~3種類の形態で利用できる12.5型Ultrabook |
東芝は、Windows 8を搭載するUltrabookの新モデル「dynabook R822」を発表した。Ultrabook準拠ではあるが、タッチパネル液晶を搭載するとともに、タブレットスタイルとノートPCスタイルのどちらでも利用できる、ハイブリッド仕様を採用する点が大きな特徴。Windows 8と同時となる、10月26日に発売が予定されているが、いち早く試用する機会を得たので、ハード面を中心に紹介していこう。価格はオープンプライスで、市販モデルの店頭予想価格は15万円前後。直販モデルは129,800円から。
なお、試作機のためベンチマークテストは実施しておらず、製品版は仕様が異なる可能性があることをご了承いただきたい。
●ノートPC、フラット、タブレットの3スタイルで利用可能dynabook R822(以下、R822)の最大の特徴は、ノートPC形状とタブレット形状のどちらでも利用できる、ハイブリッド仕様となっている点だ。Windows 8対応Ultrabookでは、他にもハイブリッド仕様の製品が登場予定となっているが、R822は独特な本体形状の変形方式を採用している点が、他の製品と大きく異なる。
R822は、基本となる形状はタブレット形状だ。そして、ノートPC形状に変形させる場合には、液晶部を本体後方にスライドさせた後に、手前に引き起こすことになる。タブレット形状からノートPC形状に変形させるために、2段階の動作が必要になるため、他のハイブリッド型ノートPCに比べると若干面倒に感じる。しかし、このギミックを採用することによる利点も多い。
まず、タブレットモードで利用する場合、キーボードとタッチパッドが本体内に完全に収納されるため、キーボードやタッチパッドによる誤動作はもちろん、破損の心配もない。また、ノートPC形状で利用する場合には、液晶部が本体後方に位置することになるため、通常サイズのキーボードやタッチパッドが搭載できるとともに、広いパームレストも確保できる。加えて、液晶面の角度調節も自在に行なえ、通常のノートPCと同等の操作性を実現できる。つまり、タブレット、ノートPCのどちらでも、妥協のない操作性を実現する、よく考えられたギミックというわけだ。
さらに、液晶面を後方にスライドさせた状態での利用も想定されている。これは、例えば対面で相手に資料を見せたりする場合などに活用できるとしている。そのため、液晶面が水平になっている状態では、タッチパッドを指3本でタップすることで簡単に画面表示を180度回転できるようになっている。相手に画面を見せつつ、簡単に画面表示の向きを切り替え、キーボードやタッチパッドを利用した操作も可能。これは、ビジネスシーンでの利用を想定した機能だが、こういった機能の実現も、R822の独特な変形ギミックがあってこそのものと言える。
ところで、実際にR822の変形ギミックを操作してみると、液晶部のスライドが非常にスムーズに行なえることがわかる。液晶部の中央付近だけでなく、左右一方の端に近い部分を持ってスライドさせる場合でも、引っかかることなく後方まで楽にスライドできる。このスムーズなスライドを実現するために、液晶部背面左右に2本の水平のギアを用意するとともに、ヒンジ部には歯車を内蔵。そして、左右のヒンジ部は「リンクバー」と呼ばれる金属製の棒でつながれている。これによって、左右ヒンジの歯車が同調して動作し、常にスムーズなスライドを可能としている。
本体サイズは、約326.5×213×19.9mm(幅×奥行き×高さ)。高さが19.9mmとなっているが、ハイブリッド型のUltrabookでは高さが20mmまで認められているため、R822もUltrabook準拠となる。フットプリントは、13.3型液晶搭載のUltrabook「dynabook R632」と比較して、奥行きは同じだが幅は10mmほど広くなっている。これは、裏面のギアを使ったスライドのギミックを実現するためと思われる。
重量は、公称で約1.49kg、実測で1,491gであった。重量は比較的重いため、片手で持って利用するのはかなりつらい。ただ、フットプリントが大きいためか、実際に手に持つと数字ほど重くは感じなかった。
【動画】本体を操作、変形している様子 |
●12.5型のタッチパネルIPS液晶を搭載
1,366×768ドット表示対応の12.5型液晶を搭載。パネルはIPS方式で視野角が広く、発色も鮮やかだが、外光の映り込みが気になる。タッチパネルは5点マルチタッチ対応の静電容量方式だ |
搭載する液晶パネルは、1,366×768ドット表示対応12.5型液晶だ。dynabook R632よりも一回り小さいが、実際に使っていると画面が小さいと感じることはない。IPS方式の液晶パネルを採用しているため、視野角は比較的広く、タブレットモードで利用する場合でも、視点の位置によらず快適な視認性が確保できる点は嬉しい。
液晶表面は光沢処理が施されており、発色は鮮やかだ。また、輝度も高く、表示品質は十分に満足できるレベルを確保している。ただし、光沢液晶のため外光の映り込みはかなり気になる。
タッチパネルは静電容量方式で、5点マルチタッチに対応。製品に付属はしないが、オプションでスタイラスペンが用意されており、指だけでなくペンでの操作にも対応。静電容量式タッチパネルに対応する市販のスタイラスペンも利用可能だ。
また、液晶面には強化ガラスを採用するとともに、耐指紋コーティングも施されている。ただし、実際に使ってみたところ、通常の液晶画面に比べると指紋の痕は付きにくいようだが、ある程度使っていると痕が気になってくるので、定期的な拭き取りは不可欠だろう。
キーボードは、dynabook R632に搭載されているキーボードとほぼ同等のものを採用している。キーピッチは、縦こそややピッチが短いものの、横は約19mmとフルサイズを確保。また、ストロークは短いが、比較的しっかりとしたクリック感があるため、まずまず快適に利用できる。R632同様、キーボードバックライトも内蔵しており、暗い場所でも快適に利用できる点は嬉しい。
ポインティングデバイスのタッチパッドは、R632に比べると縦の幅が狭いものの、幅は広く取られており、こちらも快適に利用できる。クリックボタンは独立しておらず、パッドと一体型となっている。また、複数の指を利用したジェスチャー操作にも対応で、液晶を水平にスライドさせた状態でタッチパッドを3本指でタップすると、画面表示を180度回転する機能も実現している。
●スペックはUltrabookとして標準的
R822の基本スペックは、Ultrabookの中ではミドルレンジに位置付けられる。CPUはCore i5-3317U(1.70/2.60GHz)、チップセットはIntel HM76 Expressを採用。メインメモリは、市販モデルでは標準で4GB搭載するが、増設は不可能。それに対し直販モデルでは8GB搭載モデルも用意される。
ストレージは、128GB SSDを標準搭載。直販モデルでは256GB SSD搭載モデルがあり、今回の試用機でも256GB SSDが搭載されていた。無線機能は、IEEE 802.11b/g/n対応の無線LANとBluetooth 4.0を標準搭載。センサー類は、加速度センサー、ジャイロセンサー、地磁気センサー、照度センサーを搭載。また、Webカメラは液晶面と液晶部背面の2カ所に搭載しており、液晶面は約100万画素、背面は約300万画素のセンサーを採用。ちなみに背面のカメラは、タブレットモードでは本体側に隠れるため使用できないが、液晶をスライドさせることで使用可能となる。また、背面のカメラは、液晶面を完全に起こした状態で水平方向の撮影ができるように、やや角度をつけて取り付けられている点も特徴となっている。
側面のポート類は、左側面にUSB 3.0×1ポート、背面に電源コネクタとHDMI出力、USB 3.0×1ポート、右側面にヘッドフォン/マイク共用ジャックとSDカードスロットをそれぞれ用意している。ポート類はやや少なめだが、全て標準サイズのポートとなっているため、各種周辺機器をそのまま接続して利用できる。また左側面には、電源ボタンに加えて、ボリュームボタンと画面の自動回転機能をON/OFFするボタンも用意されている。もちろん、液晶面にはWindows 8に対応するためWindowsボタンが用意されている。
R822ではリチウムポリマーバッテリが内蔵されており、公称で約6時間の駆動が可能となっている。付属のACアダプタは十分にコンパクトで、重量も電源ケーブル込みで実測220gとまずまず軽量だ。
左側面には、USB 3.0×1ポートと、電源ボタン、ボリュームボタン、画面の回転機能のON/OFFボタンを配置 | 背面側には、USB 3.0×1ポートとHDMI出力、電源コネクタを配置。ポートはどれも通常サイズだ |
右側面には、ヘッドフォン/マイク共用ジャックとSDカードスロットを用意。SDカードスロットはカバーで覆われている | 液晶面下部には、Windowsボタンがある |
液晶面には約100万画素のWebカメラを搭載。また、照度センサーも見える | 液晶背面には約300万画素のカメラを搭載。このカメラは、PC形状での利用を考慮し、やや下方斜め向きに取り付けられている | 液晶背面のカメラは、タブレット形状では収納されるが、わずかに上方にずらすことで利用可能となる |
付属のACアダプタは比較的コンパクトだ | ACアダプタの重量は、電源ケーブル込みで実測220gとまずまず軽量だ |
●独自アプリを豊富に用意
R822では、デスクトップモードだけでなく、Windows 8スタイルUI向けにも各種ソフトが各種標準搭載されている。
Windows 8スタイルUI向けの独自ソフトとして、写真の管理・閲覧用アプリ「思い出フォトビューア」が用意されている。これは、写真に記録されている日付などの情報をもとに、自動的に写真を整理して表示できるビューアだ。日付の新しい順に整理したり、カレンダー形式で年月日で整理して表示することも可能。11月中旬に予定されているアップデートで、写真のジオタグ情報を利用して地図上で管理することも可能となる予定だ。これ以外にも、SNSとの連携機能などが用意されている。初めて使う場合でも直感的に操作でき、写真を簡単に整理するツールとしてかなり活用できそうだ。
また、内蔵カメラを活用するアプリとして、「CyberLink YouCam for TOSHIBA」もプリインストール。内蔵カメラを利用した静止画や動画の撮影に加えて、標準で用意されているさまざまなエフェクトや、手書きで簡単に文字や絵を描き加えつつ撮影したり、撮影後に編集可能。加えて、Adobe Photoshop Elements 10とAdobe Premiere Elements 10も標準でプリインストールしており、写真や動画の活用も自在だ。
デスクトップモード用としては、特定のソフトを簡単に起動できる「デスクトップアプリメニュー」を用意。これは、スタートボタンがなくなったWindows 8で、簡単にソフトを起動できるように用意されたもので、いわゆるランチャーソフトだ。マルチメディアやユーティリティといったカテゴリーごとにアプリを分類表示するだけでなく、よく利用するソフトを自分でお気に入りに登録することも可能。そのため、デスクトップアプリメニューを活用すれば、Windows 8スタイルUIを経由せずとも目的のソフトを素早く起動できる。
市販モデルでは、さらにMicrosoft Office Home and Business 2010もプリインストール。ホビーからビジネスまで豊富なソフトがプリインストールされる点は、初心者から中級者にとっては嬉しい配慮と言える。ちなみに直販モデルでは、Officeの付属しないモデルも用意される。Officeが付属しない分価格も安価となっているので、Officeが不要なら直販モデルがおすすめだ。
●使い勝手重視のハイブリッド型PCとしておすすめ
R822は、Ultrabook準拠の製品ではあるが、タブレットとしてもノートPCとしても利用でき、しかも独特の変形方法によって、どちらの形状でも専用機に近い使い勝手を実現する点が大きな特徴だ。また、3パターンの形状で活用できるという点も他の製品にはなく、新しい製品を送り出そうという意欲が強く感じられる。やや重量が重く、バッテリ駆動時間が短いといった気になる部分もいくつかあるが、完成度はかなり高く、トータルでの魅力に優れる製品だ。Windows 8の登場に合わせてハイブリッド型のノートPCの購入を考えている人や、形状によらず優れた使い勝手を実現した製品を選択したい人におすすめしたい。
(2012年 10月 25日)
[Text by 平澤 寿康]