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米大学、宇宙線による一般電子機器への影響増大に警鐘を鳴らす
〜スマホなどの高度化を受け、ビット反転エラーのリスク増大
2017年2月21日 16:47
米ヴァンダービルト大学は17日(現地時間)、宇宙から絶えず降り注ぐ宇宙線が、スマートフォンを始めとした一般電子機器に影響を与える可能性が高いことを指摘した。近年のプロセッサ微細化技術の進歩により、宇宙線から受ける影響が大きくなったためだ。
地球には太陽光同様、絶えずさまざまな粒子が宇宙から降り注いでいる。太陽光は言うまでもなく我々が日常的に知覚しているものであるが、中には宇宙線のような知覚できないものもある。陽子や重粒子からなる宇宙線は、知覚されることはなく、臓器などに影響を与えることもないとされるものの、プロセスルール16nmにも達する微細な集積回路に取っては影響を与えるに十分なのだ。
こうした宇宙線は、地表に到達する前に大気中の酸素や窒素の原子核に衝突し、主に中性子や陽子からなる「空気シャワー」と呼ばれる2次粒子が生じる。生じた粒子が半導体回路内のシリコン(ケイ素)原子核に衝突することで電荷が生じ、生じた電荷は回路内では電気的ノイズとして振る舞い、論理回路内の電荷の状態を反転させることがある。この現象は「SEU(single-event upset)」として知られている。
これは通常、回路自体を故障させることはないものの、記録されているデータやオペレーションに影響を及ぼす恐れがあるため、医療や金融、航空宇宙分野などでは重大視されている。
同学のBharat Bhuva教授は、宇宙線の影響を受けて生じるSEUを長年研究しており、2001年より一般電子機器に与える影響を調査している。今回、AlteraやARMなどの出資を受け、16nmプロセスのFin-FETトランジスタについての調査を行なったことで最新の知見が得られた。
調査では、そうした回路に中性子線を照射してエラー発生率を算定した。対象は28nm、20nm、16nmプロセスで製造されたトランジスタ、集積回路(IC)、それらのデバイスでできたシステム全体。得られた結論はやや意外で、システム全体として見た時に微細化につれてエラー発生率が上昇するものの、16nmプロセスで作られるFin-FETトランジスタは単体で見た場合、20nmプロセスのトランジスタと比較しても急激にエラー発生率が低下するというものだ。
直観的にはプロセスルールに故障率が反比例するように思えるし、実際微細であればあるほど中性子が衝突した際にビット反転が起こる確率は上がるのだが、あまりに微細なために粒子が衝突する可能性が低くなり、逆説的にエラー発生率は低下するとのことだ。
しかし、ICやシステムになると、含まれるトランジスタの数は飛躍的に上昇する。結果、ICのエラー発生率は20nmプロセスのものと16nmのものを比較した際、トランジスタに比べわずかな減少に留まるし、システム全体として見た際、故障率はプロセスルールが小さくなるにつれて大きくなる。
微細化につれてシステム全体のエラー発生率が上昇することが判明したことを踏まえ、同氏は「航空・医療・金融などのミッション・クリティカルな用途に比較して、一般電子機器の対策は大きく水を開けられている」としている。