山口真弘の電子辞書最前線

シャープ「NetWalker PC-Z1J」
~Web辞書も利用できるモバイルインターネットツール



PC-Z1J。外観は一般的な電子辞書専用機と非常によく似ている。

発売中
価格:オープンプライス



 Linuxを搭載したシャープのモバイルインターネットツール「NetWalker」に、電子辞書コンテンツを収録した新モデル「PC-Z1J」シリーズが登場した。ハードウェアは従来モデルと同一だが、広辞苑第六版や新英和中辞典など7つの電子辞書コンテンツが、microSDに収録される形で追加されているのが特徴だ。

 販売方法も従来モデルとは異なる。従来モデルがノートPC売場などで展開されていたのに対し、本モデルは多くの量販店で電子辞書売場に陳列され、一般的な電子辞書と比較して購入できるように配慮されている。

 ちなみに本稿で紹介している辞書ありモデル(PC-Z1J)とスタンダードモデル(PC-Z1)の価格差は、本稿執筆時点でおよそ8,000円前後。また辞書コンテンツの入ったmicroSDは単体でも販売される。

 今回はこの「PC-Z1J」の電子辞書機能について、一般的な電子辞書と比較した場合のメリットとデメリットを中心にレビューしたい。

●一般的な電子辞書と非常に近い外観。駆動時間やコンテンツ数に違い

 まず最初に、ハードウェアを中心とした基本仕様の比較をしておこう。比較対象は、同じシャープのカラー電子辞書「PW-AC900」だ。参考までに、近日発売となるカシオの電子辞書「XD-A6500」についても仕様を掲載しておく。

【表】仕様比較


シャープシャープカシオ
製品名PC-Z1JPW-AC900XD-A6500
ディスプレイ5型5型5型
ドット数1,024×600ドット480×320ドット480×320ドット(※1)
電源内蔵リチウムイオンバッテリー
ACアダプター
リチウムイオン充電池
ACアダプター
単3電池×2
使用時間約10時間約80時間約150時間
拡張機能microSD、USB、無線LANなどmicroSD、USBmicroSD、USB
本体サイズ
(幅×奥行き×高さ、突起部含む)
161.4×108.7×24.8mm145×108×22.4mm148.5×106.5×16.3mm
重量(電池含む)約409g約358g約300g
内蔵コンテンツ数7(※2)100100
注釈※1=クイックパレット部を除く
※2=ほかにWeb辞書も利用可能

 こうして比較してみると、ハードウェア的には従来の電子辞書に非常に似通っていることがよく分かる。フットプリントこそやや横長だが、奥行きや厚み、重量、画面サイズといった外観だけ見ると、そのまま電子辞書と言っても通用しそうだ。

 そんな中で、大きな違いと言えるのは、画面解像度と駆動時間、そしてコンテンツの搭載数ということになる。順に見ていこう。

 まず画面解像度。他の2製品がいずれも480×320ドットであるのに対して、本製品は1,024×600ドットの高解像度液晶を搭載している。もっとも画面サイズは同じ5型であり、また電子辞書コンテンツにおいてはあまり小さいフォントサイズでの表示に対応していないため、実利用においては差を感じにくい。

 次に駆動時間。本製品と同じくリチウムイオン電池+ACアダプタを採用するPW-AC900と比較すると約8分の1、カシオの新モデルXD-A6500に比べると約15分の1もの差がついてしまっている。本製品の約10時間駆動というのは、モバイルノートPCなどと比べると長く、メリットとなるが、もともとバッテリが長寿命な電子辞書との比較においては、むしろデメリットになってしまう。

 本製品のユーザーは電子辞書機能ばかりを使うわけではないだろうから、単純なスペック上の比較はナンセンスだが、一般的な電子辞書のようにバッグの中に1週間入れっぱなしにしておくという使い方は、さすがに厳しいと言わざるを得ない。後述するWeb辞書を使う場合はインターネットに接続する必要があるため、駆動時間はさらに短くなる可能性がある点も注意したい。

 最後にコンテンツ数。昨今の電子辞書が100を超えるコンテンツを内蔵しているのに比べると、本製品の内蔵コンテンツは7つと少ない。もっとも、本製品はインターネットを介してWeblioなどWeb上の総合辞書サイトを利用することができるため、7つの内蔵コンテンツに加え、1,000以上ものオンライン辞書コンテンツを利用できる。詳しくは後述するが、内蔵コンテンツ数だけで比較するのもナンセンスだといえそうだ。

 なお、表にはないが、本製品の起動時間は約3秒と短く、既存の電子辞書とそれほど差はない。ただし、本体の起動後にさらに電子辞書コンテンツを起動する形になるので、電子辞書を使い始めるまでのトータルの所要時間ということでいくと、電源オンですぐ検索画面が表示される従来の電子辞書に軍配が上がる。

天板は無地。製品はレッド系のほか、ホワイト系、ブラック系もラインナップされている左側面。USBポートとイヤホン端子を備える右側面。USBポートとストラップホール、ACジャックを備える
本体サイズは一般的な電子辞書とほぼ同一だ当然といえば当然だが、キーのサイズや配列は電子辞書というよりもむしろノートPCライク。昨今の電子辞書の流行りである手書きの小画面は搭載されていない
キーはQWERTY配列。このあたりは一般的な電子辞書と変わりはないしっかりしたEnterキーを備えている点など、一般的な電子辞書に比べるとPCライクなキー配列だが、キータッチはいまいち。右上にはタッチ式のポインティングデバイスを備えるシャープPW-AC900(右)との比較。横幅はやや大きいが、サイズ的にはほとんど差はない
フットプリントの比較。奥行きはほぼ同等、横幅はやや本製品のほうが大きい電子辞書コンテンツはmicroSDカードで供給される付属のタッチペン。本体に内蔵することはできず、ストラップなどに取り付けて使用する

●画面レイアウトや操作手順は従来の電子辞書と同様。全文検索も可能

 では次に、辞書コンテンツの利用方法についてみていこう。

 辞書コンテンツを起動するには、画面上部メニューバーの「アプリケーション」から「アクセサリ」→「電子辞書」と順にアクセスする。電子辞書で言うところの複数辞書検索画面に相当するビューアが起動するので、上部のテキストボックスに検索語を入れて「検索」ボタンをクリックすることにより、下部左列に項目が、下部右側に選択した項目の本文がプレビュー表示される。これらのレイアウトおよび操作手順は、従来の電子辞書とほぼ同様なので、とくに迷うことはないだろう。

 内蔵されている辞書コンテンツは、広辞苑第六版、新英和中辞典第7版、新和英中辞典第5版、現代用語の基礎知識2009年版、新世紀ビジュアル大辞典、新冠婚葬祭事典、ことば選び辞典の7つ。デフォルトでは一括検索が指定されており、これら7コンテンツすべてが検索対象に設定されている。メニュー画面で設定することにより、特定の辞書コンテンツのみを指定したり、また複数のコンテンツをグループ化して検索対象とすることもできる。自由度はかなり高い印象だ。

メイン画面電子辞書ビューアを起動するには、メニューバーのアプリケーション→アクセサリ→電子辞書とアクセス電子辞書ビューア。基本的な画面構成は一般的な電子辞書と同等だ
実際に検索を行なったところ。左側に項目、右側に本文が表示される。ちなみにこれは文字サイズを最小にした状態文字サイズを最大にしたところ。5段階で可変する履歴画面。全コンテンツ一括で表示される

 検索方法は、前方一致のほか、部分一致、後方一致、完全一致などが利用できる。また、全文検索により、見出し語だけではなく本文内の語句も検索できることが、本製品の1つの売りとなっている。静止画や動画、音声などの再生にも対応する。もちろん検索履歴を呼び出して再表示することも可能だ。

検索方法はデフォルトでは前方一致が指定されている全文検索では、見出しだけでなく本文内に指定語句を含む項目を一覧表示できる
内蔵コンテンツは7つ。グループ化して検索対象にすることも可能インクリメンタルサーチにも対応している

 これら操作性について一般的な電子辞書と異なるのは、操作をポインティングデバイスで行なうことだ。一般的な電子辞書では、基本的にはキーボード操作が中心で、補助的にタッチ操作を利用する形になる。本製品の場合、基本的にはポインティングデバイスでの操作になるので、画面のレイアウトなどは一般的な電子辞書と変わらないながらも、使い心地はかなり異なる。PCの操作性に慣れているユーザーのほうが馴染みやすそうだ。

 ポインティングデバイスが利用できるメリットとして、右クリックからコンテクストメニューが利用できることが挙げられる。具体的には、コピー、他辞書へのジャンプ機能、さらに後述するWeb辞書へのジャンプ機能が用意されている。とくに範囲選択については、キーボード操作に比べ直感的な操作が可能だ。本製品はUSBマウスも利用できるので、内蔵のポインティングデバイスに馴染めなければ、USBマウスを接続して利用するのもよいだろう。

 ちなみに右クリックから利用できる本文のコピー機能についてだが、試してみた限りでは、全文をコピーすることはできず、最大1行までに限定されるようだ。文字数でいうと20~30字程度ということになる。著作権的にも全文をそのままコピーするのは難しいだろうが、セイコーインスツルのPASORAMAモデルにおける最大100字までといった上限に比べるとやや厳しい印象だ。

右クリックメニューから本文のコピーも可能。試用した限りではコピーできるのは最大1行で、複数行にまたがってのコピーはできないようだコピーしたテキストをワープロソフトに貼りつけることができる右クリックメニューから再検索やWeb辞書検索も可能。同じシャープの電子辞書「Brain」にあるカラーマーカー機能などは用意されていない

 なお、これら電子辞書機能を利用する場合は、電子辞書コンテンツが入ったmicroSDを常に装着している必要がある。後述するWeb辞書は純粋にブラウザを利用するので、いったんブラウザを起動してしまえば、この限りではない。

●Web上の辞書を直接検索できる。GoogleやWikipediaも利用可能

 さて、本製品の特色の1つであるWeb辞書について見ていこう。

 本製品はIEEE 802.11b/g準拠の無線LANを搭載しており、アクセスポイント経由でのインターネット接続が行なえる。また、イーモバイルなどのUSB通信アダプタを接続することで、外出先からインターネット接続も可能だ。本製品ではこれらインターネット接続機能を利用し、プリセットされたWeb上の辞書コンテンツの利用を可能にしている。

 プリセットされているWeb辞書コンテンツは「Weblio辞書」「辞典横断検索 Metapedia」「Yahoo!百科事典」の3つ。これらに登録されている辞書コンテンツの合計が1,000を超えることから、同社では本製品で利用できるWeb辞書のコンテンツ数を、カタログ上などでは「約1,000」と表記している。

 Web辞書を利用するには、さきの電子辞書ビューア画面のメニューバー右端にある地球儀マークをクリックする。するとブラウザ(Firefox)が起動して検索語句のパラメータが渡され、Web上の辞書サイトで検索が実行されるという仕組みになっている。検索対象となるWeb辞書は、デフォルトではWeblioが指定されており、任意に変更できるようになっている。

 これらのWeb辞書検索は、その都度ブラウザを用いてアクセスする仕組みであり、ローカルの辞書コンテンツと同じ画面内にWeb辞書の検索結果が表示されるわけではない。また、複数の辞書サイトについて同時に検索が行なえるわけではなく、WeblioならWeblioの結果のみ、Yahoo!百科事典ならYahoo!百科事典のみ、といった格好になる。WeblioとYahoo!百科事典とmetapediaの検索結果を1画面に並べて表示するといったことはできない。シームレスさについては、あと一歩といった印象だ。

 とはいえ、検索語句をその都度コピペしてブラウザに切り替え、Weblioなどの辞書サイトにアクセスし、そこで検索語句をペーストして再検索するといった手間を考えると、非常に少ない労力でWeb上の辞書サイトを利用できることは間違いない。一般的な電子辞書と比較した場合の本製品の最大のメリットであることは、おそらく異論のないところだろう。

 ちなみにこのWeb辞書は、自分がよく利用するサイトを登録することもできるので、例えばGoogle検索やWikipediaを登録しておき、ワンクリックで検索を実行することもできる。Wikipediaはプリセットされているmetapediaの検索結果に含まれているのだが、利用頻度を考えると、単体で登録しておいてもよさそうだ。

Web辞書にアクセスするためには、検索語を入力した状態で、右端の地球儀マークをクリックするWeb辞書機能で「Weblio辞書」にアクセスしたところ。さきほどまでの電子辞書ビューアではなく、通常のブラウザを利用する。内蔵コンテンツとWeb辞書が統一されたインターフェイスで提供されているわけではないものの、両者をワンストップで利用できるメリットはやはり大きいWeb辞書のほか、検定サイトについても検索対象として登録されている。個人的にはあまりニーズを感じなかったが、辞書よりもライトな感覚で、具体的な用例を検索したい場合には便利に使えるかもしれない
Web辞書は新たに登録することもできる。これはGoogleを登録したところ。電子辞書の本文はどうしても文字が中心となるので、それを補完する意味で、Google画像検索のようなイメージを検索できるサイトを登録しておくと便利そうだこれはWikipediaを登録したところ再検索メニューを使えば、いったん検索した語句を特定の辞書コンテンツで再検索できる
先ほど登録したGoogleで「金魚」を再検索するGoogleでの「金魚」の検索結果が表示されたこちらはWikipediaの検索結果

 なお、実際にこれらWeb辞書を利用した限りでは、画面の縦方向の狭さがやや気になった。本製品は1,024×600ドットの高い解像度を持つとはいえ、WeblioをはじめとするWeb辞書サイトを利用しようとすると、縦方向の解像度はどうしても足りないと感じられる。必要に応じて、Firefoxをフルスクリーン表示にするなどして利用するとよいだろう。

●ファンクションキーがないなど、一般的な電子辞書とはやや違った操作性

 次に操作性について見ていこう。もともと本製品は電子辞書専用に用意されたハードウェアではないため、操作性は一般的な電子辞書とはやや異なる。

一般的な電子辞書によく見られる上部のファンクションキーは存在しないので、コンテンツの一発呼び出しなどは行なえない

 具体的には、コンテンツを一発で呼び出せるファンクションキーがない点が挙げられる。一般的な電子辞書であれば、キーボードの上段に「複数辞書検索」、「アルファベット検索」といったショートカットのキーや、「広辞苑」、「英和辞典」など各コンテンツを直接呼び出せるキーが備わっている。本製品ではこうしたキーは用意されていないため、まずはNetWalkerを起動したあとメニュー画面をたどって電子辞書を起動し、コンテンツや検索方法を選択し、検索を実行するという流れになる。こうした操作性についてはやはり専用機のほうが上だろう。とくに日々電子辞書機能を利用するヘビーユーザーであればあるほど、こうした操作をわずらわしく感じるかもしれない。

 もう1つはポインティングデバイスの問題だ。本製品は、内蔵のポインティングデバイスのほかタッチ操作にも対応し、さらに外付けでUSBマウスを利用することもできる。操作方法の多様性そのものは悪いことではなく、前述の通り右クリックメニューを利用できるメリットもあるのだが、ポインタを思い通りにコントロールするには多少の慣れが必要となる。

 その点、一般的な電子辞書の場合、キーボード中心のインターフェイスで自由度は低いものの、操作方法そのものは単純明快で間違えようがない。一般的な電子辞書から本製品に乗り換えた場合、この点についてはややストレスを感じやすいのではないかと思う。逆に、これまで電子辞書の利用経験があまりなく、PCの操作性に慣れ親しんでいたユーザーであれば、あまり気にならないのではないかと思う。

●内蔵辞書とWeb辞書で補完し合う、電子辞書の新しいあり方を示す製品

 最後に総括をしておこう。電子辞書に内蔵される辞書コンテンツは高い信頼性をもつ反面、どうしても格式張った見出し語が中心となる。それに比べ、Web辞書は時事用語や専門用語、さらに俗語に強いという特徴を持っている。この両者を切り替えながら利用できる本製品は、それぞれの足りないところをうまく補完し合っていると言える。

 特に従来の電子辞書では、時事系のコンテンツは収録して1年も経てば風化してしまうという問題があったが、Web辞書を利用することで解決できる。そうした意味で、本製品は電子辞書の新しいあり方を示す製品だといえるだろう。

 本製品がおすすめできるユーザーとしては、これまでノートPCと電子辞書をともに持ち歩いていた人が挙げられる。とくに、電子辞書の検索結果に満足せずに同じ語句をネットで検索することが多かったユーザーにとっては、オールインワンでの検索を提供してくれる便利な製品であることは間違いない。

 もちろん、ノートPCの代替として利用するには、キーボードの操作性や画面サイズ、さらにOSがUbuntuであることなど、いろいろな点を併せて検討する必要があるが、まずは本製品を電子辞書として購入し、追ってノートPCのリプレースにもチャレンジするというのもよいだろう。ただし語学系や医学系など、専門性の高い辞書コンテンツがいまのところ用意されていないので、これらが必要となる場合は、一般的な電子辞書を買い求めることになるだろう。

 また、これまで電子辞書を使ったことがなく、あらたに購入を検討しているという場合には、本製品は有力な選択肢となりうる。もともと電子辞書はPCとは異なる独自の操作性を持っているので、PCの操作性に馴染んでいる人にとっては、PCライクなインターフェイスを持つ本製品のほうが一般的な電子辞書よりも馴染みやすいと考えられるからだ。

 ただし、逆にこれまで一般的な電子辞書に馴染んてきたユーザーにとっては、キーボードの打鍵感やファンクションキーの有無といったインターフェイス面で違和感を感じる可能性がある。電子辞書機能の利用頻度が高いユーザー、またWeb辞書との連携に魅力を感じないユーザーは、本製品ではなく従来の電子辞書をチョイスしたほうがよいだろう。駆動時間が短い点も十分に考慮すべきだ。

【表】主な仕様

製品名PC-Z1J
メーカー希望小売価格オープンプライス
ディスプレイ5型カラー
ドット数1,024×600ドット
電源内蔵リチウムイオンバッテリ
使用時間約10時間
拡張機能microSD、USB、無線LANなど
本体サイズ(突起部含む)161.4×108.7×24.8mm(幅×奥行き×高さ)
重量約409g(電池含む)
収録コンテンツ数7※内蔵のみ(コンテンツ一覧はこちら)