee Lake-Sの性能が改善される可能性はありそうだ。
内蔵GPUで各ベンチマークテストを実行した際の消費電力を測定した結果が以下のグラフだ。
ピーク消費電力に関してはCore i7-8700Kが最も高い。これはGPUの消費電力の差だけでなく、CPU側の消費電力の差も少なからず影響した結果である。
マルチスレッド性能とコストパフォーマンスが飛躍するCoffee Lake-S
Coffee Lake-Sの登場により、Intelのメインストリームプラットフォーム最上位CPUは4コア8スレッドから6コア12スレッドに引き上げられ、マルチスレッド性能は最大で1.5倍近く向上することになる。これにより、第8世代Coreプロセッサは、同価格帯のAMD Ryzenと同程度のマルチスレッド性能を得ることになる。
最上位のCore i7-8700Kは、Ryzen 7 1700と同程度のマルチスレッド性能を持ちながら、Core i7-7700K以上のシングルスレッド性能を持つCPUだ。動画やCGの制作からPCゲーミングなど、用途を問わず性能を求めるユーザーにとって魅力ある選択肢となるだろう。
また、182ドルのCPUでありながら、Core i7-7700Kに迫る性能を持つCore i5-8400のコストパフォーマンスも強烈だ。最上位モデルの大幅な性能向上に伴い、下位モデルの性能も大きく強化されたCoffee Lake-Sでは、ラインナップ全体のコストパフォーマンスが飛躍している。
既存のLGA1151対応マザーボードが使えないという欠点はあるが、Coffee Lake-Sにはマザーボードを新調するに値する価値がある。国内でも早期の発売を期待したい。