「Wireless Trackball M570」はロジクールが2年弱ぶりに投入してきた新作トラックボールだ。ロジクールはM570を発売する直前まで、日本国内でトラックボールを3機種販売していたが、M570はそのうちの1つ「TrackMan Wheel(TM-250)」と同じ右手親指でボールを操作するタイプの機種だ。TrackMan Wheelは有線方式だが、実は無線方式の「Cordless TrackMan Wheel(CT-64UPi)」と呼ばれる機種も存在していて日本のロジクールでは現在扱っていないが、米国では現役だ。Cordless TrackMan Wheelは日本国内には約10年前に投入されたので、M570は10年ぶりの後継機種と言うこともできる。
M570が旧機種と比べて変わった点は多々あるが、一言で言うと搭載されている技術が最新のマウス製品と同等になった。今までは、変更と言ってもマイナーチェンジのみで、マウスのように新技術が取り入れられることもなく、時代に取り残されたかのような状態だったことを考えると、最新の技術をふんだんに取り入れたM570の登場は、ロジクールのトラックボール存続を印象付ける明るいニュースだ。
トラックボールは、マウスがマウス本体を動かしてポインティング操作を行なうのに対して、ボールを転がしてポインティング操作を行なう。そのため、ポインティング操作の際に手指にかかる負担はトラックボールの方が小さい。本体を動かさなくていいポインティングデバイスと言えば、ほかにタッチパッドがあるが、トラックボールはタッチパッドのように指先をこする必要がないので、タッチパッドよりも指先への負担が軽い。以上のように人間にかかる負荷が低いのがトラックボールの特長だ。加えて言うなら、マウスのように本体を動かさない分、同じくらいの大きさのマウスと比べると省スペースだ。
ただし、ボールを指で操作するため、細かな作業には向かない。汎用性ではマウスの方が上だ。
●M570の仕様それではM570の仕様について旧機種(CT-64UPi)と比較しつつ見ていこう。
M570はPCとの接続には同梱のUSBレシーバを使う。電波の到達距離は最大10m。電源は単3乾電池1本で、電池寿命は18カ月。旧機種と比べると、電波の到達距離は10倍になった。
レシーバはUnifyingに対応している。Unifyingは最大6台の対応機器を1つのレシーバに接続できる技術だ。ただし、まだ新しい技術なので、対応機器は少ないこともあり、実力を発揮できる場面は少ない。
対応OSはWindows XP/Vista/7とMac OS X 10.5以降。ソフトは同梱していないが、Windowsの場合であれば、PCのUSB端子にレシーバをつなげば、後は何もしなくてもPCが汎用ドライバをダウンロードしてきて使えるようになる。ただし、Macの場合や、ボタンのカスタマイズなど細かい調整をしたい時は、同社のWebサイトから専用のソフト「SetPoint」をダウンロードしてきてインストールする必要がある。
SetPointはロジクールがWebサイトで提供しているユーティリティソフトだ。Windowsであれば無くても使えるが、ボタンのカスタマイズや電池の残量確認をする際には必要になる。
ボールの大きさは34mmで変更なし。色は赤(赤地に黒点)から青になった。センサーはレーザーセンサーになり、解像度は300dpiから540dpiになった。ボタンは5個で、左右クリックとホイールクリックに加え「進む」「戻る」ボタンが増えた。ホイールは以前と同じ小口径のホイールだが回転時のクリック感が以前よりも小さくなった。
ボディについては、色がより黒に近いシルバーになった。形状は、鋭角的だった角が丸くなり、本体右端の滑り止めのゴム系パーツが無くなった。本体の大きさは95×145×45mm(幅×奥行き×高さ)、重量142gで変更は誤差レベルだが、レシーバはUSB端子大の大きさになり劇的に小さく軽くなった。
●M570の実際まずは全般について。M570は旧機種と比べると形状に大きな差はない。10年続いてきたデザインなので、あえて変える必要がないという判断なのだろう。だから旧機種から乗り換えても違和感無く使える。逆に言うと旧機種のユーザーは不満が無ければあえて乗り換える必要が無いということでもある。ただ、無線方式の旧機種を使っていた人は乗り換えた方がいいだろう。電波の到達距離、レシーバのサイズ、レシーバとのペアリングにかかる手間、どれをとっても大幅に改善されているからだ。ボタンが1つでも多く欲しい人も同様だ。
次に各部について筆者の所有するTrackMan Wheel(TM-250)との比較を交えつつ紹介する。
最も重要なボールについてだが、支持球の取り付け位置の精度が上がったのか、より滑らかに回転するようになった。ボールの取り外しについては、本体裏の穴が大きくなっており、ボールを外す時にペン類を使わず小指で押し出せるようになった。ただし、TM-250よりキツめに固定されており、取り外しの際、力が要るようになった。
左右クリックとホイールクリックはTM-250より固くなり、クリック音が大きくなった。特にホイールクリックの音は大きめだ。新たに追加された「進む」、「戻る」ボタンは、かなりやわらめで音も控えめだが、最低限のクリック感はある。ホイール回転時のクリック感はTM-250より弱くなっている。
ボディは、大きさ形状ともほぼ同じなので差は感じられない。右端の黒のゴムの滑り止めパーツが無くなったが、これについても使用感に大きな差はない。滑り止めパーツには、ゴミが付きやすいことや、経年劣化のことを考えると良い変更とも言える。
レシーバは、抜け落ち防止のためか、差し込み口に対してキツめで、USBポートから外しにくい。反面、電池入れ隣のレシーバ収納穴は、大した抵抗感もなく簡単に抜き差しできる。これはこれで使いやすいが、M570を裸で落とした時はボール、電池蓋とともに、収納したレシーバもバラけてしまう可能性が高い。持ち運ぶ時は蓋付きの収納にいれておいた方がいいだろう。レシーバについてはいっそPC本体に付けっぱなしの方が安全だ。
見た目は、本体の色のせいか全体的にチープになったように感じるが、TM-250と比べて悪くなったと感じられる点は無い。
ボールを外したところ。穴の四角の部分にレーザーセンサーがある。穴の周囲3つある白い球でボールを支える | TrackMan Wheel(TM-250)。外形寸法はM570とほぼ同じ。M570ではボタンが増え、右端のゴムパーツが省略された | レシーバは電池の隣に収納できる |
●まとめと感想
M570はロジクール久々のトラックボール新機種だ。2009年に、トラックボールではライバル的存在のケンジントンが新機種を投入したこともあり、「ロジクールはまだか」と待っていた人も多いのではないだろうか。出来に関してはすでに述べたように隙の無い仕上がりで、多くの人が満足できると思う。
特に、18カ月もの長期に渡って電池を交換せずに使用できる無線方式は素晴らしい。電池の存在を忘れさせてくれるくらい(有線方式の存在意義を揺らがせるくらい)便利なものだ。さらにレシーバが小型で邪魔にならないので、モバイル用途でも積極的に使っていける。トラックボールはマウスと違って本体を動かすことが無いため無線方式は不要だという考えを過去のものにしてしまうくらいのインパクトがある。
ただ1点残念だったのがホイールだ。高速スクロールができる大口径ホイールは今や珍しいものでは無い。小口径のホイールが時代遅れというわけでは無いが、できれば高速スクロールができるホイールが欲しかったところだ。やはり価格が壁になったのだろうか。だとするなら今後登場するかもしれない「Cordless Optical TrackMan(TM-400)」あたりの後継機に期待したい。
M570はマウスに近い感覚で使えるトラックボールだ。今までトラックボールを使ったことが無い人でもあまり違和感を感じることなく使える。だから、トラックボールを使ったことが無いけど興味はあるという人は、何はともあれ一度触ってみることおすすめする。
(2010年 10月 25日)
[Reported by 井上 繁樹]