元麻布春男の週刊PCホットライン

NECのUSB 3.0ホストコントローラの仕様を考察する



●2010年の市場独占が見込まれるNECのUSB 3.0ホストコントローラ
NECエレクトロニクスのUSB 3.0コントローラ「μPD720200」

 前回、NECエレクトロニクスのホストコントローラーチップ「μPD720200」を搭載した、バッファロー製USB 3.0インターフェイスカード「IFC-PCIE2U3」に、手持ちのHDDを「裸族のお立ち台」経由で接続してみた。比較的最近のHDDとの組み合わせであれば、2.5インチ、3.5インチを問わず、USB 3.0ならUSB 2.0の2倍ほどのデータ転送速度が期待できるということで、3〜5千円で導入可能な投資としては、かなり効果的だというのが筆者の結論だ。

 そんなことは筆者が改めて言うまでもないことであり、ちゃんとPCベンダーの方でも分かっている。今年に入ってリリースされるPC、特にシステム拡張をUSBに依存することの多いノートPCで、USB 3.0を標準搭載する例が増えている。こうしたノートPCに使われているUSB 3.0対応ホストコントローラーチップは、今のところすべてがNECエレクトロニクス製のようだ。

 3月17日、NECエレクトロニクスは、2009年9月に量産出荷を開始したこのコントローラチップの累計出荷が300万個に達したと発表した。流通在庫を考えなければ、すでに300万台のPCがUSB 3.0に対応したことになる。わずか半年あまりでのこの数字は、なかなかのものではないかと思う。NECエレクトロニクス自身、USB 2.0の時は同じ累計300万個到達に1年半ほどかかったと述べている。

 こうした好調ぶりをうけて、NECエレクトロニクスはμPD720200の量産規模を拡大する。この4月以降、これまでの2倍に相当する月産200万個体制に入るという。乱暴な言い方をすれば、これから毎月200万台のPCがUSB 3.0対応していくわけだ(PC以外の用途にUSB 3.0ホストコントローラーが使われるのはもう少し後になるのではないかと思う)。

 米国の市場調査会社であるGartnerによると、2010年のPC出荷台数予測(世界)は3億6,610万台。月平均で3,000万台強だから、おおよそ全PCの15台に1台が、外付けのチップを使ってUSB 3.0対応する計算になる(アフターマーケット向けにカードに使われるのは微々たる量だろう)。そう考えるとすごい数字だが、逆に考えると15分の14の市場が、まだ残されていることになる。

 この広大な市場がUSB 3.0のものになるのは、おそらくIntelがチップセットにコントローラー機能を内蔵する時だ。また、この時にBIOSによるサポート(USB接続の光学ドライブやUSBメモリからの起動等)の問題も解消するだろう。しかし、それがいつになるのか、今のところハッキリしない。2010年内にその予定がないことは、どうも確実なようだ。

 もし、早々にIntelがチップセットにUSB 3.0を内蔵させる予定があるのなら、NECエレクトロニクスも増産体制に入ったりはしないに違いない。同社はUSB IFの主要メンバーとしてUSBの開発に参画してきているし、IDFの展示会にも必ずブースを構えている。Intelの計画を全く知らないとは考えにくい。

 というわけで、USB 3.0は当面、NECエレクトロニクス製の外付けホストコントローラーによって、実装されることになるものと思われる。ちなみに2009年5月のプレスリリースによると、この時点でのμPD720200のサンプル価格は1,500円となっている。量産出荷価格はずっと安いハズだが、それを踏まえても結構なビジネスだ。同社はUWBについても積極的に開発を進めていたが、うまく市場が立ち上がらなかった。今度はうまくいった、というところだろうか。

●なぜ2ポートのみなのか

 さて、このμPD720200の仕様だが、ホストインターフェイスはPCI Express 2.0(Gen2)のx1レーン対応で、2ポートのUSB 3.0をサポートする、というもの(図1)。気になるのはサポートするUSBポートの数が2つに限られることだ。せっかくの高速化したUSB 3.0、PCの背面にあるだけではもったない。できればケースのフロントパネル側に引き出して、と思うところだが、2ポートではそれもなかなか難しい(フロントパネルにUSB 3.0コネクタを持つケースは先週発売になったばかりだが)。もう少しポート数があれば、とは誰しもが思うことだろう。

【図1】μPD720200の主要なスペック

 そう考えてNECエレクトロニクスに尋ねてみたところ、2ポートしかサポートしていない理由は、PCI Expressの帯域よりも、電力の問題だという。μPD720200のホストインターフェイスであるPCI Express 2.0 x1レーンも、USB 3.0 SuperSpeedも、理論上の最大帯域は約5Gbpsで同等(いずれも8b/10bエンコーディングによるクロック分を含む)。USB側のポート数を増やすとPCI側が飽和しやすくなってしまうが、それよりも供給電力(Vbus)がポートあたり最大900mA(5V)に増えたことが大きかったようだ。ポートあたり500mAだったUSB 2.0に対し約2倍になったことで、PCの電源回路やバッテリーへの影響が避けられない。PCベンダへの調査で、2ポートでもとりあえず足りる、という返答をもらったことが決め手となって、2ポートという仕様になったという。

 デバイスに電源を供給できるというのは、USBが成功した理由の1つであり、極めて重要な機能だ。別に電源を用意しなくても、USBケーブル1本でポータブルHDD等を接続できる気軽さが、USBの成功を後押しした。その一方で、USB 2.0に対応したノートPC等において、ポータブルHDDがスピンアップできたり、できなかったり、という問題も生じている。USB 3.0の900mAは、こうした問題を回避しつつ、バッテリ駆動されるPCでもサポート可能なギリギリの線を狙ったのではないかと思う。

 この5V(4.45V〜5.25V)で900mAという要求は、デスクトップPC向けの拡張カードとしても容易ではない。図2はPCI Expressバスの電源供給能力だが、x1レーンでは+12Vが0.5A(500mA)しかない。x1レーンに対応したμPD720200で、x1レーン対応の拡張カードを作ろうとすると、どうしても補助電源が必要となる。

【図2】PCI Expressバスの電源供給能力

 x4レーン対応であれば電源供給、帯域の両面から2ポートのUSB 3.0をサポートするのに十分だが、デスクトップPCにx4レーンスロットが普及しているとは言い難いし、限られたPCI Expressのリソースを4レーン分もUSBで占有するべきなのか、という議論も生じるだろう。もちろんx4レーン対応でピン数が増え、コストも上昇する。x1レーン対応で補助電源を利用するというμPD720200搭載カードの仕様は、幅広い市場を狙う上で、妥当な落としどころだったのではないかと思う。

 一方、オンボード実装であれば、PCI Expressバスの電源供給能力が問題になることはないが、それでも電力の問題が完全に無視できるものでもないだろう。現在、一般的なマザーボードはUSB 2.0ポートをI/Oパネルに6〜8ポート、フロントパネル用に4〜6ポート程度実装する。12ポートを持つとして、すべてUSB 3.0に対応させると、400mA×12で25W近く消費電力が増えることになる。ゲーミングPCなら問題ないだろうが、省スペースPCならちょっと気になる数字かもしれない。

 さて、μPD720200のデータ転送速度だが、その実効値を知ることはなかなか難しい。データ転送速度は、USB 3.0ホストコントローラーの性能だけでなく、チップセットの実効値やデバイスの実効値に依存するからだ。前回のテストにしても、実在するHDDを接続してどれくらいのデータ転送速度が期待できるかという指標であって、μPD720200そのものの性能を測っているわけではない。

 そこでμPD720200の性能についてもNECエレクトロニクスに尋ねててみたが、同社の社内テストでは高速なSSDをSATA-USB 3.0ブリッジを介して接続した場合で2Gbps、RAIDシステムとの接続で2.6Gbps程度まで確認しているという。上述したように、USB 3.0は8b/10bエンコーディングによりクロックを埋め込んでいるため、実際のデータに使えるのは5Gbpsの8割、4Gbpsとなる。そこからさらにプロトコルオーバーヘッドやブリッジチップ等によるロス等を差し引くと、4Gbpsの80〜90%くらいが現実のデータ転送速度の目標であろう。それを考えると、第一世代の製品で2.6Gbpsという実効速度は、悪くないのではないかと思われる。

 というわけで、現時点でPCにUSB 3.0ホスト機能を提供する唯一の手段となっている、μPD720200について簡単に取り上げてみた。ユーザーとしては、一刻も早くUSB 3.0がチップセットに内蔵されて、事実上、無償でUSB 3.0が利用できるようになって欲しいところだが、それにはまだ時間がかかりそうだ。ポート数が限られることやBIOSサポートがないという制約はあるものの、SSDやHDDといった高速なストレージを外付けで利用するのであれば、数千円の出費となってもUSB 3.0の追加を検討したいところだ。