笠原一輝のユビキタス情報局

普及価格帯PC市場で2 in 1デバイスに舵を切るPCメーカー

 ドイツで開催されているIFAにおいて、PCメーカー各社は記者会見や新製品を展示し、2013年のホリデーシーズン商戦向け新製品のお披露目を行なった。

 既報の通り、SonyはVAIOブランドのWinodwsタブレット「VAIO Tap 11」を展示したほか、普及価格帯のメインストリーム向け製品として「VAIO Fit multi-flip PC」という液晶が回転する機構を備えたノートPCを発表して注目を集めた(別記事参照)。一方Toshibaは、「ENCORE(アンコール)」と呼ばれる、Intelが今週サンフランシスコで行なうIDFで発表すると見られているBay Trail-Tを搭載した8型液晶搭載Windowsタブレットを展示して注目を集めた(別記事参照)。

 また、海外メーカーでは、HPから世界シェア1位を奪取したばかりのLenovoは、昨年(2012年)のIFAで正式に発表したディスプレイの360度回転機能を備えるYogaシリーズの最新製品として、3,200×1,800ドットの超高解像度液晶を備える「Yoga 2 Pro」、「ThinkPad Yoga」、さらにには500ユーロ(日本円で約6万円)を切る低価格な「Flex 14/15」などを発表した(別記事参照)。

 こうした新製品のラッシュから見えてくるのは、PCメーカーが、ハイエンドだけでなく普及価格帯の製品でも、タッチ液晶を備えて何らかの変形機構を備える2 in 1と呼ばれる従来はハイブリッドPCやコンバーチブルなどと呼ばれていた製品へとシフトさせていきたいという意志だ。

普及価格帯を狙った製品となるVAIO Fitが2 in 1デバイスとなったことの衝撃

 今回のIFAの発表で、筆者が最も驚いた製品はVAIO Fit multi-flip PCだ。読者にとっては、11型のタッチ液晶とHaswellを搭載しながら薄さ9.9mmを実現したSonyのVAIO Tap 11、Bay Trail-Tを搭載して450gと比較的軽量を実現したWindows 8.1タブレットのENCOREなどがメインのトピックということになるだろう。もちろん、それはその通りなのだが、それらの製品はボリュームゾーン向けではない。どちらか言えば、最先端のテクノロジーが好きで、いわゆるガジェットと呼ばれる製品が好きなユーザー層向けであり、量販店でバンバン売れるような類の製品ではない。

 だが、VAIO Fitシリーズはそうではなく、マスのユーザーを狙った製品で、VAIOシリーズの中核を占める製品といっていい。VAIO Fitは製品によって違いはあるものの、普及価格帯(数万円〜十数万円)を狙った製品となり、シリーズにとって“台数を稼ぐ”役目もになっている。そのVAIO Fitシリーズに、液晶回転機構が標準で搭載され、複数の形状(クラムシェル、タブレット、スタンド、テント)をサポートするようになったのだ。

 そして、昨年(2012年)のIFAでYogaを正式発表したLenovoは、今年(2013年)のIFAで第2世代Yogaと言ってもいい、Yoga 2 Pro、ThinkPad Flexといったディスプレイが360度回転する製品を発表。加えて、クラムシェルとスタンドモードの2つのモードに制限することで低価格を実現した「Flex 14」、「同15」という廉価版を投入した。Yogaがサポートしているような360度回転できるヒンジはどうしてもコスト高になってしまうため、安価にすることが難しいのだが、クラムシェルとスタンドモードだけに絞れば低コストで製造できる。このため、Flex 14/15は499ユーロ(日本円で言えば6万円)を切るような低価格で発売できるとLenovoでは説明している。

このように、クラムシェル、タブレットと変形するVAIO Fit multi-flip PC
VAIO Fit multi-flip PCのユニークな液晶の回転機構。これだとヒンジの部分の厚さが少なくて済むので、いわゆるYogaタイプ(ヒンジ部分が360度回転するタイプ)に比べて薄くすることができる。なお、液晶側か、パネル側のどちらかに磁石が入っており、タブレットモードでも、クラムシェルモードでも液晶がばたばたすることはない
15型のモデル
14型(右)と13.3型(左)のモデル
本体の比較。右から15型、14型、13.3型、そして一番左がIFAでは参考展示だった11型
13.3型はサイズ的に、以前のVAIO Sのようなクラスの製品と考えるとわかりやすい
13.3型のポート類(右側面)。USB×2、SDカード、HDMIポート、電源ボタンが用意されている
LenovoのFlex 14。クラムシェルとスタンドモードの変形に対応し、低価格を実現

コンテンツ消費と制作の両方をカバーするには、薄型化だけは十分ではない

 このように、PCメーカーが今年のホリデーシーズンの商戦で狙っていることは、普及価格帯のノートPCでIntelが提唱した“2 in 1”を実現することだ。従来はコンバーチブルやハイブリッドPCなどと呼ばれていたカテゴリの製品となるが、現在ではIntelだけでなく、Microsoft、PCメーカーなども2 in 1という呼び方を使ってきており、業界一丸となって普及を目指そうという方向性になりつつある。そして、今回のIFAで、その普及価格帯の製品がついに登場した、そういうストーリーだ。

 東芝 デジタルプロダクツ&サービス社 ビジネスソリューション事業部 事業部長 檜山太郎氏は、日本の報道関係者向けの記者会見において「PC業界としては、スマートフォンやタブレットのコンテンツ消費と、PCのコンテンツクリエーションという特徴の両方を取り込んだ製品が必要だと考えて、ここ数年はUltrabookに代表されるような薄型ノートPCに取り組んできた。だが、それだけではユーザーが両方の使い方をするのが難しいとわかってきて、新しくでてきた流れが2 in 1。弊社としてもそうした製品に取り組んでいきたい」と述べた。つまり、単にUltrabookのように薄型化すればコンシューマに買ってもらえると考えていたPCメーカーのアンチテーゼとして、2 in 1という考え方が出てきたということだ。

 Windows 8が発売されて以降、PCメーカーはノートPCへのタッチ搭載に取り組んできた。昨年のIFAの記事でも筆者は述べたが、Windows 8を快適に利用するには、どうしてもタッチパネルという新しいハードウェアが必要だ。Windows 8を1度でも触った人なら分かると思うが、Windows 8でPCをシャットダウンするには、チャームを呼び出して、設定→電源の順で選んでいってシャットダウンを選ぶ必要がある。Windows 7ではスタートボタンから簡単にシャットダウンを選べていたことに比べると、やや作業が増えており、まどろっこしいのは否定できないだろう。だが、ノートPCがタッチパネルを備えていれば、ディスプレイの右側から指をスライドすると、チャームが表示され、同じ作業をすべてタッチでこなせるので、さほど面倒でもない。このように、終了1つとっても、タッチ機能があった方が使いやすいOSがWindows 8だ。

 では、全部のPCにタッチ機能を実装すればいいではないかと言うかもしれないが、話はそれほど単純ではない。というのも、Windows 8を従来のWindows 7の延長線上にあるOSとして、デスクトップアプリケーションだけ利用するというユーザーにとっては、タッチは必須ではないからだ。Windows 8は確かにスタートメニューとして、タッチフレンドリーなModern UIと呼ばれる新しいUIを採用しているが、1度デスクトップアプリケーションを起動してしまえば、Windows 7と同様の使い方ができる。タッチ機能を搭載すると、それだけ100gの重量増と数十〜百ドル前後のコストアップが避けられないので、全部の機種に搭載するというのは難しい。さらに、LenovoのYogaシリーズように回転機構を備えれば、さらにその分のコストや重量がさらに乗ってくることになる。そうしたことから、当初2 in 1はハイエンドモバイルのような、特殊な製品に留まると考えられてきた。

 だが、そのコストアップ分を受け入れ、ユーザーに対して新しい使い方ができる2 in 1をエンドユーザーに対して積極的にアピールしていかなければ、ノートPCは生き残ることができない、PCメーカーの関係者はそのように考えて、2 in 1を普及価格帯にも落としていく、そうした選択肢をとったということだろう。

ToshibaのSatellite W30t(別記事参照)を手に2 in 1のメリットを説明する東芝 デジタルプロダクツ&サービス社 ビジネスソリューション事業部 事業部長 檜山太郎氏
ToshibaのノートPC戦略としては薄型クラムシェル(いわゆるUltrabook)だけでなく、2 in 1のデバイスを拡張していくとのこと

依然として課題が残るストアアプリのラインナップ、改善の兆しはあるが……

 もちろん、そうした戦略にも課題が無いとは言えない。最大の課題は、2 in 1でタブレットモードにしたときに利用される、Windows 8のModern UIに対応したアプリケーション(Modern Apps)が、iOSやAndroidに比べてラインナップが少ないことだ。

 既に2008〜2009年頃にプラットフォームとして成立しているiOSやAndroidに対し、Windows 8は昨年の10月にリリースされたばかりで、数年遅れであることを考えれば、対応しているアプリケーションが少ないのは致し方ないところではある。だが、使うユーザーの側にしてみれば、「そんなことは知ったこっちゃない」というのが正直なところだ。

 また、Windows 8の発売から1年が経った現在でも、まだiOSやAndroidに用意されているアプリケーションに追いつけていないという不満を持っているPCメーカーも多い。あるPCメーカーの幹部は「MicrosoftにはSurfaceに投資しているお金があるなら、ストアアプリの開発にお金を回してもっと充実して欲しい」と率直に不満を述べている。自社製品と競合することになる「Surface」のような製品に多大なコストをかけて販売しているのを見れば、そう言いたくなる気持ちも理解できるところだ。

6月にサンフランシスコで行なわれたBuildにおいてMicrosoftは、Facebook、FlipbookなどのModern Apps開発意向表明を発表

 では、Microsoftは無策なのかと言えば、決してそうではない。Microsoftもサードパーティへの働きかけを強めている。6月にサンフランシスコで行なった「Build」のような開発者向けのイベントを開催しているのは取り組みの1つだし、実際BuildではFacebook、FlipbookといったiOSやAndroidで人気を集めるサードパーティからの開発意向表明を発表できている。また、Twitterや、AmazonのKindle(米国のみ、日本は未対応)などメジャーなベンダーのアプリケーションは揃いつつあり、FacebookやFlipbookなどの対応が進めば、他のISVもiOS、Androidに次ぐ3つ目の選択肢としてストアアプリを制作するところは増えるだろう。

 いずれにせよ、ストアアプリのプラットフォームを充実させることができるのは、Microsoftだけだ。その意味で、今後Microsoftがどのような施策を打ってくるのか、PCメーカーの関係者はそこに注目している。

B2B市場や大型タブレットの市場を開拓を目指すPCメーカー

 PCメーカーとしては、別の道を探す向きもある。檜山氏は「今後はB2Bの事業を拡充していきたい。昨年の段階でPC事業全体の売り上げのうち20%になってきているが、2015年には40%に引き上げたい。そのためにビジネス向けのラインナップを拡充し、ビジネス向けのノートPCはモビリティを重視したUltrabookへと置き換えていく」と述べ、ビジネス向けUltrabookのラインナップを拡充し、それによりメーカーが顧客に直接売り込んでいくB2Bの形でのビジネスを拡充していくとした。

 「ハードウェアだけでなく、ソフトウェアソリューションなどと組み合わせてビジネスを展開していく。資産管理や電源管理、HDDの故障予知などの管理ツールとセットで販売することで特色を出していく」と述べ、ハードウェアだけでなくソリューションとしてのPCビジネスをさらに拡張していくことでB2Bの売り上げを増やしていきたいとした。

 将来的には、ハードウェアとサービスをセットで顧客に販売し、月額料金という形で徴収するというビジネスモデルも検討しているという。すでにToshibaは米国のマーブルフォールズISDという地方の教育委員会に対して、そのような形でシステムを納入しており、そのようなビジネスモデルが構築できれば、値段の下落が激しいハードウェア販売に比べて利益率が高まることになるため、PC事業の収益性の改善という意味では期待ができるだろう。

 また、PCメーカーがもう1つの新しい柱として期待しているのが、20〜27型などの大型液晶を搭載したタブレットの市場だ。この市場は、従来は液晶一体型(AIO=All In One)PCとして認識されてきた製品群だが、多くの製品がタッチ機能とバッテリを内蔵してきたことで、“大型タブレット”と言った方がいい製品になりつつある。この市場をリードしてきたのは、昨年のIFAでSonyが発表したVAIO Tap 20だが、今回Sonyは液晶のサイズをアップして21型に変更し、プロセッサを第4世代Coreへと切り替えた「VAIO Tap 21」を発表した。また、1月のCESで27型液晶を搭載したHorizonをリリースしたLenovoは、SonyのVAIO Tap 20/21と同クラスの液晶を搭載した「Flex 20」を発表したほか、HPはバッテリこそ内蔵していないものの「HP ENVY Recline All-in-One」という23型と27型のタッチ対応AIOをリリースした。

 このように、今回のIFAで見えてきた今年後半のPC市場は、2 in 1デバイスや、大型タブレットなど従来のPCとは異なる新しいフォームファクタの製品が主役になる可能性が高い。逆に言えば、これといった完成形がないとも言うことはできるが、ユーザーからすればどの製品を選ぶのか、選ぶ楽しみはあるということはできるだろう。

Toshibaは欧州向けの企業向けPCを多数発表、そのほとんどはUltrabookのような薄型クラムシェルで、2 in 1製品もラインナップされている
資産管理やHDD故障予知などのソフトウェアをパッケージとして提供していく
2015年にはB2Bの売り上げ比率を40%にすると東芝の檜山氏は発言
ToshibaのSatellite U50tは15.6型タッチ液晶、第4世代Coreを搭載したUltrabook。今後はこうしたビジネス向けのPCもどんどんUltrabookになっていくと東芝は説明
Lenovoは、IFAでX240(日本ではSがついたX240sが発表済みだが、sなしのX240はまだ未発表)とT440(日本ではS付きのT440sは発表済み)を発表。X240は第4世代Coreになり、展示機は12.5型HD液晶(1,366×768ドット)の液晶を採用していた。T440sと同じく、内蔵と交換可能なバッテリの2つを搭載していてが、タッチありフルHD液晶のラインナップも用意されている。Lサイズバッテリを利用した場合には最大17時間駆動が可能になるとLenovoでは説明。キーボードは2013年型6列配列キーボード。T440は展示されているパネルはあったが、実際に展示されていたのはT440sだった
VAIO Tap 21は、VAIO Tap 20の後継となる製品で、液晶が21型フルHDへと進化している
HP ENVY Recline All-in-Oneの27型モデル。背面の台座がしっかりしているので、このように机からはみ出して使うこともできる

(笠原 一輝)