笠原一輝のユビキタス情報局

クラウドへのバックアップだけで安心や否や

~さらにその先の安心を実現するAcronisのTrue Image New Generationの意味

Acronisの日本オフィスでインタビューは行なわれた

 Acronisは、同社が提供するバックアップソフトウェアサブスクリプション「Acronis True Image」のPremiumプランを契約しているユーザー向けに、最新バージョンとなる「Acronis True Image 2017 New Generation」を2月から提供開始している。

 Acronis True Image 2017 New Generationはランサムウェア対策となる「Acronis Active Protection」、ブロックチェーン技術によりデータがオリジナルであることを証明する「Acronis Notary」/「Acronis ASign」などの新機能を、バックアップソフト「True Image 2017」に付加したもので、中でも最近PCへの具体的な脅威として注目を集めているランサムウェア対策は、コンシューマユーザーにとっても注目の機能だろう。

 そうしたTrue Image製品のマーケティングを担当するAcronis 副社長 兼 グローバルコンシューマ&オンラインセールス 事業本部長 ガイダー・マグダヌロフ氏にお話を伺う機会を得たので、Acronis True Image 2017 New Generationの特徴や狙いなどについてお伝えしていく。

失われたユーザーデータはお金で解決できない

 バックアップはPCのようなIT機器を活用して生産性を上げようというユーザーにとって、誰にとっても頭の痛い問題だろう。実際PC Watchでも、「実録! 俺のバックアップ術」というライター諸氏のバックアップ環境を紹介する連載を行なっていて人気を博しているが、それだけ読者にとっても頭が痛い問題だと言うことの裏返しでもある。

 本誌の読者には釈迦に説法だとは思うが、なぜバックアップが重要なのかと言えば、それはバックアップすべきユーザーのデータが“プライスレス”、つまりお金では解決できないからだ。例えばユーザーのデータが満載だったPCが壊れたとしよう。それをビジネスに使っていた場合であれば、顧客に明日納品すべきデータがそこに入っていて、それが完全に失われてしまって、もう一度データを作るのに3日間かかったとする。そうすると、納期から2日遅れることになり、取引先からの信頼を失ってしまう。失った信頼はお金では取り戻せない、だからこそ“プライスレス”なのだ。

 家庭で使っているPCの場合を考えてみよう。そこには新婚旅行の写真や子供の成長の記録になる写真が入っているかもしれない。それをお父さんが管理しているのに、そのPCのストレージが壊れてデータが永久に失われてしまったことを想像してみよう……確実に家族からのお父さんへの信頼度は大きく低下し、ブーイングの嵐になることは容易に想像できる。ここもまた“プライスレス”だ。このように、PCのハードウェアはお金を払えば交換や修理が可能だが、ユーザーのデータはプライスレス、痛い目に一度でもあったことがある人なら身にしみて理解できているのではないだろうか。

 そのプライスレスのユーザーデータをどのように保護するかだが、その方法は既にPCの初期から確立されている。シンプルにコピーを複数保持すること、つまりはバックアップをしておくことだ。バックアップすべきデータの量が少なければ、手動でコピーしてもたいした手間ではないだろう。しかし、その容量が何百GBとなってくると、毎日それをバックアップと考えただけで気が滅入る。

 そうしたユーザーのために、Windows 10にも標準のバックアップ機能である「ファイル履歴を使用してバックアップ」、あるいはOSイメージごとバックアップできる「Windows のバックアップと復元ツール」という機能が用意されている。ただ、これらのツールは最低限の機能しか用意されておらず、より高度なバックアップという意味では十分ではない。例えば、バックアップと復元ツールではOSイメージを作成できるが、差分バックアップと呼ばれる、アップデートがあった差分だけをバックアップして、バックアップにかかる時間やファイル容量を削減できる機能がない。毎日フルデータをバックアップすることになるので、機能が足りないのだ。

AcronisのTrue Image 2017 New Generation、新しいサブスクリプション“Premium”を契約すると、1TBのクラウドストレージ、最新バージョンとなるTrue Image New Generationの利用権、プレミアムサポートなどが付属してくる。価格はPCの台数によって異なっており、1台であれば9,980円(税込)/1年、3台であれば14,800円(税別)/1年、5台であれば15,980円(税別)/1年という価格設定(いずれもAcronisのWeb経由での購入の場合)。
バックアップは自動で行なわれ、スケジュールは細かく設定できる

 そうした標準のツールでは満足できないというユーザーのために用意されているのがバックアップソフトウェアだ。AcronisのTrue Imageシリーズはその代表的な存在で、PCのOSイメージごとのイメージバックアップや、その差分だけをバックアップすることで、日々のバックアップにかかる時間を短縮できる。さらにはデータを保護するための暗号化にも対応するなど、多種多彩なバックアップ方法に対応しており、Windowsのサービスとして動作するため、ユーザーはバックアップが動いていることを意識することなくPCを使い続けられる。

 元々は「True Image Home」という名称で、コンシューマ向けのソフトウェアとされてきたが、True Image 2013からHomeという名称が取れて、コンシューマ向け、ビジネス向けの両方のPCユーザーが利用できるバックアップソフトウェアという位置づけの製品になっている。

マルチプラットフォームをまとめてサポート

 マグダヌロフ氏によれば、現在バックアップソフトウェア市場は大きく変わりつつあるという。1つはマルチプラットフォーム対応であり、もう1つがランサムウェアへの対処という点にあるという。

Acronis 副社長 兼 グローバルコンシューマ&オンラインセールス 事業本部長 ガイダー・マグダヌロフ氏

 マルチプラットフォームとは、現在のITシステムが従来のようなWindowsとmacOSというような2つのプラットフォームだけでなく、AndroidやiOSも含めて複数のプラットフォームが一般的に利用されるようになっている現状を示す言葉だ。もはやAndroidやiOSのデバイスは、単なる電話ではなく、パーソナルコンピュータという意味として、すでにPCになっていると言ってよい。読者でも、Windows PCとAndroidスマートフォン、Windows PCとiPhone、macOSのPCとiPhoneなどの組み合わせを当たり前のように利用している方が少なくないだろう。

 「バックアップは単なるバックアップだけではなく、マイグレーションツールとしても利用されている。我々の顧客は新しいPCを買ったら、True Imageのバックアップを新しいPCに書き戻したいと考えている。また、スマートフォンにも撮影した写真などそこにしかないデータも増えている。そうしたデータを1つの環境でバックアップしたい、しかも自動でというニーズが増えている」と話す。実際、AcronisはWindowsだけでなく、macOS、Android、iOSという複数のプラットフォームでバックアップ環境を提供している。それぞれのソフトウェアからAcronisのクラウドストレージなどにバックアップが可能であり、そこをハブにしてバックアップの一元的な管理が可能になっている。

クラウドストレージのデータセンターは全世界に設置されており、もちろん日本のデータセンターを選べる。速度を重視すれば日本のクラウドサーバーを選んだ方が有利だが、災害への備えとするならあえて海外を選ぶというのもあり
クラウドにバックアップされているデータにアクセスしているところ。バックアップ時に暗号化の指定をしておけば、クラウドにバックアップされているデータにアクセスするときに暗号化の時に指定したパスワードが必要になる。セキュリティレベルを上げたい人にお勧め
バックアップしたファイルはWebブラウザでブラウズしてみることもできるので、必要なファイルだけを復元することもできるし、True Imageを利用してまとめて復元もできる
あらかじめメール通知を設定しておけば、バックアップでエラーなどが発生すると通知してもらえる

 Acronisでは同時にクラウドストレージ(最大で1TB)+PCソフトウェア(台数は契約による)までのデスクトップソフトウェア利用権のサブスクリプションサービス(Premium、サブスクリプション)も提供しており、Windows/macOS/スマートデバイス(iOSやAndroid)のマルチプラットフォームをAcronisクラウドストレージへバックアップできる。従って、AcronisのクラウドストレージにバックアップしたAndroidスマートフォンで撮影した写真を、Windows PCに書き戻す、そうしたことも可能になっているのだ。

 「重要なことはユーザーが何かを能動的にやるのではなく、すべてのバックアップが自動で行なわれること。特にWindowsやmacOSではそのことが重要だと考えている」と述べ、True Imageのようなツールを利用することで、自動でバックアップできる、これがユーザーにとっての価値だと強調した。

クラウドストレージだけではランサムウェアからユーザーデータを守れない

 近年では、DropboxやOneDriveといったクラウドストレージも一般的になりつつあり、ローカルストレージのバックアップ先として利用しているというユーザーも少ないだろう。そうしたユーザーにとっては、True Imageのようなツールを利用してバックアップを取る意味は少なくなってきているのではないかと尋ねてみた。

 「確かにDropboxやOneDriveのようなクラウドストレージはバックアップの手段としては有効だ。しかし、それで十分かと言われればそうではない。例えば、PCがランサムウェアの攻撃を受けた場合、クラウドストレージのバックアップは無力であることが多い」と指摘した。

 そうしたランサムウェアの攻撃からデータを保護するという観点で、今回AcronisがリリースしたAcronis True Image 2017 New Generationが有効だ。

 ランサムウェアというのは、ユーザーのデータを人質に取るタイプのウィルスソフトフェアのことで、感染したPCのユーザーデータを解除できない形で暗号化してしまう。暗号化されたデータは解除パスワードを入手しない限りはアクセスできなくなり、ユーザーに身代金を払えというメッセージを表示するという仕組みになっている。

 クラウドにバックアップを取っておけば、そこからデータを書き戻せば良いじゃないかという話しもあるが、「多くのクラウドストレージの同期ツールは、自動で同期が行なわれる。このためランサムウェアに暗号化された状態で同期されてしまうことになり、そこから復旧できないことが多い」との通りで、クラウドストレージによっては複数世代の履歴からバックアップが書き戻せる場合もあるが、それも有限(世代に制限があることが多い)で、結局は書き戻せないことも少なくない(ランサムウェア側も、バックアップから書き戻せないようにするために、何度も更新するからだ)。

 Acronis True Image 2017 New Generationでは、Acronis Active Protection、Acronis Notaryという2つの新機能を搭載しているという。Acronis Active Protectionはデータファイルが更新されるパターンを常に確認しており、ファイルに対して怪しい暗号化などを行なっている挙動があった場合にはそれを検知する。また、そのパターンにはホワイトリスト(問題のない暗号化など)とブラックリスト(ランサムウェアの暗号化)により管理されており、怪しい暗号化などが行なわれている時だけを検知されるようになっている。それを検知した場合、Acronis True Image 2017 New Generationは、バックアップ作業を停止し、以前のバックアップから正常なファイルから復元できるようにする。言ってみれば、True Imageの中にアンチ・ランサムウェアの機能が入っている、そう理解すればいいだろう(なお、現時点ではAcronis Active ProtectionはWindows版のみ利用可能)。

公証してほしいバックアップを行なうにはメニューから“公証するファイル”という項目を選んでバックアップする
バックアップ中の様子。これは日本のデータセンターにバックアップしている様子、100Mbpsの固定回線を利用して行なっているが、速いときは70Mbpsとかの速度が出ていたので200GBのデータが1日かからずアップロードできた

 もう1つのAcronis Notaryは、ブロックチェーンと呼ばれる公証機能を利用する。ブロックチェーンは、Bitcoinなどにも使われている公証機能で、ファイルが持つハッシュを複数のクライアントが共有することで、そのファイルが改竄されていない(もしくはされている)ことを担保する仕組み。Acronis Notaryでは、このブロックチェーンをファイルが正規のモノであることを証明する仕組みとして利用することができる。

 こうした新機能を搭載していることで、Acronis True Image 2017 New Generationはランサムウェアやファイルの改竄などからデータを守るという新しい使い方をバックアップソフトウェアに追加したことになる。ただ、「ブロックチェーンを利用するにはクラウドストレージとの組み合わせが必須になるため、これらの新機能はサブスクリプション版のTrue Imageでのみ提供される」とのことだ。つまり、ボックス版や永続ライセンス版のTrue Image 2017ではサポートされないことになる。従って、Acronis True Image 2017 New Generationを利用するにはサブスクリプション版を契約する必要がある。Acronis True Image 2017 New Generationは、1年間有効のPremiumサブスクリプションを契約すると、利用できるTrue Imageの最新バージョン(バージョンとしては2017のままだが)という扱いになる。

より安全なバックアップとは複数のバックアップ先を用意しておくこと

 より安全なバックアップ環境を実現するには、ユーザーはどうしたら良いかという筆者の問いに対してマグダヌロフ氏は「重要なことは複数のバックアップ先を常に確保しておくことだ。ローカルのバックアップ、クラウドのバックだけで満足するのではなく、可能であれば両方取っておくなどが重要になる」とした。True Imageの場合は、True Imageのクラウドストレージへのバックアップと同時に、ローカルのHDDなどに保存するオプションが用意されており、あらかじめ設定さえしておけば、そうした複数のバックアップ先に同時にバックアップを自動で行なうことができる。念には念を入れておいた方がいい、ということだ。

 繰り返しになるが、バックアップとは“転ばぬ先の杖”であって、念には念を入れておいて損をするということはない。マグダヌロフ氏の言うとおり、複数のバックアップ先を用意しておき、常に複数のバックアップがあれば、何かがあった時にバックアップから復元することができる可能性が高まる。筆者の場合、ローカルのPCでのバックアップ、クラウドストレージ(OneDrive for Business)、そしてAcronisクラウドストレージの3つのバックアップを活用しており、特にAcronisのクラウドストレージへのバックアップに関してはAcronis True Image 2017 New Generationを利用して、ランサムウェアへの備えとしている。幸いにして今のところ、Acronisのクラウドストレージから復旧という事態にまで至ったことはないが、備えあれば憂いなしだと感じている。

 読者が、念には念を入れたバックアップを検討したい、というのであればAcronis True Image 2017 New Generationの活用を検討してみてはいかがだろうか。