写真で見るMSIの低価格OC向けマザー「Big Bang Z77 MPower」

Big Bang Z77 MPower

9月8日 発売
価格:オープンプライス



 エムエスアイコンピュータージャパン(MSI)から、極冷オーバークロック(以下OC)向けに設計されたATXマザーボード「Big Bang Z77 MPower」(以下Z77 MPower)が9月8日より発売される。今回製品の発売に先立って短期間お借りできたので、外観写真を中心にレポートをお届けする。

 8月に入ってから、液体窒素やドライアイスなどを使った極冷OC向けを謳うマザーボードが多数登場した。ASUSTeKの「Maximus V Extreme」から始まり、ASRockも“同社初でOCに特化した”「Z77 OC Formula」を投入。今回のMSIのZ77 MPowerはそれらに続く3製品目となる。

 Z77 MPowerのほかの2製品に対して大きいアドバンテージは“価格”の一言に尽きる。Maximux V Extremeは実売39,800円前後、Z77 OC Formulaは実売25,800円前後であるのに対し、Z77 MPowerは店頭予想価格が19,800円前後と、メインストリームよりやや上の価格帯を狙った製品であり、OC向けの実装をしながら価格を大幅に抑えたのが特徴だ。

●低価格の秘密とは

 実のところMSIの「Big Bang」シリーズは、オーバークロッカーおよびゲーマー向けのブランドである。ASUSTeKで言えば「R.O.G.」シリーズ、GIGABYTEで言えば「G1-Killer」シリーズが対抗ブランドとなる。Intel X79 Expressチップセット採用製品としてすでに「Big Bang-XPower II」が投入済みであるが、Z77 MPowerはその下位製品という位置づけだ。

 低価格を実現した理由を探るべく、まずはパッケージから見て行こう。バックパネルやマニュアル、ドライバDVDは当然付属するものとして、SATAとケーブルは6ポート用意されているのに対し4本、マルチGPU用コネクタはSLIケーブル1本のみに絞られている。またオンボードで搭載する無線LAN用のアンテナや、Vチェックポイントのテスター接続用ケーブルは付属しているものの、残りは同社の数千円レベルの製品にもある、フロントパネルのスイッチやLED類を簡易的に接続できるMコネクタのみだ。

Z77 MPowerのパッケージ見開きになっており、製品概要などが説明される。この時点ではマザーボード本体が見えない
パッケージには誇らしげにWindows 8対応を謳うロゴが印刷されているパッケージの内容

 マザーボード本体に目を移すと、光沢がなくマットな質感の基板で上質感を出しているとともに、CPU電源周りを除く残りの部分は非常にシンプルな実装になっていることが伺える。例えばストレージインターフェイスはZ77チップセットが提供しているSATA 6Gbpsが2基、SATA 3Gbpsが4基のみで、この価格帯では一般的となっているMarvellのSATA 6Gbpsホストコントローラ「88SE9172」の搭載はない。

 また、USB 3.0はバックパネルで6基、フロントで2基提供されているが、バックパネルの2基とフロント2基はZ77チップセット内蔵機能によるもの、バックパネルの残りの4基はルネサス エレクトロニクスの「μPD720201」によって実現されている。この価格帯では8基以上搭載しているのも珍しくはないだろう。

 さらに言えばGigabit EthernetコントローラはRealtekの「RTL8111E」、オーディオコーデックは同じくRealtekの「ALC898」であり、回路へのこだわりも特に見られない。このあたりは「ゲーマー向け」と呼ぶにはいささか無理がある部品チョイスと言えるだろう。

SATAはチップセットで提供されている6ポートのみルネサス エレクトロニクスの4ポートUSBホストコントローラ「μPD720201」
RealtekのGigabit Ethernetコントローラ「RTL8111E」RealtekのHDオーディオコーデック「ALC898」

 細かいところで言えば、本製品はPCI Express x16形状のスロットを3基装備しているが、レーンを拡張するブリッジチップは一切装備されておらず、CPUから出ているx16レーンを分配するだけの仕組みを備えている。Ivy Bridgeではx8+x4+x4に分配できるため3枚のカードを同時利用できるが、Sandy Bridgeだとx8+x8にしか分配できず、最下段のスロットが利用できないため、注意が必要だ。

 本製品にあって他製品にない装備と言えば、背面の無線LANとBluetoothモジュールぐらいだろう。しかし、バックパネルの位置から想像するに内部的にはUSB接続であり、このあたりは既に単体売りでも1,000円を切るようなレベルになっているため、大したコスト増にはならないはずだ。

拡張スロットの配置。最下段はIvy Bridge利用時のみ使用できるバックパネルに装備される無線LANとBluetoothのアダプタ

 とは言え、極冷のOC環境では、SATA 6GbpsのチップやUSB 3.0コントローラが低温環境で安定せず、CPUクロックの伸びの足かせとなってしまう場合もあり、結局のところOC時にBIOSでOFFにするオーバークロッカーも少なくないという。「どうせOFFにしてしまうぐらいなら、最初から積まないほうが低価格でオーバークロッカーに喜ばれる」という設計思想なのだろう。

●OC向け装備はかなり充実

 価格を抑えた周辺とは対照的に、オーバークロック向けの実装は非常に充実している。まず、CPU周りではデジタル+アナログの良さをいいとこ取りしたという「Hybrid Digital Power」を装備。採用されているPWMコントローラはあまり目にしないuPI Semiconductor製の「uP1618A」で、製品情報を見る限り6+2フェーズのコントローラだが、それ以上のことはあまり書かれていないため詳細は不明だ。本製品では合計16フェーズになっているようだ。

 VRM電源回路には、ルネサス エレクトロニクスの「DrMOS II」のブランドで知られる「R2J20655NP」を採用。DrMOSはハイサイドMOSFETとローサイドMOSFET、そしてMOSFETドライバを1チップに集約し効率を高めた製品で、データシートによれば1MHzの高速駆動や、1チップあたり35Aの電流に対応するとされている。また、115℃になったときには警告LED、130℃に達した時は自動的にシャットダウンする機能を備えているので、過度のOCによってそのまま焼損してしまうことを防げるのも、初心者には心強い。

 チョークコイルは高効率を謳う「SFC(スーパーフェライトコア)」、またCPU周りには耐久性に優れるタンタルコアコンデンサ「Hi-C CAP」、そのほかの部分についてもアルミ固体コンデンサを採用。メインストリームのマザーボードシリーズと同様「Military Class III」への対応を謳っており、第三者機関による品質保証シートも添付されている。

CPUソケット周辺の実装合計16フェーズのVRM回路。SFCやHi-C Capが採用されている背面はなにも実装されておらず、あっさりしている
VRMヒートシンクを取り払ったところuPI Semiconductor製のVRMコントローラ「uP1618A」ルネサス エレクトロニクスのDriver-MOSFET「DrMOS II」こと「R2J20655NP」

 このほか、システムに搭載されているCPUやメモリにあわせて自動オーバークロックを行なう「OC Genie II」を装備し、基板上にもOC Genieのボタンを装備。押下すると動作するようになっている。また、新たに予め設定したオーバークロック設定を一発で適用する「My OC Genie」を装備したのもトピックだと言えるだろう。

 テスターで電圧を計測できる「Vチェックポイント」も、極冷では常時電圧を気にしなければならないオーバークロックに必須の装備である。その一方で全端子がPWMファン対応というのも、空冷ベースのオーバークロッカーにとって嬉しい装備と言える。当然ながら、BIOSのPOSTコードを表示できる7セグメントLEDも装備。一般的な製品だと起動後消灯したり、完了したというPOSTコードを表示したままになっていることも少なくないが、MSIの製品では起動後CPUの温度を表示してくれるので、実装が無駄になることもない。

 BIOS周りでは、Deleteキーを押さずとも、押すことで起動して自動的にBIOSに入れる専用スイッチ「GO2BIOS」を装備。OCに失敗して再起動するときに必ずBIOSに入って設定するオーバークロッカーにとって「なぜ今まで装備しなかった」と不思議に思うぐらい便利な機能と言える。BIOSのROMチップも2基備えており、いざ片方が故障しても起動できるし、異なるバージョンのBIOSをストックすることも可能だ。例えOCなどでBIOSが故障しても、USBメモリから修復できる「M-Flash」機能も心強いだろう。

オンボードのOCスイッチ「OC Genie II」。電源やリセットスイッチも見えるテスターで各種電圧が計測できる「Vチェックポイント」とPOSTコード表示用7セグメントLEDBIOSを切り替えて使用できる機能と、一発で電源ONとともにBIOSに入る機能を備えたボタン
ヒートシンクを取り払うと素っ気ない基板になってしまう

 さて、本製品のビジュアルに最大の貢献をしているのが、チップセットとVRM部のヒートシンクだろう。同社のビデオカード「Lightning」シリーズのヒートシンクデザインを取り入れた直線的な黄色いラインは、シンプルながら見た目もよく、デザイン性の向上に一役買っている。

 またこのヒートシンクは見た目もさることながら、ヒートシンクとしての機能も優れていそうである。VRM部のヒートシンクがプッシュピンで留められている製品も少なくない中で、本製品は裏面からきちんとネジ止めされておりVRMにしっかり密着しているため、高い放熱効果が得られそうである。

 またヒートシンク自体も重量感があり、VRM部は8cmのヒートパイプで繋がれているため、放熱に余裕があるフィンに熱を伝えられる。ヒートシンクは中が空洞になっているが、資料によればこれは少ないエアフローでも効率的に冷やせるように設計した結果であるとされている。

VRM部の特徴的なデザインのヒートシンクチップセットのヒートシンクヒートシンクは空洞となっており、少ないエアフローでも効率的に冷やせるという
ヒートシンクは8mm経のヒートパイプでつながれているヒートシンクだけを取り外したところネジ止め方式で、きっちり密着しているように見える

●コストパフォーマンスの良い選択肢

 というわけで、本製品のハードウェアをメインに見てき。今回は限られた時間の都合でBIOSやソフトウェア面は試せなかったが、製品情報を見る限り従来製品からは大きく変更されていないようで、MSI製品を触ったことのあるユーザーなら不自由なく扱えるだろう。

 本製品の良さは一にも二にも、周辺をシンプルとしOCに特化した装備である。同社製品を価格帯で並べると、本製品より上位となる「Z77A-GD80」や、下位となる「Z77A-GD65」が用意されているが、これらにはThunderboltコントローラやMarvellによるSATA 6Gbpsの追加ポートなどが用意されており、OC性能よりも機能性を重視した実装だ。Z77 MPowerはオーバークロッカーやゲーマー向けを謳うBig Bangシリーズに属する製品だけあって、コストのかけ所が違うといった印象だ。

 さすがに4万円近くするMaximus V Extremeと比較すると、mSATAとMini PCI Expressカードが実装できる「mPCI Express Combo」カード、画面に情報をオーバーレイ表示する「OC Key」の付属、ビデオカードの電圧が取得できる「VGA Hotwire」、Kタイプの温度センサー接続口の装備がなかったりと、機能にかなりの差があるが、「これらを使わなくてもOCできる」OC上級者に好まれる仕上がりになっていると言えるだろう。

 最後となったが、本製品はMSIの独自規格「OC CERTIFEIED」に準拠し、OC時における独自のストレステストをクリアした製品になっている。そのため一般用途においても高い信頼性が期待できる。OC向けマザーの価格概念を覆す新基準となるだろう。

(2012年 9月 4日)

[Reported by 劉 尭]