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次世代ゲーム機「PlayStation 4」をSCEがニューヨークで発表

PlayStation 4を2013年末に投入

 ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)が、次世代ゲーム機「PlayStation 4(PS4)」の概要を発表した。米ニューヨークで現地時間2月20日(日本時間2月21日)に開催された「PlayStation Meeting 2013」で明らかにした。次世代PlayStationの名称は、これまでの番号制の命名規則を引き継ぎ、PlayStation 4(PS4)。PSP2にならなかったPS Vitaと異なり、名称で継承性を打ち出した。

 メインプロセッサはCPUとGPUが融合した「APU(Accelerated Processing Unit)」型で、AMDアーキテクチャのカスタム製品。PLAYSTATION 3(PS3)との互換性はハードウェアでは持たず、その代わり、昨年(2012年)買収したGaikaiによるクラウドゲーミングサービスによって、PS3までのゲームタイトルや、将来のゲームタイトルを提供して行くという。また、PS4自体はPS VitaによるWi-Fi経由での、PS4タイトルのリモートプレイなどに対応する。今回の発表では、こうしたネットワーク回りのサービスにもフォーカスが当てられた。

PS VitaによるPS4ゲームのリモートプレイの様子

 PS4の発売は今年(2013年)の年末のホリデーシーズンの予定。今回は本体の筐体デザインは発表せず、スペックとコントローラなどの発表に留めた。コントローラ「DUALSHOCK 4」は、ワイヤレス接続でタッチパッドやスピーカーを備える。このほか、2眼方式の専用カメラ「PlayStation 4 Eye」を提供する。

DUALSHOCK 4

 ゲームのメディアはPS3同様にBDを採用し、また、PS3同様に内部ストレージとしてHDDも搭載する。ドライブ周りは、PS3路線を引き継ぎ、ネットワーク配信だけに依存する形は取らない。

 PS4を開発したSCEのMark Cerny氏(Lead System Architect)は、PS4の特徴として「Simple(シンプル)」、「Immediate(イミーディエイト)」、「Social(ソーシャル)」、「Integrated(インテグレーテッド)」、「Personalized(パーソナライズド)」の5つを挙げた。簡易性や迅速性を示すシンプルやイミーディエイトはもともとゲーム機の利点だが、今回はバックグラウンドプロセッシングのためにI/Oプロセッサを搭載したことを示唆する説明もあった。ソーシャルでは、ゲーム機らしいソーシャル機能として、ゲームプレイのビデオをアップロードして公開できる機能や、フレンドのゲームプレイを見ることができる機能などが示された。また、iOSやAndroidベースのスマートフォンやタブレットを、PS4ゲームのセカンドスクリーンとして使うための専用アプリケーションが提供されることや、諸々のビデオサービスがサポートされることも明らかにされた。

汎用デバイスの高パフォーマンス化に対する解答

 全体的に見るとサプライズが少ないように見えるPS4の戦略だが、SCEにとってできることを着実に押さえて行こうとする方向が見える。PCアーキテクチャがマルチコアCPU+汎用GPUコアの路線を取り、モバイルデバイスがハイパフォーマンス化の道を歩みつつある今、ゲームはあらゆるコンピューティングデバイスで走るようになっている。現状では、ゲーム機がハードウェア、特にチップだけで特異性を出すことは非常に難しい。現実問題として、非常に尖ったチップを開発しても、それによって得られるパフォーマンスの利は、開発コストに見合わない。

 そうした状況でSCEが出した解答がPS4だ。そして、SCEが今回、ハードの性能だけを語ろうとするのではく、PS4世代で提供するサービス全体へとフォーカスを当て、そのサービスがネットワーク主体であることは注目に値する。SCEが、現在のゲーム機を取り巻く状況をある程度正確に認識しており、対応策を打ち出そうとしていることを示している。

SCEのアンドリュー・ハウス社長

 象徴的だったのは、今回のカンファレンスで、アンドリュー・ハウス社長(代表取締役社長兼グループCEO)が「リビングルームは、もはやPlayStationユニバースの中心ではない」と語ったことだ。リビングルームに据える新しいゲーム機を発表する直前に、PlayStationの世界はリビングに限定されないという話を持ってきたところが興味深い。

PS4の中核となるJaguarコアとGCN系GPUコア

 PS4世代では、中心となるのはハードではなく、サービスの集合体であると位置付けるのがSCEの本当の狙いだろう。そのためか、今回の発表でも、ハードのスペックの詳細はぼかした。PS3の時は、これでもかというほど、ハードスペックを押し立てたが、今回はハードの情報が少ない。下は、PS4を開発したSCEのMark Cerny氏(Lead System Architect)の示したPS4ハードのスライドだ。

PS4ハードのスライド

 しかし、SCEが出してきた情報から、かなりのことがわかる。

 まず、PS4の核となるカスタムAPUは、多数のスモールCPUコアとミッドレンジクラスのGPUコアを統合したチップだ。CPUコアは省電力x86-64コアの「Jaguar(ジャギュア)」コアが8個のオクタコア構成。Jaguarは、AMDのEシリーズAPUなどに使われている40nmの省電力コア「Bobcat(ボブキャット)」の、プロセス移行&強化版で、特にSIMD(Single Instruction, Multiple Data)浮動小数点演算性能が倍増されている。

AMD Jaguarコア

 GPUはAMDのGCN(Graphics Core Next)系アーキテクチャのGPUコアで、コンピュートユニットは合計で18個、単精度での浮動小数点演算性能は1.84TFLOPSとなる。GNC以降のAMD GPUは、各コンピュートユニットに16レーンのSIMD(Single Instruction, Multiple Data)演算ユニットが4個搭載されているので、積和算ユニット数は18ユニットで合計1,152個の計算となる。逆算すると、GPUコアは800MHzで動作させることになる。低いように見えるが、これは電力密度を下げるためかも知れない。また、チップ全体での浮動小数点演算性能は2TFLOPSと説明しているため、Jaguarコアは28nmでのターゲットである1.8GHz台で動作させる可能性が高い。

Graphics Core Nextのコンピュートユニット(PDF版はこちら)

 ちなみに、Jaguarコアであるため、チップの製造ファウンダリはファウンダリ最大手である台湾のTSMCとなる。AMDのもう1つのファウンダリであるGLOBALFOUNDRIESには、Jaguar系コアは移植されていないためだ。また、CPUコアとGPUユニット数から、経済的なダイサイズ(半導体本体の面積)で製造できるプロセス技術が28nmであることもわかる。Jaguarは28nmプロセス向けのコアであることからも、PS4のAPUが28nmであることが明瞭だ。

AMDのCPU/APU/GPUアーキテクチャ開発(PDF版はこちら)

メモリダイはゲーム機として異例の多さ

 メインメモリはGDDR5が8GBで、176GB/secの帯域。帯域から、256bitsインターフェイスで、5.5GT/secのメモリ転送レートであることがわかる。GDDR5は現在は2Gbit品までなので、DRAMダイは合計で32個と、かなり個数が多くなるはずで、無理をしていることがわかる。ちなみに、メモリ量は、昨年(2012年)秋の時点での4GBより倍増しているが、これはライバルのMicrosoftの次世代機が8GBであったためと見られる。

 半導体チップの使用だけを見ると、ミッドレンジのPCを強化したというイメージを受けるかもしれない。しかし、バランス的に見ると、AMDの汎用のAPUよりグラフィックスパフォーマンスの比率が高く、メモリインターフェイスはGPUのそれを流用している。むしろ、ミッドレンジのGPUに、CPUコアを載せたようなイメージだ。ちなみに、CPUコアにJaguarを選択した理由は、機能面での理由ではなく、実は製造面にあると見られる。それについては、後日レポートしたい。

 汎用CPUやGPUのカスタマイズという点では、PS4はPS Vitaと似ている。しかし、今回は、ゲームが浸透しているPCアーキテクチャからの流用であり、PCゲームメーカーにとって親和性が高いという点で、意味合いがかなり異なる。今回の発表会でも、PC系のゲームメーカーであるBlizzardが登場、「Diablo III」をPS4に載せることを発表した。

PS3との後方互換性はCPUアーキテクチャの違いで確保できない

ソニー・コンピュータエンタテインメント・ジャパンの河野弘プレジデント

 PS3は、フルカスタムのCPU「Cell Broadband Engine(Cell B.E.)」を搭載していた。しかし、PS4では、CPUコアがx86-64となった。そのため「PS3との互換性はない」とソニー・コンピュータエンタテインメント・ジャパンの河野弘プレジデントは語る。PS3のCell Broadband Engine(Cell B.E.)をほかのCPUアーキテクチャでエミュレートすることは非常に難しいからだ。

 それに代わるのがGaikaiの技術を使ったクラウドゲーミングサービスで、PS3ゲームも含めて提供して行く。複雑化するハードの互換を無理に取るよりも、ずっとエレガントな解決ではあるが、クラウドで提供するのに向いていない(レイテンシがクリティカルなど)なタイトルもあるはずで、難しい面もある。

Dave Perry, co-founder and CEO of Gaikai

 Gaikaiなどの技術では、サーバー側でゲームをレンダリングした上で、映像をクライアントに転送するため、クライアントのハードを選ばない。この点は、ゲームに特化したクライアントであるPS4を出す戦略と矛盾はしているが、SCEとしてはPlayStationのコンテンツの資産こそが重要と見ているようだ。発表では、GaikaiのCEOであるDave Perry氏が登場、ネットワーク回りのサービスの説明を行なった。

 恒例では、日本で開催されていたPlayStation Meetingを、PS4発表の要である今回、SCEは米国に持ってきた。理由は明瞭で、据え置きゲーム機は、日本でより海外、特に米国で勢いがあるからだ。実際には、米国でも据え置きゲーム機はかなり弱まっている。しかし、巻き返すチャンスがあるとすれば、日本よりも海外とSCEは判断したのかも知れない。

(後藤 弘茂 (Hiroshige Goto)E-mail