西川和久の不定期コラム
日本HP「HP ENVY120」
~洒落たデザインでスキャナがシースルーのインクジェット複合機
(2013/5/17 00:00)
日本ヒューレット・パッカード(日本HP)は2月28日、インクジェット複合機「HP ENVY120」を発表した。「ENVY」ブランドと言うことで、ファッショナブルなデザインなのはもちろん、スキャナがシースルーで原稿を天板上から確認することが可能という特徴もある。編集部から実機が送られて来たので試用レポートをお届けする。
天板がスケルトンで原稿が確認できる
初代のENVYブランドの複合機は、2010年11月に発売となった「ENVY100」。当時、試用レポートを掲載しており、デザインや、電源ONで自動的にパネルが上がるギミックなどが、なかなか斬新だった。その後、2011年11月に「ENVY110」が登場し、今回ご紹介する「ENVY120」は3世代目だ。
初代からデザインや動きのあるギミックなどはそのまま、ENVY120では、天板がスケルトンとなり、原稿台に置いてある原稿が外からも見えるものに変更された。一般的に複合機のスキャナは、原稿を下向きに置き、下側からスキャンするのだが、上向きに原稿を置き上からスキャンするのは、筆者の知る限り初めてのものとなる。これなら、原稿の傾きなどの状態が分かり、置き忘れも発生しにくい。そのほか主な仕様は以下の通りだ。
日本HP「HP ENVY120」の仕様 | |
---|---|
インクシステム | オンデマンド型サーマルインクジェット/CMYK4色(CMY/染料系、K/顔料系)、解像度4,800×1,200dpi |
印刷速度 | モノクロ約7ppm/カラー約4ppm |
対応用紙 | 対応用紙がA4~B5、封筒、はがき、L判/2L判 |
スキャナ部 | CIS/1,200×1,200dpi、出力階調24bit、最大A4/レター |
コピー速度 | モノクロ標準約6枚/分、カラー標準3.5枚/分 |
給紙トレイ | A4普通紙/最高80枚、自動両面印刷標準対応 |
ディスプレイ | 4.33型カラー液晶、タッチスクリーン対応 |
インターフェイス | USB 2.0、IEEE 802.11/b/g/n、USB(PictBridge非対応、USBメモリダイレクトプリント用)、メモリースティックDuo/SDカードスロット |
対応OS | Windows XP/Vista/7/8およびMac OS X 10.6以降 |
サイズ | 427×336×102mm(幅×奥行き×高さ/使用時)/7.25kg |
直販価格 | 26,880円 |
インクシステムはKが顔料系、CMYが染料系の計4色。文書などモノクロプリントは、顔料系を使うので普通紙でもにじまずくっきりクリア、そして水にも強い。染料系のCMYは写真プリントなどで鮮明な仕上がりとなる。4色インクとベーシックな構成なので、作品レベルの写真プリントには向かないが、一般的な用途においては十分だろう。
解像度は最高4,800×1,200dpi。印刷速度はモノクロ約7ppm/カラー約4ppmで、A4~B5/封筒/はがき/L判/2L判などの用紙に対応する。
スキャナ部は、センサーがCISで、解像度1,200×1,200dpi、出力階調24bit、対応用紙はA4~レター。最大の特徴は、冒頭に書いたように、原稿を上向きにして、上からスキャンする点にある。コピー速度はモノクロ標準約6枚/分、カラー標準3.5枚/分。
給紙トレイは1段で、A4普通紙を最高80枚セットできる。また標準で自動両面印刷に対応する。できれば普通紙用とL判など写真用と2段あると使いやすいものの、薄さを優先させたものと思われる。
タッチ対応の4.33型のカラー液晶パネルを搭載。直感的で簡単操作が可能だ。以前のモデルより、パネル自体のクオリティが上がっており、明るさ、コントラストも十分。スキャンのプレビューなども色を確認しやすくなっている。
インターフェイスは、USB 2.0、IEEE 802.11/b/g/n、USB(PictBridge非対応、USBメモリダイレクトプリント用)、メモリースティックDuo/SDカードスロット。有線LANが非搭載なのは残念だが、用途を考えると特に問題にならないと思われる。
サイズは427×336×102mm(幅×奥行き×高さ/使用時)、重量7.25kg。直販価格で26,880円。最近、インクジェット複合機は実売価格で2万円を切るものが多く、若干高めだが、デザインを含め、それをカバーするだけの魅力が本機には十分あるだろう。
初代ENVY100はブラックとシルバーの2色が使われ、2代目のENVY110は、ゴールドっぽいホワイトと全く違う明るい雰囲気だったが、3世代目のENVY120はブラックで統一(ただし天板がスケルトンで下の原稿台の白が見える)。また角張ったデザインとなり、随分イメージがシャープになった。ENVY100を見た時も、格好いいと思ったが、ENVY120はさらにその格好よさが進化している。
本体サイズは427×336×102mm(幅×奥行き×高さ)。フットプリントは大きくないものの、重量7.25kgと、見た目より重く、実際持ち上げるとズッシリくる。
天板はスケルトンで、センサーや原稿台が丸見えとなる。明る過ぎる場所で使った場合、周囲の光の影響が気になるものの、室内であれば特に問題なさそうだ。
フロントには電源や、Wi-Fi、戻る、ホーム、ヘルプなど液晶パネル部分でないところにもボタンが配置されている。と言ってもフラットなパネルにあるので段差などはない。電源をオンにすると自動的にパネルが上がり、その下から排紙トレイが回転して現れる。右側にはUSBとカードリーダが納まっているパネルがある。
背面は、右側にミッキータイプの電源コネクタ、左側にはUSB 2.0ポート。少しへこんだ部分にあるので、壁などに本機をピッタリ付けることが可能だ。左右両側面には何もない。
給紙トレイはパネルの下、そして排紙トレイの下にあり、引っ張り出すこともできるが、用紙がないと自動的にせり出してくる。つまり電源を入れると、操作パネルが自動的に上がり、排紙トレイが回転して現われ、用紙がない場合は、給紙トレイまでもが出てくる。まさに全自動だ。もちろん電源オフの時は、この逆の作動が行なわれる。
印刷品質は、K顔料系、CMY染料系の4色インクタイプとしては一般的。よほどこだわらない限り実用的なプリントに仕上がる。10年ほど前は、毎年新型のインクジェットプリンタが発表され、その都度、大幅に品質が向上したものの(インクの色数も増えたが)、今となっては4色インクでも普段使いなら十分だ。
ノイズは振動は、同社の複合機はどちらかと言えば大き目だが、ENVY120に関しては気にならないレベルに抑えられている。一連の動きなどを動画で掲載するので、この点も含め参考にして欲しい。
単独使用
単独使用時、基本的な操作は、タッチ対応の4.33型液晶パネルを使って行なう。周囲にホーム/戻る/ヘルプなどのボタンがあり、必要に応じて表示される仕掛けになっているため操作を迷うことはない。
上にある4つのボタンは、順に「Webサービス」、「ワイヤレス」、「推定インクレベル」、「設定」。Webサービスは、このプリンタが持つ固有のメールアドレス( xxxxxxx@hpeprint.com )を確認できる。
大きな四角いアイコンは、Print Appsと呼ばれる、本機に限らず、同社の複合機などに搭載されているプリントアプリケーション用だ。ネットにあるサービスなどで得た情報をダイレクトに印刷できる。標準では「クイックフォーム」、「DreamWorks」、「HPクラフト」、「カレンダー」が入っている。「さらに追加」でアプリケーションをダウンロードし、追加可能だ。
複合機としての機能は「写真」、「コピー」、「スキャン」の3通り。写真は「表示と印刷」、「Snapfish」(写真保存や共有、プリントができるサービス)、「写真再印刷」、「写真の保存」に対応し、ソースは、「メモリカード」、「USBメモリ」、(原稿台上にある)「写真原稿」。印刷する時、枚数指定はもちろん編集機能があり、「回転」、「トリミング」、「原稿の色あせを修正」、「明度」、「カラー効果」といった調整もできる。
コピーは部数指定、モノクロ/カラーに対応。オプションとして設定/品質/両面/用紙サイズ/用紙の種類/強調/新しいデフォルトに設定、編集/サイズ/薄く濃くの設定が可能だ。
スキャンはスキャン先の選択で、「電子メール」、「コンピュータ」、「メモリカード」、「USBメモリ」に対応する。電子メールは添付ファイルとして指定のメールアドレスへ送信。コンピュータは指定するPCの共有フォルダへ保存する。ファイルの種類としてJPEGかPDFを選択可能。解像度は200/300/600dpiの3パターンだ。
設定は「基本設定」、「ツール」、「ワイヤレス」、「Webサービス」と分かれており、基本設定は言語設定/国・地域の設定/キーボード言語の設定/効果音の音量/高速画像参照の有効化/スリープ/オートオフの設定/デモモード。
ツールはプリンタステータスレポート/印刷品質レポート/カートリッジのクリーニング/プリンタの調整/裏面の汚れクリーニング/紙送りのクリーニング/デフォルトへ戻す。この手のプリンタで、カートリッジだけでなく、裏面の汚れや紙送りのクリーニングに対応しているのは珍しい。
ワイヤレスはワイヤレス/ワイヤレスダイレクト/ワイヤレス設定ウィザード/WiFi Protected Setup(WPS)/ネットワーク構成の表示/ワイヤレステストレポートを印刷/詳細設定/デフォルトのネットワークに戻す。ワイヤレスとワイヤレスダイレクトは併用可能だ。
Webサービスは製品のアップデート/ePrint/Webサービスを削除する/プロキシ/Snapfish国設定のリセットとなる。
PCやデバイスからの使い勝手
対応OSは、Windows XP/Vista/7/8およびMac OS X 10.6以降。今回はWindows 8で試用した。セットアップは付属のCD-ROMを使って行なう。一連の流れを画面キャプチャで掲載したので参考にして欲しいが特に難しい部分はない。
セットアップが完了すると「HPプリンタアシスタント」、「サプライ品の購入」、「HP Photo Creations」のショートカットが、デスクトップとスタート画面に追加される。
「HPプリンタアシスタント」は、Windows 7では「デバイスとプリンター」となっていた部分で、各種設定、印刷・スキャン、ヘルプ、ユーティリティなど、このパネル上で全てのコントロールが可能となる。「HP Photo Creations」は、セットアップへのショートカットで、実際使うには、ダウンロードすることになる。
「プリンターのホームページ」は、プリンタ内にWebサーバー機能があり、プリンタへ割当てられたローカルなIPアドレスをWebブラウザで指定すると、掲載したような表示となる。
ホーム/スキャン/Webサービス/ネットワーク/設定のタブがあり、それぞれかなり細かい操作が可能だ。個人的に同社のOfficejet Pro 8500A Plusを所有しているが、特にスキャンは特殊なドライバを必要としないので重宝している。
HP ENVY120の操作は、標準のUSBとWi-Fiで接続されたPCだけでなく、AirPrint、HP ePrint/HP Printer Control、Google Cloud Printでも可能だ。AirPrintはiOSデバイスからWi-Fi経由で写真などをプリントできる。
HP ePrint/HP Printer Controlは、AirPrintのようにローカルなルーター経由のWi-Fi接続だけでなく、ネット経由やワイヤレスダイレクトを使って前者はプリント(写真/PDF/Webページ、Microsoft Officeドキュメント)、後者はスキャンなども含め操作可能。アプリはiOSとAndroid用として無料で公開中だ。またDropboxやEvernoteなどクラウドサービスにも対応しており、データの利用/共有ができる。
Google Cloud Printは、Googleアカウントに手持ちのプリンタを紐付け、インターネットに接続している端末からプリントできるサービスだ。紐付ける方法はメーカーや機種などによってさまざまだが、ePrint対応機であれば、基本的にそのプリンタに割当てられている固有のメールアドレス(xxxxxxx@hpeprint.com)を登録すれば即使用可能となる。
これらの手段は、従来、プリントするにしてもスキャンするにしても、PCへドライバを組み込む必要があったが、それを不要とし、ネットワークにさえ接続していればPCのみならず、スマートフォンやタブレットなど非PCからも利用可能となる便利な仕掛けだ。対応するデバイスを持っていれば使わない手はない。
以上のようにHP ENVY120は、スタイリッシュデザインに加え、透明の天板上から原稿を確認できる便利な仕掛けを持つインクジェット複合機だ。「ワイヤレスダイレクト」でルーターに接続していない端末からも直接使用したり、AirPrint、ePrint、Google Cloud Printなど、さまざまなデバイスからの利用も十分考慮されている。加えて自動的にパネルや給紙トレイが動くギミックは見ていて楽しい。
特に気になる部分もなく、インクジェット複合機としては若干高価だが、それでも26,880円と購入しやすい価格帯なので、クールでパーソナルなインクジェット複合機を探しているユーザーにお勧めしたい1台だ。