福田昭のセミコン業界最前線
ルネサスの「明日」が見えない
(2013/7/3 11:53)
国内大手半導体メーカー、ルネサス エレクトロニクス(以下は「ルネサス」)の国有化に向けた準備が進んでいる。今年(2013年)の10月1日には、国有化されたルネサスが新たに離陸する予定だ。
離陸の準備作業はとは何か。経営陣の刷新、組織の変更、赤字事業の処分、人員の削減、生産ラインの削減などである。
経営トップが正式に決定
今年4月4日付けの本コラムでご報告したように、ルネサスの経営トップは2月22日に大幅に刷新された。経営トップである代表取締役社長が赤尾泰氏から、取締役兼執行役員で生産本部長を務めていた鶴丸哲哉氏に交代した。水垣重生取締役執行役員を除くほかの取締役は経営の第一線から退いた。同時に事業本部などの本部群が7つから4つに統合され、新たに任命された執行役員4名が4つの本部を担当する形になり、経営層の人数が減少するとともに組織が簡素になった。
5月9日には、国有化に向けて代表取締役会長兼CEOと代表取締役社長兼COOの人事を内定した。経営トップの代表取締役会長兼CEOには、オムロンで取締役会長を務めていた作田久男氏が就任する。代表取締役社長の鶴丸氏は代表取締役社長兼COOとなり、作田氏とタッグを組むことになる。
続く5月28日には、取締役と執行役員の新体制を取締役会で決議したことを公式発表した。作田氏、鶴丸氏、水垣氏を除く、すべての取締役(非常勤取締役および社外取締役を含む)は6月26日の定時株主総会で退任する。また産業革新機構から2名の社外取締役を受け入れる。
そしてルネサスは6月26日に定時株主総会を開催し、予定通りに議案を成立させた。同社の取締役を選任するとともに、取締役会を開催して代表取締役会長兼最高経営責任者(CEO)と、代表取締役社長兼最高執行責任者(COO)を正式に決定した。この結果、10月1日にスタートする新しいルネサスの経営体制がほぼ確定した。
産業革新機構など9社による増資はまだこれから
昨年(2012年)12月13日付けの本コラムでご報告したように、ルネサスは、政府が91%を出資する「産業革新機構」とコンソーシアム8社(トヨタ自動車、日産自動車、ケーヒン、デンソー、キヤノン、ニコン、パナソニック、安川電機)に対する株式の第三者割り当てによる増資を予定している。第三者割当増資で産業革新機構が出資する金額は1,383億5,000万円、コンソーシアム8社が出資する金額は116億5,000万円である。合計で1,500億円の増資となる。
増資の最終期限は9月30日なのだが、実際に増資がいつ実施されるかが注目されていた。その1つの区切りが、6月26日の定時総会だった。6月25日までに増資の金額1,500億円がルネサスに払い込まれれば、産業革新機構に関連する議決事項はすべて正式決定となる。産業革新機構から選任された取締役は、株主総会の議決によって就任できた。しかし6月26日時点では、1,500億円の払い込みは実施されなかった。
このため、定時株主総会では産業革新機構の取締役と執行役員が1名ずつ、ルネサスの社外取締役に選任されたのだが、取締役に就任するのは「第三者割り当て増資の資金払い込み日の翌日」という変則的な日程となった。
モバイル用次世代ワイヤレスモデム事業を処分
定時株主総会の翌日である6月27日には、モバイル用SoC(System on a Chip)の開発子会社であるルネサスモバイルが「携帯電話システムの次世代ワイヤレスモデム事業」から撤退すると発表した。4月1日付けの本コラムでご報告したように、今年3月以降、ルネサスは次世代ワイヤレスモデム事業の売却先を探していた。しかし売却交渉は不調に終わり、事業そのものから撤退することになった。
ルネサスが6月26日に提出した有価証券報告書によると、ルネサスモバイルは3月31日の時点で、366億円の債務超過に陥っていた。10月1日に新体制が始動する以前の段階で、過去の経営トップによる負の遺産を処分しておく、あるいは、処分の道筋を付けておくことは、必須だったといえる。
ルネサスモバイルは海外の従業員が多い。フィンランドに約1,100名、インドに約300名、中国の北京に約30名である。これらの海外現地法人は今年(2013年)の12月31日に事業を停止する。残るは日本国内が主体の自動車情報機器用SoC開発事業と産業機器用SoC開発事業だけになる。これらの事業は近く、ルネサス本体に統合されるのだろう。
第3回の早期退職制度を8月~9月に実施
またこの8月には、3月28日にルネサスが公表した早期退職制度による公募が予定されている。対象者はルネサス本体および国内連結子会社に勤務する、40歳以上の総合職である。募集人員は3千数百名となっている。退職日は9月30日である。
今年の3月31日時点におけるルネサスの連結ベース従業員数は33,840名なので、10月1日時点には従業員数はおよそ3万名に減少するとみられる。これで、一連の人員削減は一段落するはずだ。
生産ラインの削減が進まない
「準備完了」とはまだ言えないのが、国内生産ラインの削減である。昨年(2012年)の7月3日にルネサスは、国内における生産拠点の再編成(削減と縮小)に関する方針を公表した。
生産ラインは大別すると、前工程(ウェハ処理)ラインと後工程(パッケージング処理)ラインに分かれる。国内の前工程は9拠点15ラインがあり、この中で現状を維持するのは5拠点7ラインにとどまる。生産ラインの数はおよそ半分になる。残る3拠点3ラインは縮小、4拠点5ラインは売却という方向性が打ち出されていた。
国内の後工程は9拠点があり、現状維持は1拠点だけ。残る2拠点は当面が現状維持だが譲渡を検討しており、6拠点は縮小あるいは売却という再編成方針だった。
そして今年5月9日に、生産拠点削減の進捗状況をルネサスは発表した。順番が前後するが、後工程は4つの生産拠点を2社に譲渡し、6月末日時点で生産拠点は5つにまで減少した。ところが前工程は、目立った動きが見られない。前工程の生産拠点が余剰であったり、一部のラインは製造コストが低くなかったりすることが収益の足を引っ張っているだけに、この状況は望ましくない。
見えない業績回復の道筋
ルネサスの業績は、依然として芳しくない。四半期業績は2012年度第3四半期(2012年10月~12月期)まで、7四半期連続で営業赤字を計上した。同年度第4四半期(2013年1月~3月期)は円安の影響もあって営業黒字を達成したものの、売上高では前年同期比、前期比ともにマイナス成長である。
業績を純損益でみると、さらに厳しい状況が浮かびあがる。2010年4月1日にルネサスが誕生して以降、すべての四半期で純損益は赤字なのである。一度も黒字化したことがない。純損益の累積損失は3,453億円に上る。
国有化によって倒産の危機は一時的には去ったものの、ルネサスが抱える基本的な問題は放置されたままだ。延々と続く赤字決算の繰り返しはいつになったら終わるのか。赤字脱出の道筋はまだ、見えていない。