米Appleがサンフランシスコで開催したWWDC 2012における基調講演で、Macプラットフォームにおける次期OSの「OS X Mountain Lion」が正式に発表された。OS Xとしては9番目のリリースにあたり、バージョンは10.8になるが基調講演やニュースリリースにおいても、ほとんどバージョンについては触れられず「OS X Mountain Lion」として紹介されているので、本稿でもMountain Lionとして紹介する。
Mountain Lionの紹介はWWDCが初めてではない。2012年2月16日にニュースリリースと一部メディアへの露出という形でAppleが開発表明を行ない、以降は同社サイト内に公式のプレビューサイトが用意され、Mountain Lionに搭載される機能のいくつかが紹介されていた。契約開発者に対しては同時にβ版の提供を行なっていることがそのページでも触れられている。
このステップは現行の「OS X Lion」でもほぼ同じで、2010年10月20日にはLionの開発表明が行なわれている。その時のテーマが「Back to Mac」で、iOSに搭載された機能の中で優れたものをMacへフィードバックして搭載することがポイントとされた。主な例としてはマルチタッチジェスチャや、アプリケーションのシングルウインドウモード、Mac App Store(Snow Leopardにも先行提供)などが挙げられる。その後、2011年のWWDCでLionの発売を7月と発表。同年7月20日にMac App Storeを経由してダウンロード販売が行なわれた。価格設定については、Lionの発売直前にApp Store、Mac App Storeのレート変更が行なわれたが、昨年(2011年)のWWDCレポートにおいて、そのことを予見していたことを覚えていてくれる読者がいれば筆者としても幸いである。
Mountain Lionの価格は19.99ドル(1,700円)。LionとSnow Leopardからアップグレードできる | Lionと同様に、販売はMac App Storeからのダウンロード販売の形式がとられる | 発表が行なわれた6月11日(日本時間では12日)以降に新しいMac製品を購入した場合は、無償でMountain Lionにアップグレード |
Mountain Lionは、そのLion同様にMac App Storeを使ってダウンロード販売が行なわれる。価格は北米価格でLionの29.99ドルから19.99ドルに値下げされた。日本では2,600円から値下げされ、Mountain Lionは1,700円で提供される。昨年来、為替レートのぶれは設定価格を見直すほどには大きくはなっていないので、1ドル=85円相当の現行基準で適用される模様だ。
Mac App Storeでの購入はApple IDに紐付いているので、同一のApple IDを利用するMac製品が複数ある場合には1回の購入ですべてのMacにおいて利用することができる。なお、基調講演が行なわれた6月11日に以降に新たにMac製品を購入した場合は、Mountain Lionへのアップグレードが無償で提供される。詳細はOS X Mountain Lion Up-to-Dateアップグレードとして後日Appleから案内される見込みだ。
アップグレード対象のOS Xは、Snow LeopardとLion。Mac App Storeを利用するため、Snow Leopardの場合は最新の10.6.8へ事前にアップデートしておく必要がある。Mountain LionへアップグレードできるMac製品は同社の英文サイトで案内されている。搭載メモリの最低量やストレージの空き容量はインストールに必要な数値で、製品に搭載されるCPUやGPUおよびVRAM量などが主な基準と思われるが、おおむね2008年以降に発売されたMac製品が対応している。iMacやMacBook Proは2007年中盤の製品からでもアップグレードができる。ただし、Mountain Lion自体は動作しても一部機能が利用できない場合もあるので、そのあたりは自分の持っているMacと照らし合わせて確認して欲しい。いずれ、このページの日本語化も進むと思われる。
WWDCの基調講演で、Mountain Lionの紹介を行なったMacソフトウェアエンジニアリング担当の副社長であるクレイグ・フェデリギ氏 |
基調講演の中でMountain Lionの紹介を行なったのはMacソフトウェアエンジニアリング担当の副社長(VP)であるクレイグ・フェデリギ氏。先日掲載した当初の基調講演のレポートの中では上級副社長(SVP)と記載してしまったが、この場を借りて、指摘いただいた読者の方にお礼を申し上げるとともに、役職の訂正と誤記のお詫びをさせていただく。
フェデリギ副社長の講演は、従来のスタイルと同様に現状のMacプラットフォームの分析からはじまった。過去五年を例にとるとOS Xのインストールベースは急上昇しており3倍に増えているとされる。この日発表された数字では、6,600万台のMacプラットフォームがあるとのこと。Lionはこれまでに2,600万ダウンロードを達成し、過去もっとも販売されたOS Xとなったという。前述のとおり、Lionではメディアによる販売を事実上やめて(USBメモリ形式で少量販売されている)、プリインストールモデルを除いてはMac App Storeからのダウンロード販売のみという形になっている。すなわち、この施策が成功しているということだろう。Mac App Storeをみていると有料アプリケーションのセールス数ではほぼ不動の1位を維持していることからも、それは伺い知ることができる。
またOS XのインストールベースにおけるLionの占有率は40%で、これを発売から約9カ月で達成したと説明した。一方Windows 7では40%に達するのに26カ月かかっているとしている。もちろん言うまでもなくインストールベースの総数としてはWindowsプラットフォームのほうが桁違いに大きく、法人需要も強い。メジャーアップグレードもOS Xように短いスパンでは行なわれないことも背景にある。もちろんこれはAppleによる講演でもあるので、数字とグラフは主観的に提示されるが受け取る側の客観的な分析も必要になる。とは言えLionからMountain Lionへと矢継ぎ早に繰り出すOS Xに、現在のAppleの勢いがうかがわれるのもまた事実である。
Mountain Lionには約200の新機能が加わる。iOS 6の記事でも書いたが、これは後述するような新機能あるいは大規模な改良から、ネットワーク接続プロセスの改善など、細かい機能改良も含まれる。過去のOS X、iOSのアップデートでも同程度の数字が提示されているので、メジャーバージョンアップにともなう機能追加はおおよそこうした程度の規模になると把握しておくのがいいだろう。この中で今回の基調講演では8つの機能がクローズアップされた。
●iCloudへの対応を拡充。iOSが先行したappもMountain Lionへと導入
最初に紹介されたのは「iCloud」に関する内容だ。昨年のWWDCで、故スティーブ・ジョブズ氏が自らプレゼンテーションを行って発表し、Lion、iOS5に標準搭載されるほか、Windows(Vista以降)プラットフォームでも一部機能が利用できる。iCloudの機能強化はプレビューサイトで公開されていたMountain Lionに追加される新機能であるNotes(メモ)、Reminder(リマインダー)、Message(メッセージ)の同期とも関連する。
NotesはiOSに当初から搭載されるほか、これまでのOS XではMail機能の一部として利用されMailで同期が行なわれていた。Mountain Lionでは独立したアプリケーションとなって、iOSのNotesとMountain LionのNotesが同期される。ReminderもMacの新機能として追加され、iColudで同期する。Message(メッセージ)はMacにおいては従来のiChatに代わるチャットクライアントとして導入されて、やはり他デバイスとの同期が図られる。
従来のカレンダーや連絡先、そして後述するGameCenterを含めてiCloudによって行なえる同期機能が拡充されるというのがMountain LionにおけるiCloudのアップデートだ。またDocument in the Cloudとして、OS XとiOSのiWorkアプリで作成した書類のクラウド保存、プッシュによる同期・更新がデモンストレーションされた。こうしたAPIは開発者向けにも公開されるので、iOS、OS Xをまたいで書類の作成や閲覧ができるアプリケーションの開発を開発者に向けて要望している。
続いてはNotification Center(通知センター)。これもiOSからフィードバックされる機能で、さまざな通知メッセージを一元的に管理する。例えば、メンション付きのツイートやMessageの到着、カレンダーと連携したアラーム、ソフトウェアアップデートの案内、前出のReminderによる通知などが含まれる。もちろんAPIは公開されるのでApple以外の開発したアプリケーションでも対応が可能。ユーザーによるカスタマイズで通知するアプリケーションを選択できるほか、ポップアップ表示の選択、通知センター内からの返信等も可能になっている。
通知センターは通常画面には表示されていないが、Macの利用中になんらかの通知があればポップアップ表示が左上に表示される。通知の一覧は、マルチタッチのスワイプ操作でデスクトップのタイリングウインドウ時、フルスクリーンアプリ使用時にかかわらず表示させることができる。機能としては古くからある「Growl」による通知とよく似ているがOSに統合されたことはアドバンテージとなる。Growlの評価が高い理由の1つはサードパーティ製アプリケーションによる対応が多いことでもあるので、どれだけのアプリケーションが対応するかも評価の分かれ目だろう。人気のアプリケーションとよく似た機能をOS Xに取り込む例は過去にもあり、いわゆるウィジェットをデスクトップに表示する「Konfabulator」とよく似た「Dashboard」が導入されたこともあった。その後、DashboardはMission Controlへと移行したが、デスクトップへのスクリーン単位でのオーバーレイや今では別ウインドウ表示になったMission Controlのウィジェット表示よりも、Konfabulatorのほうがスマートだったと考える筆者のようなユーザーもいるので、Mac App Storeなどで提供されているGrowlの既存のユーザーにも納得できるような実装を望みたいところである。
Dictationは、文字通りに音声入力機能がMountain Lionに搭載される。基本的にキーボードでタイプして入力できるエリアであれば、Dictationを使ってApple純正でもサードパーティアプリケーションでも音声入力が可能なようだ。もちろん日本人のユーザーにとっては日本語の認識がどうなるかがポイントになると思うが、これは実際に使ってみないと評価は難しい。音声認識のエンジンはiOS 5に搭載されているものとさほど変わらないと想像できるので、現在iPhone 4Sや新しいiPad(第3世代)で利用できる音声認識とほぼ同等になるものとは予想できる。たまに誤解があるようだが、Siriと音声認識による音声入力では意味が異なる。Siriは音声認識に加えて、その意味を理解した上で何らかの回答を返すという技術だが、音声入力は発声した音声を可能な限り忠実にテキストにしたり、コマンド入力に応用する機能になる。
ちなみに日本語環境で難しいのはやはり同音異義語の存在と和製英語にはなっていない英語混じりの文章だろう。ATOKなどの日本語入力では前後の文脈から推測変換を行なうことができるが、音声認識でそこまでやれるかどうかはわからない。例えばSiriでは、ユーザーである自身をなんと呼ばせるか設定することができる。筆者の場合、ご主人様や旦那様といったメイド・執事調は避けようと検討した結果、「お館様」にしようと決定した。そこで「これからは、おやかたさまと呼んで」とSiriに依頼したところ、確かに音声では「おやかたさま」と認識され、Siriもそう発声しているが、画面では「親方様」になってしまっている。そういった部分も含め、日本語でのDictationがどれだけ快適に利用できるかは楽しみな部分だ。ちなみにiOS 5では、こうした漢字の誤変換等を気にしなければ、ツイートなどでの運用はさほど問題がないレベルと考えている。
音声認識による文字入力が行なえる「Dictation」 | テキスト入力ができるエリアであれば、写真のようにFacebookの近況の投稿に利用することが可能 | 前述した通知の一覧から、Twitterのメンションに対して音声入力で返答することもできる |
先行告知でも紹介されていた「Sharing」もiOSと同じく現在表示しているコンテンツを他のアプリケーションやサービスに共有する機能だ。現行のiOSに付いている共有ボタンと似たボタンが、Mountain Lionにも導入される。機能もほぼ同じで、利用しているアプリケーションに応じた共有可能先が選択できる。例えばプレビュー機能で写真を参照している場合は、その写真をSharing(共有)する先として、メールへの添付、メッセージへの添付、AirDropを使った送付、ツイートへの添付、Flickrへの投稿などが候補として示される。
外部サービスが共有先になる場合はサインインが必要だが、Twitterや後日対応予定のFacebookなどはOSレベルでシングルサインインが可能で、Flickr等もID、パスワードが記憶される。例えば現在でもiPhotoからFlickrへの投稿は可能だが、それをOS全体まで拡張したと考えてもいい。共有先はアプリケーションや状況によって異なり、例えばSafariでSharingボタンを選択した場合、Reading Listへの追加や、Bookmarkへの追加、Mailにリンクの貼り付け、Messageにリンクの貼り付け、ツイートにリンクの貼り付けなどが選択肢として表示される。サードパーティ製アプリケーションでもSharingボタンは設置できるはずで、必要な連携先を設定できることになる。
●機能拡充が図られるOS X標準ブラウザのSafari
OS X標準のWebブラウザであるSafariも機能強化される。クレイグ・フェデリギ副社長は、JavaScriptのエンジンが競合するInternet Explorer 9、Chrome 19、Firefox 13に比べ最も高速であるというグラフを紹介した。バージョン名は明言されなかったようだがMountain Lionに搭載されるSafariは、Safari 6に該当するものと思われる。なお、Safariについては開発者向けプログラムとしても独立したものが用意されており、Safari単体はご存じのようにWindowsプラットフォーム向けにも提供されているほか、従来のOS Xに最新のSafariが適用できる場合もある。このあたりの情報は今回の基調講演内では明らかにされていない。あえて推測するなら、Windowsと連携するiOS機器とも関連するので、Mountain Lionに搭載されるSafariに相当するWindows版はiOS 6のタイミングでリリースされるのかも知れない。
機能面では、すでに紹介したiCloud同期のボタンとSharingのボタンが追加された。iOS 6の記事でも紹介したとおり、新しいSafariでは機器間で表示しているタブ(Webページ)の同期が可能で、OS Xで見ていたページをiOSデバイスでも開くことができる。もちろんその逆も可能だ。Windows向けのSafariが提供されるならそれも含めて可能だとは思われるが、前述のとおり現時点では断定したことは言えない。こうしたタブ同期はGoogleによるWebブラウザのChromeでもMacおよびPCプラットホーム、およびAndroidでもベータ扱いで提供されている。Sharingボタンについては前述したとおりの機能だ。
大きく変わったのは、これまでURLと検索エンジンに分かれていた入力エリアが1つに統合されたこと。直接URLを入力することもできるし、検索したい言葉を入力すれば、検索エンジンによる検索結果、Bookmark内やこれまで閲覧履歴などから候補が表示されるようになる。これもChromeでは現行製品で実現している機能だ。一部の調査データによれば、OS Xで利用されるWebブラウザとしてChromeのシェアが拡大しているとも言われ、Safariの高機能化はAppleにとっても非常に重要なポイントになる。
機能面で同等以上を目指すために、新しいタブ画面の表示方法も加わった。複数のタブがSafariで開かれている状態で、マルチタッチジェスチャによるつまむ操作を行なうと、それぞれのタブが、FinderのCover Flowと同じように独立した表示に変わる。スワイプ操作によってタブ間の移動ができ、複数のタブを開いている状態では従来のタブ表示による情報に加えて、プレビュー画面で内容把握ができるようになった。
●スリープ状態でもiCloud同期やアプリケーション更新を行なうPower Nap
プレビューサイトでは公開されていなかった新しい機能としては「Power Nap」が加わる。Napは「うたた寝」を意味する言葉。機能としては文字どおり、スリープ状態においても、ときどき起きてバックグラウンドでできる作業を行うというものだ。技術的には定期的に低消費電力で最低限のCPUを稼働させて処理を行い、再度スリープに入るものと推測される。似た例として、任天堂がコンソールゲーム機であるWiiでWiiConnect24として提供しているサービスがあり、これも待機時にシステムのアップデートや知人、任天堂からのメッセージを通知する仕組みがある。こちらは主に通知するだけだが、Mountain Lionの場合はもう少し踏み込んだ作業まで行なわれるようだ。
クレイグ・フェデリギ副社長がスライドで示したPowerNapで行なわれる作業は、iCloudで管理・同期されるカレンダー、Reminder、iPhoto(のフォトストリーム)、Find My Mac、Notes、メールの受信などが含まれる。メールについてはiCloudで管理されているIMAPは含まれるが、POP3で管理される他のプロバイダメールが含まれるかどうかまではわからない。他にTime MachineバックアップおよびMac App Storeからの購入済みソフトウエアの自動更新も含まれる。これにより常に最新のデータ同期とアプリケーションの更新が行なわれると説明している。
Power Nap機能が利用できるのはフラッシュストレージ搭載のMac製品に限られ、具体的な対応機種としてはMacBook Air(第2世代以降)、そして同日に発表された次世代MacBook Proこと、MacBook Pro with Retina Displayモデルとなる。
Power Napによってスリープ状態でも更新が可能なもの。iCloudの同期をはじめ、TimeMachineバックアップ、Mac App Storeによるアプリケーションの更新など | Power Napが使えるのはフラッシュストレージを搭載するMac製品。第2世代以降のMacBook Airとこの日に発表されたMacBook Pro with Retina Displayが対象 |
AirPlayもiOSからフィードバックされる機能で、プレビューサイトで事前に紹介されていた。Macの画面を大型のTV画面などに表示する方法としては外部ディスプレイとして(機種によってコネクタを変換する必要はあるが)HDMIなどの有線で接続してミラーリングするのがこれまでは一般的だったが、AppleTVや他のAirPlay対応機器であれば無線接続でMacの画面を音声も含めてそれらの画面に映し出すことが可能になる。むしろ映画鑑賞の大画面化よりも、Macを使ったプレゼンテーション分野での応用が期待される。例えばプロジェクター機材などは、徐々にHDMIインターフェイスを持つものが増えているので、そこにAppleTVをつないでおけば手元のMacをAirPlayして画面表示が可能だ。もちろんプロジェクター自体がAirPlay対応すればApple TVも不要になる。
Macの画面をAppleTVを接続した薄型のテレビ画面にストリーミングさせるAirPlay | メニューバーからミラーリングのON/OFFとストリーミング先を選択できる | サードパーティによる周辺機器でもAirPlayに対応した製品が利用できる |
Game Centerも事前のプレビューサイトで紹介されていたiOSからのフィードバックの1つ。機能としてもほぼ同等で、対応アプリケーションでのスコアを記録したり、友人との間でランキングを競ったりできる。また、ターンバイターン方式のゲームや、オンラインによるリアルタイム対戦にも対応する。そしてゲーム側が対応するのであれば、OS XのゲームとiOSのゲームにまたがって対戦プレイ、同時プレイが可能になるという部分がふたつのプラットフォームにまたがるメリットとなる。iCloudを使った同期も含めてゲームプラットフォームとしての統合を図ったアップデートだろう。講演の中ではレーシングスーツに身を包んだRacer OS Xが登場。近日発売されるという「CSR Racing」というゲームタイトルを使って、フェデリギ副社長のMac、そしてレーサーのiPad間でリアルタイム対戦を披露して見せた。
そのほか中国市場に向けた機能として、IMやフォントの搭載、百度あるいは中国国内の電子メールサービスがOS Xに統合される。これは、FacebookやTwitterなど、ソーシャルサービスが使えず、中国国内向けサービスを利用するための施策にあたる。
●App Storeの機能をMac App Storeへも適用させるGate Keeper。運用には課題も
なおプレビューサイトと現在のMountain Lionのサイトでは紹介されているが、基調宇講演では触れられなかったMountain Lionの大きな要素として「Gate Keeper」機能がある。これは、OS Xのセキュリティを保つための施策の1つで、OS Xにインストールするアプリケーションを3つに分類している。1つは、Mac App Storeを通じて提供されるアプリケーションで、これはAppleによる審査を経て登録されるためもっとも安全と考えられる位置づけだ。続いてAppleが承認したサードパーティが提供するソフトウェアのインストール。そして最後に現行のOS Xと同じく自由なアプリケーションのインストールが位置づけられる。
これらをMountain Lionの基本的な設定としてアプリケーションのインストール制限を行い、セキュリティを保つということがGate Keeperの基本的な機能だ。iOSのApp Storeの場合は当初からApp Storeに一元管理されていたため、ある程度高いセキュリティが保たれてはいるが、OS Xでは元々そういう仕組みはなく、Mac App Storeが後付けになった存在である。そこで、こうしたプライオリティをつけることで、用途によってはMac App StoreからのダウンロードだけでMac製品の運用を行なうという考え方も可能になる。
これは考え方が難しい部分で、Mac App storeに限らずApp Storeにおいても同じことだが、運用はApple次第というリスクは拭えない。もちろんセキュリティが重視されるのは当然だが、登録・審査にあたっては恣意的な運用をすることができないとは限らないからだ。現実として先日来App Storeにおいてはapp名称に「pad」の文字が含まれるものは、製品の更新や新規登録ができなくなっている。
もちろん運用ルールは運営者であるAppleが決めるので、開発者としてはそれに従うしかないが、一般用語と考えられる「pad」まで制限するのはいささか行き過ぎという見方もあり、筆者もそのように考える。例えばiPadが世に出る前にiPhone向けのappとして先に登場していた「Zeptopad」のように登録商標までありながらも名称をいまさら問題化されるのは開発者として忸怩たる思いがあるだろう。同じように「iなんとか」というものをApple以外の第三者が使うのも微妙な話で、そこはiMacを送り出してヒットさせたAppleに敬意を表するべきだと考える。
Mountain Lionでは1700もの新しいAPIを追加。デベロッパには製品最終候補ともいえるプレビュー版とSDKを同日から提供開始した |
という名称に関するもやもやがある一方で、アイコンに任天堂のキャラクターであるマリオを用いて明らかに著作権を侵害していると思われるappはなぜかAppleの審査を通過してApp Storeに登場し、ランキング1位になった。しかもバージョンアップ後はドラえもんのキャラクターを使うというまるで冗談としか思えないような状況が起きている。Gate Keeper機能に限らず、開発者が本当に同意できるような審査の透明性や適切な運用は、App StoreあるいはMac App Storeによるエコシステムを拡大するうえで、今後はさらに大きな課題になるだろう。
今回の基調講演に含まれない要素を最後にもう1つ紹介しておく。2011年のiCloudの発表およびローンチと同時に案内されたように、それまでAppleが提供していたクラウドサービスである「MobileMe」は6月30日をもって終了する。すでにユーザー向けにはiCloudへの移行が繰り返しうながされているので、ユーザーは対応が必要だ。Mac App Storeを利用できないLeopard(10.5)ユーザーに対しては、Snow Leopardのインストールディスクが無償で提供されるという案内もだされている。Snow LeopardでもiCloudは利用できないので、このディスクを使ってSnow Leopardに更新、さらにMac App StoreでLionを導入するという手順が必要だ。
iCloudへの移行をしても「ギャラリー」「iWeb」「iDisk」はMobileMeの終了をもって利用できなくなるので、その中に何らかのコンテンツを所持している場合は、バックアップを事前にとっておく、あるいは他のWebサービス等に移行するなどの対応が必要になる。移行に関する情報は、Appleのサイトでも紹介されている。
MobileMeの有料契約者向けにはiCloudの基本容量である5GBに加えて20GB(基本契約の場合)が無償で追加されてきたが、その無償期限のみ6月30日から9月30日まで延長されている。これはiCloudの容量制限の延長であり、MobileMe自体の延長ではないので気をつけたい。なお、iCloudへの移行を行なわなかった場合でも、iCloudによるIMAPメールの送受信は維持できる。設定のやり方はAppleのサポートページで案内されているので、確認をしていただきたい。
冒頭で述べたとおり、Mountain Lionのリリースは7月と決まった。WWDCに集った開発者は、基調講演後のセッションやハンズオンラボをとおして自分のアプリケーションのMountain Lionへの対応状況を確認したり、通知センターなど新しいAPIへの対応を続けている。Mountain Lionのリリースと前後して多くのアプリケーションがバージョンアップしたり、機能追加を図ってくるだろう。ユーザーとしてもそれを楽しみに待ちたいものだ。
(2012年 6月 18日)
[Reported by 矢作 晃]