■西川和久の不定期コラム■
少し前に、筆者が今使っているノートPC、ThinkPad X31の後釜候補として、ThinkPad X100eと、Edge 13"をレポートしたが、実はこれらが発表される数カ月以上前に候補になっていたモデルがあった。それはHPの「Mini 5101」。Atom N280を搭載し、10.1型HD解像度、Gigabit Ethernet付きのネットブックだ。今回は、そのリニューアル版とも言える「Mini 5102」が届いたのでご紹介したい。
ネットブックはMicrosoftとIntelからいろいろ制限が付けられているので、なかなか差別化が難しい。悪く言ってしまえば、メーカーとデザインが違う+α程度での差しかない。その代わりに価格がとんでもなく安いと言う、ユーザーから見れば嬉しい特典がある。本機はCPU的にはネットブックなのだが、かなり強化拡張されており、ネットブックというよりミニノートというべき存在だ。
冒頭で触れたが、筆者が今使っているノートPCの後釜として、どうしても譲れない部分は、液晶パネル11型前後でXGA以上、キーボードがしっかりしていもの、GbE対応、1.5kg前後の重量となる。処理速度自体は大したことをしないのでAtomプロセッサでも十分だ。ただ、意外とこの条件を満たすノートPCは少なく、実際触った中で現在候補として残っているのは、ThinkPad X100eのみとなっている。
そして今回、候補になりえるノートPCとして届いたのが、このHP「Mini 5102」。実は前モデル(2009年8月発表)にあたる「Mini 5101」が出た時から目を付いていたモデルなのだ。特徴としては、「10.1型HD液晶(1,366×768ドット)」、「有線LANはGbE」、「アルミニウム・マグネシウム合金を採用し、天面の耐加重500kgfを実現した頑丈なボディ」、「約1.2kgと軽量」、「良さそうなキーボード」などがあげられる。5101はAtom N280/945GSE ExpressのWindows XPだったが、ご紹介する5102は、特徴をそのまま、Atom N450/NM10 Expressと、Windows 7になった2010年版モデルだ。主な仕様は以下の通り。
HP「Mini 5102」 10H/160/Professional/Blueモデル仕様 | |
---|---|
CPU | Intel Atom N450プロセッサ(1Core/1.66GHz/キャッシュ512KB) |
チップセット | Intel NM10 Express |
メモリ | 2GB/SO-DIMM(PC2-6400 DDR2-SDRAM/最大2GB/1スロット空き0) |
HDD | 160GB(7,200rpm) |
OS | Windows 7 Professional(32bit) |
ディスプレイ | 10.1型ワイドTFTカラーHD液晶/ノングレア、1,366×768ドット |
GPU | チップセット内蔵GMA3150、アナログRGB(ミニD-Sub15ピン)出力 |
ネットワーク | Ethernet(10BASE-T/100BASE-TX/1000BASE-T)、IEEE 802.11b/g |
その他 | USB 2.0×3、SDカードリーダ、Webカメラ、オーディオIN/OUT、ステレオスピーカー、ステレオマイク |
サイズ/重量 | 262×180×23.2~31.0mm(幅×奥行き×高さ)/約1.2kg、6セルバッテリ時、最厚部37.8mm/約1.3kg |
バッテリ駆動時間 | 最長約4.5時間/6セルバッテリ時 最長約10時間 |
ダイレクトショップ価格 | 58,800円(税込) |
CPUはGPUとメモリコントローラを内蔵した新型Atomプロセッサだ。1コア/1.66GHz/キャッシュ512KB。Hyper-Threadingに対応しているので見かけ上2CPUとなる。チップセットはIntel NM10 Express。GPUは内蔵のGMA3150。メモリは2GB。1スロットなので最大容量だ。HDDは160GBだが、7,200rpmと高速タイプを搭載している。重量も同クラスと比較して約1.2kgと結構軽い方だろう。
液晶パネルは10.1型ながらHD解像度、1,366×768ドットと、一般的なネットブックと比較してワンランク高い解像度だ。そして筆者が何時も気にしている有線LANはGbE対応。これならNASへ接続しても快適に操作できる。
ただこの「Mini 5102/5101」は、ビジネスモデルと言う位置付けで、量販店などで実機を触ることができない。従って「良さそうなキーボード」と書いたのは、写真を見る限りで、実機には触れていないため、実際はどうなのか不明だったのだ。この辺りについては、この後で使用感などを書いて見たい。
さて、このMini 5102、少しややこしいのがモデルの型番と機能の有無だ。ダイレクトショップで扱っているのは5モデル。色別で分類すると、ブルー、レッド、ブラックの3種類。そしてブラックに関しては構成別で3タイプある。それぞれモデル名を書くと、「10H/160/Professional/Blueモデル」、「10HT/160/Professional/Redモデル」、「10H/160/ダウングレードモデル」(ブラック)、「10H/128S/ダウングレードモデル」(ブラック)、「10HT/160/Professionalモデル」(ブラック)となる。
ダウングレードモデルは「Windows XP Professional Service Pack 3」搭載機。他は全て「Windows 7 Professional(32bit)」。頭の「10H」か「10HT」の違いは、「HT」が「液晶パネルは”マルチタッチ”対応」だ。真ん中の数字はHDDの容量160GBを表す。そして1モデルだけ「128S」となっているのは128GBのSSD搭載機。
さらにモデル名から分からない仕様として、ブルーとレッドモデルに関しては「無線LANは11gまで、Bluetoothは無し」、ブラックモデルは「無線LAN 11n対応、Bluetooth 2.1あり」となっている。整理すると以下のようになる。
モデル別仕様一覧 | |||||
---|---|---|---|---|---|
マルチタッチ | HDD | 無線LAN | Bluetooth | 価格(税込) | |
10H/160/Professional/Blue | × | 160GB | 11b/g | × | 58,800円 |
10HT/160/Professional/Red | ○ | 160GB | 11b/g | × | 65,100円 |
以下Black | |||||
10H/160/ダウングレード | × | 160GB | 11b/g/n | ○ | 69,930円 |
10H/128S/ダウングレード | × | SSD/128GB | 11b/g/n | ○ | 75,600円 |
10HT/160/Professional | ○ | 160GB | 11b/g/n | ○ | 79,800円 |
※全てバッテリは4セル。6セルバッテリは11,550円 |
同社のダイレクトショップは、一見BTOができそうなのだが、実は主要モジュールの変更は一切できない。従って上記の組み合わせが全てとなり、例えば、例えば、Windows7、ブラックでマルチタッチ無し、128GB SSDと言った選択や、ブルー/レッドモデルの無線LANを11n対応には出来ない。ネットブックとしては素性が良いだけに非常に残念だ。また価格も高めだ。この点についてはWindowsもWindows 7もしくはダウングレード権のWindows XPだけでなく、Windows 7 Home PremiumもOKとなれば、差額の数千円程度は安価になる。ビジネスモデルとは言え、もっと柔軟な組み合わせができるようになれば、さらに魅力が増すと思われる。
キーピッチは実測で約18mm | 重量は標準の4セルバッテリで1160gと1.2kgを切っている |
ACアダプタがミッキータイプなのが惜しいところ。バッテリは残量をLEDで4段階表示できる | TinkPad X31とiPhone 3GSとの比較。10.1型パネル搭載機なのでさすがに小さい。重量も1.2kg切っているので持ち運びはかなり助かる |
梱包から取り出した第一印象は「お! これはかなりいい!」だった。まずネットブックにありがちなプラスチッキーなチープ感は皆無。往年のThinkPadにも似た重厚感だ。アルミニウム・マグネシウム合金を採用した頑丈なボディと言うのが即分かる仕上げになっている。これは、天板やパームレストなど普段見える部分だけでなく、サイド、そして裏側までしっかり作り込まれ手抜きが無い。閉じた時も、開いた時も、美しいと言う表現をしたくなるほど。もちろん約1.2kgなので持った時も非常に軽く、サイズ262×180×23.2~31mm(幅×奥行き×高さ)は十分コンパクトだ。
アイソレーションタイプのキーボードは、ストロークが少し軽く、強く押すと若干たわむものの、ThinkPad X100eよりちょっと劣る程度と、巷のネットブックやCULVノートPCとは比較にならない感触だ。パームレスト、そしてタッチパッドは、10.1型パネルなので、どうしても面積的には厳しいが、筆者的には十分許容範囲。パッドの滑りはスムーズ、ボタンもクリック感があり余計な力がかからず合格点。この点についても拘りを感じる。
HD解像度の液晶パネルは、ビジネスを意識してかノングレア(非光沢)となっている。ただ実際写真などを表示すると光沢っぽく見えるため、従来のノングレア処理とは少し違う加工をしているのかも知れない。10.1型で1,366×768ドットの解像度は、文字など若干小さめだが、小さ過ぎて見辛いと言うほどではない。標準設定の色は少し青っぽく、色は少し浅め(地味)だろうか。パンチのある発色ではなく、写真や動画を観るのは少し物足らないものの、文字中心の事務処理系なら、長時間モニタを見ても眼は疲れ難いと思われる。
その他、ノイズや熱に関してはほとんど無く、パームレスト部分に若干振動を感じる程度だ。音に関しても、このサイズとしては十分な音量・音質と言える。
以上のように、Mini 5102は、全体的にはかなり好印象だ。以前5101のリリース資料を読んだ時にピン! と来た直感は正しかった。これだけいろいろな部分にお金をかければ、一般的なネットブックと比較して高くなるのも頷ける。
ただ、これらの部分は、実際に触ってみないと分からないものばかり。ビジネスモデルと言う理由から、量販店で扱われていないのはかなり損をしている。Windows 7 Home Premiumを搭載、HDDを5,400rpmにするなど、少しコストを抑えたモデルを作って売り場に置いて欲しいところだ。
●Windows 7 Professionalと快適なHD解像度OSは32bit版のWindows 7 Professionalを搭載している。正直、この手のネットブックにProfessionalは必要なのかとも思うのだが、ビジネスで使う場合、WORKGROUP以外のネットワーク接続が多いので仕方ないところなのだろう。GPUはGMA3150なので、AeroはONになっている。但し、動画支援機構は無く、YouTubeは480pがギリギリ。720pや1080pの再生は不可能だ。今後ビジネス用途でもHD動画程度は再生するシーンも考えられるので、何らかの動画支援機構が欲しいところ。
動き自体は、7,200rpmのHDD、WD1600BEKT(キャッシュ16MB)に助けられ、ネットブックの割にはスムーズに作動する。さらに同社の「HP 3Dドライブガード」により、振動・落下からガードするので安心だ。ただ付属のMcAfee Total Protection(60日間試用版) が重くシステムに負荷をかけている。できればMicrosoft Security Essentialsなど軽いものに変更したい。
10.1型のサイズとは言え、HD解像度はWebを見るにしても、他の作業をするにしても、デスクトップが広く快適だ。多くのネットブックが搭載する1,024×600ドットと数字の上では少しの差なのだが、この小さな差が意外と大きい。
タッチパッドは、右横をスクロールエリアにする一般的な仕様に加え、Windows 7時は、2本指を使ったスクロールなど、ジェスチャ機能にも対応している。
ちょっと気になる点があるとすれば、モニタの明るさや音量などをファンクションキーで変更した場合、状態を表すオーバーレイを画面に表示するのだが、その表示がワン・テンポ遅れることだ。可能であればチューニングして頂きたい。
起動時のデスクトップ。Windows 7 Professional 32ビット版。メモリは最大の2GBを標準実装 | デバイスドライバ/主要なデバイス。HDDは7,200rpmのWD1600BEKT(キャッシュ16MB)が使われている | HDDのパーテーション。リカバリーなど4パーティションになっている。実際はCドライブの約131GB |
プリインストール済みのツールやアプリケーションは、HP ProtectToolsセキュリティマネージャー、HP QuickLook 3 、HP QuickWeb、HP QuickSyncなど、同社のオリジナルに加え、McAfee Total Protection (60日間試用版)、Adobe Flash Player、Corel Home Office、WinZip12などが含まれる。
Corel Home OfficeとWinZip12は、他ではあまり見かけないソフトウェアだ。ただ、ZIPファイルはWindows 7では標準対応。なぜ入っているのか不思議だ。もしかするとダウングレード時、Windows XPでは必要なので、全モデルに入れているだけかも知れない。
HP Support Assistant | HP Security Manager | HP Wireless Assistant |
Corel Home Office/ワープロ | Corel Home Office/表計算 | Corel Home Office/プレゼンテーション |
ベンチマークテストは、Windows エクスペリエンス インデックス、CrystalMark、そしてBBenchの結果を見たい。まずWindows エクスペリエンス インデックスの総合は2.3。内訳は、プロセッサ2.3、メモリ4.6、グラフィックス3.0、ゲーム用グラフィックス3.0、プライマリハードディスク5.9。ハードディスクのスコアが若干高めだが、全体的には新型Atomプロセッサを搭載した一般的なネットブックと変わらない。
CrystalMarkは、同様にHDDのスコアが高く1万越えとなった。最近レビューしたノートPCで1万を超えているのはCore i搭載機のみだった。やはり7,200rpmが効いているのだろう。体感速度的にも十分違いが分かる。
BBenchは、バックライトOFF、キーストローク出力/ON、Web巡回/ON、WiFi/ONでの結果だ。バッテリの残5%で9,825秒(2.7時間)。仕様の最大4.5時間を考えると妥当な線だが、外出時に使うケースが多い場合、少し不安な値。6セルバッテリを用意したいところ。オプションで11,550円なので、長時間のバッテリ駆動を考慮するなら是非揃えたいアイテムと言えよう。
さて冒頭に書いた、ThinkPad X31の後釜候補として、ThinkPad X100eか、今回のHP 5102かは、どちらも条件的には満たしているが、まだ決めかねている状況だ。
サイズ/重量面では5102に軍配が上がるものの、ブラックが欲しいとなると、液晶パネルがマルチタッチ対応、Windows 7 Professionalなど、筆者としては無用なものにコストがかかってしまい79,800円となってしまう。これは柔軟なBTOに対応していない点がかなり影響している。またHD動画が再生できないのも痛い(この件は最近条件に加わった)。一方ThinkPad X100eは重量/サイズ以外はほぼ勝っており、量販店モデルで69,800円とコストパフォーマンスが高い。いずれにしても、もうしばらく悩みそうな雰囲気だ。
以上のように「Mini 5102」は、パワー的にAtom N450、そしてNM10 Express/GMA3150を搭載したネットブックと大差ないものの、HD解像度のノングレア液晶パネル、美しく頑丈なボディ、そしてGbE搭載など、少し高くなってしまった+αの部分の良さが十分に伝わる拘ったモデルとなっている。
ただビジネスモデルと言う扱いで量販店で実機を見ることができず、さらにOSにHome Premiumが無いことも含め、主要ハードウェアの仕様が固定されている部分など、非常にもったいないと思ってしまうのは筆者だけではないだろう。素性が良いだけに、柔軟なシステム/価格構成が加われば、確実に魅力が増す実力を備えた製品だ。