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完全デジタルPWM電源となった「MSI Z87 MPOWER MAX」フォトレビュー

Z87 MPOWER MAX
発売中

価格:オープンプライス

 エムエスアイコンピュータージャパン(MSI)から、オーバークロック向けのHaswell対応マザーボード「Z87 MPOWER MAX」が発売された。発売からやや間が開いてしまったが、本製品をお借りすることができたので、写真を中心にレポートをお届けしたい。

 本製品は、Intel 7シリーズまでで言う「Big Bang」シリーズの後継モデルだ。Big Bangという製品名こそ取られたが、シリーズの伝統でオーバークロックに特化したハードウェア装備を継承している。

 同社のZ87を搭載したオーバークロック向け製品は、下位モデルとして「Z87 MPOWER」、上位モデルとして「Z87 XPOWER」が用意されており、本製品を合わせると合計3モデルの投入となっている。店頭予想価格は前者が29,800円、後者が54,800円前後。一方、本製品は34,800円前後で、ちょうど真ん中に位置するモデルとなる。

従来から一新した電源回路

 まずはパッケージを見ていこう。カーボンのような黒ベースの箱に、黄色の「M」のアルファベットを大きくあしらったパッケージで、非常にインパクトがある。店頭で並んでいてもすぐに本製品を見つけられるだろう。Mの字は見開きになっており、機能の説明とともに内部が一部覗けるようになっている。

 以前にレビューした、実売で2万円を切る「Big Bang Z77 MPower」とは異なり、本製品は実売で3万円台半ばのハイエンドモデルということもあり、付属品は非常に豊富だ。

 I/Oバックパネル、ドライバDVD、マニュアルに加え、SATAケーブルが6本、eSATAケーブルが1本、拡張スロット用USB 3.0×2ブラケットが1個、拡張スロット用SATA→eSATA変換+電源ブラケットが1個、外付けHDD用eSATA電源ケーブルが1本、専用無線LANモジュールが1個、無線LANアンテナが2本、テスター用ケーブルが4本、簡易ピン接続用コネクタ「Mコネクタ」が2個、SLIケーブルが1本、オリジナルのエンブレム、そしてドアノブに掛けられる「BUSY BREAKING WORLD RECORDS」(ワールドレコードを破るために忙しい)、「OUT BUYING LN2」(液体窒素を購入するために外出しています)と書かれた札が付属している。価格に見合うだけのモノは付属しており、満足度は高い。

 マザーボード本体は従来と同様、黒を基調とし、ヒートシンクやオーディオチップのカバーに黄色のストライプや文字をあしらったデザイン。スロットや固体コンデンサ(DARK CAP)なども黒で統一されており、精悍なイメージとなっている。Z77 MPowerでは固体コンデンサが本来の色(銀色+青)をしていたので、洗練されたと言えよう。

Z87 MPOWERのパッケージ
Mの文字が見開きとなっている
上位モデルらしい豊富な付属品
Z87 MPOWER本体
本体裏面
MILITARY CLASS 4やNVIDIA SLI/AMD CrossFireXのロゴは背面にシルク印刷されるようになった

 本製品が従来と異なる最大の特徴は、CPUの電源回路に完全なデジタル方式を採用したことだ。これまで同社のマザーボードの電源は、「ハイブリッド・デジタル・パワー」と呼ばれ、アナログコントローラを基本としながらも、プログラマブルマイクロプロセッサを採用し、デジタルPWMと同様のユーザーによる各種コントロールと、滑らかな省電力コントロールを両立させていた。これが新製品では完全なデジタル方式に切り替えられた。

 その肝となるのがInternational Rectifier(IR)製のPWMコントローラ「IR3563B」だ。オーバークロック/ゲーミング向けとされており、IntelのVR12/VR12.5規格に準拠。8フェーズまで対応でき、1フェーズあたりのスイッチング速度は200kHz~2MHzなどとなっている。

 MOSFETは、ハイサイドMOSFET+ローサイドMOSFET+MOSFETドライバが一体となっているDrMOSではなく、よく見かけるタイプのMOSFETとなっている。今回は、上位のZ87 XPOWERで、さらに新しくなった「DrMOS 4」を採用しているので、低価格な本製品では採用を見送った格好だ。本製品のフェーズ数は合計20フェーズとされている。

 今回の電源回路の変更はユーザーのフィードバックを受けて実施されたとのことだ。Intel 7シリーズチップセット世代で、GIGABYTEを始め、多くのメーカーがオーバークロック向けモデルでデジタル方式に切り替えたが、MSIだけはアナログ方式を基本とした設計だった。今回デジタル方式に切り替わったことで、少なくともオーバークロック競争をする際に“コントローラが同じ土俵の上に立った”わけで、「このコントローラが原因でクロックが伸びない」という言いわけができなくなった。残りは、基板を含む電源回路自体の設計力、BIOSのチューニング力、そしてユーザーのスキルに託されたわけだ。

 基板は6層の「OC PCB」を採用。電源と信号の層が分離したため、効率と性能が向上したという。CPUソケット周りのタンタルコンデンサ「HI-C CAP」、コイル「SUPWER FERRITE CHOKE」は健在で、高効率や長寿命を謳う「MILITARY CLASS 4」に準拠。この高品質部品と新設計のデジタル電源回路の組み合わせも、オーバークロック時における安定性に一役買っている。

完全デジタル化したPWM電源回路。20フェーズ構成となっている
電源回路の規模は大きく、背面にまで実装が及ぶ
裏面ソケット付近に配置されたタンタルコンデンサ
CPUへの電源供給を強化するため、12V補助用8ピンコネクタを2基装備する
メモリのPWM回路と思われるが、整然としている

 オーバークロックに配慮した機能面も特筆すべきだろう。電源ボタンやリセットスイッチをオンボードで備えているほか、クロックや倍率の変更をオンボードのボタンで行なえる「Direct OC」、バックパネルでCMOSクリアが可能なボタン、バックアップ可能な「Multi-BIOS II」、POSTコードが表示できる「DebugLED」、そしてテスターで各種電圧が計測可能な「V-Check Points」を装備。

最下部に電源やリセットボタン、Direct OCボタンなど、オーバークロックに便利なボタンを装備
24ピンメイン用コネクタ付近に、V-Check Pointsを装備
デバッグLEDを装備し、問題箇所をすぐに判断できる。その下の「オーバークロックFASTB1」は、電源を投入し自動的にBIOSに入る機能

 このあたりは従来からもあるのだが、ソフトウェア面では新たにIntel純正の「Extreme Tuning Utility」に対応し、クロックや電圧、ファン速度や電圧、温度の監視などが行なえる。また、オリジナルの「MSI Command Center Lite」を用意。従来のCommand Centerから軽量化し、システムリソースをなるべく使用しないようになったことで、ベンチマーク結果に与える影響を最小限に抑えた。まさに1の差のスコアが重要となる、ワールドレコードを取得するための仕組みだと言えるだろう。

 BIOSも「Click BIOS 4」となり、ファン回転数や温度をグラフで監視できる機能や、各スロットの使用状況をグラフィカルに表示する「Board Explorer」、OCプロファイルの設定の違いを比較しながら適用できる「OC Profile Preview」機能などを搭載した。

 このように、ハードウェア/ソフトウェアともにオーバークロック向けにさらに進化したのが印象的だ。

常用やゲーミングも配慮した充実な装備

 オーバークロックの世界記録獲得を視野に入れた設計のマザーボードだが、一般的な用途、そしてゲーミング用途向けのデバイスも充実している。

 SATAポートは、Z87チップセットが持つ6基のSATA 6Gbpsに加え、ASMediaの「ASM1061」により、2基の6Gbps SATAポートを追加搭載。Z77では6Gbps対応ポートが2基のみだったので、機能強化されたことになる。また、PCI Express x16スロット間に、mSATAスロットを搭載し、6GbpsのmSATA SSDを増設できる。なお、このスロットは5基目のSATAポートと排他利用となっている。

 USB 3.0は、Z87チップセット内蔵機能をピンヘッダのみとし、バックパネルはASMediaの4ポートホスト「ASM1074」と、ルネサス エレクトロニクスの2ポートホスト「μPD720202」を利用。ピンヘッダを利用すれば合計10基ものUSB 3.0ポートを得ることができる。USB 2.0はZ87内蔵機能のみで、バックパネルに2基、ピンヘッダに4基分を用意。ピンヘッダのうち2基は、出力を高めた「Super Charger」に対応する。

 オーディオコーデックは、Realtek最新の「ALC1150」を採用。回路を完全に分離した設計を採用するほか、コーデックにEMIシールドを施し、ノイズを低減させた。TI製オペアンプ「OPA1652」やオーディオ向けコンデンサを採用することで、音質や出力を高めた。ヘッドフォンは600Ωまで対応できる。また、ステレオミニジャックはすべて金メッキが施されている。なお、分離部分は背面のLEDで透けて光るようになっている。ソフトウェアも、Creativeの「Sound Blaster Cinema」に対応させ、Sound Blasterシリーズで提供されているSBXの各種機能が利用できる。

 オーディオ部のPCBを切り分ける設計は、ASUSの「Maximus V GENE」が先駆けだと思われるが、Intel 8シリーズになって多くのメーカーが採用するようになった。新規にPCを組む場合、別途サウンドカードを購入するユーザーはすでに少なくなってきていると思うが、このような高音質設計の採用が進めば、サウンドカードの市場はさらに縮小するだろう。

 ネットワークが充実している点も、本製品の特徴だ。有線LANはQualcomm Atherosの「Killer E2200」を採用。低レイテンシや低CPU負荷を謳うネットワークコントローラで、多くのゲーミング向けマザーボードに採用されている実績がある。

 IEEE 802.11b/g/n無線LANとBluetooth 4.0+LEに対応したIntelの「Centrino Wireless-N 2230」をモジュールの形で提供している点もユニーク。オーバークロック時の有用性はともかく、一般的な用途においては便利だろう。IntelのWiDi(Wireless Display)に対応しているのもトピックの1つで、TVに繋げるアダプタを別途用意すれば、無線経由で画面を映し出せる。

 このほか、1基のDisplayPort、2基のHDMI出力など、ディスプレイ周りも充実しており、4K解像度の出力のサポートも謳われている。グラフィックスはAMD CrossFireとNVIDIA SLIに両対応し、CPU内蔵グラフィックスとディスクリートGPUを協調動作させるLucidlogixの「Virtu MVP 2」もサポートする。

 このように、オーバークロックに準じた設計ながらも、一般的な用途、およびゲーミング用途でも有用な装備が充実しており、本機を通常のハイエンドモデルとして常用したいユーザーにも応えられる製品となっている。

内部の8基のSATAポートはすべて6Gbps対応
拡張スロットの配置。PCI Express x16形状は3本で、全部使用するとx8+x4+x4動作となる。PCI Express x1のスロットの3番目と5番目は排他
mSATAのスロット。SATAポートの5番目と排他利用となる
オーディオ部とKiller E2200。コーデックはEMIシールドの下に隠されている
正面からだとわかりにくいが、裏から見るとオーディオ部のPCBはマザーボードのほかの信号とは別で切り分けられているのがわかる。それに沿う形でLEDが配置されている
ルネサス エレクトロニクスのUSB 3.0ホスト「μPD720202」
バックパネルのインターフェイス。PS/2を除けばレガシーフリーとなっている
Intel Centrino Wireless-N 2230のモジュール。独自のピンヘッダで接続するようになっている
チップセットのヒートシンク。ヒートシンク本体はマットな仕上げ、黄色のラインは別部品で光沢のある仕上げで、なかなか凝っている

オーバークロック常用に向くモデル

 以上、簡単に概要を見てきたが、“MPOWER MAX”という名前を冠している通り、Z77 MPowerから大幅な強化が図られ、単純なオーバークロック向けモデルとしてだけではなく、多くの機能を求められるハイエンドマザーボードに仕上がっていることがわかる。これだけの機能を、競合では多いSSI-CEBのサイズではなく、ATXのスタンダードサイズに収めたのだから立派だ。また、コンデンサの色など細かい点でも洗練され、“POWER”シリーズのブランドをほぼ確立させたと言えよう。

 MPOWERシリーズは、本来空冷環境下でもKシリーズをオーバークロックした状態で長時間運用できることをコンセプトとした製品だ。そのため、オーバークロックした状態で24時間負荷をかけ続けるといったプロモーション活動を始め、独自のオーバークロックストレステスト「OC Certified」をクリアする基準を設けている。しかし従来製品は、オーバークロックをした状態で運用するパワーユーザーにとって、周辺部でやや物足りない部分があったことも確かだ。新製品ではそのネックが解消されていると言える。

 Haswellをオーバークロックし、高負荷がかかる環境下で長時間運用したいといったパワーユーザーにとって、うってつけの製品だと言えるだろう。

(劉 尭)