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自己修復性をもち、透明性と高強度を両立したゴム素材

新しく開発された素材の構造模式図 画像中赤:共有結合 緑:水素結合

 米ハーバード大学は14日(現地時間)、天然ゴムの強靭さと自己修復性をもち、高透明性を両立した新しいゴム素材の合成方法を確立したと発表した。負荷などによる割れが生じてもふたたびもとの形態に戻る製品の開発などにつながる可能性がある。

 天然ゴムであれば生ゴムに硫黄を加える加硫という工程を経るが、その弾性や強度は、生ゴムの高分子鎖が硫黄によって分子間結合され、架橋構造をとることでもたらされる。石油由来のモノマーを重合することで製造される合成ゴムなども架橋構造を作ることで日常的な意味の「ゴム」としての性質を獲得する。

 こうした架橋構造はしばしば強力な共有結合によってもたらされ、強力であるがゆえに高い強度を実現する反面、結合が不可逆的となってしまう欠点もあった。これは生ゴムを主成分とするゴムのりが貼り合わせることで融着することや、タイヤなどの加硫ゴムが次第にひび割れてしまうことなどで見て取ることができる。つまり、自己修復を実現するためには切断されたモノマー同士を再び結合する可逆性が必要となる。

 ハーバード大では以前にも自己修復性のあるエラストマー(弾性をもったポリマー)を得る方法を発見していたが、それは水を基材としたハイドロゲルで、可逆的である水素結合によって自己修復性を付与したものだった。しかし、エラストマーの応用範囲では通常のゴム素材のように乾燥している必要などがあるほか、水素結合は共有結合に比べるとはるかに弱い結合であるため、宿命的とも言える強度の問題があった。

 そこで、ハーバード大の発表した論文の主著者であるデイビット・ワイツ博士は、不可逆的であるが高い強度をもたらす共有結合と、可逆的な水素結合、矛盾する2つの性質を持つ結合を同時に実現する方法を模索することで自己修復性をもったエラストマーの製法を発見に至った。

 ワイツ博士はrandomly branched polymerと呼ばれる特殊な鎖状ポリマーを用いることで、エラストマー内で可逆的で弱い結合と共有結合が両立するようにした。それにより、強度を保ちつつ自己修復性を獲得できたばかりか、一様なポリマーの分布により、透明性も獲得することになった。

 これにより、新たに開発されたエラストマーは負荷をかけてもひび割れることなく、繊維状の構造が架橋構造を保ちつつも一時的に切断される。繊維状の構造では共有結合が保たれているため、負荷が分散することで破断を防ぐことができる。さらに、繊維状の構造同士は再び結合できるため、無負荷状態では元の形状に修復できるという。

 同学ではこの技術について特許を申請し、商業化にむけた応用などを積極的に模索していく。