Hothotレビュー

大人気のCPUがさらにパワーアップ。「Ryzen 9 3900XT」を試す

 AMDは7月7日より、第3世代Ryzenの新モデル「Ryzen 3000XT」シリーズを投入する。日本国内では18日発売となっており、税別価格はRyzen 9 3900XTが59,800円、Ryzen 7 3800XTが46,800円、Ryzen 5 3600XTが29,200円だ。

 今回、発売に先立って同シリーズのCPU全モデルをテストする機会が得られたので、ベンチマークテストで新CPUの実力を探ってみた。

既存モデルから最大ブーストクロックが向上したRyzen 3000XT

 AMDのRyzen 3000XTシリーズは、既存の第3世代Ryzenと同じZen 2アーキテクチャをベースとしたCPUで、12コアのRyzen 9 3900XT、8コアのRyzen 7 3800XT、6コアのRyzen 5 3600XTの3モデルが用意されている。

 いずれのCPUも、末尾に「T」がつかない既存モデルの最大ブーストクロックを高めた高クロックモデルであり、動作クロック以外の基本的なスペックはTなしの既存モデルを踏襲している。

【表1】Ryzen 3000XTシリーズと既存モデルのおもな仕様
モデルナンバーRyzen 9 3900XTRyzen 9 3900XRyzen 7 3800XTRyzen 7 3800XRyzen 5 3600XTRyzen 5 3600X
CPUアーキテクチャZen 2Zen 2Zen 2
製造プロセス7nm CPU + 12nm I/O7nm CPU + 12nm I/O7nm CPU + 12nm I/O
コア数1286
スレッド数241612
L3キャッシュ64MB32MB32MB
ベースクロック3.8GHz3.9GHz3.8GHz
最大ブーストクロック4.7GHz4.6GHz4.7GHz4.5GHz4.5GHz4.4GHz
対応メモリDDR4-3200 (2ch)DDR4-3200 (2ch)DDR4-3200 (2ch)
PCI ExpressPCIe 4.0 x24PCIe 4.0 x24PCIe 4.0 x24
TDP105W105W95W
対応ソケットSocket AM4Socket AM4Socket AM4
Wraith Prism with RGB LEDWraith Prism with RGB LEDWraith SpireWraith Spire
価格499ドル399ドル249ドル

 既存のCPUを高クロック化したマイナーチェンジモデルであるRyzen 3000XTシリーズは、既存モデルと同等の販売価格が設定されており、CPU本体のスペックに対するコストパフォーマンスが向上している。

 ただし、Ryzen 5 3600XT以外の2モデルについては、製品パッケージからCPUクーラーが省略されており、ユーザーが別途CPUクーラーを用意する必要がある。

12コア24スレッドCPUの「Ryzen 9 3900XT」
Ryzen 9 3900XTの製品パッケージ。Ryzen 9 3900Xに付属したCPUクーラー「Wraith Prism」は省略されている
8コア16スレッドCPUの「Ryzen 7 3800XT」
Ryzen 7 3800XTの製品パッケージ。Ryzen 9 3900XT同様、CPUクーラーは付属しない
6コア12スレッドCPUの「Ryzen 5 3600XT」
Ryzen 5 3600XTの製品パッケージ。従来モデルと同じCPUクーラー「Wraith Spire」が付属する

B550チップセット搭載マザーボード「RACING B550GTQ」で新Ryzenをテスト

 今回は、BIOSTARより借用したSocket AM4対応マザーボード「RACING B550GTQ」で、Ryzen 3000XTシリーズをテストする。

BIOSTAR RACING B550GTQ
バックパネルI/O。バックパネルカバーはマザーボードに固定されている

 RACING B550GTQは、第3世代Ryzenが備えるPCI Express 4.0を利用可能なAMD B550チップセットを搭載したmicroATXマザーボード。BIOSTARのゲーミングブランド「RACING」に属する製品で、DrMOSを採用した合計10フェーズのVRMや、ヒートシンクつきM.2スロット×2本などを備える。

 黒とグレーで統一されたカラーリングや、マザーボード本体固定のバックパネルI/Oカバーを採用するなど、ハイエンドマザーボードのトレンドを取り入れており、ハイエンドCPUであるRyzen 9と組み合わせても見劣りしない、ハイスペックなmicroATXマザーボードだ。

10フェーズすべてにDrMOSを採用したVRM。CPU用の6フェーズにはヒートシンクを搭載している
PWMコントローラ「Renesas RAA220002」
CPUコア用6フェーズに採用されたDrMOS「ISL99390」
アンコア用の4フェーズに採用されたDrMOS「Renesas ISL99390B」
SSD冷却用ヒートシンクつきのM.2スロットを2基搭載。CPUソケット付近のスロットがCPU接続(PCIe 4.0 x4/SATA)で、下段はチップセット接続(PCIe 3.0 x4/SATA)
2本のM.2スロットはどちらもM.2 2280/2260/2242に対応しており、SSD用ヒートシンクは個別に取り外し可能

テスト機材

 今回の検証では、Ryzen 3000XTシリーズ最上位モデルRyzen 9 3900XTの比較用CPUとして、第3世代Ryzenの既存モデルである「Ryzen 9 3900X」と、同価格帯の競合製品であるCore i9-10900Kを用意した。

 各CPUの冷却は240mmラジエータ搭載一体型水冷「ASUS ROG RYUJIN 240」で行ない、メモリは各CPUの最大対応メモリクロックで動作させている。そのほかの機材については以下のとおり。

【表2】テスト機材一覧
CPURyzen 9 3900XTRyzen 9 3900XRyzen 7 3800XTRyzen 5 3600XTCore i9-10900K
コア数/スレッド数12/2412/248/166/1210/20
CPUパワーリミットPPT:142W、TDC:95A、EDC:140APPT:128W、TDC:80A、EDC:125APL1:125W、PL2:250W、Tau:56秒
CPUクーラーASUS ROG RYUJIN 240 (ファンスピード=100%)
マザーボードBIOSTAR RACING B550GTQ [UEFI:5.17]ASUS TUF GAMING Z490-PLUS (WI-FI) [UEFI:1001]
メモリDDR4-3200 16GB×2 (2ch、22-22-22-53、1.20V)DDR4-2933 16GB×2 (2ch、21-21-21-47、1.20V)
ビデオカードZOTAC GAMING GeForce RTX 2080 Ti AMP Extreme (GeForce RTX 2080 Ti 11GB)
システム用SSDCORSAIR MP600 1TB (NVMe SSD/PCIe 4.0 x4)CORSAIR MP600 1TB (NVMe SSD/PCIe 3.0 x4)
アプリケーション用SSDCORSAIR MP600 1TB (NVMe SSD/PCIe 3.0 x4)CORSAIR MP600 1TB (NVMe SSD/PCIe 3.0 x4)
電源CORSAIR RM850 CP-9020196-JP (850W/80PLUS Gold)
グラフィックスドライバGeForce Game Ready Driver 446.14 DCH (26.21.14.4614)
OSWindows 10 Pro 64bit (Ver 2004 / build 19041.329)
電源プランAMD Ryzen Balanced高パフォーマンス
室温約25℃
Ryzen 9 3900XのCPU-Z実行画面
Core i9-10900KのCPU-Z実行画面
GeForce RTX 2080Ti搭載ビデオカード「ZOTAC GAMING GeForce RTX 2080 Ti AMP Extreme」
ZOTAC GAMING GeForce RTX 2080 Ti AMP ExtremeのGPU-Z実行画面

ベンチマーク結果

 それでは、ベンチマークテストの結果を紹介しよう。

 今回実施したベンチマークテストは、「CINEBENCH R20(グラフ01)」、「CINEBENCH R15(グラフ02)」、「Blender Benchmark(グラフ03)」、「V-Ray Benchmark(グラフ04)」、「やねうら王(グラフ05)」、「HandBrake(グラフ06)」、「TMPGEnc Video Mastering Works 7(グラフ07~08)」、「PCMark 10(グラフ09)」、「SiSoftware Sandra(グラフ10~17)」、「3DMark(グラフ18~22)」、「VRMark(グラフ23~24)」、「ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク(グラフ25)」、「FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク(グラフ26)」、「Forza Horizon 4(グラフ27)」、「F1 2019(グラフ28)」、「フォートナイト(グラフ29)」、「レインボーシックス シージ(グラフ30)」、「モンスターハンターワールド : アイスボーン(グラフ31)」。

CINEBENCH

 CPUの3DCGレンダリング性能を測定するCINEBENCH。今回は最新版のCINEBENCH R20と、旧バージョンのCINEBENCH R15でテストを実行した。

 CINEBENCH R20のマルチスレッドテスト(All Core)でトップに立ったのはRyzen 9 3900XTで、2番手のRyzen 9 3900Xに約1%、3番手のCore i9-10900Kに約13%の差をつけている。

 Ryzen 9 3900XTは、シングルスレッドテスト(Single Core)でも2番手のCore i9-10900Kをわずかに上回ってトップスコアを記録。既存モデルのRyzen 9 3900Xに約3%の差をつけており、最大ブーストクロック上昇の恩恵がスコアに反映された格好だ。

 CINEBENCH R15でも、マルチスレッドテストのトップスコアはRyzen 9 3900XTだが、シングルスレッドテストではCore i9-10900Kが5%差でRyzen 9 3900XTを逆転している。

【グラフ01】CINEBENCH R20
【グラフ02】CINEBENCH R15

Blender Benchmark

 続いて、3DCGソフト「Blender」のオフィシャルベンチマークソフト「Blender Benchmark」の結果を紹介する。

 最速を記録したのはRyzen 9 3900XTだが、常にCPU負荷が100%で推移する処理であるため、同じパワーリミットが設定されているRyzen 9 3900Xとの差は1%未満となっている。一方、3番手のCore i9-10900Kとの差は18~32%で、マルチスレッド性能についてはライバルを圧倒していることがわかる。

【グラフ03】Blender Benchmark

V-Ray Benchmark

 レンダリングエンジンV-Rayのオフィシャルベンチマークソフト「V-Ray Benchmark」では、CPUを使用する「V-RAY」の実行結果を取得した。

 ここでもトップスコアを獲得したのはRyzen 9 3900XTで、2番手のRyzen 9 3900Xに約1%、3番手のCore i9-10900Kに約13%の差をつけた。

 V-RAYの実行時間は1分間で固定であるため、250Wの電力消費を56秒間許容されているCore i9-10900Kは、その大部分を全コア稼働時の最大ブーストクロックである4.9GHzで動作している。結果としてBlender Benchmarkより差が縮んでいるものの、その程度では逆転し得ないほどにRyzen 9 3900XTのマルチスレッド性能のアドバンテージは大きい。

【グラフ04】V-Ray Benchmark v4.10.07 「V-RAY (CPU)」

将棋ソフト「やねうら王」

 将棋ソフトの「やねうら王」では、KPPT型とNNUE型の評価関数でそれぞれベンチマークコマンドを実行した。ベンチマークコマンド中の「nT」は、各CPUのスレッド数を入力している。

 マルチスレッドテストでは、Ryzen 9 3900XTがトップスコアを記録。2番手のRyzen 9 3900Xとの差は1%未満と僅差だが、3番手のCore i9-10900Kには2~10%の差をつけている。

 一方、シングルスレッドテストにおけるRyzen 9 3900XTは、Ryzen 9 3900Xに3~4%の差をつけて高クロック化のメリットを示す一方、トップスコアを記録したCore i9-10900Kには29~37%の差をつけられている。この差が将棋ソフトの実践で役立つというわけではないが、実行する処理によってはこのような差がつく場合もあるということだ。

【グラフ05】やねうら王 v4.91

動画エンコードソフト「HandBrake」

 オープンソースの動画エンコードソフト「HandBrake」では、フルHD(1080p)と4K(2160p)の動画ソースをYouTube向けプリセットでエンコードするのに掛かった時間を測定した。

 最速はRyzen 9 3900XTで、1秒差の2番手にRyzen 9 3900X、3番手のCore i9-10900Kには16~19%の差をつけている。

【グラフ06】HandBrake v1.3.3

動画エンコードソフト「TMPGEnc Video Mastering Works 7」

 動画エンコードソフトのTMPGEnc Video Mastering Works 7では、フルHD(1080p)と4K(2160p)のソース動画をH.264形式とH.265形式に変換するのに掛かった時間を測定した。

 結果をみてみると、x264とx265の両方で、1080p→1080p変換でCore i9-10900Kが最速を記録している。これは、Ryzen 9 3900XTで同処理を実行したさいのCPU使用率が60~70%程度で12コア24スレッドをフル活用できていないことと、処理全体に占めるCore i9-10900KのPL2動作時間が大きいためだ。

 4KソースのエンコードではRyzen 9 3900XTのCPU使用率もほぼ100%に達し、処理時間もより長くなるため、Core i9-10900Kを逆転してRyzen 9 3900XTが最速を記録。x264では14~34%、x265では5~19%の差をつけている。

【グラフ07】TMPGEnc Video Mastering Works 7 v7.0.15.17「H.264形式へのエンコード」
【グラフ08】TMPGEnc Video Mastering Works 7 v7.0.15.17「H.265形式へのエンコード」

PCMark 10

 PCMark 10では、もっともテスト項目が多い「PCMark 10 Extended」のスコアを比較した。

 総合スコアでトップに立ったのはCore i9-10900Kで、Ryzen 9 3900XTは2番手、3番手にはRyzen 7 3800XTが入った。

 Ryzen 7 3800XTは、アプリの起動時間やWebブラウジング性能を測定する「Essentials」や、オフィスアプリの性能を測定する「Productivity」といった、シングルスレッド性能が効くテストで優れたスコアを残したことでRyzen 9 3900Xを上回ったようだ。

 なお、これらのテストではRyzen 5 3600XTも良いスコアを記録しているのだが、マルチスレッド性能が効いている「Digital Content Creation」や「Gaming」での差が大きいため、総合スコアでは最下位となっている。

【グラフ09】PCMark 10 Extended (v2.1.2177)

SiSoftware Sandra 20/20「CPUベンチマーク」

 SiSoftware Sandra 20/20のCPUテストから、「Arithmetic」、「Multi-Media」、「Image Processing」の実行結果を紹介する。

 CPUの演算性能を測定するArithmeticでは、Integer以外の3項目でRyzen 9 3900XTがトップスコアを記録しており、2番手のRyzen 9 3900Xに1~2%、3番手のCore i9-10900Kに9~14%の差をつけている。なお、IntegerのトップスコアはCore i9-10900Kだが、この結果は同CPUがPL2で動作可能な最初のテストであることが影響している。

 CPUのマルチメディア性能を測定するMulti-Mediaでは、Ryzen 9 3900XTとRyzen 9 3900Xがトップで並ぶかたちとなっており、3番手のCore i9-10900Kに整数演算で2~26%、浮動小数点演算で13~29%の差をつけている。

 画像処理性能を測定するImage Processingでは、実行する処理によって各CPUの有利不利が入れ替わっており、マルチスレッド性能が効いているエッジ検出(Edge Detection)やノイズリダクションではRyzen 9 3900XTが強さを見せる一方、Core i9-10900Kが圧倒的なスコアを記録したディフュージョン(Diffusion)では、Ryzen 9 3900XTとRyzen 9 3900Xがそろってスコアを伸ばせず、Ryzen 5 3600XTを下回る結果となっている。

【グラフ10】SiSoftware Sandra v30.41 「Processor Arithmetic (プロセッサの性能)」
【グラフ11】SiSoftware Sandra v30.41 「Processor Multi-Media (マルチメディア処理)」
【グラフ12】SiSoftware Sandra v30.41 「Processor Image Processing (画像処理)」

SiSoftware Sandra 20/20「メモリベンチマーク」

 メモリ帯域幅を測定するMemory Bandwidthでは、DDR4-3200メモリに対応した第3世代Ryzenのうち、2つのCPUダイ(CCD)を備えるRyzen 9 3900XTとRyzen 9 3900Xが約39GB/s、1つのCCDを備えるRyzen 7 3800XTとRyzen 5 3600XTが約36~37GB/sを記録。いずれもDDR4-2933メモリに対応したCore i9-10900Kの30.69GB/sを上回っている。

 Cache & Memory Latencyで測定したメモリレイテンシは、Core i9-10900Kが記録した31.3nsが最短で、第3世代Ryzenはいずれも45ns台となっている。メモリアクセス時のレイテンシに関してはかなり大きな差があることがわかる結果だ。

【グラフ13】SiSoftware Sandra v30.41 「Memory Bandwidth」
【グラフ14】SiSoftware Sandra v30.41 「Cache & Memory Latency (メモリレイテンシ)」

SiSoftware Sandra 20/20「キャッシュベンチマーク」

 CPUが備えるキャッシュの性能を測定できる「Cache & Memory Latency」と「Cache Bandwidth」の結果をグラフ化した。

 Cache Bandwidthの結果はキャッシュの容量やCPUの動作クロックによって差がついているが、レイテンシは既存モデルのRyzen 9 3900Xを含め、とくに大きな差がみられない結果となっている。Ryzen 3000XTシリーズでも第3世代Ryzenの内部構造に特別な変更がないことがうかがえる結果だ。

【グラフ15】SiSoftware Sandra v30.41 「Cache & Memory Latency (レイテンシ)」
【グラフ16】SiSoftware Sandra v30.41 「Cache & Memory Latency (クロック)」
【グラフ17】SiSoftware Sandra v30.41 「Cache Bandwidth」

3DMark

 3DMarkでは、「Time Spy」、「Fire Strike」、「Night Raid」、「Sky Diver」、「Port Royal」の5テストを実行した。

 リアルタイムレイトレーシング性能を測定するPort RoyalでRyzen 9 3900XTがトップスコアを獲得しているが、そのほかの4テストの総合スコアはいずれもCore i9-10900Kがトップスコアを獲得している。

 もっとも、Core i9-10900Kが突出した結果を記録したのは、Ryzen 9 3900XTに17%差をつけたNight Raidのみで、ほかのテストにおけるCore i9-10900KとRyzen 9 3900XTの差は1~2%差となっている。

【グラフ18】3DMark v2.12.6949「Time Spy」
【グラフ19】3DMark v2.12.6949「Fire Strike」
【グラフ20】3DMark v2.12.6949「Night Raid」
【グラフ21】3DMark v2.12.6949「Sky Diver」
【グラフ22】3DMark v2.12.6949「Port Royal」

VRMark

 VRMarkでは、「Orange Room」、「Cyan Room」、「Blue Room」の3テストを実行した。

 もっともGPU負荷の低いOrange Roomでは、比較製品のなかで唯一300fps以上を記録したCore i9-10900Kがトップスコアを獲得しており、Ryzen 9 3900XTはRyzen 9 3900Xと僅差の3番手となっている。

 DirectX 12を用いるCyan RoomでもトップはCore i9-10900Kで、2番手にはRyzen 7 3800XT、3番手にはRyzen 9 3900XとRyzen 9 3900XTが僅差で並んでいる。コア数よりもクロック当たりの性能が効く場面において、6コアを有効化したCPUダイ2基で12コアを実現するRyzen 9 3900XTと、8コアを1つのCPUダイで実現するRyzen 7 3800XTの内部構造の違いが結果に影響したのかもしれない。

 もっとも高負荷なBlue Roomでは、すべてのCPUのスコアがほぼ横並びとなっており、有意な差はみられない。

【グラフ23】VRMark v1.3.2020「スコア」
【グラフ24】VRMark v1.3.2020「平均フレームレート」

ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク

 ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマークでは、描画品質を「最高品質」に設定し、フルHDから4Kまでの画面解像度でテストを実行した。

 ここでトップスコアを記録したのはCore i9-10900Kで、CPU性能差がスコアに大きく反映されているWQHD以下の画面解像度では、第3世代Ryzenに1割以上という明確な差をつけている。

 WQHD解像度以下の条件で第3世代Ryzenのトップに立ったのはRyzen 7 3800XTで、Ryzen 5 3600XT、Ryzen 9 3900X、Ryzen 9 3900XTの順となっている。Ryzen 9 3900XTとRyzen 9 3900Xの差は1%未満だが、Ryzen 5 3600XTとの間には2~3%ほどの差がついており、CPUダイ1基のRyzenがやや優位な傾向がみられる。

【グラフ25】ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク

FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク

 FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマークでは、描画品質を「高品質」に設定し、フルHDから4Kまでの画面解像度でテストを実行した。

 こちらでは、ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマークほど大きな差ではないものの、WQHD以下の画面解像度でCore i9-10900Kがトップスコアを記録しており、Ryzen 9 3900XTに約3~4%の差をつけている。

【グラフ26】FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク v1.2

Forza Horizon 4

 DirectX 12専用のオープンワールドレーシング「Forza Horizon 4」ではベンチマークモードを利用して、描画設定「ウルトラ」でフルHDから4Kまでの画面解像度をテストしたほか、高fps設定としてフルHD解像度で描画設定「ミディアム」の結果も測定した。

 ほとんどのCPUが横並びの結果となった4K解像度の結果を除くと、Core i9-10900KがRyzen 9 3900XTに5~9%の差をつけてトップに立った。第3世代Ryzen同士を比較してみると、Ryzen 5 3600XTがフルHD解像度や高fps設定でやや遅れをとっていることを除いて、ほぼ横並びと言える結果となっている。

【グラフ27】Forza Horizon 4 (v1.423.6.2)

F1 2019

 F1 2019ではベンチマークモードを利用して、描画設定「超高」でフルHDから4Kまでの画面解像度をテストしたほか、高fps設定としてフルHD解像度で描画設定「ミディアム」の結果も測定した。なお、グラフィックスAPIはDirectX 12を利用している。

 WQHD解像度以上のフレームレートは全CPUがほぼ横並びとなっているが、フルHD解像度ではCore i9-10900KがRyzen 9 3900XTに9%の差をつけて飛び出し、高fps設定ではその差を25%にまで拡大して比較製品のなかで唯一300fps超えを達成している。

 Ryzen同士の比較では、コア数の少ないRyzen 5 3600XTがやや遅れをとる一方、Ryzen 9 3900XTとRyzen 7 3800XTがわずかに高いフレームレートを記録している。

【グラフ28】F1 2019 (v1.22)

フォートナイト

 バトルロイヤルTPSの「フォートナイト」では、描画設定「最高」でフルHDから4Kまでの画面解像度をテストしたほか、高fps設定としてフルHD解像度で描画設定「中」の結果を測定した。なお、グラフィックスAPIはDirectX 11を利用し、3D解像度は常に100%に設定している。

 ここでもトップに立ったのはCore i9-10900Kで、ほぼ横並びの結果となった4K解像度未満の設定ではRyzen 9 3900XTに対し、WQHD解像度で約6%、フルHD解像度で約8%、高fps設定では約17%の差をつけている。

 第3世代Ryzen同士の比較では、フルHD解像度と高fps設定でRyzen 9 3900XTとRyzen 7 3800XTが、Ryzen 9 3900Xに2~3%の差をつけて抜け出す一方で、Ryzen 5 3600XTはやや遅れをとっており、Ryzen 9 3900XTとの間には4~8%の差がついている。

【グラフ29】フォートナイト (v13.00)

レインボーシックス シージ

 レインボーシックス シージではベンチマークモードを使って、描画設定「最高」でフルHDから4Kまでの画面解像度をテストしたほか、高fps設定としてフルHD解像度で描画設定「中」の結果も取得した。なお、レンダリングのスケールは常に100%に設定している。

 フレームレートが200fpsを超えるWQHD解像度以下では、Core i9-10900KがほかのCPUに明確な差をつけてトップに立っており、Ryzen 9 3900XTにはWQHD解像度で約6%、フルHD解像度と高fps設定で約11%の差をつけている。

 第3世代Ryzenはほとんどの条件でほぼ横並びの結果となっているが、高fps設定では、Ryzen 9 3900XTとRyzen 9 3900Xがほかの2モデルに約3%の差をつけている。

【グラフ30】レインボーシックス シージ (Build 520029)

モンスターハンターワールド : アイスボーン

 モンスターハンターワールド : アイスボーンでは、描画設定「最高」でフルHDから4Kまでの画面解像度をテストした。なお、グラフィックスAPIはDirectX 12を利用している。

 このタイトルでは各CPUのフレームレートは接近しており、WQHD解像度以上ではRyzen 9 3900XTがやや高いフレームレートを記録しているものの、ほぼ横並びと言えるフレームレートとなっている。フルHD解像度ではCore i9-10900KがRyzen 9 3900XTを約4%上回っているが、バトルロイヤルやFPSのように高フレームレートが重要なゲームでなければ、Core i9-10900Kと第3世代Ryzenの間にそれほど大きな差が生じるわけではない。

【グラフ31】モンスターハンターワールド : アイスボーン (v13.50.01)

消費電力とCPU温度

 システム全体の消費電力をワットチェッカーで測定した結果を紹介する。測定したのはベンチマーク中のピーク消費電力とアイドル時消費電力で、CPUベンチマークと3Dベンチマークの結果を分けてグラフ化している。

 アイドル時消費電力は44Wを記録したCore i9-10900Kがもっとも低く、第3世代Ryzenは57~59Wの範囲で横並びとなっている。

 CINEBENCH R20のSingle Coreでは、94Wを記録したRyzen 9 3900XTが比較製品のなかで最大の消費電力を記録した。この数値はRyzen 9 3900Xより4W高いもので、最大ブーストクロックを高めたCPUとしては理に適う結果だが、CPUの個体差レベルの差とも言える程度の小さな差にとどまっている。

 CPUが備えるすべてのコアとスレッドを活用するベンチマークテストでは、いずれもCore i9-10900Kが飛びぬけて高い消費電力を記録している。これは56秒間にわたって250Wの電力消費を許容するPL2でのブースト動作中、電力リミットの基準値で190~210W前後を消費しているさいに記録された数値だ。

 一方、電力リミットの「PPT」によりCPUの消費電力が142Wで制限されるRyzen 9 3900XTとRyzen 9 3900Xはどちらも220W前後の消費電力となっている。Ryzen 7 3800XTもPPTは142Wだが、Ryzen 9より20~30Wほど低く、Ryzen 5 3600XTはさらに20W以上低い数値を記録している。

【グラフ32】システムの消費電力 (CPUベンチマーク)

 3Dベンチマークでは、Ryzen 9 3900XTまたはRyzen 9 3900Xが5テストのうち4つで最大の消費電力を記録している。全コアを活用するCPUベンチマークで突出して高い消費電力を記録していたCore i9-10900Kが最大値を記録したのは、ほかのCPUが明らかにGPU性能を引き出せていなかったVRMarkのOrange Roomのみだ。

 CPU使用率が100%に達するような状況では電力効率の高さが光る第3世代Ryzenだが、ゲームのような中程度のCPU負荷となるシチュエーションでは、Core i9-10900Kが逆転することもあるようだ。

【グラフ33】システムの消費電力 (3Dベンチマーク)

 続いて、CPU高負荷テスト実行中に取得したモニタリングデータを結果を紹介する。

 負荷テストに用いたのはTMPGEnc Video Mastering Works 7のx264エンコードで、2160p→2160p変換を約10分間連続で実行。CPU温度を含むモニタリングデータは「HWiNFO v6.26」で取得した。テスト時の室温は約25℃。

 各CPUのモニタリングデータから、ファンコントロールに用いられるCPU温度(Tctl)について、最大値と最低値に加え、CPU使用率40%以上で動作中の平均CPU温度をまとめたものが以下のグラフだ。

 各CPUのCPU温度は、Ryzen 9 3900XTは平均68.7℃でピーク値が70.6℃、Ryzen 7 3800XTは平均75.8℃でピーク値が77.3℃、Ryzen 5 3600XTは平均69.3℃でピーク値が70.5℃だった。

【グラフ34】CPU温度 「HWiNFO v6.26 (Tctl)」

 各CPUのモニタリングデータを元に、CPU温度や動作クロック、消費電力の変化をCPU毎にまとめたグラフを確認する。

 ベンチマーク実行中のRyzen 9 3900XTは、PPTのリミット値となる142Wに張りついた状態で動作しており、CPUクロックは約4.0GHzで推移している。Ryzen 7 3800XTの消費電力は125W前後で、CPUクロックは約4.25GHz。Ryzen 5 3600XTは約105Wの消費電力で約4.3GHz動作だった。

 もっとも消費電力の大きいRyzen 9 3900XTが、より低消費電力なRyzen 7 3800XTよりCPU温度が低いのは、142Wで2基のCPUダイが稼働するRyzen 9 3900XTと、約125Wで1基のCPUダイが稼働するRyzen 7 3800XTでは、後者のほうがCPUダイあたりの消費電力≒発熱量が大きいことが影響している。

【グラフ35】Ryzen 9 3900XTのモニタリングデータ
【グラフ36】Ryzen 7 3800XTのモニタリングデータ
【グラフ37】Ryzen 5 3600XTのモニタリングデータ

これから第3世代Ryzenを買うユーザーのためのマイナーチェンジモデル

 Ryzen 3000XTシリーズは、既存の第3世代Ryzenの最大ブーストクロックを100~200MHz引き上げたマイナーチェンジモデルだ。今回比較したRyzen 9 3900XTとRyzen 9 3900Xのスペック上のクロック差は100MHzであり、ベンチマーク結果はそれ相応といったものとなった。

 すでに「T」なしの既存モデルを所有しているユーザーが乗り換えるほどの違いはないが、ライバルの第10世代Coreプロセッサが得意とするゲームなどで若干の性能向上がみられることから、これから第3世代Ryzenの購入を検討するユーザーにとっては有力な選択肢となる。

 もっとも、Ryzen 3000XTにとってのライバルは、Intelの第10世代Coreプロセッサより、しばらくの間併売されるであろう既存モデルだろう。発売時の価格からそれなりに値下げされ、上位モデルでも純正クーラーが付属する既存モデルに対して、Ryzen 3000XTが競争力のある価格で投入されることに期待したい。

【7月8日修正】記事初出時、グラフ内のCPU名に誤りがございましたので、訂正しました。