笠原一輝のユビキタス情報局

Qualcomm以外のSoCでWindows 10 Mobileが動作する日

〜RockchipがWindows 10 Mobileデバイスを展示

CES 2016のRockchipブースで展示されていたRK3288で動作しているWindows 10 Mobile搭載タブレット

 Rockchipは、CES 2016の展示ホールに出展し、同社がOEMメーカーなどに提供するARM SoCや、SoFIA-3GRなどのIA SoCなどを展示した。この中で、Windows 10 Mobileが動作するSoC「RK3288」を搭載したタブレットも展示した。

 これまでのWindows 10 Mobile、およびWindows Phone 8.xのデバイスは、例外なくQualcommのSoCに基づいており、ほかのベンダーのSoCを搭載した製品は参考展示も含めて存在が明らかになったことはなかった。

 OEMメーカー筋の情報によれば、MicrosoftはRockchipなどQualcomm以外のベンダーのSoCでWindows 10 Mobileをサポートする計画を持っており、既に明らかになっているIntelアーキテクチャのサポートを含めて、Windows 10 MobileにおけるSoCの選択肢の幅が広がることになりそうだ。

現在販売されているWindowsスマートフォンはすべてQualcommのSoCに基づいている

 MicrosoftのWebサイトによれば、現在発売されるWindows 10 Mobileデバイス向けには、下記のSoCを公式にサポートしている。

・Qualcomm MSM8994(Snapdragon 810)
・Qualcomm MSM8992(Snapdragon 808)
・Qualcomm MSM8952(Snapdragon 617)
・Qualcomm MSM8909(Snapdragon 210)
・Qualcomm MSM8208(Snapdragon 208)

 これ以外にも、エンタープライズ向けのWindows 10 MobileでモデムなしのSnapdragonや、Windows Phone 8.1からのアップグレードの場合は、過去に販売されていたSnapdragonもサポート含まれる。

 この中にQualcommのSnapdragon 410(MSM8916)が入っていないのでは? と指摘した読者の方は鋭い。その通りで、日本で販売されているWindows 10 Mobileデバイスの多くはSnapdragon 410が採用されている。この場合は、製品としてはWindows Phone 8.1向けとして製造され、OEMメーカー自身が出荷時にWindows 10 Mobileにアップグレードして販売しているという“建て前”になっている。もちろんユーザーにはそんなことは関係ないので、メーカーとしてはWindows 10 Mobileプリインストールとして販売する形になっている。

 話を元に戻すと、現状でWindows 10 Mobileがプリインストールされて販売されているWindowsスマートフォン、そして過去にWindows Phone 8.xをプリインストールして販売されているWindowsスマートフォンのいずれも、全てQualcommのSoCに基づいているのが現状だ。

日本で販売されているWindows 10スマートフォンもSnapdragon一択の状況

 MicrosoftはWindows Phone 7、そしてWindows Phone 8の時代に、ハードウェアの仕様をかなりガチガチに決めて、ほぼ決め打ちのハードウェアをOEMメーカーに対して強いる戦略をとっていた。SoCのスペックもそうだし、カメラのハードウェアボタンをつけなければならない仕様もそうだ。Microsoftがそうした戦略を打っていた頃は、AppleのiPhoneがグローバル市場でも一人勝ちの時代で、Appleが実現している優れたユーザー体験がハードウェアが1種類しかないという状況に対抗するものだと考えられていた。

 しかし、時代は変わった。1つにはスマートフォン市場での勝ち組が、AppleからGoogleに変わったということがある。日本市場では信じがたいが、グローバル的に見れば、スマートフォン向けOSの市場シェア1位は圧倒的にGoogleで、大きく引き離されて2位Appleとなっている。さらに3位のMicrosoftは1桁台という現状になっている(ちなみに日本では逆にAppleが圧倒的に1位で、2位は大きく引き離されたGoogleとなる)。このため、Microsoftが“追いつけ追い越せ“とするターゲットはAppleからGoogleへと変わりつつある。

 このため、Microsoftはオープンな仕様へと戦略を転換した。具体的には一昨年(2014年)のMWC 2014におけるMicrosoftの発表会(別記事参照)で明らかにされた内容がそれで、これまで対象にしてきた大手OEMメーカーだけでなく、中小のOEMメーカーにも参入を促す仕組みを導入した。それを受けて日本市場でもWindows Phone 8.1を搭載したマウスコンピューターの「MADOSMA」や、Windows 10 Mobileを搭載したFREETELの「KATANA01」、「KATANA02」、サードウェーブデジノスの「Diginnos Mobile DG-W10M」、ヤマダ電機の「Every Phone」、トリニティの「NuAns Neo」などのスマートフォンが続々と発売されている。今後、開発意向表明を行なっている、VAIOやAcerなどのメーカーも製品を発売する意向で、日本では選択肢の幅が広がっている。

 ただ、それでも、いずれの製品もSnapdragon 617(NuAns Neo)、Snapdragon 410(MADOSMA、KATANA02、Every Phone)、Snapdragon 210(KATANA01、Diginnos Mobile DG-W10M)といずれもQualcommのSnapdragonシリーズが採用されており、Qualcomm以外のSoCは採用されてこなかった。

RockchipなどほかのSoCベンダーのサポートをRedstone世代で計画

 今回のRockchipによるWindows 10 Mobile搭載デバイスの展示はその状況が大きく変わりつつあることを示唆している。Microsoftは公式には表明していないが、OEMメーカーに対してはRockchipなどQualcomm以外のSoCをサポートする計画を明らかにしているという。その理由は、他社のSoCが低価格だからだ。

 もちろん、Qualcommも低価格のソリューションを拡大しつつある。例えばSnapdragon 210を搭載しているデバイスは、日本ではKATANA01が、税抜き12,800円で販売されており、かなりの低価格が実現されている。それでも、ODMメーカーにしてみれば、Qualcommの製品は高いという思いはあるようで、もっと安いデバイス(例えば発展途上国向けの製品で100ドルを軽く切るような製品)を製造する上では、Rockchipなどのより安価なSoCを使いたいという声は大きかった。そこで、Microsoftは舵を切って、次のWindows 10の大規模アップデートとなるRedstone(レッドストーン、開発コードネーム、現在のWindows 10はThreshold)世代から、ほかのSoCベンダーのサポートが開始される見通しだという。

 ただし、今回Rockchipに展示したのは、現行のTH2(Build 10586)のWindows 10 Mobileで、Redstone相当のプレビュー版ではなかった。このため、Microsoftが公式にサポートしているバージョンというよりは、テスト的にRockchipのSoCへの対応機能を入れた特別版と考えられる。

 Windows 10 Mobileの設定-システム-バージョン情報で確認してみたところ、SoCはRK3288、画面の解像度は768×1,024ドット3:4のアスペクト比であることが分かった。画面サイズは8型前後と思われるが、具体的な大きさは不明だ。

 RK3288は、CPUにARM Cortex-A17(32bit)のクアッドコア、GPUはARM Mali-T764、4K動画(H.264/265)のビデオデコーダ、1080p動画のエンコーダなどを持っており、内蔵の4Kディスプレイ表示やHDMI 2.0を実装して4K/60Hzの出力が可能になるなど、なかなか強力なスペックになっている。

設定-システム-バージョン情報で確認したシステムの詳細。SoCはRK3288であること、液晶の解像度が768×1,024ドットであることなどが分かった
背面には、CPUとしてRK3288Wと書かれており、WはWindowsのWである可能性が高い

拡大し続けるWindows 10 Mobileのエコシステム、大手OEMメーカーの参入は?

 このように、RockchipなどのQualcomm以外のベンダーがWindowsスマートフォン向けのSoC市場に参入するというニュースは、Microsoftにとってはエコシステムの拡大ということを意味するので歓迎していいだろう。選択肢が広がれば、例えば中国や東南アジアなどの成長市場で市場シェアが拡大できる可能性があるからだ。

 Microsoftにとっての次のステップは、一度離れていった大手OEMメーカーにどのようにして振り向いてもらえるかだろう。その鍵は、やはりビジネスユースにあると思う。Windows 10 Mobileの最大の特徴は、ビジネスユーザーに向けた最適化が行なわれていることだ。例えば、シングルサインオン機能により、Windows 10に企業のアカウントIDを登録しておくと、対応しているアプリケーションでIDやパスワードを再度入力しなくてもサービスなどが利用できる機能や、Microsoft Intune、法人向けOffice 365のデバイス管理機能などのエンタープライズ向けの機能が充実している。そうしたソリューションをうまくアピールして法人向けの需要を喚起していくことが、市場シェアを高める上で鍵になるだろう。

 ビジネスユースのニーズでシェアを拡大していく途上で、WindowsがモバイルOSの3番目の選択肢だという認知が広がれば、現在はAndroid向けやiOS向けのアプリしか提供していないサービスプロバイダも、Windowsストアアプリを作るようになり、3つのOS向けに提供されるようになるだろう。そうなればコンシューマも十分視野に入ってくる、これがMicrosoftにとってのベストシナリオだ。

 かつ、それはユーザーにとっても、ベストシナリオだと筆者は考えている。現在の成長市場での高いシェアによるAndroid一人勝ちや、成熟市場でのiOSの一人勝ちという状況は、“競争がなくなる”という観点から好ましいものではないと考えている。かつてPC市場でMicrosoftが一人勝ちだった時に、Microsoftがどういう態度の会社だったか思い返してみればその答えは自ずと明らかだろう。敗者の側に回ってからのMicrosoftがどれだけ努力しているかを見れば、“競争”こそがユーザーにメリットをもたらす唯一のエンジンであることは論を待たないと思う。

 その意味で、Windows 10 Mobileが成長することは、Microsoftとっても大きな意味があるが、それと同時にプラットフォーム市場において健全な競争が発生するという意味でユーザーにも大きな意味がある。

(笠原 一輝)