笠原一輝のユビキタス情報局

名前や見た目よりも“中身”こそが本当にプレミアムなXperia XZ Premium

記者会見ではソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社 EVP セールス&マーケティング担当 古海 英之氏がXperia XZ Premiumを紹介

 ソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社(以下ソニーモバイル)は、2月27日よりスペイン王国バルセロナ市で開催中のMWC 2017において、同社の最新スマートフォンとなるXperia XZ Premiumをリリースした(別記事『ソニーモバイル、世界初4K HDR液晶の「Xperia XZ Premium」。最大通信速度は1Gbps』を参照)。

 そのブランド名を見ると、Xperia XZがちょっと変わっただけかと勘違いする読者も少なくないだろうが、それは大きな誤解だ。実は、Xperia XZは内部のアーキテクチャは完全に一新されたと言っていいほど進化している。

 大きなところで言えば、10nmで製造されるSnapdragon 835に更新されたことが挙げられ、それに合わせて熱設計なども新しくなった。さらにカメラ用のCMOSイメージセンサーが大幅に強化されており、ソニーが開発した“DRAMを積層した3層構造CMOSイメージセンサー”を利用した新しいカメラ「Motion Eye」を採用している。CMOSイメージセンサーにDRAMを搭載しているというメリットを活かし、画質の向上や新機能の向上を実現している。

 そのあたりの詳細を、ソニーモバイルのエンジニアに現地で取材した内容を元に紹介していきたい。

同じMotion Eyeカメラを採用しながら、SoCの世代が違いXZ PremiumとXZs

 今回ソニーモバイルが発表した2製品のうち、ハイエンド向けとされるXperia XZ PremiumとXperia XZsの2モデルは以下のようなスペックになっている。

【表】Xperia XZ PremiumとXperia XZsのスペック(ソニーモバイル発表)
Xperia XZ PremiumXperia XZs
SoCSnapdragon 835Snapdragon 820
メモリ4GB4GB
ストレージ64GB UFS32GB eMMC
ディスプレイ5.5型4K HDR5.2型フルHD
筐体ガラスCorning Gorilla Glass 5(表裏)Corning Gorilla Glass 5(表裏)
ネットワークLTE Cat.16(4CA、4x4 MIMO)LTE Cat.11
バッテリ3,230mAh(QC3.0対応)2,900mAh(QC3.0対応)
背面カメラMOTION EYE、1,900万画素 1/2.3インチ Exmor RS for MobileMOTION EYE、1,900万画素 1/2.3インチ Exmor RS for Mobile
前面カメラ1,300万画素 1/3.06インチ Exmor RS for Mobile1,300万画素 1/3.06インチ Exmor RS for Mobile
Xperia XZ Premium
今回発表されたXperiaの新製品

 発表時から新たに分かったのは、ストレージがXperia XZ Premiumは64GBのUFSで、Xperia XZsは32GBのeMMC、またバッテリ容量がXperia XZ Premiumが3、230mAhでQuickCharge対応、Xperia XZsは2、900mAhとなっており、どちらもQuickCharge 3.0に対応している。

 両モデルとも後述する同じ「Motion Eye」とブランディングされている背面カメラを搭載しており、カメラの機能としては同等になっている。内部的な違いで言えば、Xperia XZsは昨年(2016年)のハイエンドSoCとなるSnapdragon 820を搭載しているのに対して、Xperia XZ Premiumは今年(2017年)のハイエンドとなるSnapdragon 835を搭載していることが最大の違いとなる。

 Snapdragon 835は、CPUが強化されて8コア(820は4コア)になっているなど処理能力面では有利であること、そしてもう1つのメリットはモデムが下り1Gbpsの通信速度を実現するLTE CAT.16に対応していることが挙げられる。

Qualcomm Technologies 社長 クリスチアーノ・アーモン氏

 実際、現地時間2月27日に行なわれたソニーモバイルの記者会見には、Qualcommの半導体子会社であるQualcomm Technologies 社長のクリスチアーノ・アーモン氏が登壇し、Qualcommとソニーモバイルが共同でギガビットLTEと呼ばれる1Gbpsの通信速度を実現するLTE CAT.16の普及を推進していきたいとアピールした。

 ただ、現状ではLTE CAT.16を実現するには、4xキャリアアグリゲーション(20MHzの帯域を4つ束ねて通信すること)で、かつ256QAMを実現している必要があり、今のところ日本ではそうした通信方式を実現している通信キャリアはないので、仮に日本で販売されるということがあっても、すぐに1Gbpsで通信できるというわけではない。このあたりは、通信キャリア側のインフラの整備を待つ必要がある。

4KでHDRに対応しているXperia XZ Premium

 そして、Xperia XZ PremiumとXperia XZのもう1つの大きな違いが、ディスプレイだ。Xperia XZsが5.2型フルHD(1,080×1,920ドット)になっているのに対して、Xperia XZ Premiumは5.5型4K(2,160×3,840ドット)になっているだけでなく、HDR(High Dynamic Range)に対応しているのだ。

 HDRでは輝度が従来のSDRの10倍をカバー可能で、色域も従来のBT.709から、BT.709相当では189%のカバー率になるBT.2020になるなど、高輝度、広色域をカバーすることで、より豊かな色表現が可能になる。

Xperia XZ Premiumは4K HDRに対応
HDRのメリット

 そうしたハードウェア側の進化に加えて、ソニーのBRAVIAブランドのノウハウであるトーンマッピング機能(サチレーションを防ぐ機能)、消費電力への影響をできるだけ避けるための機能である、トーンマッピングを明るさに応じて行なうアダプティブ(適合型)トーンマッピングなどを搭載しており、消費電力などのインパクトを避けてHDRの機能を実現する仕組みが入っている。

 実際、ソニーモバイルが公開したデモでは同じ4KディスプレイながらSDRのXperia Z5 Premiumとの比較が行なわれたが、カメラで撮影しても分かるほど、色表現に大きな差が出ていた。人間の眼で見るともっと明快な差が出ているということだ。

4K HDR BRAVIAの技術とソニーモバイルの技術の両方を活用
上がHDRに対応したXperia XZ Premium、下がSDRのXperia Z5 Premium

 ソニーモバイルの担当者によれば、4Kを実装する上で課題になったのは、熱設計だったという。分解モデルを見ると、発熱をするSoC、カメラなどを分散して置いており、パネルとの間に熱伝導性を持つグラファイトシートを敷くなどしている。

Xperia XZ Premiumの分解サンプル
ロジックボードとバッテリ

 なお、Xperia XZ Premiumはディスプレイ面だけでなく、背面のガラスにも強度の高いCorning Gorilla Glass 5を利用している。

”DRAM 3層構造のCMOSイメージセンサー”が技術の肝

 Xperia XZ Premium/Xperia XZsの最大の特徴と言っていいのは、新しく採用された「Motion Eye」というブランド名が付けられた背面カメラモジュールだ。

 ソニーモバイルによれば、Xperia Z5の時に新しいカメラモジュールを導入してから、その後はソフトウェアのアップデートなどで新しい機能を追加してきたとのことだが、今回のXperia XZ Premium/Xperia XZsで完全に更新され、新規開発になっているという。

Xperia XZ Premiumのカメラモジュール
Motion Eyeの機能を説明するスライド
画素とロジックの間にDRAMを挟み込んでいる3層構造、ここでは従来製品に比べて5倍と説明されている
Motion Eyeカメラでは、スーパースローモーションなどの新しい機能と高画質化の両方が実現されている

 CMOSイメージセンサーには新しいExmor RS for Mobileを採用。これには、ソニーが開発して今年のISSCCで発表した、”DRAMを積層した3層構造CMOSイメージセンサー”だ(別記事「ソニー、フルHDで1,000fpsの撮影ができるスマートフォン向けCMOSイメージセンサー」を参照)。

 一般的な裏面照射型のCMOSセンサーは、回路の上に画素が積層されている構造になっているのに対し、新CMOSイメージセンサーは画素と回路の間にDRAMを挟み込み、3層構造となっている。

DRAMを積層した3層構造CMOSイメージセンサーの説明

 DRAMを採用するメリットは2つある。1つにはDRAMからのデータ読み出しが従来製品に比べて約4倍になり、画素の行毎の読み出し時間のずれを抑えられるようになる。これによりスマートフォンのように露光時間を制御するメカニカルシャッターがない場合でも、フォーカルプレーン歪みと呼ばれる動きの速い被写体の撮影時に起こりやすい歪みを抑えての撮影が可能になるという。

 2つ目は、高速読み出しが可能になったことで、フルHD(1,080×1,920ドット)で最大1,000fpsのスーパースローモーション撮影が可能になることだ。通常速度の撮影データと、DRAM側に保存してある高速撮影データを、SoC側のISPに転送することで、通常データとスーパースローモーションのデータを処理し、シームレスに繋いだ動画を作成可能になる。

 Xperia XZ Premiumでは、これをスーパースローモーション機能、そしてプレディクティブキャプチャ機能として利用している。前者では、フルHD(1080p)で960fps(CMOSイメージセンサーのスペックよりもやや落としてあるのはマージンを見ているためと考えられる)でスーパースローモーション動画と通常の動画を交互に撮影して、それを1つの動画として作成できる。動画を見てもらえば分かるが、動きのある映像だとかなり面白い動画が作れそうだ。

スーパースローモーションの説明
スーパースローモーションで録画するには録画中に録画ボタンの上にあるスローモーションのボタンを押す
スーパースローモーション録画中の様子

 また、もう1つのプレディクティブキャプチャ機能は、動画が作成された時に、DRAMに保存されているフレームをバッファとして保存しておき、ユーザーがシャッターを押した時点を基準にして、その時点とそれ以前の3つのポイントをSoC側に読み込むという機能。

 例えば、バスケットの試合を撮影していたとして、シュート瞬間よりもちょっと後にシャッターを押したとしても、その時点よりも3つの前段階が候補として表示される。全てを保存することもできるし、決定的な瞬間だけを残すという使い方が可能だ。

プレディクティブキャプチャの仕組み
プレディクティブキャプチャの機能を使うと、決定的瞬間の後シャッターを押しても、決定的瞬間を保存できる。この場合だと左下の画像が決定的瞬間に近く残しておくべき写真となる

 このように、Xperia XZ Premium/Xperia XZsのMotion Eyeは、DRAMを積層した3層構造CMOSイメージセンサーを採用することで、スーパースローモーション機能やプレディクティブキャプチャ機能などの新しいユニークな機能を実装していることはもちろんだが、動きが激しい被写体で歪みが少ないなど、画質面の好影響も大きくメリットは多い。

 ソニーのエンジニアによれば、画素数はXperia XZの2、300万画素より少なくなって、1,900万画素だが、むしろトータルの画質は向上しているとのことだった。

左の写真が従来のモデルで撮影した画像、右側が新しいCMOSセンサーで撮影した画像。白が飛んでいなかったりしていることがよく分かる

中身が大きく進化しているXperia XZ Premium、 CMOSイメージセンサーを自前で作っているメーカーならでは

 このように、Xperia XZ PremiumはXperia XZの改良版と受け取られる名前が損しているのでは、と思うぐらい中身は大きく進化している。特にカメラ周りの進化は著しく、ソニーらしい高画質が実現できることを期待していいのではないだろうか(もちろん、まだ実際に製品化されていないので、画質の評価はこれからであることは付け加えておく)。

 最近ではスマートフォンの評価の重要な部分をカメラの画質が占めていることは論を待たないと思う。スマートフォンが大衆化していくことで、その評価基準も前面カメラの美顔機能だったりと、軸はいろいろ広がりつつある。

 しかし、カメラがもっとも使われているのは、結局我々の生活を切り取り記録を残すという目的であることを否定する人は誰もいないだろう。つまり、依然として大事なのは背面カメラの画質であることには何も変わりはないはずだ。

 今回のXperia XZ Premium、Xperia XZsは基礎中の基礎に立ち返って、そのカメラの画質をもっとも左右するCMOSイメージセンサーに最新のものをいち早く採用したのは、CMOSイメージセンサーを自社で製造しているソニーだからこそできることでもある。