西川和久の不定期コラム

Apple「iPad Wi-Fi/32GB」ソフトウェア編
~まさに七変化のマイ・ノート!



 速攻レビュー、そして周辺機編とレポートしてきたiPad関連も今回で一応最終回。標準で入っているApp以外、App Storeで入手できるソフトウェア編をお届けする。なお筆者はゲームに全く興味が無いため、用途の中でも人気と思われるゲーム機としての可能性については触れていない。予めご了承頂きたい。


●筆者が普段使っているApp

 速攻レビューの時点で3日間、自宅の「ThinkPad T43」を使っていないと書いたが、相変わらずその状況は続いている。筆者的には気にならないがFlashが再生できないのでFlashを除くという限定は入るが、コンテンツプレーヤー的な用途でPCを使っている場合は、iPadにした方が、瞬時に起動、画面が綺麗、いろいろな場所や格好で気楽に見られる、バッテリを気にしなくて良いなど、メリットが多い。

 まず写真、動画、音楽の再生に関しては、バッファローのルーター「WZR-HP-G300NH」にUSB HDDを接続しDLNAサーバーにして、DLNAクライアントAppを使いiPadでアクセスしている関係で、iPadローカルのストレージには何も入れていない。Appとしては無料の「Media Link Player Lite」、有料の「PlugPlayer」(ただし少しバグあり)などがお勧めだ。ただ自宅に居る限り、PS3もDLNAクライアントになっているため、写真、動画に関してはTVで大迫力に観ることができる。音楽に関してもPS3にDACを接続、それなりのアンプでスピーカーを鳴らしていることもあり、iPadで再生するより大音量で高音質だ。従ってiPadの出番は意外と少なかったりする。一方「PlugPlayer」は、外出先からVPNで自宅へ接続しDLNAサーバーにアクセスができる。Wi-FiさえあればどこでもWZR-HP-G300NHで管理しているコンテンツを再生可能だ。

 また少し意味は違うが、radiko.jpなどネットラジオに関してはiPhoneで聴いていることが多い。理由としては、まだマルチタスクに対応していないので、他のAppと同時に使えないことが挙げられる。iPad用のiOS 4が出ればまた状況も変わるだろう。

Media Link Player Lite。無料のDLNAクライアント。無料とは言え十分使えるPlugPlayer。有料のDLNAクライアント。VPN接続で自宅のコンテンツを再生可能radiko.jp。iPhone/iPod touch専用であるがiPadでも動く。広い画面に対応したiPad版が欲しいところ

 iPhoneに標準で有って、iPadには無い「株価」、「天気」、「時計」、「計算機」の代替案としては、無料の「Bloomberg for iPad」と「そら案内 for iPad」を使っている。「時計」と「計算機」に関してはiPhoneの方が手軽なので、特にダウンロードしていない。また速攻レビューでiPadになって動画Appが新たに加わったと書いたが、「iPod touchなど動画再生機能を持つiPodでは以前からある」と言う連絡を読者の方から頂いた。筆者はiPhoneしか持っていないため気付かなかった。この場を借りて訂正したい。

Bloomberg for iPad。iPadは画面が広いので、一度に見れる情報量が圧倒的に違う。日本の銘柄も対応そら案内 for iPad。無料で日本に対応している天気予報Appはまだ意外と少ない

 クラウド系のAppとしては、写真/メモ書き/音声を1つのノートにまとめられる「Evernote」、DropboxやFTPなどを含むいろいろなクラウドサービスと接続しデータにアクセスできる「GoodReader for iPad」、Google Docsビューア「Memo Connect Reader」、などを用途に応じて使い分けている。もともと「iPadでは仕事をしない」と言うのが大前提であるものの、PCを起動するまでもない処理をするには便利だ。

 中でも「GoodReader for iPad」は、いろいろなサーバーに接続できる上、メールAppのメールに添付ファイルがあった場合[GoodReaderで開く]というボタンが追加され、このAppが管理しているファイルエリアに添付ファイルをコピーすることができる。更にここにあるファイルはiTunes経由でPCと同期したり、GoodReader自体がWebサーバーとなり、PCからWebブラウザを使いファイルのアップロード/ダウンロードも可能だ。資料などをiPadへ入れて持ち運ぶには非常に便利なツールである。

Evernote。写真、音声、メモ書きがまとめられるのでちょっとした打合せなどに便利GoodReader for iPad。いろいろなサーバーに接続できるが、筆者としては主にFTPサーバーに接続しているMemo Connect Reader。Google Docsのデータをダウンロードし見ることができる

  その他としては、綺麗な壁紙が無料で使える「Backgrounds HD」、TV番組表「Bangumi HD」、写真編集「Photogene for iPad」、VNCクライアント「Mocha VNC Lite」、RDPクライアント「Remote Desktop Lite」、ちょっとしたサーバーのメンテナンスに「SSH Terminal」、「iPad用Wikipanionアプリ」、ウェブサイトAppBankをiPadに最適化して読める「AppBank for iPad」などがあげられる。最後の2つに関しては、もちろんSafariでも見れるが、専用Appの方がはるかに見やすい。

Backgrounds HD。いろいろなジャンルで好みの壁紙をダウンロードできるBangumi HD。今日何かあったっけ? とTV番組表を見たいときに便利。TVや録画に連動できないのが残念なところPhotogene for iPad。iPhone/iPod touch版もあるが、画面が大きくなり、より使いやすくなった
Mocha VNC Lite。iPadの解像度はXGAなので、リモートアクセス用としても便利だiPad用Wikipanionアプリ。Webで見るより、辞書的に扱えるAppBank for iPad。Webとこんなに違う見せ方が出来るのか! と驚いた逸品

 メジャーAppとして、プレゼンテーション「Keynote」、表計算「Numbers」、ワープロ「Pages」などがある。これらはApple純正のアプリケーションで、iPad専用に作られたものだ。Microsoft Officeのファイルなども読み込め(ただしKeynote、Numbersは書き出しが出来ない)、用途にはまれば1本1,200円なので安い買い物となる。ただ現状、仕様から来る不便な部分もあるようなので、使い方に合うかレビューなどを参考にして欲しい。筆者の場合は先に書いた通り、iPadでは重めの仕事をしないと決めているので、現在まだ購入していない。

Keynote。プレゼンテーションソフトウェア。「iPad Dock Connector - VGAアダプタ」を組合せば出先でプロジェクターへ接続してプレゼンができるNumbers。表計算ソフトウェア。数値入力用の専用パネルがあるなど、iPadに最適化されているPages。ワープロ。オンスクリーンキーボードもいいが、Bluetoothでキーボードを接続するとより使い易そうだ

 メールにOffice系やPDFの添付ファイルがあった場合、Mac OS XやiPhone同様、ファイルビューアをOSが内蔵しているので、極端に大きいサイズでない限り、そのまま表示することができ、特にAppを用意する必要は無い。同社のHPには、.jpg、.tiff、.gif(画像) .doc、.docx (Microsoft Word) .htm、.html(ウェブページ) .key(Keynote) .numbers(Numbers) .pages(Pages) .pdf(Preview、Adobe Acrobat) .ppt、.pptx(Microsoft PowerPoint) .txt(text) .rtf(リッチテキストフォーマット) .vcf(連絡先) .xls、.xlsx(Microsoft Excel)に対応していると書かれている。フォントの関係などで若干レイアウトが崩れるケースもあるが、確認だけなら特に問題は無いだろう。

 以上、筆者が主に使っているAppなどをご紹介した。iPadはiPhone/iPod touch専用のAppも動くが、そのままでは画面の真ん中に小さく表示、×2モードで拡大するとジャギーが目立つこともあり、Skypeとradiko.jp以外は全く使っていない。やはりiPad専用の広い画面にレイアウトが最適化された状態で使いたい。

 さていろいろご紹介したものの、結局、一番使っているのは、「Safari」、「メール」、「YouTube」、「カレンダー」だ。つまり、iPhoneを持っている上で、画面の大きい方が便利なものに集中している。当然iPhoneやiPod touchを持ていなかったり、iPadが3Gモデルだとまた違った使い方にもなるだろうが、今のところはこんな感じだ。

●注目の電子書籍

 iPadが発表された時、真っ先にAmazonのKindle対抗機として報じられた。しかしこれは標準装備のAppや先にあげたAppを見れば間違いで「電子書籍“も”扱える」が、正確な表現だろう。とは言え、電子書籍としての用途も十分注目に値する。

 この電子書籍、大きく分類すると、iBooksに代表される書籍と、WIRED Magazineなどに見られる雑誌、2パターンに分類される。

 まず書籍に関しては、個人的な感想だが、液晶パネルの性格上、電子ペーパーを搭載したKindleの方が明らかに見やすく眼が疲れない。逆に言えば、発色が非常に綺麗で広い視野角を持つIPS液晶パネルでわざわざ(カラーの写真やイラストも扱えるが)白黒が主の本を読まなくてもいいのではと思う。もちろん出張や旅行する時など、好きな本を山のようにバックへ詰めて運ぶのは大変であり、iPadなら何冊入れてもかさばらないという用途もあるだろうし、これを否定するつもりは無い。また、京極夏彦「死ねばいいのに」のように、小説に加え、映像や感想を送るなど、書籍に+αを加えているAppもある。

 しかし可能性としては、雑誌の方がはるかに面白い。例えば「表紙が動画で始まる」、「インタビューの様子を動画でも見れる」、「関連するショップをGoogleマップでプロット」、「関連する写真をスライドショー」、「広告が動画」、「プロモーションビデオが観れる」、「写真に見えた車が、実はモデリングで360度グルグル回る」など、これまで誌面上で閉じていた世界を、ネットや動画などを使って外に拡張できる。単に紙媒体を電子化するだけでなく、新しい雑誌の見せ方が可能だ。

 そして電子書籍は、システム的に2パターンある。1つは「ダウンロード型」、もう1つは「ストリーミング型」だ。前者はコンテンツに含まれるデータをあらかじめiPadへダウンロードするので、ネットに接続できない環境でも本を読む事ができる。対して後者は、基本的にAppはビューアーだけで、実データはネットを使いストリーミングされるので、ネットに接続できない環境では本を読む事ができない。もちろん複合型やキャッシュである程度緩和することも考えられる。

 現状、文字データが主体の書籍に関してはダウンロード型、雑誌に関してはストリーミング型が多い。これは動画データなどが何本も入るとAppのサイズが巨大になるためだろう。例えば同じ雑誌でも先にあげたWIRED Magazineはダウンロード型でAppサイズは527MBもある。もしこの手の雑誌を数十冊iPadに入れると、あっと言うまに空き容量が無くなってしまう。

WIRED Magazine。ダウンロード型の雑誌。Adobe「Digital Publishing Platform」でApp化している楽天BOOKS 雑誌チラよみ+お買い物。ストリーミング型。ヤッパのシステムを使っているVOGUE NIPPON。表紙が動画になっていて、初めて見た時には驚いた
じゃらん沖縄。紹介しているショップなどが、Googleマップで場所が分かるGQ JAPAN。インタビュー記事の収録風景が動画で観れる(黄色い部分をタップ)産経新聞HD。新聞をそのまま電子化。これはこれで読みやすい

 ただ現在多くの雑誌は、文字データを主にページを組んでいる書籍と比較して、紙からのスキャン画像を元データにしてるため「拡大すると文字にジャギが出る」、「キーワードで検索ができない」、「内容をコピー&ペーストできない」など使い勝手が悪い。スキャンした画像データに文字データを関連付けるなど、今後いろいろ改良されることを期待したい。

 もう1つの可能性として、「Adobe InDesign CS5」と今年中に一般公開される「Digital Publishing Platform」を使えば、個人でもMagazineをApp化し、App Storeに登録/販売可能になることだ。通常Appを開発するにはかなりのスキルが要求され、エンジニアでもない限り自分のコンテンツをApp化するのは不可能だ。それをこの組合せによってSDKを使ったビルドは必要とは言え、プログラミングの部分は不要になり、一気にハードルは低くなる。実際WIRED Magazineはこの組合せで作られている。

 もちろん個人もしくは少人数でこれだけの素材をどう集めて編集するかの問題はあるものの、多かれ少なかれ、これまで全く無名だった個人や編集部が、App Storeに登場する可能性は十分考えられる。逆に従来の編集部は写真、イラスト、文字以外のオブジェクトも扱えるスキルが必要となる。

 他のソリューションとしては、「楽天BOOKS 雑誌チラよみ+お買い物」、「VOGUE NIPPON」など、多くの国産雑誌Appは「ヤッパ」のシステムを使っている。紙のスキャンデータをベースに、目次やリンク、動画などを含むいろいろなオブジェクトを埋め込める。工数としては編集に携わる人なら問題無いと思われるが、ストリーミング型なので、別途サーバーも必要、契約・利用料金体系的に多分個人や小規模では利用できないだろう。

 文字が中心のiBooksに関しては、現在米国では個人でも登録/販売できるようになったらしいが、国内ではどうなるのか不明だ。

 いずれにしても、単に紙媒体をそのまま電子化するのではなく、紙では表現できなかった新しいメディアを筆者的には期待したい。

 以上のようにiPadは、ホビーで使うのも、仕事で使うのも、学校で使うのも、定型業務で使うのも、いろいろな可能性を秘めている。電子書籍を越えた表現も可能だ。更にこれまで難しいからとの理由から、PCとは縁遠かったシニア層や子供などが簡単に使えると言うメリットもある。これから1年後、どうなっているのか、今から楽しみな新しいジャンルのデバイスではないだろうか。