笠原一輝のユビキタス情報局
Intel、コンシューマ向け「Ultrabook」に終止符
(2014/6/4 12:05)
別記事で詳細にお伝えしたように、IntelはCOMPUTEX TAIPEI 2014の基調講演に、同社のナンバー2と言ってもよいレネイ・ジェームズ社長を送り込み、これからもPCやタブレットなどの市場に力を入れ、台湾のOEM/ODMメーカーと協力して地位を維持していくとアピールした。
その中で登場したキーワードは「タブレット」、「2-in-1デバイス」、「LTEモデム」、「Broadwell」、「14nm」、「SSD」……といったあたりで、講演を聴いていた筆者にとって“ああ、ついにあの用語がIntelの講演から消えた”というのが率直な感想だった。
その用語とは、3年前の2011年にIntelがCOMPUTEXで発表した「Ultrabook」だ。UltrabookはノートPCを薄型化し、コンシューマにクラムシェル型ノートPCを買ってもらうためのマーケティング・キャンペーンとして始められた構想だが、その役目は終わりを迎えつつあるようだ。コンシューマ向けPCはUltrabookから2-in-1デバイスやタブレットへ急速に舵を切っていく。
コンシューマ向けUltrabookキャンペーンは2014年モデルで終了
色々な意味で、今回のIntelの基調講演は筆者にとって興味深かった。その中で最大のモノは、冒頭でも指摘した通り、“Ultrabook”という“マーケティング用語”がついに登場しなかったことだ。こうした講演では何を言ったかが大事なのはもちろんなのだが、それと同時に“何を言わなかったか”も同じぐらい重要だ。Ultrabookという昨年(2013年)までのIntelにとって重要だった用語が、Intelの第2の地元とも言える台湾で開かれるCOMPUTEXの基調講演で登場しないということは、もはやUltrabookがIntelにとっては優先順位が低いことを意味している。
実は、Intelはすでに重要な路線変更をOEMメーカーにも通知している。OEMメーカー筋の情報によれば、ロードマップの中で2015年にリリースする予定のSkylake世代ではUltrabookの要件(OEMメーカーが自社のノートPCにUltrabookのブランドをつけて売るための定義、それをクリアしなければOEMメーカーはその製品をUltrabookと呼ぶことはできない)は企業向けだけが用意されており、コンシューマ向けのUltrabookの要件は用意されていないという。
これが意味することは明白で、Intelのコンシューマ向けUltrabookは2014年末にリリースされるBroadwellをもって終わりを迎え、2015年にはコンシューマ向けのUltrabookはもはや存在しないということだ。
誤解のないように言っておくと、これはコンシューマ向けの製品でクラムシェル型ノートPCというカテゴリがなくなるということを意味するのではなく、あくまでコンシューマ向けの製品ではUltrabookというブランドを使ったキャンペーンがなくなるということだ。
もちろん、これからもクラムシェル型ノートPCは各OEMメーカーからリリースされ続けるだろう。PCの場合は、一般的に企業向けの製品とコンシューマ向けの製品は若干の仕様違いで同じ筐体を共有する例がほとんどなので、企業向けのUltrabookがそのままコンシューマ向けとして販売される例はいくらでもあるだろう。しかし、それはもはやUltrabookとは呼ばれない(なぜならUltrabookはIntelの商標だからだ)。
Broadwellの扱いは廉価版製品へ、Intelの次なるフォーカスは15年Q2のSkylakeへ
現在、IntelのノートPC向けのCPUロードマップは大混乱のまっただ中にある。OEMメーカー筋の情報によれば、元々2014年の第1四半期にリリースされるはずだったBroadwellは遅れに遅れて、1度は第1四半期から第3四半期になり、現在提示されている最新ロードマップでは、それが第4四半期になっているという。
しかも、その第4四半期にリリースされる予定のBroadwellは、いわゆる「Yプロセッサ」と呼ばれる「SDP」(Scenario Design Power)ベースで熱設計が行なわれる、タブレット向けのSKUだけだという。ノートPC用のSKUや急遽自作PC市場向けだけに提供されることになった「Broadwell-K」などは2015年の第2四半期になるのだ。6月3日(台湾時間)に行なわれたIntelの基調講演で、レネイ・ジェームズ社長が「Core Mを搭載した製品はホリデーシーズンに市場に登場する」と発言したが、その背景にはこうした事情がある。
SDPなどが大幅に下がることになるYプロセッサは別にして、ほかの「Uプロセッサ」などは熱設計の枠が大幅に変わるわけではなく、チップセットは現行のHaswell世代と共有できる(つまりピン互換である)ため、OEMメーカーとしてはノートPCなどはHaswellで設計した製品をそのままBroadwellへと移行できる。クラムシェル型ノートPCに関してはあまり影響がないのも事実で、OEMメーカー側の受け止めは比較的冷静だ。
ただ、Yプロセッサを採用する2-in-1デバイスやタブレットを計画していたメーカーはスケジュールの変更が必要になっている。このため、今回のASUSの「Transformar Book」シリーズのように、COMPUTEXで発表はしたが、発売は6カ月先の2014年末や2015年初頭になるという、ちょっと不思議なことになってしまっている。
通常、年末に発売される製品は、9月にドイツで行なわれるIFAで発表されるのが通例だが、COMPUTEXで発表されることになったのは、ASUSにしても、Intelにしても、元々はもっと早く販売開始する予定だったがBroadwellのリリースがずれ込んでしまった、という事情を反映していると考えるのが妥当だろう。
正直Broadwellがなぜここまでずれ込んでしまったのかは分からない。想像をたくましくすれば、14nmプロセスルールの導入に思ったよりも手こずったということは考えられる。だが、現行の22nmプロセスルールのHaswellやその改良版であるHaswell Refreshが好調な上、Windows XPのサポート期限切れの駆け込み需要もあって、PCメーカーの2013年度の売り上げも良好だった。今Broadwellを急ぐ理由がないということかもしれない。
これに対して、次々世代となるSkylakeは開発が順調に進んでおり、2015年の第2四半期に元々の予定通り出荷されるとOEMメーカーに説明しているという。そうなると、2015年の第2四半期にはハイエンドにSkylake、ミッドレンジからローエンドをBroadwellに、という展開になる。
非常に大きな意味を持つRockchipとの提携、焦点はその提携がどこまで発展するか
こうした現状を受けて、Intelはそのマーケティングプランも徐々に変更し始めている。コンシューマ向けに関しては、完全にUltrabookから2-in-1、タブレットへとフォーカスを変えている。
そうした中で、Intelは先週、もう1つ重要な発表を行なっている。それは中国の半導体メーカーであるRockchipとの戦略的提携の発表だ。
Rockchipは、中国の深センにある中小のODMメーカーなどに非常に強い半導体メーカーで、同社のSoCは199ドル以下のタブレットやスマートフォンなどで多数採用されている。つまり低価格のデバイスを作るメーカーに対する営業体制やサポート体制が整っている半導体メーカーだと言える。
現在発表されているのは、“RockchipがIntelのAtomプロセッサを販売する”という概要だが、ジェームズ氏はそのAtomプロセッサが「SoFIA」(ソフィア、Atomベースのモデム統合SoC)を指すことを明らかにした。つまり、Rockchipの販売網とサポート網を利用してSoFIAを中国メーカーに売るのがこの提携の内容ということになる。
現在Intelは、中国の中小のODMメーカーなどへのアクセスを始めたばかりで、まだ完全にカバーしきれていないので、今回の提携は理に適ったものと言える。お金があるIntelと、中国企業との絆があるRockchipという組み合わせは理想的だ。
我々が注目したいのは、この提携が単なる代理店契約に終わるのか、それとももっと深い関係になっていくのかという点だ。例えば、x86のライセンスをRockchipに供与してRockchipがx86のSoCを製造して販売するといった展開があっても不思議ではない。逆にRockchipが作っているARM SoCをIntelの流通網を利用して大手OEMメーカーに販売していく展開があってもいいだろう。
このように、Intelは次の時代を見据えてさまざまな布石を打っている。今年のCOMPUTEXは、派手な発表は少ないが、こうした水面下の動きは非常に早い。我々が思っている以上に今この業界は大きく変わりつつあるのだ。