dynabookブランドで投入されるネットブックの意味
東芝は、従来まで発売していたネットブック「NB100」に替わる、ネットブックの新モデル「dynabook UX」シリーズを、4月24日より発売した。今回、ついに同社ノートPCの冠ブランドである“dynabookシリーズ”としての投入となったことで、ネットブックに対する東芝の考え方が大きく変化したものと思われる。
そこで、東芝PC&ネットワーク社PC第一事業部PCマーケティング部マーケティング担当グループ長の荻野孝広氏、東芝デザインセンター情報機器デザイン担当グループ長の島野健二氏、東芝デザインセンター情報機器デザイン担当の二宮正人氏に話を聞いた。
●NB100で市場を探り、満を持して本格投入これまでの日本市場では、モバイルノートに限って見れば、多少価格が高くても、薄く軽く、スペック面にも妥協のない製品が高く評価されることが多かった。事実、機能を削って価格を抑えたモバイルノートは、あまり成功した試しがなかったように思う。
しかし2008年に入り、その状況が一変した。Webアクセスやメールなどに用途を絞って機能をそぎ落とすかわりに、実売価格が5万円台という低価格を実現したネットブックの台頭だ。2008年後半には、ノートPC全体の2~3割を占めるほどにまでネットブックの市場規模が拡大し、もはやノートPCの1ジャンルとして確立されたと言ってもいいだろう。
株式会社東芝 PC&ネットワーク社 PC第一事業部 PCマーケティング部 マーケティング担当 グループ長 荻野孝広氏 |
そういった状況の中、日本の大手PCメーカー初のネットブックとして発売されたのが、東芝の「NB100」だった。「東芝としては、ノートPCについては、できる限りお客様のニーズに応えるべくラインナップを用意していくというスタンスですので、市場規模が拡大した以上、我々もネットブックを提供しようという判断で、NB100を出しました」(荻野氏)。
ただ、荻野氏が「いきなり上位のシェアを取るのではなく、まずは出す、という点を重視した」と語っていたように、NB100は、どちらかというと、市場を探るために出した製品というのが正解だったようだ。
とはいえ、「大規模なPRは行なっておらず、(ネットブックの)市場構成比並の販売を想定していて、その見込み通りの売れ行きを示した」(同)ことで、その時点である種の手応えを感じ、「より果敢に、ターゲットの市場にチャレンジしていく」(同)ために、今回dynabookブランドでの本格投入となった。
ちなみに、東芝にはdynabook以外に、librettoというミニノートのブランドがある。ネットブックはミニノートのカテゴリに近い存在であり、当然librettoブランドで投入するという選択肢もあったはずで、実際に議論もあったそうだ。ただ、librettoは、フル機能のノートPCを、手のひらに乗るサイズに詰め込んだマシンというコンセプトがベースにあり、特定用途に限定したネットブックとはコンセプトが異なるということで、librettoではなく、dynabookブランドに落ち着いたそうだ。
株式会社東芝 デザインセンター 情報機器デザイン担当 グループ長 島野健二氏 |
現在のネットブックのシェアは、台湾メーカーの製品が上位を占めている。これは、ネットブックはスペック面での違いがほとんどないために、購入するユーザーの多くが、製品のブランドではなく、価格を最も重視して製品を選択しているからだ。東芝の市場調査でも、当然同様の結果が得られたそうだ。しかし、品質やデザインなどを重視する意見も増えてきているそうで、ネットブックも徐々にニーズが多様化してきている。そこで今回、dynabookブランドとしての投入となったのは、dynabookで好評なデザインや使い勝手、品質を武器にして、多様性に対応する、という意味もあるそうだ。
実際、dynabook UXを見ると、デザイン面など他の製品との違いがかなり見えてくる。その顕著な部分がキーボードだ。
dynabook UXでは、dynabookシリーズとして初となる、キー独立型キーボードを採用している。「ネットブックは構成要素が少ないので、デザインがシンプルになる。その中で差別化を出すためにキーボードに着目した」と島野氏。dynabook UXは、液晶が10.1型ワイドになったことで本体も大型化され、サイズ的に余裕が出た。そこで、使い勝手のいい配列をベースに、スタイリングを重視してデザインを追求した結果たどり着いたのが、このキー独立型キーボードだった。
株式会社東芝 デザインセンター 情報機器デザイン担当 二宮正人氏 |
ただし、キーボードのデザインを担当した二宮氏によると、結構反対もあったそうで、「ダメもと」だったそうだ。それでも、液晶面を開けたときの顔になるというデザイナーとしての意見を貫きつつ、使い勝手を損なわずにデザインしたことが、採用につながったそうだ。
また、ヒンジ部分が左右を貫く丸いデザインになっている点も、これまでのdynabookにはないものだ。これは、「本体を薄くするためと、インナーの詰まり感を出すため」(二宮氏)に採用している。バッテリを上方に配置する空間を確保することと、ヒンジを丸くして左右に貫くことで、パームレストをゆったり取るために奥ギリギリに配置したキーボードと、液晶との間にボリューム感が欲しかったからだそうだ。また、「材質を横に抜ききる」というテーマを掲げて、ヒンジ部分やキーボードを左右に抜ききるようなデザインにすることも念頭にあったそうだ。他社のネットブックにも近いデザインのものがあるため、かなり議論になったようだが、丸いヒンジを採用して単純に目立たせるためではなく、あくまでも全体のデザインを考えての採用である。
ところで、dynabookシリーズでは、光沢のボディの製品が多いが、今回のdynabook UXは、外観に手触りの良いストライプテクスチャが採用されている。島野氏によると「今回は、一般ユーザーの方に広く使っていただけるモバイル機として、見た目だけでなく手にした感触の良さにも着目して、このデザインを採用した。また、企画段階からあったカラーバリエーションの展開性も考慮し、カバーの色や質感に関しては複数の可能性を検討した」ということだそうだ。当初はスノーホワイトとサテンブラウンの2色展開だが、今後カラーバリエーションは増える可能性が高そうだ。
スタイリングを追求したキー独立型のキーボード | ヒンジ部分も丸いデザインとした |
●必要な部分にはコストをかけてdynabook品質を盛り込む
ネットブックは安価な販売価格を実現するために、さまざまな部分でコストダウンを行なう必要がある。しかし、dynabook UXでは、必要な部分にはしっかりとコストをかけ、またこれまでのdynabookで培った技術もフィードバックさせて、dynabook品質を実現している。
例えば、使い勝手という点では、19mmピッチを確保したキーボードに、面積が広くクリックボタンもパッド下に配置されたタッチバッドの搭載などが挙げられる。また、品質という点では、NB100でも好評だった、表示品質に優れるClear SuperView液晶の採用や、落下など外部の衝撃からHDDを守る3次元加速度センサーの搭載などがある。特に、持ち歩くことの多いネットブックだからこそ、3次元加速度センサーの搭載にはこだわったそうだ。加えて、他のdynabookシリーズと変わらないサポートが受けられるという点は、安心感という意味で非常に心強い。
さらに、オプションの大容量バッテリを利用すると、10時間という長時間の駆動が可能となっているが、ここには、dynabook SSで培った省電力技術が盛り込まれている。
このように見ていくと、同じネットブックというカテゴリでも、他社の製品とは違う、またNB100とも違う次元の品質が実現されていると言っていい。荻野氏も「こういうところがdynabook」と語っていたが、ただ単にブランドをdynabookに換えただけではないことがよくわかる。
ちなみに、発表時の店頭予想価格は6万円前後とされ、実際に登場直後はそういった価格で販売されていた。しかし、既に5万円を切る価格で販売するショップも現れており、価格で競合するネットブックに見劣るということもなくなりつつある。
惜しむらくは、既にネットブック市場の伸びが鈍化傾向にあるということだ。欲を言えば、NB100の時期に投入してもらいたかったが、それでもdynabookブランドを冠し、満を持して投入されたdynabook UXは、今後のネットブック市場で大いに注目される存在になることは間違いなさそうだ。
(2009年 5月 8日)
[Reported by 平澤 寿康]