■本城網彦のネットブック生活研究所■
LOOX M/FMVLMD10R |
4月23日に富士通が同社初のネットブック「LOOX M」を発売した。しかも定評のあるLOOXブランドでだ。製品版が届いたので早速レビューする。Windows XPを搭載したUMPCということで、ハードウェア的に他社と差を付けられないネットブック。同社がどのように料理したのか非常に興味あるところだ。
●ネットブック「LOOX M」の仕様まずパッケージをあけて、ボディーカラーに「オッ!」と驚いた。今回手元に届いたのは鮮やかでメタリックな赤色をした「FMVLMD10R」(ルビーレッド)モデルだ。液晶パネルを開くと縁はブラックで、このツートンカラーはなかなかセンセーショナルである。また安っぽさは無く、雰囲気はネットブックと言うより、少し小型のノートPCというイメージだ。カラーバリエーションとして、この他にホワイトの「M/D10W」と、同社直販だけのブラックモデルもある。もともと筆者は白か黒派なので、この手のカラーリングには全く興味を持たなかったのだが、このLOOX Mのルビーレッドと黒の組み合わせはなかなか良いと思った。
スペック面では、Atom N270(1.60GHz)、Intel 945GSE Expressチップセット(ビデオ機能内蔵)、1GBメモリ(最大2GB)、160GB HDD 、アスペクト比16:9の1,024×576ドット表示対応10.1型ワイド液晶(LEDバックライト)、Windows XP Home Editionを搭載。
またインターフェイスはUSB 2.0×3、IEEE 802.11b/g無線LAN、Ethernet、アナログRGB出力(ミニD-Sub15ピン)、SDカード/メモリースティック(PRO)対応スロット、130万画素のWebカメラ、そしてBluetooth 2.1+EDRを備える。これらを見る限り、多くのネットブックとほとんど同じ仕様である。
本体サイズは258×189×29~34mm(幅×奥行き×高さ)、重量は約1.2kg。10.1型ワイド液晶を搭載したネットブックとしては標準的だ。丁度、デルの「Inspiron Mini 10」と同程度のサイズ/重量だ。であるが、見た瞬間に「オッ!」と思ったのは、このカラーリングとボディーのアールの付け方など、全体的な印象が良いからだろうか。
表。HPなど、天板にデザインを入れるものが徐々に出始めているが、この程度のデザインで抑えた方が個人的には好みだ | 裏。表の質感とは裏腹に、裏側は普通のネットブック。2本のネジを外すとメモリなどが見える | 左側面。USB、アナログRGB、電源入力。この位置にアナログRGB端子があるのは少し使いづらいかも知れない |
右側面。SDカード/メモリースティック(PRO)対応スロット、ヘッドフォン/マイク、USB×2、Ethernet、ロックポート | キーボードで気になるのは右側のAltキーが無いこと。タッチパッドは滑りも良く使いやすいがボタンは少し硬い。Atomプロセッサのシールが新しいタイプになっている | キーピッチは実測で約17mm。その割に、入力していると狭い感じがする |
Eee PC 901-Xとの比較。純粋に液晶パネルのサイズの差だけ面積が違うのが分かる。持ち歩くのが苦にならない大きさだ | Eee PC 901-Xと液晶パネルを比較。ノングレアの液晶パネルなのだが、それなりに周囲は映り込む。縦が576ドットなので、600ドットのEee PC 901-Xと比較して下が切れているのが分かる。ただし、明るさはご覧の様に圧倒的に明るい |
ノイズや振動に関しては、ファンの音は左側のスリットに耳を当てると聞こえるし、パームレストに手を置いた時、若干振動を感じる(特にHDDのある左側)。静かではないが、ネットブックとしては標準レベルだろう。CPUがN270だと、チップセットも含めどうしても熱が出てしまうため仕方ないところだ。
スピーカーは底面の左右に付いているタイプで、膝などに置くと音が下に抜けてしまう。机などに置いて反射させる必要がある。いずれにしても音質/音量共に物足りなく感じた。
バッテリ駆動時間は、資料によると標準バッテリで約2.6時間。オプションの大容量タイプで約5.3時間となっている。標準の約2.6時間は、普段持ち歩くのには心細いが、重量とのトレードオフだろう。
キーボードは、右側のAltキーが無い以外は特に変な並びになっていないが、キーピッチが17mmの割にはなぜか狭く感じ、打ちづらかった。加えてキートップの質感が手に馴染まなかったり、キーボード全体が少したわんだ。もう少しこだわって欲しかったところだ。底面のパネルを含め外装のメタリックな赤がいいだけに残念な部分だ。
液晶パネルは明るく発色も良い。特に赤がくすむことなく鮮やかだ。ボディに負けない色が出ている。他の機種では青っぽく、くすんだ感じのするものが多いが、この赤の発色は従来のネットブックで見たことがなく、評価できる。
総じてハードウェア的に可もなく不可もなく、普通のネットブックである。キーボードが難点だが、デザインと液晶パネルの綺麗さは特筆できるだろう。
●同社ならではの付属アプリケーションプリインストールのアプリケーションなどを触る前に、デバイスマネージャや、タスクマネージャのパフォーマンスなどを見ていたところ、ある事に気が付いた。Hyper-ThreadingがOFFで、見かけ上のCPUが1つしかないのだ。これまで多くのネットブックを触ってきたが、初期設定でHyper-ThreadingがOFFになっているネットブックは見たことがなく、この状態が工場出荷状態なのか、評価機が回りまわってたまたまなのか、どちらかわからない状態になっている。いずれにしても出荷される製品では異なる可能性がある。
Hyper-ThreadingのON/OFF自体は、起動時にF11キーを押し、BIOSの設定から変更できるものの、ある程度のスキルが必要かもしれない。結局どちらが標準なのか気になるところだ。HDBenchの結果を見てもONとOFFで値にそれなりの違いが出ている。
HDBench Hyper-Threading OFF | Hyper-Threading ON |
プリインストールのアプリケーションは一般的な「ノートン インターネットセキュリティ 2009(90日版)」に加え、同社らしく、「FMVサポートナビ」、「FMかんたんバックアップ」、「FMVユーザー登録」、「アップデートナビ」、「マイリカバリ」といった純正のものが数多く入っており、初心者には優しい設定になっている。
また「らくらく手書き入力」や「オリジナルのスクリーンセーバー」も国産メーカーらしいアプローチだ。いずれにしてもネットブックだからと、上位ラインナップのノートPCと差別化せず、逆に同じものを入れ、ブランドとして統一感が出ている。ただ、個人的にこのUIはかなり古くさく感じた。もちろんUIの不統一よりはいいものの、もう少しスタイリッシュな感じがあってもいいだろう。
ここで注目したいのは、「三省堂デイリー3カ国語辞典、ジーニアス・明鏡MX統合辞書」が付属することだ。ネットブックの価格帯のままで、これだけの辞書を詰め込んだ意味は大きい。筆者は普段、調べ物は全てGoogleで済ませているものの、久々に辞書アプリを使うとやはり一味違う。ローカルで正確な情報と考えると専用機でもなく、大きいノートPCでもなく、ネットブックに入っているのがピッタリな雰囲気すらある。
マイリカバリ。メールやインターネットの設定、インストールしたアプリケーションなどを、バックアップした時点に戻せる。システムのリカバリはHDDの別パーティションに入っている | 三省堂デイリー3か国語辞典、ジーニアス・明鏡MX統合辞書 | 辞書を引いたところ。電子辞書を全く使わない筆者にとっては逆に目新しく映る |
らくらく手書き入力。今回は試しにタッチパッドで入力してみたが、別途タブレットなど、手書き入力ができる機器を接続した時に便利そうだ | オリジナルのスクリーンセーバー。実機を横へ置き、原稿を書いていると、いつの間にかスクリーンセーバーが動いているのだが、これがなかなか凝っていて面白い |
昨今、ネットブックはハードウェアの制限からデザイン以外は横並びになってしまい、面白みを欠いていることは周知の事だろう。このLOOX Mは、ハードウェア的には明らかにネットブックであるものの、ソフトウェアの搭載は同社のノートPCを踏襲している。
内蔵しているアプリケーションは日本的ではあるが、それが逆にあまりネットブックを意識させない。うまい味付けだ。ネットブックと言うより、少し安価で小型のノートPCが欲しい初心者にピッタリな1台と言えよう。