西川和久の不定期コラム

日本HP「ENVY 100」
~スタイリッシュで自動両面印刷にも対応した複合機!



 少し前に、日本ヒューレット・パッカード(日本HP)の「ENVY 14 Beats Edition」というノートPCをご紹介したが、この「ENVY」ブランドは、最上級、何も妥協しない、人々が羨望すると言う意味が込められている。

 そして今回、このENVYの冠を持つインクジェット複合機が発表、11月中旬から出荷となる。普通の複合機とどこが違うのか興味津々。早速試用レポートをお届けする。


●ENVY 100の仕様

 9月27日に日本HPは、2010年秋モデルの複合機、「HP Photosmart Plus B210a」、「HP Photosmart Premium C310c」、そして「HP ENVY100」の3機種を発表した。Photosmartの2機種は、従来のニューモデル的な雰囲気だが、今回ご紹介するENVY100は、同社はもちろん、他社にもこれまでに無かった独特のフォルムを採用している。

 まず、高さが102mmという点。これだけ薄いインクジェット複合機は見たことが無い。しかも自動両面印刷機能も標準搭載だ。

 冒頭に並べた「最上級」、「何も妥協しない」、「人々が羨望する」と言う言葉は少し大げさかも知れないが、パッと見て、これをインクジェット複合機と思う人はまず居ないのではないだろうか。それほど(いい意味で)異質な存在、そして存在感がある。主な仕様は以下の通り。

・オンデマンド型サーマル・インクジェット/4色(黒・カラー3色一体型)、黒:顔料系 336ノズル、カラー:染料系 1,248ノズル、最高4,800×1,200dpi
・A4印刷速度:モノクロ30ppm、カラー25ppm
・CISセンサー光学解像度1,200×1,200dpi、最大A4/レター
・前面給紙カセット A4:最大80枚
・自動両面印刷機能搭載
・3.45型カラーLCDタッチスクリーン
・無線IEEE 802.11b/g/n(WPS対応)/USB 2.0×1
・メモリースティックDuo/SDカード×1、USB 2.0(PictBridge非対応)×1
・本体サイズ/重量:427×336×102mm(幅×奥行き×高さ)/約7.3kg
・価格:29,820円(直販価格)

 インクは黒が水などに強い顔料系。文字がレーザープリンタ並みにシャープに印刷できる。他の色(CMY)に関しては染料系で写真などの発色を優先させている。印刷速度はA4でモノクロ30ppm、カラー25ppm。給紙トレイは1段で、普通紙のA4が最大80枚セットできる。前面給紙/前面排出だ。写真用の専用紙と2段ある方がベターであるが、さすがにこの薄いボディには入らなかったのだろう。

 スキャナー部はCISセンサーで光学解像度1,200×1,200dpi。最大A4/レターサイズまで対応している。

 操作系は3.45型カラーLCDタッチスクリーンのみ。他にボタンらしいボタンは、電源スイッチだけと、非常にシンプルな構成だ。実際に動き出すと、加えて[ホーム]、[戻る]、[?]のボタンが液晶パネルの左右に現れる。

 ネットワークは、無線LANとしてIEEE 802.11b/g/nを搭載。WPSに対応している。有線LANやBluetooth、IrDAなどは搭載していない。特に無線LANがあって有線LANが無いのはかなり割り切った仕様と言えよう。

 その他のインターフェイスはPCから接続するUSB 2.0ポートが1つ、カードリーダが1つと、USBメモリ用にUSB 2.0が1つある。ただしこのUSBポートはPictBridge非対応なので、デジカメからUSBケーブル接続でダイレクトに印刷することはできない。

 インクカートリッジは、顔料系の黒と、染料のほか3色がセットになった2種類。標準サイズの「HP 121インクジェットプリントカートリッジ 黒(CC640HJ)」、「HP 121インクジェットプリントカートリッジ 3色カラー(CC643HJ)」と、大容量の「HP 121XLインクジェットプリントカートリッジ 黒(CC641HJ)」、「HP 121XLインクジェットプリントカートリッジ 3色カラー(CC644HJ)」が用意されている。

前面。フラットでシンプルなデザインだ。高級感がある背面。左側にACコネクタ(メガネタイプ)、右側にUSB 2.0前面給紙カセットは1段式のトレイ。かなりガッシリしている
操作パネル周辺。3.45型カラーLCDタッチスクリーンと電源スイッチ、ヘルプのみ(起動時)スキャナ部。手前右側が原点インク部。カートリッジは黒とCMYの2つのみ
カードリーダーとUSB 2.0。普段はフタが閉まっているので、はじめここが開くとは分からなかった天板は驚く事にガラスが貼られている箱の中もちょっと洒落てる。ENVYブランドの共通点は本体だけでなく箱も洒落ている点だ

 第一印象は、箱が比較的小さい割りにズッシリ重いこと。約7.3kgなので複合機としては軽い方なのだが、全体のサイズから直感的に予想する重さより、実際はより重いので、そう感じるのだろう。またノートPCの「ENVY 14 Beats Edition」ほどではないが、箱自体、複合機が入っている雰囲気では無く少し洒落ている。

 本体を取り出すと、薄さに驚くと共に、天板がガラス貼りなのでビックリ。更に要所要所にアルミが使われ、全面ブラックで光沢のようなギラギラした感じは無いのだが、妙に高級感がある。また、フロントもリアも極端に文字が少ない。見える範囲だと、左側にENVYのロゴ、右側に小さくPRINT/SCAN/COPY/WEBとあるだけ、非常にシンプルで割り切った作りだ。

 更に電源ONした時の動きが面白い。内部の初期化で動き出すのに少し時間がかかるものの、閉まっていたフロントパネルが自動的にいったん90度持ち上がり、少し下がった所で停止。そしてメニューが表示される。動画も掲載したのでご覧頂きたい。電源OFFの時も自動的にパネルが閉じる。多分手動でパネルの上げ下げをしても、機能的には問題無いだろうが、この動きを自動で行なうことによって特別感を演出している。

【動画】電源ONの作動。自動的にパネルが上がる。一瞬パネルの下に見えるのは「用紙を支えるバー」。起動時は使用しないので直ぐ戻している

 作動音に関しては、正直これまで同社の複合機はうるさい方だったのだが、このENVY 100は国産機並みに改善され、横揺れも無くなった。これなら家で使うのも大丈夫だ。

 そして何よりも驚くのは、印刷時に排出トレイを引っ張り出さなくても、排出トレイに相当する「用紙を支えるバー」が自動的に出て来て、気が付くと勝手に印刷が始まっていることだ。つまりユーザーはパネルを操作し印刷ボタンを押すだけで、後は全自動となる。この動きを次の「単独使用/プリント」に掲載した動画で是非ご覧頂きたい。

●単独使用/プリント

 単独使用でのプリントは写真のみとなる。素材はUSBポートへ接続したUSBメモリか、メディアリーダにあるメディアから読み込む。またSnapfish上の写真も印刷可能だ。設定で出来ることはあまり多くなく、レイアウト、紙の種類、赤目除去、自動位置合わせ、日付スタンプとなる。さらに1枚写真を選ぶと、回転、トリミング、写真の修整、明度、カラー効果を調整できる。

 メディアからの写真データ読み込みは、機種によって速かったり、遅かったりいろいろあるが、このENVY 100は結構速い方で、サムネイル表示ももたつく感じが無い。指でのスワイプもスムーズだ。多分後述する「アプリdeプリント」の関係もあり、リソースに余裕があるのだろう。

 印刷クオリティはご覧のようにいつものサンプルがいつもと同じ色調。十分フォトクオリティだ。若干肌色が赤めで明るく出ているが、健康的に見えるチューニングだ。

メインメニューから写真を選択サムネイルから目的の写真を選ぶL判で約1分
【動画】印刷が始まると、操作パネルが自動的に動き、用紙を支えるバーも出てくる

●単独使用/スキャナ

 スキャナは、データの保存先をPC/USBメモリ/メディアの選択ができる。ただ後者2つに関しては解像度は低/200dpi、中/300dpi、高/600dpiの3段階変更できるものの、JPEGのみの対応でPDFへの保存は対応していない。筆者的には惜しい部分だ。

 保存先をPCにした場合は、写真をファイルに保存/写真を電子メールで送信/ドキュメントをファイルに保存/ドキュメントを電子メールで送信の選択が出来る。写真の場合はJPEG、ドキュメントの場合はPDFとなる。

 なお、PCへ保存を有効にするには、スタートメニューのデバイスとプリンタ→HP ENVY 100 D410 seriesのパネルから「コンピューターにスキャンを有効にする」を設定する必要がある。Wi-Fi時は複数のPCから接続可能で、どのPCへ保存するかリストから選択可能だ。

スキャンメニュープレビューメディアへ保存。300dpiで約53秒

●単独使用/コピー

 コピーは、編集:サイズ、薄く/濃く、設定:品質、両面、用紙サイズ、紙の種類、強調を調整でき、最後にモノクロかカラーにタッチするすればコピー開始となる。

 コピーで両面印刷する場合は、片面の印刷が終ると、原稿台に次の原稿をセットするよう、液晶パネルに案内が表示される。設定後[OK]を押せば、続きの印刷が始まる(掲載した動画は都合上、同じページを両面印刷している)。

コピーメニュー両面印刷約1:40秒でカラーコピー完了
【動画】両面カラーコピー。途中で原稿を変更するよう、液晶パネルに案内が出る

●単独使用/「メールdeプリント」

 「メールdeプリント」を簡単に説明すると、プリンタへ割当てられたメールアドレスへ、印刷したい文書や写真などを添付し、メール送信することで印刷できる機能だ。例えば印刷機能を持たないPDAやスマートフォンからや、プリンタドライバをインストールしていないPCからメールを使ってダイレクトに印刷できる。

 対応しているファイルファーマットは、「PDF」(フォント埋め込み、画像)、「Microsoft Word/PowerPoint/Excel」、「テキストファイル」、「JPEG/BMP/GIF/PNG」、「メール本文」(テキスト/html/リッチテキスト)など。一通のメールに最大10ファイル/5MBまで、一部代替フォントを使うため書体が異なるケースがある、印刷時に範囲指定/部数/モノクロ印刷などが指定できないなど、制限事項はあるものの、なかなか便利そうだ。

 例えばスマートフォンで受信したメールの添付ファイルが見づいので印刷、旅行先から家族へ写真を送信して印刷……など、いろいろな用途が考えられる。プリンタドライバが必要無いため、出先で「ちょっとプリンタ貸して」的な使い方も可能だ。

 実際のシーケンスは、いったん同社のcloudprint serverへメールが届き、サーバーサイドで添付ファイルをレンダリング、その結果をプリンタへ送信する仕組み。ワールドワイドで、しかもサーバーサイドでレンダリングとなると、かなりヘビーなサーバーが必要だろう。ただ試したところ、あまり待つ事も無く、すぐに印刷が始まった。印刷結果も良好。これはなかなか面白い。ただ、何の前触れも無くいきなり印刷がはじまると驚いてしまうこともあるだろう。

このプリンタのメールアドレスiPhoneから写真をメールに添付して送ると、印刷される

●単独使用/「アプリdeプリント」

 「アプリdeプリント」は、あらかじめ用意された「クイックフォーム」、「数独」、「Disney」、「DreamWorks」、「Yahoo!」、「タブロイド」などのWebコンテンツにPCを使わずダイレクトに接続、その内容を印刷する機能だ。今後「ぐるなび」、「クレオ」、「Weathernews」、「リクルート」にも対応予定となっている。これらは、プリンタ本体でコンテンツの追加、削除が可能。液晶パネルで確認、詳細を選択、自動ダウンロードで利用できるようになる。ちょうどiPhoneのApp Storeのような感じだ。

 アプリの種類は「プレミアム アプリ」と「ライト アプリ」があり、「ENVY 100」は両方対応している。違いは、前者は本体にアプリをダウンロード/処理、後者はプリンタへUIのみを転送し、実際の処理はクラウド側で行なうと、仕掛け的に異なっている。「プレミアム アプリ」はプリンタ側でアプリを持ち処理をするので、本体のパワーが必要だがその替わり全てローカルで行ない高速。「ライト アプリ」は、UI部分のみ本体で実際はクラウドにあるサーバーが処理をするため、本体のパワーは必要無いものの、作動が重い場合も考えられる。

 ただざっと見たところ、日本語のコンテンツが少ないので、もっといろいろなジャンルに対応して欲しいところ。

 また、先の「メールdeプリント」も含め、「HP ePrintCenter」と併用することにより、プリンタに割当てられたメールアドレスを登録(プリンタの追加)、プリンタの接続状態/ステータスの確認、印刷送信者/時間の確認、カラー/モノクロ出力設定、新しいアプリケーションを追加/削除/並び替えなどが行なえる。

Weathernews起動中近辺の気候印刷結果

●セットアップ

 対応OSは、Windows XP/Vista/7(64bit版も含む)、Mac OS X 10.5以降(PowerPCも含む)。ほぼ全てのPCで使うことができる。

 付属のCD-ROMからセットアップ・プログラムが起動、「HP Envy 100 D410 series 基本デバイス ソフトウェア」、「HP Envy 100 D410 series ヘルプ」、「HP Envy 100 D410 series 製品改善のための調査」、「HP Update」、「HP Photo Creations」、「HP Bing ツールバー」がインストールされる。この時、必要ないものはチェックを外す。

 HP Bing ツールバーは、名前の通り、Microsoftの検索エンジンBingのことだ。同社は2010年1月に、出荷するすべてのPCのデフォルト検索エンジンにBingを採用することを発表している。プリンタも同様のようだ。

 インストールが始まるとソフトウェアの数も割りと少なくシンプルで、次に選択するのはUSB接続かネットワーク接続かになる。ただし、ネットワーク接続の場合は、事前にプリンタ側で接続済みの状態にしなければならない。今回は後者を選択、自動的にプリンタを探し出し、ネットワークプリンタとしてPCにセットアップされた。

 その後、製品のカスタマー登録、HP Photo Creationsのダウンロードなどがあり、作業完了となる。

 なお、プリンタ側にセットしたメディアもしくはUSBメモリをネットワークドライブとしてPC側から扱える機能には対応していない。

インストールに関する合意事項と設定選択されたソフトウェアのインストール中接続オプション(USB/ネットワーク)
ネットワークのチェックネットワークプリンタをインストール中プリンタがネットワーク経由で接続された
セットアップ完了製品登録HP Photo Creationsのダウンロード

●PCからの使い勝手

 セットアップが終ると、デスクトップに「HP ePrintCenter - HP Envy 100 D410 series」、「HP Envy 100 D410 series Scan」、「HP Envy 100 D410 series」、「サプライ品の購入 - HP Envy 100 D410 series」、「HP Photo Creations」のショートカットが作成される。

 HP ePrintCenterは、アプリdeプリントのところで説明したが、Web経由でプリンタの管理などが行なえるサービスだ。アカウントはOpenIDを採用しているので、Facebook、Google、Yahoo!、AOLなどのアカウントが既にあれば、簡単にサインインできる。

 HP Envy 100 D410 series Scanは、単独スキャンで保存先をPCにした時、写真=JPEG、ドキュメント=PDFになっていたが、加えて写真もドキュメントもTIFで保存できる。UIは非常にシンプルで特に難しい部分は無いだろう。

 スタートメニュー→ デバイスとプリンタ→HP ENVY 100 D410 seriesで、プリンタのステータス表示や設定、メンテナンスなどが行なえる。この部分はWindows 7の作法に準じているため、多少内容が異なる可能性はあるものの、ほかのプリンタと同じ感覚で扱える。

 サプライ品のオンライン購入は便利だが、少し触ってみると、実際開いたWebページに製品の属性が引き継がれず、プリンタの型番などを手動で設定しなければならない。これは面倒なので、できれば今回のケースなら「ENVY 100」に関するものだけをまず表示して欲しいところ。

 上記のソフトウェアは管理もしくはツール系となるが、HP Photo Creationsは、フォトブック、プリント、コラージュプリント、フォトカード、グリーティングカード、カレンダー、フォトキューブなどを、数多くのテーマから選び、写真を自動レイアウトし、自分でプリントかプリントを発注できるアプリケーションだ。フルスクリーンのインターフェイスで分かりやすく、プリンタを楽しく使うことができる。

セットアップ直後の画面HP ePrintCenterHP Envy 100 D410 series Scan/スキャンタイプを選択
HP Envy 100 D410 series Scan/プレビューして保存デバイスとプリンタ→HP ENVY 100 D410 series/プリンタアクションサプライ品のオンライン購入
HP Photo Creations/テーマの選択HP Photo Creations/写真の読込HP Photo Creations/自動レイアウトの確認

 以上のように「ENVY 100」は、黒は顔料系、ほかの色は染料系、前面給排、自動両面印刷など、押さえる点はしっかり押さえた上で、メールdeプリント、アプリdeプリントなど、クラウドと連携する機能を追加し従来のプリンタのイメージから枠を広げ、普段見えない給紙トレイまでもがガッチリ作られ、天板はiPhone 4のようにガラス張りと、これまでに無かった複合機に仕上がっている。しかも価格は3万円を切る。お洒落な複合機が欲しいユーザーにイチオシの逸品だ。