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【懐パーツ】先進的なのにNVIDIAから存在を抹消された「GeForce FX 5800」
2016年10月29日 06:00
今回はNVIDIA初のDirectX 9.0対応GPU、「GeForce FX 5800」を搭載したASUS製ビデオカード「AGP-V9900/TD」紹介しようと思う。
GeForce FX 5800(Ultra)は、NVIDIAとして初めてDirectX 9.0で策定されたバーテックスシェーダ2.0とピクセルシェーダ2.0をサポートしたGPUである。
実はDirectX 9.0サポートはATIの「RADEON 9700」シリーズが先行した。NVIDIAは遅れて発表する形となったが、代わりにRADEON 9700を上回るさまざまな革新的な機能を実装をしたのである。
詳細は後藤弘茂氏の記事に譲るが、GeForce FX 5800ではシェーダで実行できる命令数を増やし、プログラマビリティを高め、高速化するよりも、時間をかけて美しいピクセルの出力を追求していった。性能よりも絵にこだわったのは、当時NVIDIAが買収した旧3dfxのエンジニアが多く関わっていたことも関係している。
しかし、GeForce FX 5800は高性能を諦めたプロセッサではなかった。競合のRADEON 9700 PROのコアクロックは325MHzであったが、GeForce FX 5800 Ultraでは最高500MHzというクロックで圧倒した。RADEON 9700 PROはメモリバス幅を256bit化し、DDRメモリを620MHz駆動とすることで19.84GB/sの帯域幅を実現していたが、GeForce 5800 Ultraはバス幅が128bitながらも、当時最新の1GHz駆動のDDR2メモリを採用することで16GB/sの帯域幅を確保した。
もちろん、その代償となったのは消費電力と熱であった。RADEON 9700シリーズは従来と同じ1スロットの薄い小型ファンで冷却することができたが、GeForce FX 5800は2スロットを占有するクーラーを採用せざる得なかった。当時TSMCの最新0.13μmプロセスを採用したが、歩留まりが悪いのも仇となった。
当時、プロセッサがこれだけ発熱することは想定されていなかったので、ファンやヒートシンクの技術のレベルも低く、GeForce FX 5800 Ultraが標準採用したクーラー「FX Flow」は、構造的によく考えられてはいたものの、「熱い」、「煩い」と評されてしまった。
そして何よりも、これだけ大掛かりな実装をしたのにも関わらず、実際のアプリケーション性能はRADEON 9700シリーズと同程度であったことが最大の問題だった。これによりGeForce FX 5800シリーズはほとんど市場に受け入れられず、アーキテクチャ面でテコ入れしたGeForce FX 5900の登場を持って、NVIDIAの製品ページからGeForce FX 5800へのリンク切られ、存在を抹消されたのである(ただし、ページ自体は存在する)。
NVIDIA自身も失敗作と認めるGeForce FX 5800シリーズだが、筆者的は逆に高く評価している。それはやはり先進的なアーキテクチャ、DDR2メモリの採用、そしてリッチなシェーダ実装である。
GeForce FX 5800シリーズで有名な3Dデモとして「Dawn」がある。Windows 10でも動くので、一度も実行したことのないGeForceユーザーは実行してみて欲しい。DawnがGeForce FX 5800で実行可能な複雑なシェーダプログラムが使われているかどうか不明だが、13年経過した今でも十分見るに耐える3Dグラフィックスクオリティ。GeForce4 Tiシリーズまでの「ポリポリな3Dです!」な感じデモと比較すると雲泥の差だ。リッチなシェーダプログラムを使えば、美しくリアルな3Dを実現できるのは、この時初めて実証されたと言ってもいい。