イベントレポート
日本マイクロソフトの開発者イベント「de:code」が開催、デモで「秀丸」が1分足らずでUWPにされる
~ナデラCEOも来日、今後のビジョンを語る
(2016/5/24 18:08)
日本マイクロソフトは5月24日~25日の2日間、開発者向けイベント「de:code 2016」をプリンスパークタワー東京で開催している。本イベントは日本国内の開発者をターゲットにしているものの、グローバル向けにも展開しているイベントであり、MSDN上でライブ配信されている。早期割引を適用した場合の参加費は73,440円(既に13日で受付終了)。
初日の基調講演には、米国から来日したサティア・ナデラCEOが登壇し、同社のビジョンや、今後の技術トレンドの展望について語った。
過去に囚われず、“有用な技術かどうか”を重視する
基調講演の冒頭では、日本マイクロソフトの統括本部長である伊藤かつら氏が挨拶。音声アシスタントCortanaとの会話を交えながら、Surface Proをおもむろに取り出し、内蔵カメラで東京タワーのガイドブックを写すと、ガイドブックから3Dの東京タワーが“飛び出す”拡張現実(AR)アプリをアピール。そしてCortanaを使って最高技術責任者の榊原彰氏を壇上に呼んだ。
榊原氏は、3月に米国で開かれたBuild 2016を振り返りながら、そこで発表された事項をおさらいした。1つ目はMicrosoftが今後“会話”のプラットフォームに注力をしていくという点。これはユーザーをアプリケーションという概念から解放し、自然なインターフェイスを実現する上で重要なポイントだとした。
具体例として“宅配ピザの注文”を挙げると、これまでは店舗独自のWebサイトやアプリを開いて、そこで希望のピザを注文する必要があったのだが、本来ユーザーが求めるのはピザを注文するためのWebサイトやアプリではなく、あくまでもピザそのものである。そこで、会話のプラットフォームを活用すれば“ピザが食べたい”と言うだけで注文できるようなシステムも開発できるわけだ。
その実現のためには自然言語処理や音声認識だけではなく、場合によっては人間の嗜好を学習するシステムや、画像認識といった技術も必要になる。これらを組み合わせることで“会話”が初めて成り立つ。これら、それぞれ高度な処理を行なう“ボット”も、今後技術のトレンドであるとした。
そしてMicrosoft自身も、オープンソース化を進める。榊原氏は「なぜMicrosoftがオープンソースをやるのか? という質問もあるだろうが、その質問自体もはや意味を成さない。この業界においては過去の概念に囚われる必要がないので、Microsoftの技術がオープンソースかどうかが重要ではない。その技術が世の中によって有用かどうか、それだけを重視して開発している」と語った。
最後に、最新OSであるWindows 10はスマートフォンからPC、そしてIoT、HoloLensに至るまで全てのプラットフォームを網羅しており、開発者はコアのソースコードを共通化できること、UWP(Universal Windows Platform)のみならずAndroidやLinux向けアプリの開発環境をWindows上で用意していることについて触れ、「Microsoftは開発者のことを愛している企業」であることをアピールし、ナデラCEOにバトンタッチした。
開発者をフルにサポートするMicrosoftのエコシステム
「Microsoftは開発者のことを愛している」と言われても「本当か?」と疑問に思う人も少なくないだろうが、そもそもMicrosoftの原点はWindowsやMS-DOSではなく、創始者のポール・アレンとビル・ゲイツがBASICインタプリタを製作したことから始まる。つまりMicrosoft自身も開発者から始まり、開発者のためのものを作ったのだから間違いはない。その開発者を最大限にサポートするために、今回Microsoftは3つのプラットフォームを用意した。
1つは“インテリジェントクラウドプラットフォーム”のAzure。同社が“ハイパースケール”と呼ぶAzureは、これからIoTの隆起に伴うデータ量の増加に十分に対応でき、なおかつ拡張し続ける。また、開発者向けにサポートやオープン性、柔軟性を提供でき、企業のインフラをより生産的なものにできるとした。
Azureの中で、自然言語や顔認識といった人工知能(AI)をはじめとする、現在では22個用意されている“コグニティブ・サービス”を提供する。これらはユーザーのアプリケーションに簡単に組み込むことができ、それによってユーザーは容易にAIを駆使したサービスを製作できるとした。
2つ目は先ほど挙げた“会話のプラットフォーム”。MicrosoftはLINEやSkypeといった人々の会話は、もっとも自然なインターフェイスであるとして位置付けており、そのためにCortanaのようなアシスタントや、日本で展開している女子高生AI「りんな」のようなボットで、さまざまなナビゲーションや、人間の感情に訴えかけるようなコミュニケーションが可能だとした。
特にりんなについては、既に国内で300万フォロワーを超えていることを挙げ、こういったボットのフレームワークが実現されれば、企業が開発したサービスもしくはアプリでも“ユーザーとの感情的な会話”が可能となり、有用であるとした。
3つ目はやはり“Windowsプラットフォーム”で、スマートフォンからPC、そしてTVといった大画面まで、さらにはIoTやHoloLensといったデバイスまでも1つのOSでカバーできる。もちろん、それぞれの画面に向けた表示の最適化が必要だが、コア部分のソースコードは流用できる。
特にHoloLensのようなアプリケーションは、アナログの世界をデジタル化するのではなく、アナログと融合するため、全く新しい“ネクストリアリティ”のリッチメディアが実現できる。開発者の表現に限界がなく、新しいプラットフォームの登場に期待できるとした。ナデラCEOは、日本航空(JAL)がHoloLensを導入し、それを機体の整備や訓練に使っている事例を挙げ、こういった業種では既にHoloLensを基幹業務の一環としていることをアピールした。
最後にナデラCEOは、「こういった最新のIT技術は4度目の産業革命になるだろう。開発者は、今後の経済を予測する者のではなく、経済そのものの環境を変える者だ。目の前にあるチャンスや責任を、技術で変えて欲しい。Microsoftはそのお手伝いをミッションにしている」と語り、講演を終えた。
Windows上のiOS向け開発環境はMac OS X上よりもリッチ!?
基調講演の後半は、本社でバイスプレジデント&チーフ エバンジェリストを務めるスティーブン・グッゲンハイマー氏が、ナデラCEOが語ったビジョンを具現化するMicrosoftのサービスについて、紹介とデモを行なった。
始めはもうじき登場する「Windows 10 Anniversary Update」の開発者向け新機能について触れられた。1つはペンのサポートを充実させた「インク」で、Surface Pro 4のペンならば後部を押すだけで画面右側に現れる。ここから、付箋ような手書きメモの起動や、ペンで描くことに最適化したペイントソフト「ワークスペース」の起動がすぐに行なえる。ワークスペースでは、蛍光ペンや、タッチと組み合わせた定規の機能などが使えるのだが、これらの機能は「インク」の仕組みによって開発者が簡単に自分が開発したアプリの中でも実現できるとした。
UbuntuのBashも、Build 2016で発表されたトピックの1つ。もちろん、lsといったBashの基本的なコマンドも当然のように実行できるが、最大の特徴は単純にBashのエミュレータをしているわけではなく、Ubuntuのバイナリがきちんと動作するということだ。例えばemacsやrubyといったアプリは実行できるし、apt-getでUbuntu用のレポジトリからソフトウェアをダウンロードしてインストール、実行することもできるし、サードパーティのソフトを使えばX Window System用のソフトも動く。単なるユーザーなら、Ubuntu環境を別途用意した方が良い気もするのだが、開発者にとっては、WindowsとLinux両方に対応したアプリの開発が楽になるのは言うまでもない。
そしてAnniversary Updateでは、デスクトップアプリケーション(いわゆるWin32アプリ)を容易にUWPアプリに変換するコンバータも提供される。デモでは、日本ではもはやお馴染みのエディタ「秀丸」をUWPアプリケーションに変換して見せた。実際はコンバートが終了すると自動的にストアに登録するといったことも可能だそうなのだが、今回はデモのため省略され、ローカルで変換したUWPアプリを実行してみせた。
続いて、リッチな機能を持つアプリが容易に開発できることについてもデモされ、具体的にブリヂストンでの導入例が紹介された。ブリヂストンはこれまで、タイヤのチェック工程に複数のアプリやシートを用いて業務をしてきたが、UWPアプリ版では音声認識による操作や、手書き認識による入力である点、そしてWindows Phoneなど画面が小さいデバイスでもその大きさに合わせてUIが変化する点などを挙げた。
さらに、Visual Studio向けにクロスプラットフォームの開発ツール「Xamarin」が無償提供されることとなったが、合わせてiOSのエミュレータも搭載された。まだiOS向けのコンパイルはMac OS Xの実機で行なう必要があるという制限はあるが、Windows版のiOSエミュレータは、Mac OS Xのそれではできないタッチ操作ができる(Macにはタッチパネル搭載機がなく、Windowsにはある)というデモがされると、会場は笑いの渦に巻き込まれた。
このほか、Office 365やAzureでもユーザーが開発したアプリや、既存のアプリが容易に組み込めることや、Azureでコグニティブ・サービスを容易にアプリケーションに組み込めることなどをデモし、容易な開発環境を提供していることをアピールした。