Hothotレビュー
有機ELディスプレイを搭載した2in1「ThinkPad X1 Yoga OLED」の実力を探る
2016年8月1日 06:00
レノボ・ジャパンから登場した「ThinkPad X1 Yoga」は、Yogaスタイルとも呼ばれる、360度回転ヒンジを備えた2in1 PCである。ThinkPad X1 Yogaの通常モデルは、2016年2月に発売されており、レビュー記事も掲載されているが、ディスプレイに液晶ではなく、有機EL(OLED)を搭載したモデルが2016年夏に追加されることが表明されていた。
今回は、その有機EL搭載モデル(ここでは「ThinkPad X1 Yoga OLED」と呼ぶ)を試用する機会を得たので、早速レビューしていきたい。なお、ThinkPad X1 Yoga OLEDは、笠原氏によるレビューも掲載されているので、そちらも合わせてご覧頂きたい。
液晶モデルに比べて90g軽量化
ThinkPad X1 Yoga OLEDは、液晶のヒンジが2軸になっており、液晶を360度回転できることが特徴だ。本体サイズは、333×229×15.5~17mm(幅×奥行き×高さ)、重量は約1.27kgであり、14型2in1としてかなりスリムである。液晶モデルの本体サイズは、333×229×15.3~16.8mm(幅×奥行き×高さ)、重量は1.36kgであり、厚さはOLEDモデルのほうがわずかに厚いが、重量は90gほど軽くなっている。重さの違いはわずかであり、持ち比べて差が分かるほどではないが、軽くなっていることは評価できる。
ThinkPad X1 Yogaは液晶が360度回転するため、通常のノートPCとして利用する「ラップトップモード」と、液晶を360度回転させて使う「タブレットモード」以外に、液晶を反対側まで回転させて、山形の状態でヒンジを上にして置く「テントモード」や液晶を反対側まで回転させてキーボード面を下にして置く「スタンドモード」での利用も可能だ。
第6世代Core i5とPCI Express/NVMe対応高速SSDを搭載
ThinkPad X1 Yogaは、もともとThinkPadシリーズの中でもフラッグシップモデルとして位置付けられている製品であり、PCとしての基本性能も高い。今回試用したThnkPad X1 Yoga OLEDは、CPUとして第6世代のCore i5-6200U(2.3GHz)を搭載し、メモリは8GBを実装。また、ストレージとしては高速なPCI Express/NVMe対応の256GB SSDを搭載している。
キーボードは、6列配列のアイソレーションキーボードで、キーピッチは19mm、キーストロークは1.8mmと余裕がある。キー配列も標準的で、打鍵感も良好だ。また、このキーボードには、「Lift'n' Lock」と呼ばれる独自の機構が搭載されており、液晶を360度回転させてタブレットモードにすると、キートップが沈んで周りと同じ高さになり、ロックされて押せなくなる。Yogaスタイルの2in1 PCでは、タブレットモード時に底面にキーボードが剥き出しになるので、持ったときに気になるという人も多いが、Lift'n' Lockを搭載したThinkPad X1 Yogaならそうした心配はない。
ポインティングデバイスとしては、ThinkPadクリックパッドが搭載されている。パッドタイプのデバイスとスティックタイプのTrackPointから構成されており、自分が使いやすいデバイスを使えることが利点だ。キーボード、ポインティングデバイスともに完成度は高く、使いやすい。また、パームレスト右側にタッチ式の指紋センサーを搭載。指先を軽く当てるだけで指紋認証が可能で、誤認識も少ない。
色空間が広く漆黒を表現できる有機ELディスプレイ
ThinkPad X1 Yoga OLEDの最大のウリが、14型2,560×1,440ドットの有機EL(OLED)ディスプレイを採用していることだ。有機ELは、バックライトの光を利用する液晶と異なり、素子1つ1つが発光する自発光デバイスであり、液晶に比べて応答速度が格段に高速で、視野角が広いことが利点だ。
その反面、焼き付きが起きやすいことや液晶に比べて製造コストが高いといった弱点もあり、スマートフォンやタブレットでは一部の製品で採用されているが、14型クラスのノートPCで有機ELディスプレイを採用した製品というのは非常に珍しい。ここでは、通常の液晶(解像度は1,920×1,080ドット)搭載のThinkPad X1 Yogaを用意して、表示品位などを比較してみることにした。
まずは、黒の表現を比較してみた。前述したとおり、有機ELは自発光であり、完全な黒(発光オフ)を表現できるのだが、液晶はバックライトの光を液晶がシャッターとなり遮る仕組みなので、輝度を上げると、データ上は漆黒(RGB全てが0)でも、光が漏れてくる。一般に黒浮きなどと呼ばれる現象であり、液晶TVやディスプレイによってはバックライトの輝度を画像にあわせて動的に変更したり、一部だけバックライトを消すといった制御を行なうことで、黒浮きを抑えているものがあるが、ノートPCではそうした制御は行なわれていない。
Windowsの背景を黒にした状態で輝度を最大にして、液晶モデルとOLEDモデルを並べたところ、部屋が明るい状態では差はあまり分からなかったが、部屋を暗くすると、液晶モデルの背景が淡く光っており、黒浮きが認められた。しかし、OLEDモデルは一切黒浮きが生じていない。輝度を最小にすると、液晶モデルも黒浮きは認められなくなるが、アイコンなどの表示自体もかなり暗くなってしまい、実用的とは言えなくなる。OLEDモデルは輝度最小でも、アイコンや文字などは暗い部屋なら十分視認できる明るさであった。
次に、白の色温度と輝度を比較してみた。OLEDモデルは、色温度の変更が可能だが(詳しくは後述)、ここではデフォルト状態で比較した。写真を見れば分かるように、液晶モデルのほうが色温度が高く、青白かった。輝度については、肉眼ではあまり差は感じられなかったが、デジカメの露出で比較したところ、OLEDの方がやや輝度が高かった。
IPS液晶では潰れてしまう微妙な色の違いもはっきり分かる
今度は、色の表現力の違いを比べてみた。下の写真の黄色い線で囲ったところを比較すると、鳥居の柱の根本の濃い朱色が、OLEDモデルでは表現できているのに対し、液晶モデルでは黒く潰れてしまっており、分かりにくい。また、着物の色などもOLEDモデルのほうがより鮮やかに表示されている。OLEDモデルの表示可能な色空間は、液晶モデルよりも広いことがよく分かる。
視野角も広いがIPS液晶も十分に広い
最後に、視野角を比較してみた。光の偏光を利用してスイッチングを行なうため、斜めから見ると色が変わる液晶と異なり、OLEDはどこから見ても原理的に色が変わることがないので、視野角についても有利だ。
そこで、OLEDモデルと液晶モデルで同じ画像を表示させ、正面から見た場合と斜めから見た場合を比較したが、ThinkPad X1 Yogaの液晶モデルでは、視野角が広く、斜めから見ても色の変移が少ないIPS液晶を採用しているため、斜めから見ても、あまり違いは分からなかった。もちろん、OLEDは斜めから見ても、色の変移はなかった。
インターフェイスも充実、筆圧検知対応ペンが付属
インターフェイスは、液晶搭載モデルと同じく、USB 3.0×3、Mini DisplayPort、HDMI出力、ヘッドフォン端子のほか、独自ポートのOne Link+を搭載する。One Link+に、オプションの「ThinkPad One Linkドック」を接続することで、インターフェイスの拡張が可能だ。
カードスロットとしてはmicroSDカードスロットを搭載。ワイヤレス機能としては、IEEE 802.11ac準拠の無線LANとBluetooth 4.1を搭載する。さらに、ジャイロセンサー、デジタルコンパス、光センサー、加速度センサー、近接センサーも搭載する。カードスロットが標準サイズのSDカードに対応していないことが残念だが、それ以外の不満はない。また、OLEDディスプレイの上部には、720pのWebカメラが搭載されており、ビデオチャットなどに利用できる。
また、「ThinkPad Pen Pro-3」と呼ばれるペンを搭載していることも特徴だ。このペンは、本体右側面に収納できるので、紛失する心配はない。充電式バッテリを内蔵しており、本体に挿入すると自動的に充電が行なわれる。15秒間で80%の充電が可能で、5分以内にフル充電が完了。フル充電なら19時間の利用が可能だ。2,048段階の筆圧検知に対応するほか、2つのボタンを備えており、消しゴムなどの機能を割り当てられる。ペンの精度や応答も優秀であり、快適に手書きメモなどが行なえる。
OLEDモデルならではの設定機能を搭載
ThinkPad X1 Yoga OLEDでは、独自の設定ユーティリティ「Lenovo Setting」に有機ELディスプレイ設定という項目が用意されており、ディスプレイモードや電源設定の変更が可能である。ディスプレイモードは、「ネイティブ」、「標準」、「フォト・プロ」、「ムービー・プロ」、「オフィス用ブルーライト・カット」、「読書用ブルーライト・カット」、「カスタム」が用意されており、用途に応じて最適な設定を選べる。
カスタムでは、色空間とガンマ、ホワイトポイント(色温度)を設定できる。通常のノートPCの色空間はsRGBだが、ThinkPad X1 Yoga OLEDでは、sRGBよりも広いAdobe RGBやDCI-P3といった色空間を選択できるので、DTPや動画編集のプロユースにも対応できる。
また、自発光デバイスであるOLEDディスプレイの特性を活かして、バックグラウンドのウィンドウやタスクバーのみを暗くすることで、消費電力を抑えることも可能だ。暗くなるまでの時間は、有機EL電源設定から行なえる。
バッテリ駆動時間も実測で9時間を超える
ThinkPad X1 Yoga OLEDの公称バッテリ駆動時間は約13.4時間とされており、液晶搭載のThinkPad X1 Yogaの約9.2時間または9.8時間(構成によって異なる)よりも長い。そこで、実際にバッテリベンチマークソフトの「BBench」(海人氏作)を利用し、1分ごとに無線LAN経由でのWebアクセス、10秒ごとにキー入力を行なう設定でバッテリ駆動時間を計測したところ(電源プランは「バランス」、液晶輝度は「中」)、9時間24分という結果になった。同じ条件で、液晶モデル(Core i7-6500U、2,560×1,440ドット液晶)で計測した際は、10時間22分だったので、液晶モデルには及ばなかったが、無線LANを常時有効で9時間を超える駆動時間を実現したことは評価できる。
なお、今回の計測では、バックグラウンドやタスクバーの明るさを下げるOLEDの省電力設定は行なっていないので、OLEDの省電力設定を有効にすれば、さらに駆動時間は延びるだろう。ACアダプタもコンパクトで軽く、携帯性は優れている。
PCMark 8ではCore i7搭載機とほぼ互角の性能を実現
参考のためにベンチマークテストを行なってみた。利用したベンチマークソフトは、「PCMark 8」、「ドラゴンクエストX ベンチマークソフト Ver.1.4K」、「ファイナルファンタジー XIV 蒼天のイシュガルドベンチマーク」、「CrystalDiskMark 3.0.3b」、「CrystalDiskMark 5.1.2」である。比較用として、レノボ・ジャパン「ThinkPad X1 Yoga」(Core i7-6500U、2,560×1,440ドット液晶)、レノボ・ジャパン「Lenovo YOGA 900S」、日本マイクロソフト「Surface Book」の値も掲載した。
結果は下の表に示した通りで、PCMark 8のスコアは、上位のCore i7を搭載したThinkPad X1 Yogaとほぼ互角であり、Core i7とGeForceを搭載したSurface Bookと比べても上回っている。グラフィック性能が大きく影響するドラゴンクエストXベンチマークソフトでは、さすがにCore i7搭載機が上回っているが、その差は2割にも満たず、ファイナルファンタジーXIVベンチマークではさらにその差は縮まっている。Core i5搭載ながら、Core i7搭載機に迫るスコアを出しており、比較的重い作業でも快適にこなせるだけのパフォーマンスを持っていると言えるだろう。
Lenovo X1 Yoga OLEDのベンチマーク結果 | ThinkPad X1 Yoga OLED | ThinkPad X1 Yoga | Lenovo YOGA 900S | Surface Book(キーボード装着時) |
---|---|---|---|---|
CPU | Core i5-6200U(2.3GHz) | Core i7-6500U(2.5GHz) | Core m5-6Y54(1.1GHz) | Core i7-6600U(2.6GHz) |
GPU | Intel HD Graphics 520 | Intel HD Graphics 520 | Intel HD Grapics 515 | GeForce |
PCMark 8 | ||||
Home conventional | 2611 | 2590 | 2165 | 2481 |
Home accelerated | 3299 | 3167 | 2836 | 2908 |
Creative conventional | 2579 | 2694 | 2081 | 2666 |
Creative accelerated | 4036 | 4036 | 3242 | 3753 |
Work conventional | 2842 | 2794 | 2689 | 2719 |
Work accelerated | 4058 | 3995 | 3952 | 3793 |
ドラゴンクエストX ベンチマークソフト Ver.1.4K | ||||
1280×720ドット 最高品質 | 6024 | 7048 | 3510 | 11424 |
1280×720ドット 標準品質 | 7062 | 8339 | 4491 | 12913 |
1280×720ドット 低品質 | 8099 | 9644 | 4649 | 15010 |
1920×1080ドット 最高品質 | 3528 | 3822 | 1757 | 6409 |
1920×1080ドット 標準品質 | 4263 | 4950 | 2682 | 7777 |
1920×1080ドット 低品質 | 5273 | 5979 | 2800 | 9053 |
ファイナルファンタジーXIV 蒼天のイシュガルドベンチマーク | ||||
1280×720ドット 最高品質 | 1714 | 1812 | 967 | 3746 |
1280×720ドット 最高品質(Direct X9相当) | 2203 | 2326 | 1260 | 4727 |
1280×720ドット 高品質(デスクトップPC) | 1903 | 1976 | 1154 | 4229 |
1280×720ドット 高品質(ノートPC) | 2322 | 2416 | 1224 | 5407 |
1280×720ドット 標準品質(デスクトップPC) | 3325 | 3449 | 1792 | 7785 |
1280×720ドット 標準品質(ノートPC) | 3334 | 3462 | 1825 | 7779 |
CrystalDiskMark 3.0.3b | ||||
シーケンシャルリード | 1,644MB/s | 1,848MB/s | 1,262MB/s | 954.8MB/s |
シーケンシャルライト | 1,264MB/s | 1,535MB/s | 305.4MB/s | 598.8MB/s |
512Kランダムリード | 1,233MB/s | 1,350MB/s | 622.5MB/s | 535.5MB/s |
512Kランダムライト | 1,255MB/s | 1,517MB/s | 305.2MB/s | 598.5MB/s |
4Kランダムリード | 50.47MB/s | 50.39MB/s | 39.89MB/s | 42.93MB/s |
4Kランダムライト | 134.7MB/s | 133.1MB/s | 110.8MB/s | 115.8MB/s |
4K QD32ランダムリード | 517.3MB/s | 490.6MB/s | 248.4MB/s | 612.7MB/s |
4K QD32ランダムライト | 390.7MB/s | 400.6MB/s | 286.7MB/s | 511.8MB/s |
CrystalDiskMark 5.1.2 | ||||
シーケンシャルリードQ32T1 | 2,202MB/s | 2,519MB/s | 1,569MB/s | 1632MB/s |
シーケンシャルライトQ32T1 | 1,270MB/s | 1,542MB/s | 309.2MB/s | 602.7MB/s |
4KランダムリードQ32T1 | 470.9MB/s | 500.3MB/s | 241.6MB/s | 605.2MB/s |
4KランダムライトQ32T1 | 375.1MB/s | 248.1MB/s | 301.1MB/s | 516.7MB/s |
シーケンシャルリード | 1,705MB/s | 1,598MB/s | 1,280MB/s | 931.7MB/s |
シーケンシャルライト | 1,262MB/s | 1,546MB/s | 308.5MB/s | 602.3MB/s |
4Kランダムリード | 52.98MB/s | 52.80MB/s | 42.63MB/s | 44.85MB/s |
4Kランダムライト | 167.5MB/s | 144.6MB/s | 149.5MB/s | 166.0MB/s |
色の再現性が重要なプロユースにお勧め
ThinkPad X1 Yoga OLEDは、360度回転ヒンジを備えた2in1であり、有機ELディスプレイを搭載していることが最大のウリだ。一般の液晶に比べて、色空間が広く、カラーキャリブレーション済みで出荷されるため、デザイナーやフォトグラファーなど、色の再現性が重要なプロの方々にお勧めしたい。液晶モデルに比べて価格も高価だが、有機ELディスプレイの鮮やかでコントラストの高い表示は、液晶では得がたい。一般ユーザーなら、液晶モデルでも困ることはないだろうが、発色にこだわるプロフェッショナルには最適な製品であろう。