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Intelのファウンダリサービスの特色はセミカスタムモデル

AMDのカスタムAPUのようなIntelのセミカスタムモデル

 Intelのファウンダリ戦略のキモは2つのビジネスモデルを並列させていることにある。標準的なフルカスタムのチップの製造受託のほかに、Intel製品をセミカスタムしたチップの製造だ。IntelのRenee James(リネイ・ジェームズ)社長(President, Intel)は、COMPUTEX TAIPEI時には次のように説明していた。

 「当社のファウンダリビジネスはTSMCのそれとは少し異なっている。我々も、TSMCがやっているのと同様の標準的なファウンダリサービスは提供する。しかし、それに加えて、当社はセミカスタム製品を顧客のために作っている。Intelの標準の大量生産品に、顧客のIPを加えたセミカスタム品だ。この両輪でファウンダリビジネスを行なう」。

 Intelのセミカスタムモデルは、AMDがPlayStation 4(PS4)やXbox OneのためにセミカスタムのAPUの設計を受託することと似ている。しかし、Intelは半導体工場(Fab)を持ち、カスタマイズ設計だけでなく製造受託もする点が異なる。つまり、このモデルの下でなら、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)やMicrosoftが、ゲーム機用のチップをIntel設計をベースにカスタマイズして製造してもらうことが可能になる。そして、そのチップは、Intelの先端プロセス技術を使うことが可能になる。

 この2ビジネスモデル戦略をもう少し詳しく見ると次のようになる。上のスライドはIntel Developer Forum 2014(IDF 2014)で示されたものだ。フルカスタムはごく単純で、顧客の設計や設計要求に基づいて、顧客のIPやIntelやサードパーティの提供するIPを組み合わせてカスタム製品を設計して製造する。

 それが、セミカスタムモデルになると、Intelの標準製品の設計に、顧客のIPやサードパーティのIPを組み合わせることで、顧客の要求に合ったセミカスタムの製品を作ることになる。チャートだけだと、単にひっくり返っただけのように見えるが、既に述べたように、後者はAMDのAPUのようなセミカスタム設計のモデルで、通常のファウンダリのモデルとは全く異なる。Intelの高性能CPUコアやGPUコアはIPとして通常は提供されないが、後者のセミカスタムモデルでは、Intelとの提携によっては使えるようになる可能性がありそうだ。

IDMとファウンダリビジネスモデル
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旧来のASICモデルを復活させるIntelのファウンダリサービス

 2系列のファウンダリビジネスモデルをIntelは「フレキシブル・ビジネス・モデルズ(Flexible Business Models)」と称している。そして、さらに実行モデルとして2方法の「フレキシブル・エグゼキューション・モデルズ(Flexible Execution Models)」を提供する。

 1つのモデルは「Customer Owned Tooling(COT)」で、このモデルでは、顧客がフルに設計を行ない、自社でフィニッシュして配線パターンのデータである「GDS」に落とし込み、ウェハを製造してパッケージングからテストまでを行なうことが可能だ。物理設計レベルから自由にできる。

 一方、Intelが提供する「フルサービス(Full Service ASIC)」では、論理設計のデータである「RTL(Register Transfer Level:レジスタ転送レベル)」や「回路図(Schematic)」のレベルからでも、Intelがフルサービスでチップの製造からテストまで全てを行なう。簡単に言えば、物理設計からIntelに丸投げできるサービスを提供するという意味だ。日本のIDM(Integrated Device Manufacturer)もよくやっているASIC製造受託のモデルだ。

 Intelはカスタム設計とセミカスタム設計のどちらでも、この両方のサービスを提供する。マトリックスは上のようになる。セミカスタムでフルサービスを選んだ場合は、顧客の要求に従って、Intelが設計と製造までのほとんどの部分を行なうことになる。もともとは、IntelのCPUのビジネスは、このモデルから始まったと言える。その意味では原点回帰だ。

 実際に製造を行なうのは、世界各地のIntelのバーチャル300mmファブネットワークで、USではオレゴン、アリゾナ、ニューメキシコとなる。ベトナムやコスタリカなど、Intelのアセンブリ&テスト施設もファウンダリサービスに提供される。ファウンダリサービスの開発&サポートは下の地図中の赤丸の拠点で行なうが、実際にはオンラインのサポート体制も充実させる。

シリコン技術の提供を拡大させつつあるIntel

 Intelはカスタムファウンダリサービスを4階層のプラットフォームに色分けしている。基盤となる「テクノロジプラットフォーム(Technology Platform)」は、Intelが最も自信を持っている部分で、IDMとして全てを統合して提供する。「設計プラットフォーム(Design Platform)」は設計キットとIP、設計サービスで、この部分はファウンダリに参入したばかりのIntelが充実させなければならない部分だ。「製造プラットフォーム(Manufacturing Platform)」も、Intelの統合的な力を発揮できる部分だとIntelは言う。「オンラインサービスプラットフォーム(Online Service Platform)」は下の全てに関する情報を交換する基盤で、ファウンダリサービスのためにこの部分を強化している。特殊なのは、Intelの社内の情報交換プラットフォームと連携させつつ分離している点だという。

Sunit Rikhi氏

 プロセス技術については、Intelは幅広いオファリングを約束している。下のリストは昨年(2013年)のもので、現在ではさらに拡大されている。また、複雑なプロセス提供を整理するために、2ファミリのプロセステーブルを提供している。汎用とローパワーの2ファミリで、ローパワーテーブルの提供は14nm世代からとなる。トランジスタオプションなどの違いとなる。IDFではファウンダリビジネスを担当するSunit Rikhi氏(General Manager, Intel Custom Foundry/Vice President, Technology and Manufacturing Group, Intel)が、22nmでは限られた提供だったために、利用する顧客数も限られていたが、14nmでは2倍の投資によるLPの提供で、顧客の利用が増えたと説明した。

 14nmのシリコンフィーチャでは、「High Q Inductors」や「High Density MIMCAP」といったIntel独自のフィーチャも紹介されている。昨年のリストでは欠けていたフィーチャが提供されつつあり、その中にはIntelの強味である特殊なデバイスも含まれていることが分かる。

IntelがHBMを低コストに実装できるパッケージ技術を提供

 テクノロジプラットフォームのチップパッケージでは、Intelは高性能なCPUを作り続けてきたことによる高性能パッケージを強味として打ち出している。サーバーやHPC(High Performance Computing)向けのピン数が極端に多く、高速信号に対応し、大型ダイをサポートするようなパッケージを提供する。また、クライアント向けパッケージでは、消費電力が高く電力密度も高いチップを扱い続けて来た強味を活かし、Intelの熱設計の研究結果を活かしたソリューションを提供するという。その一方で、コンシューマやモバイルなどのSoC(System on a Chip)向けには超薄型の「Ultra-thin」パッケージや、メモリ同封が可能な「Package-on-Package」も提供するという。

 さらに、これは別記事で紹介するが、Intel独自の2.5Dパッケージソリューションとして「Embedded Multi-die Interconnect Bridge (EMIB)」という新技術も来年以降にサンプル提供する。この技術は、シリコンインタポーザを使わずに、低コストにHBM(High Bandwidth Memory)などの高密度配線が必要なメモリやダイを接続できる技術だ。

 ちなみに、Intelの提供するファウンダリサービス向けメモリI/OにはHBMが含まれており、EMIB技術との組み合わせをIntelは意図していると見られる。HBMは、インタポーザはDRAMメーカーでは無くユーザー企業が用意することになっている。IntelはEMIBによって、低コストなHBMサポートを可能にしようとしていることになる。

 また、このことは、IntelがHBMをCPUに採用する可能性があることも示唆している。つまり、IntelのハイエンドGPUコア「GT3e」クラス内蔵のCPUが、現在のeDRAMソリューションよりも、はるかに大容量の超広帯域DRAMを備えることが可能になる。IntelのCPUの量産個数規模では、コストがかさむシリコンインタポーザを使うことは避けたいはずなので、EMIBという解が出てきたと推測される。

(後藤 弘茂 (Hiroshige Goto)E-mail