笠原一輝のユビキタス情報局

Lenovo製品担当事業部長インタビュー

~NEC PCデザインの製品がLenovoブランドでグローバル展開も

 NECとLenovoが日本における合弁会社「NECレノボ・ジャパングループ」を設立する歴史的な発表を行なってから1年半が経過し、NECパーソナルコンピュータとレノボ・ジャパンをその傘下に置くという形でスタートした合弁会社は順調に立ち上がっているようだ。この間の経緯を振り返れば、NECパーソナルコンピュータが徐々に元気になってきたということを読者も感じているのではないだろうか。

 実際、2012年にNECパーソナルコンピュータは2つのエポックメイキングな製品をリリースした。1つは875gと13型パネルを搭載したPCとして世界最軽量のUltrabookである「LaVie Z」。そして2012年末には15.6型パネルを搭載したPCとして世界最薄という厚さ12.8mmを実現した「LaVie X」を発表した。いずれの製品も現時点では日本市場向けの製品ということにはなるが、両製品にプロセッサを供給しているIntelが、2012年9月のIntel Developer Forum 2012や2013 International CESで世界中の報道関係者に両製品を紹介したことで、その開発能力に世界中から注目が集まりつつある。

 買った側であるLenovoも元気だ。2012年第3四半期(7月~9月)のガートナーのリポートではLenovoがトップシェアを奪っている。また、IDCでは2位ながら、これまで世界シェアで1位だったHewlett-Packardと激しいシェア争いを続けている。LenovoがIBMのPC事業を買収した時期の調査では両社ともに上位には来ておらず、昨今の躍進振りには目を見張るものがあると言えるだろう。

 今回のInternational CESでも、第3世代CoreプロセッサのYプロセッサ(TDP 15W/SDP 7Wの低消費電力プロセッサ)を採用した「IdeaPad Yoga 11S」、さらにはテーブル形状にして家族で利用することを意識した27型液晶一体型PC「IdeaCentre Horizon Table PC」、液晶脱着型Ultrabookの「ThinkPad Helix」などの新製品を発表しており、製品ラインナップを増やしている。

 そうしたLenovoでグローバルの製品展開に責任を持つLenovo上席副社長兼製品事業部 事業部長のピーター・ホテンシャス博士へインタビューの機会を得たので、NECパーソナルコンピュータとの関係、Think/Ideaブランドの展開などについて伺った。

Thinkはプレミアムブランドに、Ideaはメインストリームにとブランドの位置づけを再編

Lenovo上席副社長兼製品事業部 事業部長のピーター・ホテンシャス博士

 現在行なわれているInternational CESの期間中に、Lenovoはいつかの重要な発表を行なっている。その1つが、同社の持つブランドラインナップの再編だ。

 これまでは「Think」と「Idea」という2つのブランドを持っており、ThinkPadやThinkCentreなどのThinkブランドは法人向け、IdeaPadやIdeaCentreなどのIdeaブランドは一般消費者向けという切り分けをしてきた。しかし、ホテンシャス氏は「今年発表する製品から、Thinkブランドをプレミアム向け、Ideaブランドをメインストリーム向けに切り分ける」と説明する。

 おそらく、本誌の読者には、この方が従来よりもしっくりくるのではないだろうか。というのも、本誌の週間アクセスランキングを注意して見ていると、IdeaPadの記事よりもThinkPadの記事の方が上位に来る傾向を見て取ることができるからだ。つまり、一般消費者にもThinkPadに興味を持つ読者が多いことを示唆しており、これまでの切り分けではそうしたユーザーへの対処が十分ではなかったとも言える。

 ホテンシャス氏は「例えば、ThinkPad X1 CarbonやThinkPad Tablet 2などは法人だけでなく、一般消費者も興味を持ってくれている。このように、法人向け、一般消費者向けの境界は非常に曖昧で、今こそこれを変更するタイミングだと判断した」と説明した。

 現時点では、ブランド切り分けの変更がLenovoの流通システムにどのような影響を与えるのかは明らかではない。ただ、「同時に組織を改編し、同社で流通システムを担当するGSC(Grobal Supply Chain)事業部を設立し、流通(サプライチェーン)の改善にさらに力を入れていくことになる」とのことなので、一般消費者がThinkPadを購入しやすい環境が今後作られていく可能性が高い。例えば、日本ではThinkPadの販売が一部の量販店に留まっているが、今後はより幅広い流通を通じて入手できるようになる可能性がある。また、GSC事業部の設立により、同社のWeb直販で購入した場合、これまでよりも短い納期で入手することができるようになる可能性もあり、歓迎すべき事と言えるだろう。

ThinkPadに代表されるThinkブランド。これは今後は法人向け、一般消費者向けにかかわらずプレミアムブランド向けになる
IdeaPadなどのIdeaブランド。今後は法人向け、一般消費者向けにかかわらずメインストリーム向け(有り体に言えば低価格向け製品)に使われる。
「ThinkPad X1 Carbon Touch」。日本ではまだ未発売だが、米国ではすでに販売が開始されている

PCとしても使えるがPCではない新しい形のハイブリッドに取り組む

 PC業界にとって2013年は重要な年になると考えられている。言うまでもなくIntelが「Haswell」(ハスウェル、開発コードネーム)で知られる第4世代Coreプロセッサの出荷を開始するからだ。開幕前日に行なわれたIntelの記者会見で、Intel副社長兼PCクライアント事業本部 本部長 カーク・スコーゲン氏が「HaswellはIntelの歴史上で最も消費電力が削減されたプロセッサになるだろう」と発言しており、Haswellへの期待は多くのPCメーカーが共有している。

 「Haswellの登場により、現在はプレミアム向けとなっているThinkPad X1 Carbonのような薄型軽量な製品が低価格で作れるようになり、メインストリームになる」という見通しを明らかにした。ただ、「ThinkPad X1 Carbonのようなプレミアム向けの製品がなくなるのではなく、現在のプレミアム向け製品は、より薄く、より軽く、より長時間のバッテリ駆動ができ、かつ特別な機能を持つという方向に進化していくだろう」と付け加えた。

 その鍵は、「ハイブリッドやコンバーチブルなどと呼ばれる、タブレットとクラムシェルの2つのスタイルで利用できるPCになる」という。LenovoはすでにIdeaPad Yogaを2012年のCESで公開し、Windows 8の発表に合わせて正式に発表している。さらに今年のInternational CESでは「ThinkPad Helix」という液晶部分を取り外し、逆さにして取り付けられる製品を発表するなど、ハイブリッド/コンバーチブル型のラインナップを増やしている(製品に関してのレポートは別記事を参照)。

 また、ハイブリッドなのはハードウェアだけではないという。Lenovoは「IdeaCentre Horizon Table PC」という新しいデザインの液晶一体型PC(英語でいうとAIO:All In One)を発表しているが、それも別の意味でハイブリッドなのだ。

 IdeaCentre Horizon Table PCには新しいAuraと呼ばれるUIを実装することで、家族で本製品を囲んで、タッチパネルを利用してゲームをするなどの新しい使い方が提案されている。従来は、液晶一体型PCと言えばTVとPCの機能が1つになっていることが主なポイントだったが、発想を転換して“これだけ画面が大きいのだから家族で使えるようにした”わけだ(なお、Lenovoは39型の試作製品も公開している、こちらの製品化は未定)。Auraに対応したアプリケーションは、EAなどの大手ゲームパブリッシャーからも提供される予定で、今後さまざまな使い方が想定されている。

 「我々はIdeaCentre Horizon Table PCを単なるPCとは考えていない。これまでのPCは文字通りパーソナルコンピュータだったが、これはインターパーソナル(人間と人間をつなぐという意味)コンピュータで、ファミリーで使うことを想定しているし、Windows上ではビジネスも含めて今までのPCと同様の使い方ができる。このような、従来とは違った意味でのハイブリッドだと考えている」と述べ、単なる液晶一体型PCではなく、新しい使い方を提案する製品なのだと強調した。「我々はこうした劇的な変化をこれからも提案していかなければいけない」と述べ、従来のPCの枠にとらわれない製品作りが今後もPCメーカーにとって重要になると指摘した。

IdeaPad Yoga 11。新しい第3世代CoreプロセッサのYプロセッサを採用している
ThinkPad Helixは第3世代Coreプロセッサを搭載した、タブレットとキーボードドックから構成される脱着型のノートPC
IdeaCentre Horizon Table PCはAuraと呼ばれる新しいUIを採用している。ファミリーでの利用が意識された作り
IdeaCentre Horizon Table PCの39型試作機。比較用においたのは日本のポケットティッシュ

ThinkPadは進化していく、6列配列キーボード採用は1つの例

 ホテンシャス氏は、Lenovo以前にはIBMのPC部門であるIBM Personal Computer Divisionで製品担当の副社長を務めており、LenovoがIBM PC部門を買収したときにLenovoへ移籍した幹部の1人なのだが、そのIBM時代にもThinkPadやThinkCentreなどの開発を担当してきた。つまり、ThinkPadに非常に理解が深い幹部の1人だ。

 その氏に、ThinkPadに関するいくつかの疑問をぶつけてみた。1つは、従来からのClassic ThinkPad(X/W/Tなどの従来からあるモデル)ユーザーに衝撃が走った、7列キーボードから6列キーボードへの変更だ(別記事参照)。

 「新しいキーボードを採用した理由は2つある。1つは7列のままではシステム全体を大きいままにしておかなければならないからだ。もう1つは新しいキートップを採用したかったからだ。新しいキートップは従来のそれに比べてタイピングしやすくなっている。確かに形状やレイアウトは変わったが、TrackPointは残っているし、ユーザーの使い勝手はむしろ向上している。同じ形を残すことは容易だが、それではThinkPadは進化しない。我々は誰にとっても、もっと使いやすいThinkPadを提供できるように進化しなければならない」と述べ、進化のため積極的に取り入れたという見解を示した。

 さらに、もう1つ現在のClassic ThinkPadも全てUltrabookになってしまうのかも聞いてみた。ホテンシャス氏は「業界のトレンドとしては、ノートPC全体がより軽量、より薄型へと向かっていることに疑いの余地はない。だが、全てのThinkPadがUltrabookになるのかと問われれば答えはノーだ。ただし、UltrabookではないThinkPadも薄型軽量になるのかと問われるなら、答えはイエスだ」と、今後の方向性を示した。

米沢のエンジニアはLenovoの財産、米沢発の製品が世界へ展開する可能性も

CESで行なわれたIntelの記者会見ではNECパーソナルコンピュータのLaVie Xが紹介された。ほかの製品は全てタッチ対応だったのに、このLaVie Xが紹介されたのはそれだけIntelにとっても重要な商品だという証しでもある

 最後にThinkブランドとIdeaブランドの切り分けの変更によって日本にあるLenovoの大和研究所の位置付けは変わらないのかも聞いてみた。大和研究所は、IBM時代も含めてThinkPadブランド製品の開発を担っており、Idea関連の製品を開発してきた中国の北京の研究所、ソフトウェアの開発などを行なっている米国ノースカロライナ州ラーレの研究所と並ぶ、Lenovoの三大開発拠点の1つだ。

 ホテンシャス氏は「大和研究所の位置付けはこれまでと変わらず、Thinkブランドの製品開発の拠点として機能していくし、むしろ今後さらに拡張していくことになるだろう」と、Thinkブランドのプレミアムブランド化によって重要性高まるとした。

 さらに「日本にある研究所は、大和研究所だけではない。我々はNECとのジョイントベンチャーを数年前から始めており、NECパーソナルコンピュータは米沢に非常に大きな研究開発拠点を持っている。ジョイントベンチャーを始めて以来、両社を統合するメリットは何なのかを相互に理解するところから始め、現在は技術をどのように共有できるのかを検討する段階に入っている。米沢のエンジニア達は非常にユニークな製品を作り出す能力があり。875gという最軽量のUltrabook(筆者注:LaVie Z)は本当に素晴らしく、彼らは我々にとって大きな財産だ。現在それをもっと活用するにはどうしたらいいかの計画を策定している段階だ」と、NECが持つ米沢の研究開発拠点を積極的に活用していく姿勢を示した。

 その上で「現在北京のIdea開発チームが開発したデザインをNECパーソナルコンピュータとシェアしており、北京のチームが日本側が要求する品質や仕様などをシェアして製品化につなげている。今後はこの逆の展開をお目にかけることができるだろう。つまりNECパーソナルコンピュータが開発した製品を、Lenovoがワールドワイドで販売するということがあり得るということだ」と述べた。

 NECパーソナルコンピュータとの関係をもっと深めることで、その開発リソースもLenovoの製品展開に役立て、近い将来には米沢発の製品がワールドワイドで販売される可能性もある。そうなれば、現在は国内向けに留まっているLaVie ZやLaVie Xなどのユニークな製品が、Lenovoの流通ルートを通じて世界中で販売される可能性が出てくるわけで、注目したい動向だと言えるだろう。

(笠原 一輝)