森山和道の「ヒトと機械の境界面」

日常の「ネットワークデザイン」

〜首都大学東京 システムデザイン学部 渡邉研の2012年度卒業・修了制作研究展から

期間:2月12日〜2月17日

会場:東京・渋谷ギャラリー・ルデコ

 情報デザイン、ネットワークデザイン、Webアートの研究を行なっている首都大学東京 システムデザイン学部 インダストリアルアートコースに所属する渡邉英徳研究室とネットワークデザインスタジオの2012年度卒業・修了制作研究展が、2月12日〜17日までの日程で、東京・渋谷ギャラリー・ルデコ(東京都渋谷区渋谷3-16-3 ルデコビル 1F)で開催中だ。開催時間は11時〜19時(2月17日は17時まで)テーマは「日常へ招くネットワークデザイン」。入場は無料。

 渡邉英徳研究室は、これまでにGoogle Earthを使ったマッシュアップ作品「ヒロシマ・アーカイブ」、「東日本大震災アーカイブ(html)」などを発表。アジアデジタルアート大賞エンターテイメント部門グランプリ(経済産業大臣賞)等を受賞している。

 また、この連載では以前、同研究室のTwitter上のbot作りをレポートしたことがある(他者が形作る「ネット上の自分」のデザインは可能か 自分のコピーとしてのtwitter上のbot作りに学ぶ)。今回の展示では時事的な作品ではなく、学生たちによるコンセプト作品としてWeb作品やスマートフォンを活用したものなどのほか、最近流行し始めている3Dプリンタなどを使った作品なども出展されている。

「ネットワークデザイン」とは

 テーマの「日常へ招くネットワークデザイン」について、展示のリーダーである修士2年の高田百合奈氏は、「『ネットワークデザイン』を身近なものとして感じて欲しい」とコンセプトを語った。なお高田氏本人は、ナビや地図をテーマにしたサービスアプリの開発等を行なっている。地図が読めない、道に迷わないといっても、理由は人それぞれだ。その個別の理由に応じたナビ方式を提示する研究を行なっているという。

 今回はあくまで指導教員という立場で展示にはあまりタッチしてないと語る渡邉英徳氏は、「ネットワークデザイン」や現在の研究室の方向性について、「展示されている作品としてのWebアプリ等は最終的な出力のごく一部。むしろその背景にある人と人の繋がりや、そのための仕掛け作りのほうが大事と考えている」と述べた。同研究室のメンバーは卒業後、プログラマー等になる人もいればデザイナーとして就職する人もいるそうで、研究室自体も情報工学系のベクトルを持った人間だけが集まっているわけでもなく、アート系の人たちだけが集まっているわけでもない。そのためか、展示作品も、ちょっとゆるい雰囲気がある。来場者自身がどんな印象を受けるかも人それぞれかもしれない。以下、展示されていた作品をざっと紹介する。

首都大学東京 システムデザイン学部 高田百合奈氏
首都大学東京大学院システムデザイン研究科准教授 渡邉英徳氏

 原田真喜子氏による「コトバノキ」は、TwitterやGoogleなどを横断検索して、言葉の繋がりを提示するWeb作品。葉をクリックすると元々のツイートが表示され、葉を地面にドラッグして落とすと、二次検索する。それぞれの言葉を囲む色味は、ポジティブな文脈か、ネガティブな文脈で使われているのかを示している。感情解析にはメタデータ株式会社の「感情解析API」を用いている。もともとは、辞書に掲載されている意味と、今日、生きた言葉として使われている言葉の意味が、ずれているのではないかということから着想された作品で、これを使うことで、検索された語彙と直接結びついてはいないが、実際には生きて使われている言葉同士の繋がりなどを発見できるという。

 同じく感情解析APIを用いている作品が「TimeLine Player」(北原和也氏)。Twitterのタイムラインの情報から、投稿時間や文字数から譜面を制作。感情解析結果から音色合成や調を変える。Twitterをやっている人ならサイトから実際に試すことができるが、取得時の上位6人の投稿から楽曲を作るようになっている。たとえば何かイベントがあったときにTLが一気に流れ始めるときがあるが、それが音で分かるようになったり、あるいは、ポジティブなツイートを言う人たちばかりのリストや、逆にネガティブなツイートの人のリストなどから、それぞれトーンの違う楽曲が自動生成できたらそれなりに面白いかもしれない。

 「MMM ARアーカイブ」(菊本有紀氏)は、地方で行なわれる現代アートイベントのアーカイブを意識したARアプリ。現代アートイベントは大きな展示物が出展されることが多いが、終わったあとは取り壊される。それを写真とARを使ってアーカイブする。既に取り壊された作品があった土地に立ってスマホなどをかざすと、ARでそれらやコメントなどが見られる仕組みだ。今回は「みなとメディアミュージアム(MMM)」という茨城県ひたちなか市で行なわれる現代アートイベントを題材にしている。ARアプリなのでこの会場で見ても今一つピンと来ないのだが、今後、実際に現地でも使えるようにAppStoreでアプリをダウンロードできるように準備中だ。

 制作者の菊本氏は「アート展に行くまでの旅の過程や、その場所の空気や土地の魅力なども含めて感じてほしい」と考えているという。いわば、デジタルとアナログの融合を目指したコンセプトということになる。昔の手作りノート時代の旅行記のような味わいを出せるようにデジタル表現の幅が広がるようになれば、デジタルとアナログの融合は面白いテーマになるだろう。

「コトバノキ」。Web集合知の語彙のつながりを発見させることを目指す
「TimeLine Player」。TwitterのTL情報から自動的に曲を作る
「MMM ARアーカイブ」。場所性を重視したアートイベントアーカイブを目指している

 最近流行している3Dスキャナと3Dプリンタを活用したパーソナルファブリケーション作品もあった。松浦泰仁氏によるアプリケーションで、Kinectを活用して上半身をスキャン。3Dモデルを制作し、眼鏡のデザインに使うというものだ。3Dモデル上で眼鏡のフィッティングができるので、場合によっては実物を使うよりもピッタリの眼鏡フレームをデザインして、製作できるという。実物を見ると狭過ぎるのではないかと思ったモデルが、意外とフィットしたりするのだそうだ。

 もちろん3Dモデルなのでグルグル回転させてさまざまな方向から見ることもできるし、フレームの形状や色を自在に変更したり編集することも可能だ。将来はこのようなスキャンデータを個人あるいはショップ単位で持っておいて、注文はネット上から、というのもそれほど遠い話ではないかもしれない。

 このほか、整形手術やメイクアップのビフォーアフター確認などにも使えそうだ。なお特に女性の場合は、きちんとメイクしてない顔をスキャンされることに抵抗を覚えるという声が少なくなかったという。今後の技術を活用したサービスデザインの上では留意すべき点かもしれない。

3Dスキャナと3Dプリンタを使った眼鏡のパーソナルファブリケーション
眼鏡を3Dモデル上でフィッティングしながらデザイン
3Dプリンタで出力された眼鏡。一個あたりの出力に2時間程度かかるそうだ

 名前や所属、キーワードなどを記した木製のアイコンをぶらさげたモビール「network-mobile」(千原凌也氏)は、キネティックアートと呼ばれる分野のアート作品。人と人との繋がりを、あまり明示せずに感じたり想像したりしてもらうことを意図したものだという。学内展示のときにはもっと多くのアイコンがぶら下げられていたそうだ。

 眺めていて連想したのは神社の「絵馬」だった。「絵馬」は願い事を記したものだが、ぼんやり眺めていると、何となくその年に共通した願いの流れみたいなものが見えてくることがある。特に前年に大きな災害があった翌年などは、そのようなストリームみたいなものが感じられることが多い。個々の人々は独立しているのだが、それでも社会全体を共有していることが良く分かるのである。Twitterのタイムラインも似たようなものかもしれない。

 「Color Branch」(三原悠里氏)は、日本古来の伝統色から日本をより深く知るきっかけとなることを目指したWebコンテンツ。1,000を超えるといわれる伝統色には、由来や工芸品、史実、地域などの文化情報が込められている。それを時代ごとの日本地図上で視覚化すれば、より深く文化を知ることができるのではないかと考えたのだという。地図上のプロットだけではなく、例えば「百人一首」など特定のコンテンツに絞って、一般にはあまり色と合わせて考慮されていないコンテンツを鮮やかに見せる方向性を探れば、より面白い作品になるような気がした。

 「Emotion Effecter」(荒木佑介氏)は、動画を見ているときにエフェクタボタンを押したりWiiリモコンを振ったりすることで、映像を揺らしたりフラッシュさせたり、あるいは一部を拡大縮小したりするコントローラーの提案。複数の人たちで映像を見ながら積極的に突っ込む「ニコニコ動画」の弾幕みたいなものを、より大きな動きで示そうとしたものとのこと。残念ながら筆者が会場を訪問した時にはデモが動かなかった。

「network-mobile」
「Color Branch」
「Emotion Effecter」

 「START ON AIR!」(佐藤康満氏)は、翼とキャビンが一体になった「BWB(Blended-Wing-Body)」と呼ばれる近未来旅客機のプレゼン用アプリとして作られたもので、3Dモデルを使って仮想航路をGoogle Earth上で飛行して、その様子を見せることができる。なお「BWB」は主翼と胴体を一体整形することで空気抵抗を低減、胴体にも揚力を持たせることができるのだそうだ。渡邉研究室のほか、「BWB」を研究している同大航空宇宙システム工学コースの金崎雅博准教授との共同チームで製作された作品で、東京デザイナーズウィーク2012 Design Next Awardグランプリ受賞作。

 デモを見ていて感じたのだが、既存の航路でもこのような簡単なインターフェイスで「こんな風景を飛行機上から見ることができますよ」と旅行プランの提案をしてくれると嬉しい。

 このほか会場では、渡邉研究室で製作されたGoogleマップAPI作品、AR作品等を閲覧できる。学生作品にしてはちょっと大人しめで落ち着きすぎているきらいもあるが、会場は入場無料で渋谷駅からもごく近い。ふらっと立ち寄ってみてはいかがだろうか。少しずつ日常に入り込んでくるネットワークデザインのコンセプトから思わぬ着想や繋がりを得られるかもしれない。

地図上から大学食堂を探すことができる「ガクメシ」。
バス停に名言をマッピングしたアプリ「きもちの停留所」
原爆の証言集「ヒロシマアーカイブ」