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東大、4兆fpsで撮影可能な世界最高速のカメラを開発

~光を時間的・空間的に制御

STAMPカメラの構成

 東京大学らの研究チームは11日、4.37兆分の1秒毎(4.37Tfps)に画像を撮影できる、世界最高速の連写カメラを考案したと発表。そのプロトタイプも作成した。

 高速、あるいは短時間に起こる現象を観測するには、高速度に撮影可能なカメラが必要となる。しかし既存のカメラは、シャッターなどの機械的限界や、データ転送などの電気的限界から、撮影速度がナノ秒に制限される。ポンプ・プローブ法と呼ばれる、高速撮影手法もあるが、これは動画の作成にあたり繰り返し撮影が必要なため、一度しか起きない現象を捉えられない。

 そこで、東京大学大学院理学系研究科/日本学術振興会の中川桂一特別研究員、同大学院工学系研究科の佐久間一郎教授、慶應義塾大学理工学部の神成文彦教授、東京大学大学院理学系研究科の合田圭介教授らは、“デバイスの動作を速く”するのではなく、“最も高速な光をより遅く”するという逆の発想に基づく、新技術を開発した。

 Sequentially Timed All-optical Mapping Photography(STAMP)と呼ばれるこの技術は、まず超短パルス光源から発せられた広帯域のパルス光を、時間写像装置に送る。ここで、元々1つだったパルス光は、6つの異なる波長(色)のパルスに引き伸ばし、分けられる。これが光を遅くするとする所以だ。

 それぞれのパルス列(STAMP照明光)は、観察対象に次々に照射され、像情報を取得する。このとき、パルス間隔と、パルス幅は、既存のカメラのフレーム間隔と露光時間に対応するものとなる。

 これらの像情報を持ったSTAMP照明光は、今度は空間写像装置で波長に応じて空間的に分離され、イメージセンサーの異なる位置に入力される。つまり、動画の1コマがイメージセンサー全体を使うのではなく、イメージセンサーは6分割されて、異なるSTAMP照明光が撮影した像を記録する。時間と空間と波長の対応情況は分かっているので、後は異なる位置の画像を動画の1コマに再構成すれば、シングルショットでの超高速撮影が実現されるという具合だ。

 これにより、同チームは、4.37Tfpsで、フォノン・ポラリトンが形成・伝播する様子を捉えることに成功した。1フレームの撮影時間は229フェムト秒。既存のカメラの数十万~数百万倍高速で、229フェムト秒では、秒速30万kmの光が0.07mm程度しか進むことができない。

 このように超高速ダイナミクスを一度に連続的に撮影したのは、これが世界初となるが、さらなる高速化も容易なほか、今回は原理の実証目的で6フレームの撮影システムを構築したが、より多くの枚数を取得するものや、より高解像度なものも実現可能という。

 この撮像法により、生体組織・細胞での衝撃波伝播過程の解析、確率的に生じる量子効果の直接的可視化による調査や、新規マテリアルの発見へ向けた極限状態での物質の複雑非平衡ダイナミクスの観察などに貢献することが期待されるという。

STAMPカメラの撮影原理。通常のカメラは動的現象と同程度またはそれ以上の速度で動くデバイスを用いて撮影を行なう。STAMPカメラでは、超高速で展開している動的現象をそのように直接的に時間領域で取得するのではなく、異なる物理パラメーター(図では光の色)を持つ観察光を用いて像を空間領域に射影する。どの時間がどの波長に対応しているのか、どの空間がどの波長に対応しているのか分かるため、空間領域で取得された像から時間領域での振る舞いを、波長を介して再構成できる。このように時間領域で圧縮された情報を空間領域に展開することで、高速に動作するデバイスの必要がなくなる。この原理はX線、赤外線、テラヘルツ波や電子線などによる他の撮像法にも用いることができる
フォノン・ポラリトンの形成と伝播の様子。水平方向に超短パルスレーザーを線集光し、フォノンパルスを発生させた(上)。線集光されたレーザー光が複雑な電子応答と格子振動を誘起し、次第にフォノンパルスが形成される様子(下)。パルスが画像下方から上方へ光速の約6分の1という速度で伝わっていく様子。上下の撮影結果はともに平均フレームレート4.37Tfpsで画像を取得したもの

(若杉 紀彦)