イベントレポート

Intelジェームズ社長、「PCは死なず、形を変えて進化していく」

Intel 社長 レネイ・ジェームズ氏
会期:6月3日~7日(現地時間)

会場:

Taipei World Trade Center Hall 1,3, NANGANG Exhibition Hall

Taipei International Convention Center

 Intel 社長のレネイ・ジェームズ氏は、COMPUTEX TAIPEIの基調講演に登壇し、同社の今年(2014年)後半の戦略や新製品の紹介した。「Intel搭載タブレットは今年中に130の新製品が登場するが、ここCOMPUTEXでも多数の製品が発表される」として、4,000万台のIntelベースのタブレットを今年中に出荷するという目標の達成に向けて、順調に進んでいることをアピールした。

 また、Broadwell(ブロードウェル)の開発コードネームで開発されてきた次世代Coreプロセッサのうち、2-in-1デバイス/タブレット向けの製品のブランドが「Core Mプロセッサ」になることを明らかにした。同時に、Broadwellを搭載した薄型軽量2-in-1デバイスのリファレンスデザインを公開。Microsoftが発表したばかりの「Surface Pro 3」よりもさらに薄型軽量になっていることもあり、大きな注目が集まった。

 Core Mを搭載した2-in-1デバイスやタブレットは年末までに市場に投入される見通しで、国内でもBroadwellを搭載した2-in-1デバイスやタブレットが、PCメーカーなどから発売されることになりそうだ。

繰り返される「PCの時代は終わった」指摘、しかし1度も終わったことがない

 Intelは、例年COMPUTEX TAIPEIの基調講演の枠を押さえており、台湾に多数存在するOEMメーカーやODMメーカーに対してアピールをする場として活用している。通常のこの基調講演にはマーケティング担当の副社長なり、クライアント担当の副社長など、上級幹部が担当するのが一般的で、ここ十年では社長兼CEO(つまり前社長兼CEOのポール・オッテリーニ氏)が担当したということは無かった。

 それに対して、今年この基調講演を担当したのは、社長のレネイ・ジェームズ氏だ。より正確に言うのであれば、Intelは現在CEOのブライアン・クルザニッチ氏と、社長のレネイ・ジェームズ氏に役割分担がされており、CEOがトップになるので、ジェームズ氏は序列で言えば第2位ということになる。それでも、社長という会社を代表する1人であることは間違いなく、例年よりもCOMPUTEXの基調講演を重視している姿勢を伺い知れる。

 PCというカテゴリはマイナス成長ではないものの、昨年(2013年)並みを維持するという状況が続いている中で、タブレットやスマートフォンというカテゴリの製品は成長を続けている。そのSoCとして採用されている多くがARMアーキテクチャであることを考えると、仮にPCがフラットであったとしても、Intelのプレゼンスが下がるということを人々が心配するというのは無理もない。PC産業と共に成長してきた台湾のODM/ODMメーカーも同じ危機感を持っており、Intelとしてもなんらかのテコ入れを必要を感じているのだろう。

 そうしたことを裏付けるように、ジェームズ氏は「これまで何度もPCはもう成長しないと言われてきたことはあった。例えば1999年にIBMのCEOがPCの時代は終わったと発言したが、実際にはそこからも成長を続け、2006年には2.3億台のPCが出荷された。2005年にも同じようにTexas Instrumentsの幹部がPCの時代は終わったと発言したが、その5年後の2010年には3.54億台のPCが出荷された」と、PCの時代は終わるという“脅し”は繰り返されてきたが、そのたびにそれを克服してきたと指摘した。

 「大事なことは市場にあわせて変わっていくことだ。2003年に我々はCentrinoを導入してノートPCを変えた。それと同じように今回も形を変えてでも、市場が求めているモノを提供し、さらなる成長につなげていくべきだ」と、台湾のOEM/ODMメーカーに訴えた。

 その上で「タブレットは2013年に2.33億台出荷されている。それをあわせたマーケットだと考えれば、2013年には合計で5.29億台に達したことになる。ここに我々の成長する余地がある」と述べた。また、それに加えてIoT(Internet of Things)なども加えれば、Intelアーキテクチャにはまだまだ成長の余地があるとアピールした。

1989年には33MHzのCPU、32MBメモリ、ISAのグラフィックスというマザーボードの時代から、現在はこうしたMini ITXのボードへと進化していた。そうしたマザーボードの変遷に多大な貢献をしたのは言うまでも無く台湾のボードメーカーだ
1989年のATマザーボードと最新の小型マザーボードを比較するジェームズ氏
1999年にはIBMのルー・ガースナー会長(当時)がPCの時代は終わったと発言したが、実際には終わらず成長を続けた
2005年にTIもPCの時代は終わりと言ったが、その後も成長を続けた
2013年に成長のドライバーとなったのは38%もの成長を遂げたタブレット市場
タブレットもクライアントだと考えれば、市場全体は成長していると考えることができるとジェームズ氏
コンピューティングの世界は統合の時代という新しい時代に入りつつある

年間4,000万台出荷を実現するために搭載デバイスはどんどん増えている

 Intelは今年、Intelタブレットを4,000万台に増やすという意欲的な目標を持っていることは、本誌でも何度かお伝えしてきた。ジェームズ氏は「我々は今年、4,000万台のIAタブレットを市場に出荷するという目標を持っているが、その達成には自信を持っている、これからその理由をお見せしていきたい」と述べ、Intelアーキテクチャのタブレットについての話に移っていった。

 「間もなく130もの新しいデザインのタブレットが市場に出回る予定だ。それらの多くは64bitに対応しており、将来的に64bitのAndroidへバージョンアップできる製品もある」とアピールした。

 その1つの例として、EMS/ODMメーカーのFoxconn イノベーティブデジタルシステム事業部 事業部長 ヨン・リュー氏を壇上によび、Foxconnが開発したAndroidタブレットを紹介した。リュー氏によれば、同社はこの5カ月でBay Trailを搭載したタブレットを10製品も開発したそうで、それをパートナーとなるOEMメーカーなどに提案しているという。リュー氏は「Bay Trailを搭載し、フルHD液晶を搭載したこのモデルは来月にでも出荷する予定だ」と述べ、同社がODMビジネスの一環として、積極的にIntelタブレットをメーカーに提案していくとした。

 続いてジェームズ氏は同社のタブレット向けSoCであるAtom Z3700シリーズ(Bay Trail)、Atom Z3500シリーズ(Moorefield)、Atom Z3400シリーズ(Merrifield)を紹介し、実際のベンチマークプログラムを利用してその性能を比較した。Atom Z3770は、QualcommのSnapdragon 801とのビデオの処理の比較を行ない、Bay Trailの方が処理が早く終わる様子を示した。Atom Z3580はSamsungの「Galaxy S5」に搭載されたSnapdragon 801と、ソニーモバイルの「Xperia Z2」に搭載されたSnapdragon 801との比較が、ベンチマークソフト「MobileXPRT 2013」によって行なわれ、いずれもAtom Z3580が大きく上回ることがアピールされた。

ムーアの法則は性能だけでなく、消費電力の低下、コスト削減を実現する
Intelがタブレットやスマートフォン向けに提供しているBay Trail、Merrifield、Moorefield
新しいデザインがどんどん投入されている、ジェームズ氏によれば130のデザインがそう遠くない未来に登場する予定
COMPUTEXの期間中に発表されたAcerの8型液晶搭載のBay Trail搭載タブレット
Foxconnが設計したBay Trail、フルHD液晶を採用したAndroidタブレットを手に持っているのはFoxconn イノベーティブデジタルシステム事業部 事業部長 ヨン・リュー氏。来月にOEMメーカーなど向けに出荷開始するという
Atom Z3770(Bay Trail)とSnapdragon 801の動画処理の性能比較。左のAtom Z3770(Bay Trail)が先に終わっていることが分かる。ベンチマークのデモは一回目は失敗し、バックアップに切り替えて成功した
MobileXPRT 2013を利用したベンチマーク。Atom Z3580(Moorefield)が、中央のGalaxy S5(Snapdragon 801)と左のXperia Z2(Snapdragon 801)を大きく上回っていることが分かる

低電力デバイス用BroadwellはCore Mになり、年末あたりに市場に登場

 続いてジェームズ氏は同社が現在のPC向け主力製品となる第4世代Coreプロセッサ(Haswell)の後継として計画している、Broadwellに話題を変えた。Broadwellの特徴として、TDPが60%下がり、性能が20~40%向上、さらにSoCレベルでの消費電力は10~45%低下し、パッケージの実装面積が50%削減されるという点を紹介し、Broadwellを搭載している2-in-1デバイスのリファレンスデザインを紹介した。

 公開されたリファレンスデザインは、キーボードが取り外し可能で、12.5型の液晶を搭載しながらも、7.2mm厚で本体の重量が680gという薄型軽量を実現している。同じくキーボードが取り外し可能で12.5型の液晶を搭載された2-in-1デバイスと言えば、この基調講演の前日に日本でも発表された「Surface Pro 3」がすぐ思い浮かぶと思うが、Surface Pro 3が9.1mm/800gであることを考慮に入れると、それよりも薄く、軽い製品だと言える。

 Intelの発表によれば、このリファレンスタブレットは、ドッキングステーションにドッキングさせると、ドック側のサーマル機構を利用してさらなる冷却が可能になる機構になっており、ドック時にはCPUやGPUなどの性能をさらに引き上げることができるという。

 なお、こうした2-in-1デバイスやタブレットに搭載されるBroadwellは、従来のようにCore i7/i5/i3のように“753”のサブブランドではなく、Core Mプロセッサないしは「Core M vProプロセッサ」というブランド名がつけられる。

 OEMメーカー筋の情報によれば、Broadwellには、Haswellと同じようにSDPで1桁台Wを実現したファンレス用のSKU(いわゆるYプロセッサ)と、従来のUltrabook用に相当する15W程度のUプロセッサがあるが、このCore Mブランドが、Yプロセッサだけなのか、それともUプロセッサにも適用されるのかは現時点では明らかでは無い。ただし、ジェームズ氏はリファレンスデザインはファンレスだと明言していることから、YプロセッサがCore Mというブランドになることは確実だ。

 ジェームズ氏はCore Mプロセッサを搭載したシステムに関しては「今年のホリデーシーズンに市場に登場することになる」と述べ、つまりクリスマス商戦をターゲットにしていることを明らかにした。OEMメーカー筋の情報によれば、IntelはBroadwellのうちYプロセッサだけを今年中に、それ以外のSKU(ハイエンドデスクトップのK SKUを含めて)は来年(2015年)になると説明しているとのことで、その情報とも一致していると言える。

 こうした状況により、Broadwellベースの2-in-1デバイスやタブレットなどの新製品がPCメーカーから登場するのは、今年のクリスマス商戦時期から、ということになりそうだ。

Broadwellの特徴を説明するスライド、14nmなのでBroadwellのことだと分かるが、気になるのは“第4世代Coreプロセッサ”となっていることだ。単なる誤植なのか、それとも……
2-in-1デバイス/タブレット用Broadwellのブランド名はCore Mプロセッサになる。vPro機能入りは、Core M vProプロセッサとなる
12.5型液晶を搭載していながら、7.2mm厚で本体の重量が680gを実現したIntelのリファレンスデザインの2-in-1デバイス。キーボードは脱着型
このようにドッキングステーションに合体させると、デスクトップの変わりに利用できる。Intelのリファレンスデザインはドッキングステーション側にファンなどのサーマル装置が入っており、それを利用することで、より高速にCPUやGPUを駆動させることが可能になる
この基調講演の前日に発表されたばかりのTransformer Book T300 Chiも紹介された

低価格スマートフォンの実現に向けてRockchipとも戦略的提携

 最後にジェームズ氏は同社が提供を開始し始めたLTE-Advanced(CAT6)に対応したモデム(XMM-7260)のライブデモを行なった。Intelは、同社のモバイル・プラットフォームのQualcommに対しての弱点として、LTEモデムの提供が遅れたことを認識しており、ここ1年はLTEモデムでQualcommに追いつくべく開発のスピードを上げてきた。2月にスペインで行なわれたMWCでLTE-Advancedのライブデモを、FDD方式、TDD方式(いわゆるTD-LTE)でデモしたほか、4月に深センで行なわれたIDFでもデモした。

 今回のCOMPUTEXでは、ASUSのジョニー・シー会長をゲストに呼び、ASUSのTransformer Book T300 Chi(別記事参照)に内蔵されているXMM-7260を利用して、台湾の通信キャリアでLTEのサービスを開始したばかりの中華電信の回線を利用してLTEで接続し、台湾の映画で大ヒットを続けているKANO(第2次世界大戦前の日本統治時代、台湾の嘉義農林学校(嘉農=かのう)が甲子園に出場したエピソードを元にした映画)のフルHD動画をライブストリームで再生するというデモが公開された。その後壇上にはKANOの監督である馬志翔氏も呼ばれ、シー氏と北京語でのトークが繰り広げられた。

 シー氏と馬氏が降壇した後は、同社が昨年(2013年)の秋に構想を明らかにした、モデムを統合したSoCとなるSoFIAについて説明した。SoFIAは4月に深センで行なわれたIDFで初めて実働デモが公開されたが、今回は中華電信の電波に接続して通話する様子が初めて公開された。IntelはCOMPUTEXの前週にRockchipとの提携を発表しており、その提携ではこのSoFIAがIntelだけなく、Rockchipの顧客網を利用して提供する形になることも改めて表明された。

 その後ジェームズ氏は、Intelが同時に発表したCore i7-4790K、データセンター用のPCI Express SSDとなる「Solid-State Drive Data Center Family for PCIe」、3Dカメラを利用した新しいUIの開発環境となる「RealSense」などを紹介し、詰めかけたOEM/ODMメーカーの関係者に対して、これからもPCやIAタブレットをより魅力的なプラットフォームにする投資を行なっていくとアピールして、講演を締めくくった。

IntelにとってこれまでQualcommに遅れをとっている部分だったLTEモデムで、Qualcommをキャッチアップしつつある
ASUS会長のジョニー・シー氏は台北で販売が開始されたばかりのZenFone6(6型液晶で、6000~7000台湾ドルと安価な価格設定で人気を博している)をアピール。ZenFone6はAtom Z2500(Clover Trail+)をSoCに採用している
台湾で大人気の映画KANOのフルHD映像をLTE回線を経由してストリーム再生。もちろんモデムはXMM-7260
回線は中華電信のLTE回線が利用されている。台湾ではLTEのサービスが始まったばかりだ
KANOの映画監督、馬志翔氏
記念のサインボールがシー氏とジェームズ氏にプレゼントされた
4月のIDFで初めてデモされたSoFIAが再び紹介された
左がSoFIAベースのタブレット(今回初公開)、右がSoFIAベースのスマートフォン。スマートフォンに実際の回線を利用して電話をかける様子が公開された
前週に発表されたRockchipとIntelの戦略的提携。これによりRockchipがSoFIAを同社が得意とする中小のODMメーカーなどに販売、サポートを行なう
全てのコアが4GHzで動くCore i7-4790Kを発表
NVM Express(NVMe)の規格に基づいたIntelのデータセンター用PCI Express SSDが発表される
Wireless Charging、音声認識など、ユーザー体験を改善するさまざまな研究がビデオ形式で紹介される
1月のCESで発表された3DカメラのIntel RealSenseを利用したデモ。3Dのアバターがユーザーの顔の動きに合わせてリアルタイムに動く。SNSなどでの利用を想定している

(笠原 一輝)