後藤弘茂のWeekly海外ニュース
SCEが次世代ゲーム機「PlayStation 4」の価格とデザインを発表
(2013/6/12 13:26)
どこか懐かしいPS4の筐体デザイン
ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の米国法人Sony Computer Entertainment America(SCEA)は、E3で、次世代ゲーム機「PlayStation 4(PS4)」の実機のデザインを、ついに発表した。これまで、SCEはPS4のスペックや機能は説明していたが、本体のデザインは伏せたままだった。
Microsoftは今回、Xbox Oneではリビングルームに馴染みやすい、ビデオレコーダーのように見える大人しいデザインを選んだ。それに対してSCEは、PS4でも相変わらず先鋭的な筐体デザインを採った。角張った鋭角のデザインで、横から見ると平行四辺形を2ユニットを重ねたように見える。2ユニットの重ね合わせに見えるところは、かつてのX68000デザインを連想させる。
また、SCEAは、PS4の価格も発表した。希望小売価格は米国で399ドル。北米とヨーロッパでは、今年(2013年)のホリデーシーズンに発売する。399ドルは、ライバルであるMicrosoftのXbox Oneよりも100ドル安い。前回のPlayStation 3(PS3)の発売価格は499ドル(20GBモデル)だったので、前世代と比べても100ドル安い。
米国での家電のマジックプライス(売れ行きが拡大する価格ライン)は、かつては299ドルと言われ、今も昔ほどではないが、そう言われることが多い。日本より家電価格にシビアな米国では、399ドルも安いとは言い難いが、PS3発売時と比べると断然割安感がある。特に、Microsoftが499ドルを発表した後なので、“後出しジャンケン”的なSCEAの価格発表はインパクトがあった。ただし、Xbox Oneの価格はKinect 2込みとなっている。
筐体と価格が発表となったE3。しかし、今回のSCEAのE3カンファレンスで、一番受けたのは、筐体デザインでも価格でもなかった。ビジネスポリシーの説明が、もっとも盛り上がった。
会場が大騒ぎとなったSCEAによるビジネスポリシーの説明
会場が大騒ぎになったのは、SCEAがPS4で中古ゲームをサポートすると宣言した時だった。歓呼の声が渦を巻き、SCEAのJack Tretton(ジャック・トレットン)氏(President and CEO of SCEA)が、さらにゲームディスクを、売ったり貸したり自由にできると続けると、さらに喜びの声は盛り上がり、立ち上がって拍手する観客さえ現れた。SCEAがPS4でネットワーク接続が必須ではなく、オンラインチェックインもしなくていいと説明すると、さらに客席のトーンが上がり、最後にはソニーコールまで始まった。止めが冒頭で説明した価格で、SCEAが399ドルと示すと会場は沸き立った。
これが、E3に合わせたSCEのプレスカンファレンス「Sony PlayStation E3 Press Conference」の光景だ。会場の盛り上がりだけを見るなら、カンファレンスはSCEの圧勝に見えた。自らもコアゲーマーであるゲーム系のメディアやブロガーの観客の心を掴んだ格好だった。
この異様な盛り上がりを理解するには、その背景を知る必要がある。次世代機を目前にしたここに来て、次世代機への懸念が広がっていた。それは、次世代機では、中古ゲームはディスクであっても課金され、ネットワーク接続を必須条件(一定時間置きのネットワークアクセス)となり、チェックインしないとプレイができないのでは、という懸念だ。実際に、米国ではMicrosoftが、いくつかの制約条件を説明していると報道されていた。しかし、コアゲーマーは、そうしたネットワークの制約を嫌い、高価格なゲームディスクは自由に売り買いや貸し借りができることを望む。SCEAは、コアゲーマー側に立って、制約を課さないことを明言し、それがゲームメディアに歓呼で迎えられたというわけだ。
ビジネスモデルの根幹に関わる中古ゲーム問題
ディスクベースのパッケージで販売する、従来のコンソールゲームの場合、ビジネスモデルの制約が大きい。今のディスクゲームの多くは、最初の4週間で売らなければならない。最初の立ち上がり期を過ぎると、中古市場に遊び終わったタイトルが出回ってしまうことが一因だ。新品ソフトウェアの販売は急激に減衰するため、パッケージ型のゲームタイトル販売はロングテール(長期間売れる)になりにくい。そして、パッケージの中古が出回ると、ダウンロード販売コンテンツへと顧客が移行しにくい。ダウンロードには、譲渡の制約があり、価格も正規価格のみとなるからだ。
そのため、ゲーム機のビジネスモデルに手をつけようとすると、中古ゲームに制約を課す必要が発生する。そして、ディスクベースの中古ゲームを制約しようとすると、オンラインでの認証などの仕組みを導入する必要が出てくる。据え置きゲーム機が、依然としてディスク型媒体を使う以上、この問題はついて回り、それを改革したいというニーズはプラットフォーム側にある。しかし、今回、SCEは、従来のゲーム機のビジネスモデルには手を付けないことを明言した。そして、それが、現状の継続を望むコアゲーマーに歓呼で受け容れられた。
しかし、市場はコアゲーマーだけで成り立っているわけではないことも確かだ。市場を広げ、ゲーム価格を下げるには、ビジネスモデルの変革が必要となる。ここにジレンマがあり、モデルを変えようとすると、ゲーム機を牽引してくれるコアゲーマーの反発を招く。ところがモデルを変えないと、ゲームの発売価格を下げたり、販売モデルを変革することが難しく、ユーザーの拡大が難しくなる。
そして、ゲーム機の目前には、ダウンロードモデルで、カジュアルゲーマー層をどんどん開拓している、スマートフォンやタブレットに代表されるコモディティデバイスがある。その波は据え置きゲーム機と競合するスマートTVにも及ぶ可能性が高い。コモディティデバイスとの戦いとなった時に、今回のSCEの選択の是非が再び問われることになりそうだ。
シンプルに言うと、ゲーム機は対コモディティデバイスとで、ビジネスモデルの改革を目指そうとするとコンテンツの利用に制約を課さざるを得ない。ところが、それをやると、ゲーム機の立ち上がりを牽引するコアユーザーの反発を食う。その狭間で、ゲーム機は揺れている。今回のE3は、この問題を表面化させた。
コンテンツで押すPS4
E3でのSCEは、Microsoft同様に徹底して次世代機PS4向けゲームタイトルで攻めた。PlayStationオンリーのFPS(First Person Shooting)のKillzoneシリーズの新作「Killzone:Shadow Fall」、レースゲーム「DriveClub」、「inFAMOUS:Second Son」、「the Dark Sorcerer」、ダークな雰囲気の「The Order:1886」、「MAD MAX」など。また、スクウェア・エニックスはFINAL FANTASY Versus XIII」を「FINAL FANTASY XV」にリナンバリングして投入することや、米国で人気のKINGDOM HEARTSシリーズの新作「KINGDOM HEARTS 3」をPS4に出すことを明らかにした。また、このところ新ゲーム機に熱心なUbisoftからは、「Assassin's Creed 4 Black Flag」や「Watch Dogs」のデモが行なわれた。Haloシリーズを最初に開発したBungieの「Destiny」も公開された。
SCEワールドワイド・スタジオ(SCE WWS)の吉田修平氏(プレジデント、SCEワールドワイド・スタジオ)によると、SCE WWSでは、30タイトル以上のPS4専用タイトルを開発しており、そのうち12タイトルが新作となるという。PS4発売後1年に20タイトルが出てくると説明した。ファーストパーティタイトルだけでこの物量で、サードパーティタイトルを含めると開発中のPS4タイトルは140ゲームになるという。
また、SCEはXbox 360に対して相対的に弱かったインディゲームの取り込みにも熱心に取り組むことを明らかにしている。
Gaikaiの技術によるクラウドゲーミングは2014年
Xbox Oneを家庭のエンターテイメントセンターと位置付け映像コンテンツの融合を図るMicrosoftを意識してか、SCEはPS4での映像コンテンツサービスについても紹介した。ソニー米国法人のMichael Lynton氏(CEO, Sony Corporation of America兼、Chairman & CEO, Sony Pictures Entertainment)が登場。ソニーが保有する映像や音楽のコンテンツをPS4に向けてローンチ時から利用できるようにするという。
ネットワークを必須としないPS4だが、ネットワークサービス自体は充実させる。現在の有料ネットワークサービス「PS Plus(PlayStation Plus)」メンバーシップは、そのままPS4に移行できる上に、PS4だけでなくPS3とPS Vitaを単一アカウントで利用できる。
PlayStationのゲーム資産をオンラインで提供する、クラウドゲーミングについても説明があった。SCEは、クラウドゲーミングの企業Gaikaiを買収、同社の技術を使ったクラウドゲーミングサービスを行なうことをアナウンスしていた。今回、E3では、SCEのクラウドゲーミングサービスが、PS4のローンチよりずれて2014年より米国でまず開始されることが明らかになった。
クラウドゲーミングでは、サーバー側でゲームをレンダリングした上で、映像をクライアントに転送する。そのため、原理的にはクライアントのハードを選ばない(動画のコーデック機能は必要)。この点は、ゲームに特化したクライアントであるPS4を出す戦略と矛盾はしているが、SCEとしてはPlayStationのコンテンツの資産こそが重要と見ている。PS4本体は、PS3との後方互換性を持たないため、クラウドゲーミングはコンテンツの互換を提供するための手段でもある。
E3では、ハウス社長が、クラウドサービスがPS4とPS3、そして遅れてPS Vitaに提供されることが明らかにされた。PS4とPS3、PS Vita上で、PS3のコンテンツの一部が、クラウドでプレイできるようになる。このクラウドサービスは、SCEの本気度合いがどの程度かによって、サーバー側の規模や構成、アーキテクチャが変わって来る。
今回のE3のカンファレンスでは、SCEはMicrosoft同様にタイトルで押し、ハードウェアのスペックは引っ込めた。Microsoftに対してスペック競争を挑むつもりはないらしい。その代わり、PS4がコアゲーマー側に立つという姿勢を鮮明とすることで、北米ではXbox 360に奪われたコアゲーマーの一番人気ゲーム機の立場を取り戻そうとしているように見える。