特集

わが社はこうやってテレワークしています【VMware編】

~ライフワークバランスの改善で「平日の人生」を楽しむ

米国カリフォルニア州パロアルトにあるVMwareの本社は「ベイサイドで最も美しいキャンパス」と言われる。働きがいがある会社でも上位に入る

 ヴイエムウェア(VMware)は、2020年2月から、全社員を対象にした在宅勤務を実施している。同社がいち早く、全社員を対象にしたテレワークに取り組むことができた背景には、2017年9月からスタートしていたワークライフバイランスを促進させるための取り組みである「Work@Anywhere」の効果と、「VMware Workspace ONE」などの同社製品を活用して、「リモートファースト」の環境を整えてきたことがあげられる。

 短期集中連載「わが社はこうやってテレワークしています」の14回目として、ヴイエムウェアの取り組みを紹介する。

クラウドをつなぐ同社の役割

 ヴイエムウェアは、仮想化ソリューションの会社として知られる。だが、同社が掲げるVMware Visionにおいて、「Any Device、Any Application、Any Cloud」を打ち出しているように、昨今では、さまざまなデバイスやアプリケーション、クラウドを「つなぐ」役割を果たすことが同社ビジネスの根幹になっている。

 それにあわせて製品群も拡張しており、サーバー仮想化ソフトウェアの「VMware vSphere」、エンタープライズクラスのストレージ仮想化ソフトウェアである「VMware vSAN」、クラウド環境を含めて仮想マシンの管理を行なう「VMware Cloud Foundation」、ネットワーク全体をソフトウェアで定義する「VMware NSX」といった製品のほか、ここ数年は、Kubernetesに積極的な投資を行なっており、新たに「VMware Tanzu」を投入。新たに開発者との関係構築にも力を注いでいる。

 このように、現在、ヴイエムウェアのソフトウェアが対応する分野は、コンピューティング、クラウド、ネットワーク、セキュリティ、デジタルワークスペースなど多岐にわたり、これらのソリューションやソフトウェアは、世界中のデジタルインフラを支え、あらゆるクラウドや、あらゆるデバイス、あらゆるアプリケーションに対応したものとなっている。

 2015年には、デルが買収し、Dell Technologiesの一員として、製品面での連携を強化しているが、事業の独立性は維持し続けている。

 ちなみに、2012年からVMwareのCEOを務めているパット・ゲルシンガー氏は、IntelのCTOとして数々のCPUの開発に携わってきた。親日家としても知られ、Intel時代から頻繁に日本を訪れており、日本の状況にも詳しい。

ゲルシンガーCEO(右)は親日家としても知られる。デルの傘下でも独立性を維持している。左はマイケル・デル氏

2月から全面テレワークに移行。入社式や研修もオンラインで

 一方、日本法人であるヴイエムウェアは、2003年に設立しており、現在、東京・浜松町の本社と、大阪・梅田の西日本オフィスの2拠点体制となっている。

 ヴイエムウェアは、新型コロナウイルスの感染拡大が日本で見られはじめた2020年2月の時点で、全社員が在宅勤務を開始している。

 多くの企業に先駆け、いち早くこうした環境を実現できたのは、すでにテレワークを行なえる環境を整備していたからだ。

 同社では、2017年9月に、すべての社員を対象に、柔軟に仕事ができる環境を提供し、生産性の向上とワークライフバランスの充実を促進させる仕組みとして「Work@Anywhere」を開始。それ以降、ヴイエムウェアが提供しているクラウドソリューションやデバイス管理ソリューションなどの技術を、自らが活用して、社員が、場所を問わず、どこでも安全に、会社のアプリケーションにアクセスできる「リモートファースト」の環境を整えてきた。

 社員全員が、会社から支給されたPCやスマートフォンなどを所有。ヴイエムウェアが提供するデスクトップ/アプリケーション仮想化製品「VMware Horizon」や、あらゆる場所やデバイスから業務に必要なアプリケーションにセキュアにアクセスできるデジタルワークスペースプラットフォーム「VMware Workspace ONE」を使用。さらにビデオ会議ツールや統合オフィス製品など、日常の業務で慣れ親しんだツールをそのまま利用することで、全社員が在宅勤務に移行しても、通常時と変わらないパフォーマンスを実現できたという。

 また、4月1日付けで入社した新入社員の入社式や、2カ月間におよぶ新卒入社の社員を対象にした研修もオンラインで実施した。

 同社によると、「Work@Anywhereの導入以降、チームでの生産向上や離職率の低下、社員の満足度の上昇などの顕著な成果を達成してきた」という。

ライクワークバランスが改善。「平日の人生」を考えるように

ヴイエムウェアのジョン・ロバートソン社長は自分のスマホをみせて「Workspace ONE」のメリットを強調した

 ヴイエムウェアがWork@Anywhereを開始した翌年の2018年に、同社のジョン・ロバートソン社長と、新たな働き方について話をする機会があった。

 「私が2015年にヴイエムウェアの社長に就任したときには、まだ旧時代の働き方をしていた。残業が多く、会議が多い。自らが、MDMソリューションを持っているのにそれを活用していなかった」と振り返りながら、「そこで、自社製品を活用し、働き方改革を行ない、火曜日から金曜日までは、会社にこなくていいから、直接、お客様のところに行き、直接、家に帰ってもいいことにした」と語る。

 だが、最初は不安だらけだったという。

 「社員が誰も会社に来なくなり、私が出社すると、今日は休日かと思うほどの状況になっていた。最初は頭を抱えていまい、こんなことをしてしまって、本当に大丈夫だったのかと心配した」。

 しかし、結果として、その取り組みは正解だったという。

 「無駄な会議が減り、効率化ができ、顧客やパートナーと会う時間が増えた」からだ。

 「朝から満員電車に乗って出社して、疲れたままで、お客様のところに出向き、会社に戻ったらそのレポートを書き、遅い時間まで残業して、さらに一杯飲んで帰ると、1日が終わってしまう。しかし、朝は家でリモートワークをして、家から最短距離でお客様のところに行き、レポートもテレワークで行なえば、平日にも時間の余裕が生まれる。『平日の人生』という考え方ができるようになる」とする。

 Work@Anywhereによって、ワークライフバランスが改善したことにより、平日に映画を見たり、家族と過ごす時間を増やしたりといったことが可能になり、人生を楽しむ社員が増えたという。

 それをロバートソン社長は、「『平日の人生』を楽しめるようになった」と表現していたのが印象的だった。

 「社員が幸せになれば、顧客が幸せになる。顧客が幸せになれば、ビジネスがよくなる」というのが、ロバートソン社長の基本的な考え方だ。この数年間、新たな仕組みを導入、実践することで、それを証明してきたわけだ。

 また、この時点でロバートソン社長は、「もはや、技術の問題は解決している。エンタープライズレベルの信頼性を持ったアプリが存在し、モバイル環境であっても、セキュアな環境で利用できるようになっている」としながら、「最も大切なのは、会社が社員を信用することである。そして、トップの意思で、文化を変えなくてはならない」と語っていた。

 新型コロナウイルスの感染拡大で、多くの企業は、強制的ともいえるかたちで、在宅勤務を行なわざるを得なくなった。それによって、仕組みを変え、ルールを変え、文化を変えざるを得なくなった企業は少なくない。ロバートソン社長が、2年前に語っていたことが、想定しないかたちで、多くの企業が実行することになった。それが、いまの状況だともいえる。

モバイルファーストな働き方。PCよりスマホで承認

リモートファーストやモバイルファーストの働き方が浸透している

 現在、ヴイエムウェアでは、「モバイルファースト」に基づいた働き方や業務フローが浸透している。そのなかでは、社内のITチームが開発したモバイルアプリも使用されており、その使い勝手の良さは、社内でも好評だという。

 たとえば、社内電話帳アプリは、グローバル全体での社員情報が検索できるほか、ITサポートに関する質問やサポート依頼も、スマホから簡単に行なえる。

 マネージャー向けの承認管理アプリでは、購買システムなどとAPI連携。承認が簡単に行なえるため、社内では、PCよりもスマホで承認を行なうことが浸透しているという。

 かつて、ロバートソン社長は、「ゴルフ場で、ショットしたあとに、スマホで承認作業ができる」とジョークを交えて説明したことがあったが、外出先では、わざわざ喫茶店に入って、椅子に座ってPCを起動させて、ようやく行なえた承認作業が、スマホから行なえるようになったことで、電車での移動中に、吊革に掴まったままでも承認作業が可能になった。意思決定の迅速化は大幅に改善されたといえる。

 そして、これらの各種モバイルアプリは、社内のエンジニアが、続々と機能の追加と改善を行なっており、社員が気づかないうちに、より便利になっているという。

 また、Workspace ONE Intelligent Hubを通じて、デバイスを問わずに、これらのアプリにシングルサインオン(SSO)が行なえるのも特徴だ。アプリごとに個別のIDとパスワードを設定、操作することが不要で、パスワードの使い回しなど、セキュリティ上のリスクを減らしている。

Workspace ONE Intelligent Hub のUnified Application Catalog機能

仮想化によりセキュリティを担保しつつモバイルファーストな働き方を実現

 ヴイエムウェアのテレワークを支えているツールの1つが、デスクトップ/アプリケーション仮想化製品「VMware Horizon」である。

 クライアント端末で行なわれたキーボード、マウスの操作信号がサーバー側の仮想デスクトップに送られ、仮想デスクトップからは、その操作を反映した画面情報が端末側に返される仕組みとなっている。

 そのため、会社支給のPCでも、個人が所有しているデバイスを活用したBYODでも利用が可能で、社外にいても、社内と同じ環境で作業ができるようになっている。

 また、端末内にデータが残らないため、高いセキュリティを確保。VPNでなくてもアクセスができるため、大容量のファイル配信が行なわれたり、多くの社員の利用が集中したりする時間帯でも、VPNを逼迫したり、業務の効率を妨げたりすることがないというメリットがある。

 一方、メールやチャット、オンライン会議システムなどは複数のツールを使い分けており、社外の人とも柔軟なコミュニケーションを取れる体制を構築。リアルタイムでの情報共有と効率化を実現しているという。

 ヴイエムウェアでは、「Work@Anywhereを通じて、リモートファーストやモバイルファーストが浸透し、いつ、どこで、仕事をするかは社員各自の裁量に任されており、社員が自律的に、生産性の高い業務に取り組むとともに、積極的にワークライフバランスの充実を図る文化を醸成してきた。今後は、この文化をパートナーや顧客に広げ、社会での柔軟な働き方の浸透にも貢献していきたい」と語る。

 自らの製品を、自ら活用し、その一方で、社内にリモートファーストやモバイルファーストの文化を浸透させ、それを自ら実践してきた成果が、このコロナ禍で活かされたといえる。そして、アフターコロナ/ウィズコロナ時代においても、社内文化まで変えたヴイエムウェアの取り組みは、まさに手本になりそうだ。