福田昭のセミコン業界最前線
Intel-Micron連合の3D XPointメモリに対抗するSamsungの「Z-NAND」技術
2016年9月6日 06:00
「3D XPointメモリ」は、IntelとMicron Technologyが昨年(2015年)の7月末に共同開発を発表した高速大容量不揮発性メモリである。既に128Gbitシリコンダイのサンプルが出荷されており、SSD(Solid State Drive)の試作品で性能が評価されつつある。
3D XPointメモリは、シリコンダイの性能では「NANDフラッシュメモリの1,000倍も高速」であり、「NANDフラッシュメモリの1,000倍も書き換え寿命」が長く、「DRAMの10倍の記憶密度」を有するとアナウンスされていた。しかしNVMeインターフェイスのSSDでNANDフラッシュメモリ搭載品と比較した範囲では、レイテンシ(遅延時間)は10分の1、アプリケーションの処理速度は3倍といった性能にとどまっている。
それでも3D XPointメモリに対するメモリユーザーの期待は大きい。128Gbitという大容量チップの不揮発性メモリは、NANDフラッシュメモリを除くと存在しないからだ。高速のランダムアクセスが可能という意味では、3D XPointメモリが唯一の存在といえる。
「Z-NAND」技術は記憶チップとコントローラで構成
メモリユーザーが不満に感じることの1つは、3D XPointメモリの商業生産(大量生産)がなかなか始まらないことである。もう1つは、DRAMとNANDフラッシュメモリの速度ギャップを埋める次世代メモリの有力候補が、3D XPointメモリだけだということだ。候補が1つでは競争原理が働かず、メモリやSSDなどの価格が下がらないとの懸念が大きい。
そこに登場したのが、Samsung Electronicsが開発した高速大容量不揮発性メモリ技術「Z-NAND」である。Z-NAND技術を組み込んだSSD(「Z-SSD」と呼称)を試作し、従来のNANDフラッシュメモリ内蔵SSDに比べて、レイテンシ(遅延時間)が大幅に短く、スループット(データ転送速度)が高いことをフラッシュメモリ業界のイベント「FMS(Flash Memory Summit)」でアナウンスした。
要素技術はほとんど公表せず
「Z-NAND」技術によるメモリの性能や要素技術などは今のところ、まったく公表されていない。分かっているのは、SSDである「Z-SSD」の簡単な構成と性能くらいである。Z-SSDでは、Z-NANDチップと専用開発のコントローラを組み合わせる。チップとコントローラのそれぞれに独自の工夫が施されていると見られるが、詳細は分からない。
Samsungは以前に、相変化メモリ(Intelは「PCM」、Samsungは「PRAM」と呼称)を試作し、一時期は製品化していたことがある。しかしFMS展示会での説明では、Z-NANDチップは相変化メモリではないとする。チップにDRAMシリコンダイとNANDシリコンダイを内蔵して性能を上げる手法もあるが、これも違うようだ。
Z-NANDチップついては、米国のオンライン誌EETimesがZ-NANDに関して報じた記事が興味深い。同誌の記者が東芝のエンジニアにインタビューし、「3D NANDフラッシュメモリをSLCタイプで使うことで性能を高めた可能性がある」との重要なコメントを得ている。3D NANDフラッシュメモリの標準的な使い方はTLC(3bit/セル)タイプである。同じシリコンダイをSLC(1bit/セル)タイプで使うと、記憶容量は3分の1に下がるものの、アクセス速度は上がる。特に、書き込み性能が上がる。NANDフラッシュメモリは従来、書き込み性能が低いという弱点を抱えていた。これを既存のSSDでは、入出力チャンネルのマルチ化やDRAMバッファの搭載などによって補い、高い性能を実現してきた。
例えば256GbitのTLCタイプ3D NANDフラッシュをSLCタイプとして使うと、記憶容量は約85Gbitに小さくなる。しかし書き込みに必要な時間は短くなる。さらに、書き換え寿命が大幅に増加する。Samsungはエンタープライズ向けのSSDソリューションとしてZ-SSDを紹介しているので、書き換え寿命の増加は大きな意味を持つ。
相変化メモリ(PRAM)と性能を比較した意味
DRAMと既存のSSDの間にメモリ階層の大きな性能ギャップが存在することは、良く知られている。SamsungはFMSのキーノート講演で、このギャップを埋めるには、相変化メモリ(PRAM)をベースとしたアプローチがこれまで存在しており、SamsungはNANDベースのアプローチでこのギャップを埋めるとした。
ここでPRAMベースのアプローチとは、「3D XPointメモリ」を指しているものと思われる。FMSのキーノート講演と展示会で、SamsungはZ-SSDの性能を既存のSSDと比較してみせたのだが、比較した図面でもしばしば、PRAMベースSSDとの比較結果が出てきた。
キーノート講演では、SamsungのNVMe SSD「PM963」とPRAMベースSSD、Z-SSDの性能をならべたグラフを示していた。例えばシーケンシャル読み出しのスループットは、NVMe SSDの2倍以上あり、PRAMべ-スSSDよりもやや高い。そして4KBデータ読み出しのレイテンシ(遅延時間)は、NVMe SSDよりもはるかに短く、PRAMベースSSDとほぼ等しい。メモリキャッシュサーバーの性能はNVMe SSD搭載システムの2倍以上あり、PRAMベースSSD搭載システムよりも少し高い。ビッグデータ分析の性能はNVMe SSD搭載システムの2倍以上あり、PRAMベースSSDよりも1.2倍ほど高い。そしてZ-SSDの消費エネルギー効率はPRAMベースSSDよりも2.6倍も高いとする。
展示会のブースでも、既存のNVMe SSD、PRAMベースのSSD、Z-SSDの性能を比較し、大型液晶パネルでスライドショー表示していた。
シーケンシャル読み出しとシーケンシャル書き込みのスループットは、Z-SSDが約3.2GB/secと最高の性能を示していた。PRAMベースSSDはNVMe SSD(NANDフラッシュベース)よりは高いものの、スループットはZ-SSDの3分の2前後となっていた。
4KBデータ読み出しのレイテンシ(遅延時間)は、キーノート講演と同じく、Z-SSDがNVMe SSDに比べて4分の1と短く、PRAMベースSSDとほぼ同じである。
全体としては、PRAMベースのSSD(すなわち3DXPointメモリベースのSSD「Optane」と「QuantX」を想定)と同等以上の性能を、Z-SSDは有するとする。Samsungが公表したリリースによると、Z-SSDの製品版は来年(2017年)に出荷すると期待されている。
SSDはNVMeという超高速インターフェイスを得て、その性能を最大化可能になった。逆説的だが、NVMeインターフェイスを極限にまで使い切る性能のSSDを考案し、開発する意義が生じたとも言える。3DXPointやZ-NANDなどは、NVMeインターフェイスが前提のSSDを実現する要素技術だ。今後も、類似の方向性を目指したSSDが考案される可能性は少なくない。非常に楽しみだ。